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ガーナからチョコレート産業を立ち上げ、コミュニティに豊かな未来を:田口愛(MAAHA株式会社 代表取締役)

「ガーナといえばチョコレートのイメージがあったのですが、違いました。多くのカカオ農家さんはチョコの作り方をまったく知らず、そもそもチョコを食べたことがない人もいたんです。」

そう語るGARAGE Program 32期生「Mpraeso Project」の田口愛は、2020年3月に100BANCHに入居。ガーナにおけるカカオの流通の仕組みを変え、生産者に利益がまわるようなチョコレート産業の構造に変えることを目指し、現地にチョコレート工場を建設し、カカオの栽培だけでなく、チョコレートの製造までをガーナで行うことを提案・実験しています。
そんな田口が、チョコレートに関心を持ったエピソードや、今まで取り組んできた実験、今後の展望について語りました。

田口愛|MAHHA株式会社 代表取締役

1998年生まれ。岡山県出身。生まれてすぐに父の仕事の関係で幼少期の一部をポーランドで過ごす。
2018年に初めてガーナへ渡航。バングラデシュのグラミン銀行やベナンのGOUNOU(チョコレート企業)などのインターンを通してソーシャルビジネスを学び、Mpraeso合同会社(現MAAHA株式会社)を立ち上げる。現地にチョコレート工場を建設したり、ガーナのカカオ豆の可能性を広げ、カカオ農家の所得向上や教育医療などに還元する基金設立を目指している。

——田口はチョコレート産業の課題と、それに対する現在の取り組みについて話します。

田口:MAAHA株式会社 代表の田口愛と申します。MAAHA CHOCOLATE(マーハチョコレート)というチョコレートレートブランドを運営しています。私は地元が岡山県でおいしいものに囲まれ、食いしん坊として育つ中でチョコレートに惹かれていました。その先にはどんな人たちがいるんだろう、どんな農家さんがいるんだろう、と気になったのがきっかけで、大学1年生のとき、アフリカのガーナに行ってみました。 

「ガーナ=ガーナチョコレート」のイメージがあったので、チョコが好きと言えばみんなと仲良くなれると思っていましたが、違いました。カカオ農家さんはたくさんいらっしゃるのですが、チョコづくりについて全く知らなかったり、そもそも自分が生産したカカオから作られたチョコを食べたことがない人もいました。そういった現状を見て、現地にチョコレートを広めたい、チョコ産業をガーナから立ち上げたい、という想いが出てきました。そんなタイミングで100BANCHに入居し、数ヶ月後には会社を立ち上げました。1年後にはブランドを立ち上げ、現在ではガーナからチョコレート産業の構造を変えたい、という想いから、ガーナでチョコレート工場、日本ではチョコレートブランド「MAAHA CHOCOLATE」を運営しています。実は、100円のチョコレートを買うと、3円ほどしかカカオ農家に還元されていません。フェアトレードのようにカカオ豆の価格を上げるだけではなく、製造・販売もガーナでできるようになればこの構造が変わるのではないかと思い活動しています。

田口:社名やブランド名に使われている「MAAHA」とはガーナの言葉で「こんにちは」という挨拶です。 地球の反対側から声が届くようなチョコレートを作りたいという願いから名づけました。私たちにとってチョコレートはとても身近なものですが、原材料となるカカオの8割はガーナ産です。普段は意識しないと思いますが、「こんな身近なものがあんな遠くから来ているんだ、どんな世界なんだろう」とワクワクしながら活動してきました。

ガーナには毎年行っていて、ジャングルの中で作業しています。建設した工場で、チョコを作るショコラティエさんたちを養成しているのですが、電柱を建てたり、井戸を掘ったり、街づくりをしているのではないか、と感じるほど大変です。しかし、基礎が整えば、一番良い状態のカカオが使えるので世界一おいしいチョコレートが作れるのではないか、と頑張っています。日本では、現地のカカオを使った「MAAHA CHOCOLATE」を、ECや百貨店の催事などで販売しています。単純にカカオのおいしさだけでなく、ガーナのことを伝える、アフリカ感満載のブランドです。また、ガーナはフェアトレードチョコレートのイメージが強いため、支援の必要な地域と思われがちなのですが、彼らが持っているパワーやエネルギーなどの素敵な個性も届けたいと思っています。

また、チョコの販売だけでなく、チョコ作りワークショップやアフリカへのスタディーツアーの開催など文化的な活動も行っており、「巡るカカオ」というドキュメンタリー映画に取り上げていただいたこともあります。

 

