- リーダーインタビュー
- センパイの背中
本気のかくれんぼで、本当の自分を解放できる社会へ:高山勝(一般社団法人日本かくれんぼ協会 代表理事)
「本気で遊ぶ大人たちがめちゃくちゃカッコイイ。そういうカッコイイ大人を日本でも増やして、日本をかくれんぼ大国にしたい」
そう語るのはGARAGE Program 21期生「Seek new game ; Hidden in the future」の高山勝(一般社団法人日本かくれんぼ協会 代表理事)です。高山は、2019年4月に100BANCHに入居。商店街を貸し切ったかくれんぼやGPS機器を使ったかくれんぼなど、多彩なかくれんぼを実施しています。また、社内研修用のかくれんぼを開発するなど、さまざまなシーンで「本気で遊ぶ」機会を提供しています。
そんな高山が、現在の挑戦や100BANCHでの活動、今後の展望について語りました。
高山勝|一般社団法人日本かくれんぼ協会代表理事 得意技は無音移動、競技中では鬼が空と確定した場所へ移動してからのアプローチで得点する。 |
実は世界中で競技されている“かくれんぼ”
——日本かくれんぼ協会の代表理事を務める高山。現在の取り組みを語ります。
高山:日本かくれんぼ協会の高山です。僕は2019年に100BANCHに入居させていただきました。その後の5年間、何をやっていたかをまずはお話させてください。
僕は「かくれんぼ」を通じて社会に一石を投じようと思っています。現在、かくれんぼの日本代表選手をしながら、日本かくれんぼ協会という法人を運営しています。実は、かくれんぼには世界大会があります。「かくれんぼって日本の競技じゃないの?」と聞かれることがあるんですが、実は世界中で競技されているんです。
昔から狩猟の教育で使われたとも言われていて、世界中に「かくれんぼ」を指す固有名詞があり、いろんな国で遊びとして普及しています。とはいえルールは世界でバラバラだったので、これを統一するためにかくれんぼの世界大会が始まりました。世界大会のルールは、日本の缶蹴りに似ています。はじめに鬼が目をつぶり、みんながいっせいに隠れたあと、鬼に見つからないように中央のマットにタッチしたら勝ちです。世界大会では3日間で120ゲームを行い、総合得点を競います。
高山:世界大会では、40カ国80チーム中で日本は9位です。1位はイタリア、2位はフランス、3位はスペイン。彼らが強い理由は、例えばイタリアにはかくれんぼ専門の監督やコーチがいてトレーニングをしていたり、スポンサーがついているかくれんぼのプロがいたりすることです。しかし、現在は9位の日本人ですが、ポテンシャルは1番高いと思っています。かくれんぼは身長が低いほうがいろんなところに隠れやすく有利なんです。さらに日本人は目がいい。単純な視力ではなく、隠れていた暗いところから飛び出してマットへ向かって明るいところへ走るときに、欧米人よりもアジア人の黒目のほうが日光に対応する速度が若干速いんです。だから、身体的にいえばバスケやバレーよりも日本人が世界で1番をとれるポテンシャルがあるのがかくれんぼなんです。
「日本かくれんぼ協会」をつくった理由
高山:かくれんぼ世界選手権に参加して思ったことが、「本気で遊ぶ大人たちがめちゃくちゃカッコイイ」ということです。日本の公園で大人が本気でかくれんぼをやっていたら、気持ち悪がられたり、通報されるかもしれませんが、世界選手権では、タッチできた・できないでみんなで一喜一憂している遊び心溢れる大人たちがたくさんいるんです。そういうカッコイイ大人を日本でも増やして、日本をかくれんぼ大国にしたい、という想いで日本かくれんぼ協会をつくりました。
協会は現在31人で運営していますが、かくれんぼにフルコミットしているのは僕だけです。他のスタッフさんは業務委託で、イベントごとにサポートしていただいています。協会では公式に委託いただいて、かくれんぼ世界選手権の日本予選を開催したり、学校の授業や企業の社内運動会、社員旅行のコンテンツでのかくれんぼを企画したりしています。
かくれんぼの醍醐味は、「圧倒的な緊張感」です。例えば40人ほどでサバゲー場を貸し切ってかくれんぼを行ったときは、夜になるとめちゃめちゃ暗いため、集まって懐中電灯をつけて人を探すだけでもめちゃくちゃ楽しいんですよ。「やばいやばい、鬼に見つかるかも。」という圧倒的な緊張感。これがかくれんぼの1番の魅力です。
高山:日常で誰かに追いかけられることなんて、まずないことです。でも、鬼は必死に探してくるし懐中電灯をぱっと向けられるし。隠れる方も見つからないように茂みの奥に奥に向かってドキドキ、ワクワクする。そんな醍醐味を共有したメンバーとは、とても仲良くなります。はじめはサバゲーのチームで参加してくれていた人が「かくれんぼチーム作ろうぜ!」と、その場で見知らぬ人同士が友達になったりするんです。
