iKasa
「傘をシェアする新しい時代を一緒に創りませんか?」
「テクノロジーやアイデア、まだ世の中に実現されてないしくみを社会実装していくことで、より多くの社会課題を解決する、そういったことを仕掛けていきたい」
GARAGE Program 17期生「iKasa」の丸川照司(株式会社Nature Innovation Group 代表)は、2018年12月に100BANCHに入居し、傘のシェアリングサービス「アイカサ」のサービス拡大に取り組みました。その後もユーザー数やアイカサ設置箇所を増やし、傘をシェアする文化を醸成することで環境負荷の軽減を目指しています。また2022年には大手企業と連携した「2030使い捨て傘ゼロプロジェクト」を開始し、より大きなインパクトを与えるべく、事業を進めています。
そんな丸川が、会社をはじめた経緯や現在の活動内容、100BANCHの魅力などを語りました。
株式会社Nature Innovation Group 代表 丸川照司(GARAGE Program17期生 iKasa プロジェクトリーダー) シンガポールなど東南アジアで育ち、中国語と英語を話せるトリリンガル。 |
丸川:傘のシェアリングサービス「アイカサ」を運営している丸川と申します。私は1994年生まれの28歳です。大学生の頃に児童福祉の分野に興味を持ちました。子供がより気持ちよく育つような環境を用意できないかと思ったのがきっかけです。傘とは遠いかもしれませんが、それが始まりです。当時、NPOフローレンスの駒崎さんの「社会を変えるを仕事にする」という本に影響を受け、私も人生を通して社会課題を解決していくような時間の使い方をしていきたいと思うようになりました。そこからだんだんソーシャルビジネスや起業に目が向くようになり、傘のシェアリングサービスができるんじゃないかとスタートしました。いまでも根幹の思いは変わらず、テクノロジーやアイデア、まだ世の中に実現されてないしくみを社会実装していくことで、より多くの社会課題を解決する、そういったことを仕掛けていける会社、グループにしていきたいと思っています。
丸川:学生時代には興味がある分野や、話を聞きたいと思った人には積極的に会いに行き、自分が何をしたいかというのを少しずつ感じていきました。カンボジアのシェムリアップという村の日本人がやっているNPOの工場に手伝いをしに行ったことがありますが、そこでは子供たちがモノづくりをしていました。シェムリアップの有名な湖に行ったときの、ボートで見学するツアーでは、2、3歳ぐらいの子供がバケツに入って浮かんでいる光景を目にしました。
丸川:最初は遊んでいるのかと思っていましたが、実はここを通る観光客に「ワンダラー、ワンダラー」とお金を要求していたんです。かなり衝撃的な光景でした。その他、いろんな観光地でもココナッツジュース、ミサンガ、観光本など、いろいろと物売りをしている少年少女がいました。こういった環境をどうしたら変えられるだろうか、というのは今もずっと考えているテーマです。児童労働自体は良くないですが、例えばミサンガではなく、雨が降っている日に観光地で傘を置いておけば、けっこう売れるのではないか、みたいな感じで、手段は問わずどうやったら生活が良くできるか、ということに当時は興味を持っていました。
丸川:カンボジアの旅を経た後、事業を起こそうと思い、日本に帰ってきました。最初は街中の飲食店さんからビニール傘を集めて、傘のシェアリングサービスを行うことからはじめてみました。100店舗ぐらいを回り「傘が余っていたら下さい」といただいてきたものを自宅のシャワーで1本1本キレイにしてステッカーを貼ってQRコードをつけて、Webサイトから簡単にレンタルできる仕組みをつくり、10か所ぐらいに置きました。偶然ニュースに取り上げられましたが、誰も使いたがらないようなクオリティのサービスでした。これではいけないと、大手鉄道会社に置かせてもらうようお願いしても、まったく相手にされず、まずはプロダクトを良くしようと、傘をつくることにしました。
