• イベントレポート

土の精霊そいりゅーが現れた!土の精霊をハグして、現代的アニミズムを実践する。──ナナナナ祭2025を終えて

「Kin-Kin」は微生物を中心に日常をリデザインし他者とのつながりを思い出す「菌[kin]曜日」を実践して、現代的アニミズムの可能性を模索するプロジェクトです。最も身近な他者である微生物との関係性を再考することは、私たちの「人間」としてのあり方を変えることにもなるのではないかと考え、活動を続けています。

そんな彼らは今回のナナナナ祭2025で、渋谷リバーストーリートに土の精霊「そいりゅー」を出現させました。土でできているそいりゅーをハグすることで、来場者に微生物の交換を体感してもらう試みを、Kin-Kinの酒井が振り返ります。

Kin Kinは、「微生物を中心に日常をリデザインし、現代的アニミズムの可能性を模索する」ことを掲げてスタートしたプロジェクトです。菌とKin(英語で類縁を意味する)を掛け合わせた言葉遊びとして、微生物を通じて私たちの繋がりを再構築していくことを目指して、Kin Kinという名前をつけました。

100BANCHに入居していたのは3年前。「腸内微生物とどのように話せるのだろうか」という疑問を解消するために、微生物ケアを中心に日常をリデザインしてみるという実験を行っていました。

今回のナナナナ祭では、「土の精霊そいりゅーをハグしよう」と銘打った展示を行いました。土壌微生物の住処になるマテリアルで、ハグできる土のオブジェを作り、「土の精霊そいりゅー」を召喚します。そいりゅーをハグすることにより、土壌微生物や土への愛情(soil intimacyソイル・インティマシー)を育むことを目的にしたプログラムを行いました。

 

なぜ土をハグするのか?

私たちは環境と微生物を共有しており、私たちが健康であるためには、土壌に健康な微生物たちが溢れていることが必要です。私たちを養っている土。土がなければ私たちは生きていけない。しかし、1cm堆積するためには、100年もかかる土。

土に触れると、土壌微生物たちに触れて、体内の微生物多様性を高め、健康や免疫を高める上で重要だと言われています。しかし、東京に暮らしている私たちは、日常的に土に触れることはあまり多くありません。

Kin Kinプロジェクトでの今までの実験では、体内の微生物たちとの親密さを作ることを目的にしていました。微生物たちは環境から身体を行き来しており、より環境微生物との親しみや愛しさを感じたいと考えました。

その上で、どうしたら「愛しさ」「愛情」を育めるのかと考えた時に、ツリーハグのように、土をハグできたらどうだろうか?と考えました。ハグできる土のオブジェクトを作ってみたら、果たして私たちは土への愛しさ(ソイル・インティマシー)を感じることができるのか?

そのナラティブとして、「土の精霊そいりゅー」がふれあいを求めているというストーリーを考えました。オキシトシンなどの幸せホルモンを作るためにはハグなどのふれあいが必要だと言われます。もし土が、人間からのふれあいを渇望しているとしたら?ハグをしてそいりゅーを癒してあげることにより、自分たちも微生物を交換して癒されようと計画しました。

 

そいりゅーができるまで

ハグできる土のオブジェクトを作ろう、と考えたものの、ハグして気持ちのいい造形をいかにして土で作り上げるのか、ということは最初は全くわかりませんでした。ただ土を水でこねて固めるだけでハグできる強度を出せるのだろうか?自分たちが求める有機的な形と、ハグしたときの気持ちよさは両立するのか?

その問いを解決するために、土に埋めたら土壌改良剤になるブロック『Comoris Block』の技術を参考にしました。Comoris Blockの開発を行った合同会社Poieticaの奥田宥聡さんから知見共有をしていただき、6月頭に土のマテリアルを使った実験を行いました。

Comoris Blockに使われているくん炭、タブ粉、おがくずなどを混ぜながら、土を固めるためには1)できる限り粒子を細かくすること、2)マテリアルのつなぎになるデンプンを入れることが必要と知りました。高価なタブ粉の代わりに、強力粉を使って大幅なコスト削減を行い、基本となる土のマテリアルの開発に成功しました。

そして土を成形する上で、段ボールの表面に土を貼り付けて、張子構造にすることでうまくいくと分かりました。基本的な筐体は段ボールで作り、その上に土の皮膚を張っていくことで、ハグをしても問題ない強度のボディを完成させます。