チョコレートに出会うまで

——ガーナにチョコレート工場の建設、製造教育、日本での販売など精力的に活動する田口。なぜチョコレートにこれほど強い関心を持ったのでしょうか。

田口:私は地元の岡山県でおいしいものに囲まれ、食いしん坊として育ち、チョコレートだけでなく、果物もお米もお肉もなんでも好きでした。お米やお肉は、農家さんや牛など、どういう仕組みでできているかイメージがついたのですが、チョコレートはイメージがつきませんでした。とても気になり調べてみると、ガーナという非常に遠いところから輸入されていることが分かり、感動しました。しかし、そのときはチョコレートで生きていくなんて思いもせず、毎日勉強ばかりのレールに沿ったような人生を歩んでいました。

そんな私に、大学の入学式で衝撃の出来事が起こります。周りはみんな目的を持って入学してきた子ばかりだったんです。「私はこういう夢があって、こういうことを学びたい、〇〇先生の授業を受けたい」など、みんなそんな話ばかりしていました。私はハッとさせられ、「自分がどう生きたいのかしっかり考えよう」と初めて思いました。

そこから毎日ノートとペンを持ち歩いて、心が動いた瞬間をメモすることを始めました。すると、今まで勉強ばかりだったけれど、実は私は食べ物のことがとても好きなことや、海外のニュースを見たり世界に目を向けることにとても関心が高いことに気づいたんです。それで、昔、チョコレートやガーナに興味を持ったことを思い出し、大学一年生の夏にガーナに行くことを決めました。アフリカで何をやるかは一切考えていなかったのですが、自分のワクワクにストレートに飛び込んでみたら人生どう変わるんだろう、と貯金もない中、2ヶ月間アフリカに行ってみました。

田口:行ってみると、チョコが好きだと言えば現地の人と仲良くなれると思っていたのですが仲良くなれなかったし、カカオ農家さんともたくさん出会えたけれども、彼らがチョコレートを知らないということに衝撃を受けました。そこで、経験もないのにカカオからチョコレートを作って食べさせることにしたんです。YouTube などで一夜漬けで作り方を調べ、作ってみたところ「こんなにおいしいものは初めて食べた!」とみんな喜んでくれました。当時、私が作ったのは、炭火で焼き、すり鉢で潰して作ったザラザラで焦げた失敗作のチョコでしたが、何十年もカカオを作ってきたのにチョコを食べたことがなかった農家さんには感動的な経験だったようで、号泣してくれる人もいました。それがとてもうれしくて、「現地にチョコレートを広めたい、チョコ産業をガーナから立ち上げたい」と思いました。同時に、ポンと思いついて挑戦したことでみんなが笑顔になることにしあわせを感じ、「自分の好奇心にもっと素直に生きてみよう、自信がなくても飛び込んでみよう」という選択をするようになりました。

 

たくさんの実験でつながったチャンス

——ガーナでの出来事をきっかけに、現在チョコレートを生業にしている田口。活動を始めたばかりの頃、100BANCHではどのような実験をしていたのか振り返ります。

田口:私が100BANCHに入居したのは2020年の2月です。コロナ直前に申し込んで採択され、そこから3ヶ月間、活動しました。現在ではブランドを立ち上げ、ガーナにチョコ工場を建設するなどある程度ビジネスモデルが固まってきましたが、当時はどのようにカカオの価値を高めていくか、いろいろな可能性を探ろうと実験していました。例えば、日本全国を回ってショコラティエさんにカカオの課題を聞き、「ガーナ産のカカオは小さい豆から大きい豆まで混ざっていて、ローストするときに焦げるものもあれば生焼けのものもあって大変だ」ということがわかったので、カカオ選別機の開発などを考えていました。

「カカオ選別機」の実験の様子

そのように実験していると、100BANCHの他のプロジェクトのメンバーも手伝ってくれ、本当にたくさんの人に助けられながら日々、実験をさせてもらいました。100BANCHには活動期間を終えてからもお世話になっていて、先日もチョコ作りのワークショップをさせてもらいました。100BANCHのサポートは非常に助かっています。また、メンターのカフェ・カンパニーの楠本さんには大変お世話になりました。新店舗で提供する、チョコレートを使った新メニューの開発に携わせてもらったことがあります。協力したメニューが実際に店舗に並ぶのはとてもうれしかったですし、非常に大きな経験でした。普通ならつながれないような人やチャンスにつながることができたのは本当に100BANCHのおかげだと思っています。

 

