
「さかさまの発想で、不動産の本質的な価値を問う」100BANCH実験報告会
不動産の価値は、立地や広さだけで決まるものだろうか。
GARAGE Program51期生「SAKASAMAFUDOSAN」の藤田恭兵は、不動産の常識を「さかさま」にし、人の想いから物件を探す仕組みをつくっています。
藤田は2021年10月に100BANCHに入居。東海地域を拠点にスタートした「さかさま不動産」を東京でも広げるべく、100BANCHで実験を重ねました。その後も展開を続けながら、アップサイクルコミュニティの運営や、地域を担う人材の育成など、活動の幅を広げています。そんな藤田が、100BANCHでの経験と、現在の挑戦について語りました。
藤田恭兵|株式会社On-Co 共同創業者 / 総務省 地域力創造アドバイザー 不動産構造を逆にした「さかさま不動産」を創り、遊休不動産の活用を促進。国土交通省まちづくりアワード特別賞、環境省グッドライフアワード環境大臣省など受賞。2021年には廃棄石膏ボードの実験に着手し、新素材「resecco」を開発。社内で培った新規事業立ち上げ経験とクリエイターや起業家のコミュニティを武器に、2023年から名古屋市と共に5年後の地域の顔になる人材を目指す地域特化型アクセラレーションプログラム「Poc upスクールNAGOYA」、2024年からもしもの力で地域を変える実証実験プログラム「MOSHIMO FUTURE STREET」の企画運営。地域と起業家やクリエイターを繋ぐことで地域課題の解決と新規事業の開発につながると考える。 |
藤田:株式会社On-Coの藤田と申します。100BANCHには、4年ほど前に「さかさま不動産」というプロジェクトで入居しました。株式会社On-Co は、名古屋市と三重県桑名市を拠点として活動しています。ミッションは「まだない未来をつくる」。100年後の未来をつくっていくのが100BANCHですが、我々は「何年後かはわからないけれど、今はまだないような未来が、僕らがやっていることから生まれたらいいな」という想いでたくさんのことに挑戦しています。その中の1つに、空き家課題の解決と関係人口の拡大を目指す「さかさま不動産」というサービスがあります。
藤田:「さかさま不動産」は東海地域を中心に広げてきて、現在5年目になります。不動産サイトの場合、物件情報が掲載されていて、利用者が広さや立地などの条件で検索してマッチングするのが一般的かなと思います。しかし、「さかさま不動産」には不動産情報は載っていません。代わりに人の想いを掲載しています。クラウドファンディングの不動産バージョンのようなイメージです。例えば「美味しさも健康も叶える、新感覚デザートコースのお店をつくりたい!」というような想いが掲載されていて、詳細のページでは、やりたいことや理由が書いてあります。それを見た大家さんや地域が「この人、面白いなあ。この人にだったら貸してもいいなあ。エリアはどこだ?愛知県西尾市、15平米以上、5万〜10万か。よし、ちょっと連絡してみよう。」と連絡をとる、そんなサービスです。
「さかさま不動産」には現在400件の掲載があり、マッチング数は38件。全国にも広がっており、様々な賞をいただいています。国土交通省「まちづくりアワード 特別賞」、環境省「グッドライフアワード 環境大臣賞」、日本PR協会からは、2023年度の「PRアワードグランプリ」をいただきました。最近も、不動産業者ではない私たちですが、不動産活用のあり方や、デジタルの力を活かしたまちづくりが評価され、国土交通省の不動産業アワードで賞をいただきました。これから不動産業の方々との連携をもっと進めたいと思っています。
藤田:「さかさま不動産」は、今でこそ全国に支局という形で広がり、成長しつつありますが、最初は周りから理解されないことも多かったです。100BANCHに入る前の話ですが、僕らは名古屋駅の近くでボロボロの古民家をDIYで改装し、シェアハウスやレンタルスペース、飲食店などを運営していました。当時、東京でようやく古民家改装が注目されはじめた時期だったので、名古屋では古い物件の改装やシェアハウスをやるという概念がないような時期です。そんな中、男女6〜8人が1つの家をシェアして、和気あいあいとヒッピーのような生活をしていました。このようにみんなで楽しく暮らしていたところ、だんだん近所の人が声をかけてくれるようになってきたのです。「なんか面白いことやってるね。じゃあ、うちの物件も使ってくれない?」と相談を受けるようになって、どんどん物件数が増えていきました。それでシェアハウスや飲食店、レンタルスペースをつくらせてもらい、かなり安く使わせてもらっていました。
当時、僕らはまちを歩いて、道行くおじいちゃんおばあちゃんに「こんにちは」と声をかけて「こういうことやりたいんですけれど、大学生で、全然お金ないんですよね〜」と話をしていました。すると、「よくわからないけれど、君は面白いから、とりあえず飲みに行こう!」となって、その人の家に行って、ビールを飲んで、仲良くなり、懇意にしていただく中で、その人から物件を借りるというようなことができたんです。どうしたら僕たちのように、安くて広い、改装などができる物件を借りることができるのだろうと考えてみると、僕たちは「はじめまして、こんにちは!」の挨拶からはじめて、いい関係性が生まれるところからはじまったので、いい物件やいい大家さんと出会えたんじゃないかと思いました。そういった仮説から、物件の情報からではなく、関係性をつくるところから不動産のマッチングをはじめられないだろうかと考えました。その結果、「こんなことがやりたいです、私はこんな人です、よろしくお願いします」と、自己紹介からはじまるサービスができあがりました。
