「部屋にいる」「いない」が、 遠くからでもスマートにわかるシステム
Caltera
「部屋にいる」「いない」が、 遠くからでもスマートにわかるシステム
会いたい相手が部屋にいるか、いないのか。部屋をノックするまで分からない……。
学校やオフィスでよくあるそんなストレスを、ビーコンデバイスとスマホをペアリングするスマートなシステムで解決するべく、開発と実地試験を行ってきたのが「Caltera」。
メンバーはみな国立東京工業高等専門学校に通う、腕利きの集団です。9月末を持ってGARAGE Programを一旦卒業となった後も、メンバーたちはそのスキルを買われて、新たに入居したいくつかのプロジェクトにジョインしているほか、「Caltera」を100BANCHのプロジェクトの入居状況管理に使用するトライもしています。
今回は、デジタルネイティブを象徴するような彼らのリーダーだった福島シオンをインタビュー。これからの未来を作る若者の姿に迫ります。
――Calteraは、メンバー全員が国立東京工業高等専門学校の生徒ということですが、そもそも福島さんが進学先に高専を選んだきっかけを教えてください。
福島:僕が中学校に入学したくらいから、YouTubeがまわりで流行り出したんですよ。それで映像制作に興味を持って、自分で映像編集なんかをやってたら親から高専を勧められた、というのがきっかけですね。
――自分で映像作品を作って、YouTubeに投稿していたんですか?
福島:実際に投稿はしなかったんですが、ゲーム好きということもあって、自分がゲームをプレイする様子を録画して、簡単なカットを入れたり、音楽をつけたりという感じの動画を作っていました。
――なるほど。そしてご両親の勧めもあって高専に進んだと。ではCalteraでやっているようなことに興味を持ち始めたのは高専に進んでからということですか?
福島:僕はもともと情報工学科に入ろうとしていたんですが、実は高専って、1年目はいろんな授業を受けて、2年生になってから専門学科に入るような仕組みになっているんです。だから1年生の間はプログラミング自体に触れる機会もまったくありませんでした。
ただ、1年生から2年生に上がる前の春休みに、これもまた親の勧めで、Life is Tech!という中学生、高校生のためのプログラミングのワークショップに参加したんです。そうしたらすごく楽しくて、僕が参加したワークショップの1ヶ月後にはGoogleとコラボで新たなイベントが開催されるということでしたので、それにも参加しました。
――ここまでの話を聞くと、ご両親のアドバイスがかなり的確なように感じますが、どんなお仕事をされているんですか?
福島:父は普通のサラリーマンで、母は専業主婦です。高専もLife is Tech!もたまたまネットで見つけたって言っていました(笑)。強いて言えば、父はAppleの新製品が出たら買うというくらいにはテクノロジーに興味を持っていましたね。
――Life is Tech!とGoogleのワークショップはいかがでしたか?
福島:多分このワークショップに一番影響を受けたと思います。当時僕はまったくのプログラミング初心者だったんですが、まわりには起業した人や何万ダウンロードもされているアプリを作った人たちがいて、しかもみんな僕と同世代でした。だから僕も学校外の活動をしていかなきゃなと思ったんです。
福島 シオン
国立東京工業高等専門学校 情報工学科 5年。Android・デザイン担当。 青二祭では映像制作をした。その一方WEBやアプリのデザイナーとしてアルバイトをしていた。またインターンや個人創作活動にてメディアアートやCG作品を制作している。
「Global World」(2015-7)After Effectsによる作成。
――実際にはどんな活動を始めたんですか?
福島:Life is Tech!にもう何回か参加したあと自分でアプリを作ったり、リクルートが渋谷で運営しているTECH LAB PAAKがちょうど学生を対象にしたプログラムをスタートしたので、それに参加したりしました。TECH LAB PAAKでは、同年代の人たちとスマホをペンライト代わりに使えるアプリを開発していました。
あとは、赤坂Blitzで定期的に開催されている青二祭というイベントに参加して、そこで映像制作を担当しました。青二祭は色んな高校の生徒たちが集まって開催する文化祭のようなもので、バンドやダンスチーム、アカペラグループなんかがパフォーマンスをしていました。そこでまた映像熱に火がついて、プロジェクションマッピングで有名なチームラボやネイキッドでインターンをしました。
――かなり早い段階から社会との接点を持ち始めたんですね。
福島:そうですね。高校生から専門的な勉強ができるっていうのは、やっぱり高専のいいところだと思っていて、いざ外の世界とつながりを持ち始めると、高専出身の人がそのスキルを活かして色んなところで活躍しているということが分かりました。
あとは大人に混じって僕みたいな高校生がいろんなプロジェクトに関わっていることが結構あって、僕は新しい人と話をするのが好きなので、そこからさらに人脈が広まって・・・という感じですかね。
――逆に学内ではどんなことをされていたんですか?