ナナナナ祭前夜、ついにそいりゅーが完成した時の興奮は忘れられません。至ってシンプルなマテリアルと土を使って作り上げたそいりゅーが、確実に精霊のような存在感を持って現れたことにメンバー一同驚きました。

 

実際のプログラムを通じて行ったこと

いよいよ迎えたナナナナ祭当日。そいりゅーが渋谷川に降臨します。通りがかる来場者の方々にそいりゅーをハグしてもらい、来場者の微生物とそいりゅーの表面にある微生物たちが交換されます。

ハグをしてくれた参加者の方々は、最初は訝しげに近づいてきたり、何なのか分からなくて戸惑っている方も多かったですが、「土の精霊そいりゅーをハグしてあげてください」とお伝えすると、「ハグするの?笑」とポジティブな反応をしてくれました。

実際に膝をついてそいりゅーにハグをすると、「あ、すごく安心する」「ハグするの気持ちい〜!」という声が多数。無反応や、戸惑いながらハグをしてくれる方ももちろん多くみられました。そいりゅーをハグしてみると、自分の顔はそいりゅーの上部の土や布部分に触れ、手は土の皮膚や背面に付けられたコケに触れてふかふかに感じます。中の筐体の強度が強いのと、やや弾力性があり、ハグしてもとても満足できる感覚です。

ハグをすると、私自身も不思議ととても落ち着いたり、癒される感覚になりました。参加者の方々が、がっしりと抱きしめても動じないそいりゅーは存在感があります。3日間の展示を通じて、のべ100人の来場者の方にそいりゅーをハグしてもらいました。

そして、参加者の方には、そいりゅーをハグしたことで、一人一人の微生物がそいりゅーにつくと、どんな風にそいりゅーは変わるだろうか、と想像した姿を塗り絵で表現してもらいました。

展示期間中、とても印象的だったのは、そいりゅーの表面でまさに微生物の活動が活発になり、3日間の間にどんどんと匂いが変わっていったことです。そいりゅーの土台部分の土は、あまり乾燥させることなく、湿った状態で展示しました。水気があり、高い気温で、小麦粉と土が混ざっている環境は、微生物たちにとっては最高の環境のようでした。気がついたら、白カビが生え、発酵している匂いのようなほんのり酸っぱい香りが日を追うごとにしてくるようになりました。気がつくとアリがそいりゅーの表面を歩いていたり、とそいりゅーの周りに確実に微生物や小さな生き物たちの生態系が構築され、匂いが変わったり、湿っていたりと、まるでそいりゅーが生きているような感覚になりました。

 

果たして、土・土壌微生物への愛しさ(ソイル・インティマシー)は育めたのか?

展示を振り返り、参加者の方々からのフィードバックを聞く中で、正直なところ参加者が愛しいと感じたのは、「そいりゅー」というキャラクター性のある精霊であり、「土」や「土壌微生物」ではなかったと思います。

そこについては、よりプログラムを通じて「土壌」や「土壌微生物」について詳しく参加者に説明したり、そいりゅーをハグした後に参加者一人一人が変えられるアクションを伝えるなどの導線が必要だったのではないかと考えています。

とはいえ、土というマテリアルに全身で触れるという行為を通じて、土との距離感が縮まったり、土壌微生物に触れるという体験を作ることには成功しました。そして、実際に土をハグするという行為が持つ、参加した人々を癒したり、愛しさを育む上で効果的であることが分かりました。

都会に暮らす人々が土に触れるきっかけとしてや、様々な農園・コミュニティスペースなどでその場所の土壌をケアするためのよりしろとして、その場所の土を使って、オリジナルそいりゅーを作ってみることが今後の可能性としてありうると考えています。

また、Kin Kinプロジェクトとして、当初から掲げていた「現代的アニミズム」のあり方を考える上で、今回の展示はとても示唆に富んだものでした。固めた土と段ボールというマテリアルで構成されていたとしても、ハグできる愛しい造形にして、しめ縄を巻き、苔むしたそいりゅーを作った時に、手を合わせたりお供物をしたくなる、『精霊』なる存在が確実に現れていました。アニミズムのように、様々な生き物や存在の魂を感じて、その存在たちを敬ったり、関係性を築くということは、私たちが今回行ったように精霊を作っちゃう、ということからも実践できるのだと分かりました。

土を固めて、ハグする造形を作る方法・知識は今回の展示期間を通じて培うことができました。今後は、日本や海外でも、その場所のそいりゅーを召喚させ、人々の思いのよりしろになりながら、微生物が交換される場所を作っていきたいと思います。

(今回のナナナナ祭の制作メンバー)

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