丸川:その開発をする中で、100BANCHに応募したのが最初のきっかけです。傘を30か所ぐらいに置かなければいけなかったので、入居初日から100BANCHのスペースを占領させてもらい、車で運んで設置しては戻るような感じでした。リリース当日もアプリが動かなくて利用できない、といったバグだらけの状態からスタートしました。
丸川:当時、自分でも面白いやり方だったと思いますが、ユーザー向けに使い方などを説明する案内をつくったんです。現在のように自分でカンタンにWebページをつくれるサービスがなかったので、Google スライド で内容をつくってPDFにして、その中にリンクを仕込みました。エンジニア知識ゼロの私がフローをつくったりして、ローンチしました。設置箇所も広げていかなければいけない中、100BANCHではローンチ記念パーティーのようなこともやらせていただいたり、参加者みんなで渋谷の交差点に集合して運良く降った雨の中、写真を撮ったりもしました。
丸川:100BANCHでは、物理的にもかなり空間を使わせてもらいました。作業場としてもそうですし、在庫の一部も置かせてもらいました。朝10時からここに来て夜12時すぎの終電をめがけて渋谷駅に行くという生活を毎日繰り返す、かなり濃い3か月間でした。PS(100BANCHの運営をサポートするプロジェクト・スタッフ)やメンバーと息抜きに話したりすることも多かったですが、おかげでいろいろな縁が生まれたり、アドバイスやフィードバックをもらえたことが大変良かったです。また、当時は1円でも使えるものはプロダクトに使っていたくて、お金がいくらあっても足りないような時期でした。増資でお金が入るまではこの100BANCHでなんとか生き延びることができた形です。
丸川:アイカサは2018年6月に設立しました。事業のミッションは「使い捨て傘0へ」「雨の日を快適にハッピーに」という2つを掲げています。現在、首都圏で傘立てを1,000箇所ほど置かせていただいています。傘のシェアリングをやってるのは私たちが唯一のプレイヤーです。これから起こしていく社会インパクトは、私たちが存在したからこそ、起こせたものと言えると考えています。 傘のシェアリングをはじめた理由は、元々、シェアリングエコノミーがすごく好きだったからです。Airbnb、Uberなどが生まれてアジアで使われ出した頃、日本も含めてもっとシェアリングサービスが普及してほしいと思っていました。当時、日本では自転車のシェアリングサービスが流行っていて様々な会社が生まれました。
丸川:しかし、そのときに私は首都圏の東京であれば、自転車よりも傘が欲しいと思っていました。雨の日にたくさん放置されてる傘があるのに使えない状況があったからです。だったら、傘を借りて濡れない体験を届けることができれば、多くの人の移動を快適にできるのではないか、と思いました。調べてみると日本は年間約1.3億本ぐらい傘を輸入しています。中国とカンボジアがメインで、ここ30年で2倍以上輸入量が増えました。要因として、1980年あたりにビニール傘が誕生し、コンビニも普及し、日本は電車移動が中心の文化のため、急な雨の際に傘が必要ということで需要が一気に増えたからです。結果的に、いつの間にか傘は使い捨てみたいな存在になってしまいました。資源の面でも、もったいないしゴミもでるし製造でCO2も排出されます。それに対して、いつでも借りられて、どこでも返せるような傘のサービスがあれば、その問題が解決できるのでは、と思いました。ダウンロードして1分で質の良い傘を利用でき、1本の傘は3年〜5年使えます。もし壊れても私たちが「修理して市場に戻す」を繰り返すことで傘の寿命を圧倒的に伸ばせます。
丸川:お客さんのニーズの一つは、急な雨のときに傘がほしい、というのがイメージしやすいと思います。もう一つの潜在的なニーズとして、どんな天気でも安心して出かけたい、というのがあります。そのため、急な雨でご利用いただくだけでなく、普段から手ぶらを実現したい人に、みんなの置き傘サービスとしてご活用いただくことも多いです。24時間110円の都度使えるプランや、月280円で2本まで使い放題というサブスク型のプランを提供しています。また、会社や大学に設置したいと言われたときも月5,000円で設置できる料金プランもあります。