“オンライン”でプロジェクトをドライブ

——田口の100BANCH採択時はちょうどコロナ渦真っ只中。活動に制限があった時期を、どのように乗り越えたのでしょうか。

田口:100BANCHに応募したときは、商社的なことや豆の選別など、アイデアが溢れすぎて、計画がなかなかうまくいきませんでした。コロナ渦で、色々と企画を変える必要があったり、継続ができないプロジェクトが出てくるなど、大変な時期でした。ガーナにも行けない、日本でのチョコづくりのイベントもできない。そんなとき、100BANCHのスタッフや楠本さんが親身に相談に乗ってくださって、「できることからやってみよう、オフラインの場はいつ復活できるかわからないけれど、オンラインに可能性があるのではないか」と、方向性がだんだん見えてきて、クラウドファンディングに挑戦することを決めました。

田口:そのときまで、私はガーナのジャングルにこもり、1人でプロジェクトをしていたようなものだったので、SNSにも「生きてます」「カタツムリ食べてます」「蛇食べてます」などよくわからない投稿をしていたのですが、はじめて知り合いではない人にも興味を持ってもらえるような発信を心掛けました。また、すべて自分の力でやらなければいけない、ともがいていましたが、自分にできることとできないことがあるんだ、と謙虚になり、できないことは周りの人たちに頼めるようになりました。多くの方にご協力いただいた結果、SNSも順調に伸び、固定ファンもついてきました。

コロナ渦だからこそできること、とオンラインに特化してクラファンを実施してSNSを強化することに取り組んできたことにより、応援してくださる方がとても増えました。クラファンがきっかけで池袋西武で販売させてもらうこともできました。その後、高島屋、伊勢丹などの全国の百貨店に出展、JALのファーストクラスのデザートとして提供、ティファニーのイベントのノベルティとして商品を卸させていただくなど、いろんな形で使っていただいています。 現段階では、ガーナで作ったチョコレートを日本でたくさん使っていくようなサイクルは回せていないのですが、MAAHA CHOCOLATEの売り上げの一部をガーナの工場での実験資金として回し、製造の教育を強化しています。

田口:また、お客様からよく「MAAHA CHOCOLATEは会話のきっかけになるチョコレートだね」と言ってもらえます。チョコのブランドを立ち上げた当初は「すでに世の中においしいチョコブランドがたくさんある中でどうビジネスとして成り立たせるのか」と言われましたが、例えばバレンタインにチョコを渡すとき、チョコを渡したいだけでなく、その人と会話したいなど、そういう気持ちもあると思います。つい会話が弾んでしまう、相手と会話したくなってしまう。そんな、もらう人と渡す人の間でも「境界線を溶かす」チョコレートになりつつあると思っています。

 

未来を実現する方法

田口:私には100BANCHがぴったりな場所だったなあと感じています。審査に出す書類の時点で非常に優れていたり、何億円も儲ける事業計画を立てられる、ということではなく、何か突き抜けた面白さがある人がちゃんと採択されると思います。私のように、夢はあるけれどどうしたらいいかわからない人にぴったりなのではないでしょうか。

私の中で、夢や行動について、大切にしている5つのキーワードがあります。1番重要なのが「夢の大きさ」です。私は活動初期から、ガーナにチョコレート工場をつくりたい、チョコレート産業をつくりたい、と夢をずっと語ってきました。そんなのできるわけないじゃん、とよく言われましたが、そうなんです、私1人では絶対できないです。だから助けてください、と仲間も巻き込む方法で5年間続けてきました。次に、「夢の明確さ」です。100BANCHでいえば、100年後はどういう世界なのか。これは採択のために考えるのではなく、自分の中でしっくりくるものと向き合うことです。100BANCHへの応募だけではなく、自分の人生を考えたときにとても重要な経験だったと思います。そして、言葉だけでは人はついてこないので、自分ができることはちゃんと「行動」し、それを「続けている」こと。まわりの人、来てくれた人にしっかり「感謝」すること。そういったことができると、現時点で人脈もお金もスキルも何もなくても、未来は絶対に実現できると思います。

田口:これまで「境界線を溶かすチョコレート」を掲げてやってきましたが、今後は「境界線を溶かす〇〇」を掲げ、いろんなところに行きたいです。去年、タンザニアに行ったとき、コーヒー農園に行きました。ガーナのカカオ農家と同じように、コーヒーをたくさん作っているのに加工する場所がなくて飲んだことがない、とのことだったので、コーヒーをその場で焙煎して飲んでもらったら、とても喜んでくれました。「MAAHA コーヒー」をいつかやりたいと思っています。これからも、世界の面白いところとつないだり、人々の想いをより磨いて届けたり、身近に感じられるような、そんなことができるブランドをつくっていきたいと思っています。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/9ikUibBVt4w?si=XYg01qzDQDmWILyI

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