• イベントレポート

「聞いておけばよかった」その一言が残らないように。父母試験から始まる、大切な人と向き合う時間。──ナナナナ祭2025を終えて

本づくりを通して、自分の人生を誇りに思える社会の創造を目指すプロジェクト「JINSEISOCHO(人生想帖)」。ある90歳のおばあちゃんの0歳からの人生の紆余曲折を綴るなど、大切な人の価値観や人生を一冊の本にまとめることに取り組んでいます。
ナナナナ祭2025のブースでは、あるおばあちゃんの人生をまとめた本「人生想帖」を実際に手にとって読んでもらう体験、「問いカード」から自分と大切な人との関係をそっと見つめ直す体験を多くの来場者にしてもらいました。その模様を、JINSEISOCHOの伊原が振り返ります。

はじめに

「あなたにとって、大切な人は誰ですか?」

「そして、その人の人生を残したいと思いますか?」

そんな問いから始まった人生想帖のブースで私たちは、3日間で約220名という多くの方と出会い、少しだけ人生を覗かせていただきました。

この記事を読んでくださっている方は、きっとブースでその問いに答えてくださったり、父母試験を手に取ってくださった方かもしれません。改めて少しだけ、私たち「人生想帖」について紹介させてください。

 

人生想帖とは?

人生想帖は、大切な人の人生を一冊の本に残すプロジェクトです。インタビュアー・写真家・デザイナーが伴走し、思い出や想い、家族さえ知らなかったエピソードまで時間をかけて聞き取り、一冊の本として記録します。語られた人生は、物語となり、かたちとなって残ります。

これは、過去をただ保存するための記録ではありません。語り手にとっては、自らの歩みを振り返り、「ああ、自分はこんなにも生きてきたのだ」と改めて実感する時間に。家族にとっては、「知らなかった一面に出会えた」「残してよかった」と心から思える何にも代えがたい贈り物になります。

 

今回の実験:「共感」と「行動」のあいだにあるもの

今回のナナナナ祭では、「人生想帖は良い取り組みだね」と言われることと、「自分も作りたい」と実際に思ってもらうことの間にあるギャップを検証しようと思い、「自分ごと化」につながるワークをつくりました。

人生想帖は、大切な人の人生を残すというプロジェクトです。しかし、日々の生活の中でいきなり「本を作ろう」とはなりません。そこで今回は「もしかすると、自分は大切な人のことを実は知らないかもしれない」と気づくことで自分ごと化が始まり、「話してみたい/知りたい/残したい」につながるのでは?という仮説をもとに“2つの問い”“父母試験”を用意しました。

 

2つの問いで見えたこと

あなたにとって、大切な人は誰ですか?」

「そして、その人の人生を残したいと思いますか?

この問いへの回答では、半数以上の方が“大切な人”と“残したい人”が違うという結果が出ました。多くの人が、大切な人を「両親」と選んでいたのに対し、残したい人では、「祖父母」が大きく増えました。

実際に来場者さんとお話しする中で、「大切な人と言われると悩むなぁ」「確かに残せたら良かったな」という声もあり、“残す”という行為は、語られる価値や、時間的な制約、切迫感とも結びついていることを感じました。

 

父母試験で生まれた気づき

父母試験は、“大切な人に今まで聞きにくかったけど、聞いてみたい問い”を25個用意しました。

父母試験とは、①25問の中からその中から、聞いてみたかったものを4つを選んでもらい、②「大切な人だったらどう答えるのだろうか?」と想像しながら答えを記入してもらいます。③テスト終了後に、その用紙を持ち帰っていただき、本人と実際に答え合わせをしてもらう。というものです。

ブースでは試験の途中で涙を流す方、その場で親に電話をして答え合わせをする方、親子で話しながら記入される方もいました。「知っているつもりだったけど、感情や価値観みたいな内部に触れることは話してなかった!」「答えたり考えたりするのは苦しいけど、やってみたいと思う」とハッとしたり、悩むシーンが何度もありました。

 

分かったこと、見えてきた課題

今回の取り組みで、“大切な人のことを想う時間は、案外、日常の中には少ない”ということがわかりました。真剣に考えてくれる姿、涙を流しながら考える姿をみて、私たち自身が心動かされました。

仕事や予定に追われる日々のなかで、親や祖父母、大切な人のことを、改めて考える時間はほんのわずか。けれど、そんなふうに「ちょっと考えてみる時間」が生まれただけで、大切だと思っているけど踏み出せなかった一歩を踏み出すことができる。そう、感じました。

そして今回、新たなご縁もいただきました。「授業で使いたい」「ACPや看取りの場面で使えるのでは?」といった声や、「実は、祖母の人生を本にしたことがあって…」と話してくれる方も多く、“語りたい・聞きたい・つなげたい”という想いがあることも知ることができ、新たな取り組みが生まれそうな予感がしています。

 

これからの人生想帖と、つながりたい人たちへ

これからは「本をつくる」だけでなく、「大切な人の人生に想いを向ける機会」を、つくっていきたいと思っています。例えば、家族ワークや対話プログラムを導入、教育現場や福祉現場などで、「大切な人の人生を聞く力」を育むような体験を展開したいと思っています。

この取り組みを、もっと広く、いろんな方に届けられるよう、こんな方々と出会い、ご一緒できたら嬉しいです。

  • 感情を残すという取り組みをしている人(例:映像・写真家、編集⁨者)
  • 死生観について取り組んでいる人(例:Sadamaranai Obake、僧侶、医療福祉従事者、教育者)
  • 行政や教育関係者、機関とつながり、授業や公共講座として展開できるような提携先
  • 本にまつわることを行っている人(例:本屋、製本職人、ライター、インタビュアー、編集者)
  • 感情のデザインや、共感を生み出す体験設計に興味があるクリエイター

もし、どこか少しでも引っかかるものがあれば、ぜひ一度、お話できたら嬉しいです。ご連絡をお待ちしております!

 

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