丸川:ここまでは消費者とtoB向けのマネタイズポイント、提供価値の話でした。一方で私たちは、環境に対しても提供価値を計算しています。現在、使い捨て傘は、年間8,000万本ぐらいありますが、これをどうやってなくすかと言うと、8,000万回分私たちのサービスをご利用いただくことです。傘を消費せず、濡れない体験をみなさんがエコに享受できます。同時に販売者側も啓蒙して意識も変えていき、傘をよりエコでサステナブルなものにしていくことで「使い捨て傘を0に」できるんじゃないかと思っています。アイカサの実績としては、1,200ほどの設置箇所があり、50万人ほどの会員登録数です。経済性といった部分でも問題ないレベルにすることができました。一番の実績は、1都3県における大手の鉄道会社すべてと連携済みだということです。私たちしかプレイヤーがいませんし、そもそもサービスが成り立つと言ってくれた人は皆無に近かったと思います。結果としては、すべて連携させていただいて、今も月に100駅単位で設置箇所を広げています。特徴としては、駅などのすごく素敵な動線に置かせていただいていることです。「アイカサをどこで見かけましたか?」というアンケートをとると80%が「傘立て」を見て認知いただいたという結果になりました。広告宣伝費をほとんどかけず、どんどん傘立てを置くことで、多くの方に知っていただき、会員数が50万人になりました。
丸川:今後については、2024年中に1都3県の約1,600駅すべてにアイカサがあるような状態を実現することが最大の目標です。みなさんの最寄り駅に絶対にある。さらに、職場にも、よく遊びに行く池袋や渋谷にも絶対にあるという状態だとしたら、どこでも返せる安心感が生まれます。雨が突然降ったとき、目の前にアイカサがあることが大事です。すると、リピート率も上がっていきます。これが実現できれば、次は駅以外にも大きなビルすべてに設置された状態をつくりたいと思ってます。すべての駅にある状態でビルを繋げられると、利便性がぐんと上がります。むしろ、アイカサを置いていないビルの方が不便というぐらいまでにしたいです。すべての駅に置ききったからこそ、次のステップが開いてくると思っています。
丸川:まずはすべての駅にある状態、次にほとんどの大きなビルにもアイカサがある状態を考えています。仮説を立て、順番を決め、どうやったら実現するかというロードマップを描いて進めており、この1都3県における全域への設置が、私たちが次に進める一手です。
1都3県でひと雨降った場合、傘がどれくらい売れるかと言うと、約15万本です。私たちは1都3県で10〜15万本傘を置けるようなことを来年実現したいと思ってます。そうすると、みなさんがアイカサを使っていただきさえすれば、 傘を消費せずに暮らせるようなインフラが実現します。今後、駅以外にも頑張って置いていきたいと思っていますが、駅だけで15万本を設置するキャパシティーがあり、これは使い捨て傘を買っている人数を上回ります。ここまで実現してさらにビルにも置いて1万箇所を実現したとすると、使い捨て傘を買うメリットはなくなると考えています。そこまでいけば、私たちが目指す「使い捨て傘を0に」というミッションが叶ってくると思います。
丸川:環境と経済性を両立するヒントとして、高品質な傘とコンビニのビニール傘を比較します。コンビニの傘は短期間での使用が前提で、原価率も高いのに対して、高品質な傘は長期間使用可能で、長期間で見ると原価率を低くすることが可能になります。同じ資源を使用しても、高品質な傘の方が生産性やコストパフォーマンスが高いことが分かります。
こういった部分が環境負荷低減と経済性の両立になっていきます。エコの意識とシェアリングがあれば、以前からあるモノや事業者、お客さん、地球も、持続可能な仕組みをつくることができると思います。弊社の事業も最初は無理だと言われましたが、みなさんが気づいてないポイントをうまく工夫して実装したことで生まれました。今後、みなさんも色々な壁があったりするかもしれませんが、何かのヒントになればと思います。
今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。