ナナナナ祭2021でかくれんぼをしたときは、40分間見つからずに隠れ切った男性の方がいて、周囲からも歓声があがりました。徳島県の神山町にある農村ふれあい公園でおこなったのですが、答え合わせのときに、かくれんぼに参加していないたまたま近くを通りかかった方からも「よく隠れた!」と拍手が起きました。鬼も、隠れた人も、参加せずに見ていた人も、みんなが笑顔になるような「喜び」と「注目」の老若男女巻き込む力がかくれんぼのパワーなんだと思っています。
職業としてのかくれんぼ
――圧倒的な緊張感とそれを共有して生まれる人とのつながりや巻き込む力など様々な魅力があるかくれんぼですが、ビジネスとしての役割も果たしていると言います。
高山:僕は日本かくれんぼ協会として、かくれんぼを生業としています。例えば、法人向けの社内コミュニケーションの一環として、世界大会のルールで実際にかくれんぼをプレイし、その後みんなで応援歌を作ったりしました。営業部VS企画部VS広報のように部署別でチームを分け、「作戦会議→プレイ→失敗した→じゃあ次どうしよう」というローテーションがめちゃめちゃ楽しかったそうです。普段の業務では長く勤めている方が業務の知識量の多さからリーダーを取りやすいですが、かくれんぼにおいてはみんなフラット。同じ知識量で話せるのでいろいろな会話が発生して盛り上がりやすい、という評価をいただいています。かくれんぼもきちんとパッケージ化して演出し、公平なルールを設定してファシリテーションすればしっかりとしたサービスになるんです。
高山:法人向けの製品PRにも活用いただきました。Hamee(ハミィ)という企業で販売している子ども向けスマートフォンには、お父さん・お母さんが子どもの居場所をGPSで確認できる機能が搭載されています。僕らはそのスマホを持ってかくれんぼ会場のキャンプ場に隠れました。鬼はGPSで僕たちや参加者の親子を探す、ということを企画しました。GPSが優秀なので、ある程度の場所は特定できるのですが、山の中なので「この6本の木の内のどこかにいる、でも見えない」のような微妙な情報戦が非常に盛り上がりました。CMだけではわからない、自分で使ってみなければわからない製品の良さをアピールすることができた事例です。
高山:また、今年はSEIKOさんと共同でかくれんぼ専用の時計の開発も行いました。今後の未来を考えたとき、これまでは測るものだった時計を、楽しむものにシフトしたい。そこから、「大人も子どもも公平に楽しめるのはかくれんぼだ!」となったそうです。この時計はかくれんぼの審判の人が使い、時間の計測や隠れている人を見つけた後のカウントなどが時計1つでできます。かくれんぼを本気で突き詰めていくと一流のブランドさんからも声をかけてもらえた、という事例です。
施設の活用事例としては、史跡公園、奈良県の文化遺産である「藤原宮跡」で、日本で1番古い都で日本で1番古い遊びをするイベントを開催しました。また、商店街を貸し切り、各商店の店長さん全員に許可を取ってかくれんぼをした事例もあります。布団屋さんや果物屋さんなどのお店の中に隠れるなんて、普段絶対にできませんが、かくれんぼ協会という看板でしっかりファシリテーションしてルールを決め、許可を取ったおかげで、子どもたちの「いつかやってみたかった夢」を実現できました。
高山:また、川崎フロンターレの「とどろきスタジアム」を夜に貸し切ってかくれんぼをするイベントを実施しました。「夜間に芝生以外の施設を何か利用できないか」というご相談から、設置物が不要なかくれんぼを採用していただきました。実際に選手がミーティングしてる控え室やシャワー室など、普段絶対に入れないところにも、かくれんぼという大義名分のもと隠れることができてしまいました。フロンターレファンやかくれんぼ好きにとっては夢のようなかくれんぼです。
他には雪山でかくれんぼをやったり、学校の授業でかくれんぼを開催したりしています。企業や土地活用、製品、学校などいろんな分野でかくれんぼを実施していて、僕の考えるかくれんぼ大国が徐々に実現できつつあります。
100BANCHの仲間と考えた100年後のかくれんぼ
――多彩な取り組みを紹介した高山ですが、現在に至るまでは決して平坦な道のりではなかったと言います。
高山:このような様々な取り組みに至るまでにはいろんな紆余曲折がありましたが、その道のりは100BANCHでの経験がベースになっていると思います。100BANCHでは、「100年後の日本をかくれんぼ大国にする」ために3つの目標を掲げ活動していました。
