• リーダーインタビュー

ファッションの楽しさで、障害の有無を超えて混ざりあう——「SAFEID」:加藤海凪

知的障害者が、自分で好きな服を選ぶ。お気に入りを身につけて歩けば、思わぬところから素敵なコミュニケーションが生まれる。
名古屋出身の加藤海凪が手がけるのは、知的障害者のファッションに自由な選択肢を与えるアイテムをつくる「SAFEID」というプロジェクト。音楽やフェス、ファッションといったカルチャーに囲まれて育った彼女は、障害を持つ弟との生活の中で「障害者支援とファッションの融合」という発想に至ったそうです。「単純なきっかけなんです」と、はにかみながら見せてくれた、おしゃれなつけ襟のように見えるよだれ掛けには、加藤の生い立ちや福祉に対する深い想いが凝縮されていました。

福祉とファッションをつなぐ発見

—— 加藤さんは、身近なテーマからこのプロジェクトを始めたんですよね。

加藤:私の弟が「ウィリアムズ症候群」という難病指定されてる知的障害を持っていて。母は、知的障害や発達障害を持っている子どもたちが集まる児童支援施設で働いているんです。私はそういう環境にずっといて、障害者の持つ課題はもちろん目の当たりにしてきたのですがそれと同時に、めっちゃ面白いな!って、彼らのパーソナリティーを感じながら生活してきました。

ずっと自分の身近にあった「福祉」を、自分の好きなことにつなげて、社会の役に立てたら一番楽しそうだな、と思ってこのプロジェクトを立ち上げたんです。

加藤:知的障害者は、生活の選択肢が限られ、できるはずのことややりたいことを諦めてしまうことがあります。そして、日常的に困りごとが多く、能力を活かせるはずの選択肢が限られていることに気づけない現状があります。そこで、彼らが「日常の中で服を選び、オシャレを楽しむ体験」ができる環境をつくりたいと考えました。

—— 知的障害者のファッションについては、どんなことを考えていましたか?

加藤:障害を持ってる人たちの服装って「ダサい」イメージがあるなと、私は思っていたんです。たとえば、弟の友達(障害を持つ方)が集まる会なんかでも、かっこいい服着てる人が1人ぐらいいてもいいはずなのに、全然いないなって。

別にファッションは同じであっていいはずなのに、なんで違うんだろうと考えたら、本人が服を選べないとか、好きな服があってもサイズが合わないとか、汚すから着せてもらえないとか、いろんな要因に気づいて。じゃあ、やり方次第で知的障害者もファッションアイテムを「自分で選ぶ」、楽しい体験をつくり出せるんじゃないか、と思ったんです。それで、つけ襟のようなおしゃれに使えるよだれ掛けをつくりました。

開発した、つけ襟「yodaren」。食べこぼしやよだれをつけてもオシャレに見えるアイテムで、障害がある人も健常者も自分の好きな服の上からオシャレを楽しめるデザインです。

加藤:私の友達と弟が喋ったときに、ものすごく話が盛り上がったことがあったんです。ただ、この二人って、もし同じクラスにいたとしても正直仲良くならなかっただろうな、と。でも、たまたま関わる機会があったから話して、友達の中で「私の面白い弟」として変換されたとき、障害の隔たりを超えた感じがしたんです。

じゃあ、身につけているアイテムから会話が生まれて、それをきっかけにその人を知るような「ちょっと触れてみたらこの人意外と面白いかも」っていう状況がもっと増えたらいいなって。知的障害者向けのアパレルを通して、そのきっかけづくりをしたいです。

 

「普通」の関係が育んだ、ファッションへの思い

—— 弟さんは加藤さんの活動をどんなふうに思ってるのか、聞いたことはありますか?

加藤:普通に嬉しそうです。「姉ちゃんすご~い」って(笑)。

—— シリアスじゃなくて、「普通に」嬉しそうって素敵ですよね。

加藤:私は「めっちゃ弟のために何かしたい!」というモチベーションとは少しちがっていて。周りの障害者のいる家庭を見たり、話を聞いたりして感じたことなのですが、兄弟に障害者がいる方は「兄弟のために頑張らなきゃ」って、責任を感じて病んでしまうことが多いんです。ほかにも、そもそも家族に障害があるっていうことを受け入れてないパターンとか、体裁を気にしたりとか……。

でもそんな中で、私と弟はだいぶ自由に育ててもらって。……子どものころ、弟の面倒を見ないといけないのに置いて帰ってきちゃって、母に怒られたこととかもあります(笑)。家ではとにかくフラットな雰囲気で、弟は障害者としての課題はありながらも、結構のびのびやってるほうなんです。だからよくも悪くもかもしれないですが、彼のことを「普通の弟」って、ずっと思っています。

—— お話を聞いていると加藤さんのご家族、とても気になる存在です。

加藤:両親はカルチャーが好きで、とても詳しいんです。私たちが小さい頃から、アートを観るためにギャラリーに行ったり、音楽を聴くとか、あとは演劇なんかもみせてくれて。そのあと必ず「どうだった?」って、子どもたちに感想を聞いてくれました。フェスやライブにも、かなり小さい頃から連れて行ってもらっていました。弟も引っ張って、フジロックに連れていくみたいな(笑)。私も思春期の頃は父にフェス連れて行かれるの、ちょっと嫌だったんですけど、なんか全然関係なしでしたね。障害も思春期も関係なし(笑)。でも、行ったらもう最高に楽しいんですよ、感動するんです。弟もいつも楽しそうでした。

「障害者福祉」って、聞くだけでちょっとかわいそうなイメージがあるけど、私は当事者の方が「普通に」喜んでつけてくれるものを生み出して、もうちょっとポップに、健常者と障害者の真ん中にあるかっこいいものをつくりたいなって。そういう人になりたいな、って思うんです。

 

同じ空間で混ざって、壁を超える

—— 名古屋時代から長期的に取り組んでいるプロジェクトですよね。挫折は経験されましたか?

