• イベントレポート

未来の茶の湯を物質化する—— 自宅で“ととのう”体験を味わう「Teacense(Tea+Incense)オンライン朝茶会」開催!

2020年7月、「ナナナナ祭2020」において「TeaRoom」プロジェクトは「Teacense(Tea+Incense)オンライン朝茶会」を開催。「配送×配信」という環境で、お香とお茶を使った“ととのう”体験を演出してまいりました。

7月末の4連休明けという、まさに“ととのいたい”タイミングで行ったこの体験会は、配信リンクを間違えるなどトラブルもございましたが、ほぼ全てのお客様に私たちが目指す体験を提供できていたと感じております。改善点等多くあるものの、私たち自身大変良い学びになりました。

今回のイベントの起草背景、実験の様子、そこから得られた学びについて「TeaRoom」プロジェクトのリーダー岩本 涼がレポートさせていただきます。

「配送×配信」がもたらした、自宅を茶室にする方法

「TeaRoom」プロジェクトは「100年後の未来につながる茶の湯文化を現在地点において物質化していこう」というコンセプトで始まり、現在は「日本の未来を創造して世界に飛び出したい」と話し意気投合した3Dプリンター活用コンサルティング会社「Boolean」代表の濱崎トキとコラボレーションを図り、3Dプリントで茶室を造形することを検討しております。

私たちの活動コンセプトは「Physicalize the Culture」。“Culture”は過去から未来へつながり、一方で3Dプリンターは未来から現在に向かってつながっているもの。その接点となっているのが以下の図にある現在時点です。未来につながっているであろう、茶湯の精神を現在において物質化することで、疑似的に未来の茶の湯の思想を体験することができると考えました。

しかし、新型コロナウイルスの影響により直接的な体験が厳しくなったため、「自宅を茶室のような空間にするには?」という問いからコンセプトを練り直し、「今回はお香を使って茶の湯的な体験をお届けしてみよう」という考えにたどり着きました。その流れから、今年のナナナナ祭では「配送×配信」を用いた自宅内で行う企画へモデルチェンジを行いました。

茶の湯とは「空間構造と行動様式」によって向き合う体験を演出すること。わかりやすい例としては、茶室という空間の中で一定の点前(てまえ)を行うことで、内省やもてなしのような体験を得られます。それを自宅にいながらにして、どう生み出せるのか?

そこで注目したのがお香です。茶の湯の世界において、お香は空間を切り替えるために使用されてきました。炭をくべた後に練香を1つ炭の上にのせると、茶室全体の香りが変化し、淀んだ空気を流してくれるのです。

お香へ意識的に向き合うことができ、また、一定の点前を通して茶を淹れることができれば、茶の湯の体験は自宅でも再現ができるかもしれない。その場合、お香が燃えている間にお客様が離れず、意識的に向き合いたくなるような構造であることが望ましいと考え、それが実現できるひとつの方法として、3Dプリンティングで今までにないお香を開発することになりました。

先ほど、「茶の湯の体験」と申しましたが、茶の湯のある未来とはどういうものなのでしょうか。私たちが定義する未来像は、日々全ての人が自分と向き合うことを蔑(ないがし)ろにせず、日常に感謝して生きていける世の中です。それを毎朝感じられるような日常を作るべく、今回私たちは3Dプリンティングという未来の技術を用いて、お香とお茶の制作を目指しました。

3Dプリンターを活用したお香作りに挑戦

ちなみに、私たちは3Dプリンティングが実現する未来は、究極のパーソナライズが実現した世界だと考えています。現在のものづくりの技術とプロセスでは、今回題材としたお香などのプロダクト、または住居などの大きなものまで、一人ひとりが完全にフィットしたものを生み出すことは出来ませんが、3Dプリンティングが当たり前になる世の中になれば、人の持つ創造力が最大限に顕(あらわ)れたものになるはずです。今回、制作したお香も最終的にはそれぞれのライフスタイルに合わせてパーソナライズをしていきたいと考えています。