高山:まず「外遊び会議」を開き、かくれんぼの研究、ルールを分解して、新しいかくれんぼのルールをつくりました。また、自分の肩書きを決めてそれを隠す情報心理かくれんぼやオンラインかくれんぼなどいろいろなアイデアを出しました。それを実現するためのおもちゃを作ったり、目隠しをしながらかくれんぼをしたり、いろんな実験もしました。
100BANCHで良かったことは、普通に生活していたら会わないだろう人にも外遊び会議に参加していただき柔軟な意見をいただくことができた点です。自分のまわりだけでやっていたら似たような思考の人が集まってしまっていたと思います。今後100BANCHに応募される方は、こういう場所でオープンなブレストなどを開くと、自分では思いつかないようなアイデアを持った人が協力してくれるかもしれません。
夜の代々木公園で、「本気の大人のかくれんぼ」を開催した際には、メンターの渋谷区長の長谷部さんにとてもお世話になりました。土木家の方を紹介いただいて許可を得て、代々木公園のかくれんぼが実現ができました。ずっと「かくれんぼしましょう!」と100BANCHでプレゼンし続けていると、「ここもいいよ」「こういうところに話通してあげるよ」と紹介していただけることがあります。今後入居される方はいろんなメンターさんと未来を共有してみてください。
また、100BANCHでかくれんぼを真面目に研究した時期もありました。かくれんぼの運動量を測定し、どれだけ疲れたかアンケートを取ってマラソンと比較しました。マラソンに比べればかくれんぼの運動量は少ないものの、ウォーキングやランニング、マラソンと違い、かくれんぼは毎日でもやりたい、という方が多かったです。運動消費量はそこまで高くないけれども生活習慣の中に運動を組み込めることを大学の教授と一緒に測定し、国際学会で発表するところまで100BANCHの3ヶ月間でこぎつけました。もともと大学教授の知り合いはいませんでしたが、100BANCHメンバーが紹介してくれました。こういうのも100BANCHの同期、仲間のいいところだと思います。
そして、GAREGE Program期間の終了後にはかくれんぼの「日本選手権」も開催するところまでこぎつけたのですが、その際100BANCHで作業させてもらえたことがありがたかったです。イベントの準備ではボードなど色々と手を動かして作るものがあり、大人数で夜中まで作業できる場所は貴重でした。
広がり続けるかくれんぼ
――まだまだやりたいことがたくさんあると話す高山。思い描く今後を語ります。
高山:2026年に「かくれんぼ世界選手権」を日本に誘致できることになりました。また、先ほど紹介したような商店街や雪山、普段なら絶対「やっちゃダメ」と言われる場所も「かくれんぼ協会」という突破口でどんどん切り開いていきたいと思います。
新しいデバイスやテクノロジーもかくれんぼと融合させたいと思っています。今後、渋谷でかくれんぼの開催が決まったとき、初めて会う人同士でも鬼と隠れる人をぱっと割り振りできる機能や、GPSを搭載し、どこに鬼がいるかがデバイス1つでわかるものをつくりたいです。他にも、観覧している人、足が悪い人やその場に行けない人もオーディエンスで参加できたり、無線を使って情報を伝達できるような、今までのリアルをさらに拡張したかくれんぼをつくっていきたいです。
そんな未来を見据えた現在ですが、11月3日・4日に無人島でかくれんぼを開催します。長崎県、壱岐島の妻ヶ島を貸し切りでやります。無人島を貸し切ろうとするとすごくお金がかかったり、所有者がわからないこともあるのですが、町のいろんな方や管理をしている会社さんと協力して開催できることになりました。また、昨年開催した雪山かくれんぼも継続して開催できることになりました。来年5月16日には大阪万博でもかくれんぼをさせていただき、これを皮切りに2026年の世界大会への道筋を描いています。
高山:やっぱり100BANCHで、日本大会開催のためにめちゃくちゃ頑張ったり、運動量の測定などに取り組んだからこそ、企業さんに発注いただいて資金を得て、次に費やしていく、といった循環のもと今の到達点があると思っているので、本当に感謝しています。100BANCHは来るたびに、「実家に帰ってきた、ありがたい、今後も頑張ろう」と思えるような場所なので、みなさんも活用してみてください!
今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。
- TOP
MAGAZINE - 本気のかくれんぼで、本当の自分を解放できる社会へ:高山勝(一般社団法人日本かくれんぼ協会 代表理事)