福島:学校ではヤフーとのコラボで、1年を通して何かしらの作品を作る『組み込みマイスター』という制度があったので、それに2年生のときに初めて参加しました。
当時はウェアラブルデバイスが流行り出したころで、ヘッドホンとマイコンを組み合わせてカメラで撮った文字を認識して、それが英訳されたものを読み上げる、みたいなデバイスを作りました。3年生のときはジェットコースターを作りました(笑)
――急にスケールが大きくなりましたね(笑)
福島:ジェットコースターと言っても、当然学内に本物は作れなかったので、ジェットコースターに乗ったときに見える景色をスクリーンに投影して、椅子を振動させるというものを作りました。そこから発展して、東京都のカヌー協会とそれのカヌー版の開発に着手したりもしましたね。
「AONI Fes. Opening Movie」(2016-3)
高校生がすべて運営する「第17回青二祭」のオープニング映像。 赤坂Blitzにて、選考を通った高校生がダンスやバンドなどのパフォーマンスを披露した。
「Hearable」(2015-3)ヘッドフォンにマイコンを埋め込んだ新しいウェアラブル端末とアプリケーション。 現在では、カメラにより英語の文字認識を行い翻訳、発音をヘッドフォンを通して聞くことができる。聴覚に重点をおいた今までにないもの、ウェアラブル端末。
「Virtual Roller Coaster」(2015-10)180度スクリーンに3台のプロジェクターでジェットコースターのCG(自作)を投影。それにあわせて見ている人の椅子が動くというもの。映像、音響、制御など幾つかの班に別れて制作、文化祭では実際にお客さんに乗ってもらった。
――Calteraのメンバーと出会ったのもその頃ですか?
福島: 4年生のときは組み込みマスターに参加しなかったんですが、Calteraの前身になるプロジェクトをメンバーの新田くんが4年生のときにやっていて、5年生になっても同じプロジェクトをやりたいから参加しないかって僕を誘ってくれたんです。
もともと新田くんとは仲がよかったので、あれこれ意見を出し合いながらCalteraの原型ができていきました。
――現在のCalteraはどんな状況ですか?
福島:もともと学校という場所を想定したシステムだったので、構想はそのままにiOSとAndroid用のアプリを開発しているところです。学校という設定もそうですが、 例えばGPSを使ったら電池の消費が激しいよねとか、個人情報は慎重に取り扱わないといけないよねとか、身近な問題を意識していて作っています。
メンバーに関して言えば、僕と先ほどお話した新田くんはある程度プロジェクトの経験がありますが、その他のメンバーにとってはCalteraがほぼ初プロジェクトでした。
例えば、iOS担当の堀内くんは、実はこれまでSwiftを書いたことがなくって。鈴木くんも、もともとデザインは好きだったんですけど、デザインをちゃんとやるのは今回が初めて。デバイス担当の2人も初めてということで、全員が新しいことを学びながらプロジェクトを進めています。
――現在Caltera以外に参加しているプロジェクトはありますか?
福島:プロジェクトと言えるかはわかりませんが、以前は教わる側として参加していたLife is Tech!に、今年の夏から「教える側」で参加することになりました。Life is Tech!では人とのつながりの大切さや、ITの楽しさを教えてもらったので、恩返しじゃないですけど、昔の僕のような人たちに何か伝えたいなと思ったんです。また、Calteraとしては100BANCHでのプロジェクトを終了したのですが、現在SnafkinSalonの一員として活動しています。
Calteraアプリのイメージ
――与えられる側から与える側へという変化もそうですが、年齢的にはもう少しで20歳を迎え、新しい10年がスタートしますね。これからどんなことをやっていきたいですか?
福島:一番興味を持っているのは、それこそライゾマティクスやネイキッド、チームラボなんかがやっているメディアアートっぽい仕事です。
僕は高専に在籍していることもあってスタートはエンジニア寄りなんですが、外部の方と接して新しいものに触れるうちに、エンジニアリングとアートを組み合わせて何かを表現するような仕事がしたいなと考えるようになりました。
リオ五輪の開会式なんかは本当に興奮しましたね。椎名林檎さんが好きっていうこともありますが、ああいう人たちって現場でお客さんのフィードバックを直に感じられるし、単純にかっこいいなと思いました。
その一方で、世界を変えるような企業を創ることにも興味があります。
――現在福島さんが関心を持っているエンジニアリングやアート、ひいてはビジネスも、ある意味では手段とも呼べますよね。では、その先にある社会に対するビジョンや、こんな世界を僕は見たいんだというアイディアは何かありますか?
福島:世にある課題を解決したいとか、今の先にあるものを見たいとか、そういう思いがあるので、新しい体験を常に自然と求めているというところはあるかもしれません。
エンターテイメントの話に戻ると、照明や音声はすでにITを駆使して管理されているのですが、まだ僕はそこにもっと他の要素を加えられると考えていて。最近流行りのディープラーニングのようなテクノロジーを使えば、人がデジタルを駆使して作るようなアートもデジタルが人を駆使するなどもっと面白いことができるんじゃないかと考えたりしていますね。
最終的には、今の時代では考えられないことでも次の世代では常識になっている、そういった当たり前を創っていきたいです。
原稿構成:行武温、岡徳之(Livit)
Calteraは「U-22 プログラミング・コンテスト2017」にもエントリーした。最終審査回でのプレゼンテーションの模様。スポンサー企業賞「サイボウズ賞」を受賞した。
http://www.u22procon.com/
100BANCHでは野心的な若者たちのプロジェクトを支援するGARAGE Programを展開しています。毎月エントリーと審査を実施しています。