国交省が出している「空き地に関する所有者アンケート」によると、所有者の8割以上は、土地の情報を一般公開したくないと思っているとのことです。とはいえ、その半数近くの人が、「人や使い方によっては貸したいと思っている。」「情報を公開したくないけど、使い方によっては貸したい。」と考えていて、空き家に関しても同じような相談をよく受けます。現在の不動産流通は、家や土地の情報を出して、それに対して借主が反応する構造です。逆に「さかさま不動産」は、大家が家の情報を出さなくとも、借主を探せる仕組みになっています。
藤田:よく聞かれるのですが「さかさま不動産」の利用は無料です。僕らは、元々やりたいことがある人、お金のない若者が挑戦するために、良い物件とマッチングしてほしいという想いで活動をはじめています。
東海地域を中心に広がってきた「さかさま不動産」ですが、東京でも物件のマッチングをしています。例えば、港区のフランス大使館の近くの物件で「さかさま不動産」でマッチングしたものがあります。元々は畳屋さんだった物件ですが、今は、1階がカフェバー・ギャラリー、2階が事務所兼アーティストのレジデンスみたいに使われています。借主が、アーティスト、若者を応援したいということで「さかさま不動産」に掲載していただいた際に、物件の大家さんからご連絡いただきマッチングしました。すごく良い場所で、ニーズはとても多いと思います。でも、やはり変な人に入ってほしくないし・・・という話で我々にご相談をいただきました。大家さんも元々絵を描かれている方で、アーティストやクリエイターを応援したいという借主に共感し、マッチングした次第です。
藤田:全国でまちづくりに興味がある、空き家の課題を解決したい方々に「さかさま不動産」の支局を旗揚げして展開していただいています。支局の皆さんには、僕らが提供するノウハウややり方、さかさま不動産のシステムを使っていただいています。正直、コストは増えますが、お金ではなく想いの共感で進めていると良いことも多く、自分たちのエリア以外の文化やネットワークが広がることもありがたいです。最近では、より地域に特化して進めたいという話も多く、三重県や桑名市、高知県香美市と協定を組みながら進めることも増えています。
藤田:今後の展望としては、今動きはじめているのですが「さかさま不動産」のAIをつくっています。「さかさま不動産」は誰でも自由に情報を載せられるわけではなく、掲載するために1人1人にヒアリングをして掲載記事のクオリティコントロールをしているんですね。そこでそのヒアリングした経験とデータをもとにAIの開発を行っています。各市町村では、移住・定住や空き家対策のために多くのコストをかけているのでAIで軽減できるものを目指しています。すでに県庁さんとの連携も進んでいます。他にも一緒に空き家課題や地域移住課題の解決をしていきたいというお話もしていただいています。
藤田:ここまで「空き家」の話をしてきましたが、最終的に空き家の課題を解決することを目指しているわけではありません。僕らが当初そうだったように、「やりたいことはあるけど場所がないからできない。」と思ってる人がいなくなり、社会に新しい挑戦が溢れて欲しいと思っています。渋谷で若者に無料で場所を提供する100BANCHもまさに同じようなイズムだと思います。
藤田:会社の理念として「みなさま狂いましょう」という言葉があるのですが、「狂う」というのは外で全裸になるとかものを破壊しようとか、反社会的で倫理観のないものではなく、社会の枠に囚われすぎず、自分なりに枠から飛び出してみることが大事だと思っています。名古屋の中では、「面白いね、変わってるね」と言われながらも、東京に来てみると、一般的だというのはよくある話ですよね。そんな中で、100BANCHに来ると、もっと殻を破っていかないといけないなと当時思わされた記憶があります。活動が進むとお客様のカルチャーに合わせて「髪もだんだん短くなっていくし、シャツの第1ボタンも締まってきたなあ」と思ってしまうわけです。でも、100BANCHに来て、色々なプロダクトや、皆さんのやっている活動に触れると、「初心に返って、もっとふざけたこともやらないといけない!」と思わされます。そんな場所は、僕は見たことがないし、100BANCHはここにしかない空気感や人がいるなと思っています。
ここにいる皆さんは自分がやっていることが広く認知され、社会が動き、100年後の未来をつくることを目指して頑張っていると思います。でも、実際に広がってくると嫌なこともたくさんやらないといけなくなります。そうなってくるとむしろ順調な証拠だとは思いますが、そうなったときに初心を忘れずに頑張るには、この場所に定期的に来るのが僕はすごく良かったし、皆さんにとっても良いのではないかと思います。僕らが100年後の未来、不動産の未来や空き家の課題を解決できるかはまだまだわかりません。道半ばです。でも、応援してくれる人が増えてきて国も認めてくれるようになりました。市町村から一緒にやりましょうと言ってもらえるようになりました。まだまだ若輩者ではありますが、これから100年後の未来をつくる皆さんに負けないように僕らもワクワクするような未来を一緒につくっていけたら嬉しいです。