加藤:まだ、挫折するところまでいってないと思っています。お金を稼ぐっていうフェーズでもないし、今は知ってもらうために、ひたすらイベントとかコンペをやるしかない。コンペもこの間落ちちゃって……、やっぱり落ちるとへこみます。そしたらClassroom Adventures MOGURAの善くん(100BANCHメンバー)が、「わかんないこととかできないことがあったら、とりあえず100BANCHに来てでかい声で叫べばいいよ」って(笑)。

実は名古屋から上京して、しばらくの間は「どうやってプロジェクトを進めていこう」って悩んだ時期がありました。100BANCHに応募はしたものの、何から手をつけていいか分からなくて。さらに大学の授業が大変というのを言い訳にして、そんなに活動できていませんでした。

でも、100BANCHの和歌山合宿に参加したときに、私より2、3歳上の大学生がプロジェクトをガンガン進めているのを見て「自分も3年後、こうなっていたいな」と思いました。それから合宿後は、ほとんど毎日、出勤するみたいに100BANCHに行くようになって、いろんな人とも話すようになりました。

100BANCHは何時間も一緒にアイデアを考えてくれる人がいたり、メンターみたいな先輩たちがいっぱいいるような感じです。今は「コンペに落ちても、とりあえずやってみるしかなくない?」と立ち直ってます。もっともっといろんな人に見てもらってからじゃないと、良し悪しはわかんないよなって。だからまずは見てもらう段階に行くことだと思っています。

—— 100BANCHのメンバーにたくさん影響を受けているようですが、逆に加藤さんがどんな影響を与えられたら幸せだと思いますか?

加藤:私自身がもっとかっこいいものをつくったり、かっこいいことをしてる人を巻き込んでいくのが、障害者と健常者の隔たりを超えるために大事なことだと思っています。そしたら、みんなでかっこいいことができるじゃないですか。あとは、「100BANCHでたくさん実験して、もがいたら、こんな世界が見えた!」というのを伝えることで、100BANCHの場そのものにも良い影響を与えられたらと思っています。

加藤:いま注力しているのは、障害の有無に関わらず誰もがフラットに交流できる屋内フェスイベント「!⇆!(インターチェンジ)」の実現です。アート展示や音楽ライブ、食事や雑貨のマーケットでみんな自由に交わり、お互いに新しい発見や驚きを楽しむ機会をつくりたくて、頑張っています。

アウトサイダーアーティストが多数所属している名古屋の障害支援施設「認定NPO法人ポパイ」さんや「社会福祉法人さふらん会(SFRN)」さんに、運営にあたってのアドバイスをいただいたり、イベントへの参加協力もお願いしました。いまはフェス開催のためのクラウドファンディング中です。お金を集めるのは今回が初めてなんです……!

▶︎ 障害がある人もない人もアートや音楽で隔たりなく交わるフェスを開催したい!

私はフェスに行くといつも「本当にすっごいわ!」と感動します(笑)。演奏する人も、聴きにくる人も、その日を楽しみにしてきた人が一つの同じ空間に集まって、同じものを楽しむのは純粋にすごいなと思うんです。そんな今までの経験から、今回のイベントも障害のある・なしで区別せずに、ごちゃごちゃに一つの箱の中に入ってみて、混ざりあう楽しさを体験できる機会にしたいと思っています。

 

障害者と健常者の新しい関係性、個性を超えてつながる社会を目指して

—— 「障害者も日常的にオシャレを楽しむ」という価値観が広まったら、社会はどう変わると思いますか?

加藤:“おしゃれ”だけで、その人の人生がめちゃくちゃ豊かになるとは思ってないんです、正直。ただ、障害がある人もない人も同じものを身につけられるとしたら、ちょっとだけそういう隔たりを超えるきっかけになるんじゃないかなって思っていて。

たとえば、私が友達と仲良くなる時って「趣味が合う」から入ることが多くて。「これ着てるんだよね。」「それめっちゃかわいい。」と盛り上がったり。

—— コミュニケーションツールになりますよね。

加藤:一つのカルチャーみたいな感じで、障害者のおしゃれが浸透するのが一番嬉しいですね。

—— そうしていった先の「100年後の未来」はどうなっていると思いますか?

加藤:100年って長いですけど、“障害者”と“健常者”ってところは、今とあまり変わらないと思うんです。福祉サービスは、これからも良いものがどんどん増えると思います。ヘラルボニーみたいな素敵な会社もたくさん増えているはずです。でも、“障害者”と“健常者”の線引きは多分ずっとあるものだと思うし、私は、障害を「個性」という言葉に置き換えて、押し込んだだけ、みたいな印象を持っていて。これからは「障害=個性」という情報、言葉だけが一人歩きして、固まっていくんじゃないかな、と思うんです。

たとえ個性としたところで本質的には変わらないし、なにかが解決されるわけではないのを実感しています。だから私は、福祉サービスでは手が届かない視点、少し違うポップな角度から隔たりを超えるような体験を生み出したい、と思っています。

 

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