 

3Dプリンターでパーソナライズが当たり前になった未来

いよいよ茶の湯的なお香作りが始まりました。試作段階では某都内国立大学内のラボの協力も仰ぎつつ、約1カ月という非常に短期間ではありましたが、3Dプリンティングを活用してどうにか狙った形状の造形まで到達出来ました。

 


3Dプリンターで開発中のお香

しかし、試作から量産に入る段階で、当初予定していたラボ内での製造が難しい事が判明し、新たな量産体制の構築を余儀なくされてしまいました。3Dプリンターに適した材料の配合割合の割り出し、お香材料に適した造形設定の構築、変形しない乾燥スキームの構築、3Dプリンターに適した3D形状とデザインの両立など、完全に前例のないR&D(リサーチ・アンド・デベロップメント)が再度必要に…。

ここでいう新たな量産体制の構築とは、使用機材自体の変更による造形設定の構築も含まれます。この最も時間のかかる工程が再度発生したため、予定された期間内での提供が不可能と判断されてしまいました。

3Dプリンターでしか実現できない今までにないお香の形を模索し、邁進していましたが、このトラブルにより提供が不可能に。私たちのプロジェクトとして今回のイベントをキャンセルするしかないのだろうか…。

しかし、その旨を100BANCH事務局の皆様に伝えたところ、「お客様が真に求めている体験とは何であるのか?」というお話をしていただき、たしかに周囲からは、3Dプリンティングを使った技術的優位性を期待する声もありましたが、どちらかといえば茶の湯体験を求める方がほとんどでしたので、今回のイベントを通してお客様が求めているのは、「茶の湯を通したととのう体験」だとあらためて気づかされました。

その気づきを踏まえ、私たちは参加者に対して3Dプリンティング製のお香は完成次第お届けすることにして、今回のナナナナ祭は「TeaRoom」が静岡で生産する新茶と、お茶を練り込んだ「紅碧」というお香を参加者に届け、一緒に“ととのう”体験をすることに決めました。

 

自宅でゆったり“ととのう”体験を

いよいよイベントがスタート。東京をはじめ日本各地から計30名ほどの方が朝8時からご参加いただきました。参加者とZoomでつなぎ、お香を焚いていただきながら一緒にお茶を淹れる。“ととのう”体験を共有しながら茶の湯や3Dプリンターにまつわるお話をさせていただきました。

イベントのプログラム

参加者からは予想以上にお茶の香りや3Dプリンターについての質問などをいただき、多くの話題で盛り上がりました。各日、朝8時開催ということで寝坊による途中参加も多かったのですが、楽しく交流を図ることができ、またオンラインイベントの拡張性を感じる良い機会にもなったと実感しています。

 

イベント開催で見えた新しい付加価値の創出

今回のイベントを振り返り、私たちはふたつの大きな気づきを得ました。

ひとつは、私たちが思う以上に茶の湯や3Dプリンターに対する関心が高かったこと。もうひとつは、その反面で話す内容が深くなってしまい、30分という短い時間で伝えきれず、分かりづらい印象を与えてしまったことです。今後はオンラインイベントも増えてくると考えられるので、こういった学びをもとに、次の機会に活かしていきたいと思っています。

私たちは3Dプリンターを使って、お香をはじめ、茶器や茶室の造形にチャレンジしていく予定です伝統の代表である茶の湯と、未来のテクノロジーである3Dプリンティングを和え、新しい付加価値の創出に励んでいきます。

■関連リンク

TeaRoom::https://tearoom.co.jp/

Boolean::https://booleaninc.biz/

イベントで使ったお茶:「大河内新茶(煎茶)」:https://shop.tearoom.co.jp/items/23471797

 

ツイッター

岩本 涼:https://twitter.com/ryoiwamoto1997

濱崎トキ: https://twitter.com/4dcraftsman

 

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