• リーダーインタビュー

花屋を卒業し、「私の中の自然」に従う旅へ。「flower and people」望月萌々子が見据える次のステージ

「人と自然の境界をなくす」ことをコンセプトに、その人の感情、記憶、人柄から連想されるオーダーメイドフラワーを作り、作品やワークショップを展開してきた「flower and people」の望月萌々子。スタッフとして「100BANCH」に関わりはじめ、様々な出会いの中で「flower and people」のプロジェクトを立ち上げました。

活動を続ける中でプロジェクトのあり方を見直した彼女は2023年6月で花屋さんとしての活動に区切りをつけ、7月からカナダへと1年間の旅へ出ることに。それは、「flower and people」の次のステージでもあり、自身が大切にしている「私の中の自然」を探求する旅であるといいます。今まさに、新たなステージに進もうとしている彼女の、これまでとこれから。

花屋を通じて「人と自然の境界をなくす」

——望月さんが立ち上げた「flower and people」とはどのようなプロジェクトなのでしょうか?

望月:「人と自然の境界をなくしたい」という想いのもと、対話を通してその人の感情や記憶、人柄を丁寧に聞き、連想したお花からつくるオーダーメイドのフラワーギフトのサービスを展開していました。その他にも、自然と人とのあり方をテーマにしたインスタレーションを制作したり、空間づくりやワークショップを開催するなど、お花を通して様々な活動をしています。いずれもプロジェクトの根本にあるのは「人の自然性を取り戻す」こと。

効率や商品価値が大事にされる社会のなかで、いつの間にか人が自然と切り離されてしまい「私たち人間も自然の一部」だということを忘れてしまっていると思うんです。心の中にある柔らかい部分を「私の中の自然性」と呼んでいるんですけど、それを取り戻すことが解決につながるんじゃないかと思っていて。誰かを大切に思う気持ちを花の贈り物として表現される。花屋という形態は、人と自然の境界をなくすためのきっかけなんです。

——数ある自然の中でも、なぜ「花」をテーマにプロジェクトを立ち上げたのですか?

望月:私のおばあちゃんが生け花の先生をしていて、家で教室を開いていたので、私も物心ついた時から一緒に生け花をしていたんですよ。その時に華道と日本のアニミズム的な文化にふれました。

うちの実家は田舎だったんですけど、おばあちゃんは庭とか山でつんできた花をいけ、よくお花に話しかけていて。教室でも生徒さんや私に「人間の都合で茎と離されて、自分の力で生きていけなくなっているお花をどうしたらこの花瓶の中で一番美しく見せられるかをお花の気持ちになって考えてみな」と教えてくれていたんです。

器に花をいける華道って神様の寄り代(神道の考え方で「神霊が寄り着く場」という意味)としての意味合いがあるんです。そんなおばあちゃんの教えの元で、植物にも、魂とか意思とか気持ちがあるという世界観で育ってきました。だから自分でプロジェクトを立ち上げるとき、おばあちゃんに教えてもらったことをベースに自分ができることは何だろうと考えたんです。

——幼少期の経験が「flower and people」を着想したきっかけになったのですね。

望月:そうですね。それともう1つのきっかけが、花屋さんで働いていた時の経験です。小さいころからお花が好きだったので、大学を卒業してすぐに個人経営のお花屋さんに就職したんですけど、その職場は命に対する誠実さが欠けているというか、私にとって重要な点を大切にできない環境だったんです。お花屋さんという業態は、お花や植物という命を流通に乗せるところにどうしても歪みが生まれてしまうもの。流通の仕組みに合わせるために農薬を使わなければならないし、店舗を営業していく中でどうしても無駄やロスが出てしまう。そういった環境下で想像以上に自分自身も削られてしまって、心身ともに体調を崩してしまいました。だから、花との関わり方を見つめ直そうって。

——そこから、「flower and people」の活動に繋がっていくのですね。100BANCHとの出会いはどのようなものでしたか?

望月:それを機にお花屋さんを退職したのですが、これからどうしようかと考えているとき、100BANCHに関わっていた大学の同級生が「100BANCHで働いたら」と紹介してくれて、スタッフとして関わることになりました。

100BANCHには、いろんな意思を持ってプロジェクトを立ち上げる方が集まっていて、そうしたみなさんとの出会いにも背中を押されました。たくさんの面白い仲間と出会っていく中で、自分も個性があっていいんだとも思えたんです。

——「flower and people」の立ち上げから現在に至るまで、どんな変遷があったのでしょうか?

望月:プロジェクトを立ち上げた根本の想いは、人と自然の自分が理想とするあり方や世界を作りたいということでした。

立ち上げた当初は自分が理想とする「人と自然の在り方」を求めて、アメリカのポートランドなど色んな場所を訪ねて歩いたんですけど、ある時、外に求めても無いんだなということ気づき、「だったら自分で作るしかない!」と考えてプロジェクトを立ち上げました。

また、「オーダーメイドの花屋さん」だけでは、自分のやりたいことが実現できないだろうと限界を感じてもいました。そこで、100BANCHに入居し、インスタレーションで私の考えを形にしてみたり、その他にも新しいサービスの形はないかと試行錯誤していたんです。多くの人と接点を持てる花屋さんの良さは感じつつも、やはりその看板が大きすぎるというか……伝えたいことが十分に伝えきれていないなという葛藤もずっと抱えていました。

——葛藤、ですか。

望月:お客さんにとって、花屋さんは花を買うところ。「綺麗だね」という言葉をいただいて嬉しく思う反面、どうしてもその背景にある思想の部分が伝えられていないな、と感じていたんです。そこで、思い切って2023年6月に「花屋」としての活動を終え、今年の7月からカナダへと旅に出る計画をしています。

 

「私の中の自然」に従う旅へ

―かなり大きな方向転換ですよね。なぜ、旅に出ようと考えたのですか?

望月:一昨年に山梨県北杜市に移住したのですが、パーマカルチャーの根付いた環境下に身を置いたことが大きかったかもしれません。

パーマカルチャーは、人と自然が共に豊かな関係を築いていくための環境をつくるデザイン手法です。人と植物についてもっと知るために、環境づくりを経験したいと思っていたときに、ちょうど山梨でパーマカルチャーの哲学のもと場をつくる活動に携わる機会がありました。そこで実践を学びながら、並行して「flower and people」の活動も続けてきました。

自然と人についての探求として、農家さんや花屋さんで働いてみたり、様々な経験をしてきました。この1年では、パーマカルチャーや環境づくりに関わって、この社会で植物と人とが対峙する仕事は、一通り経験したなって実感があったんですよね。

これまでの活動の中でも「自然性」というのはテーマとして持っていたのですが、山梨に来て、その環境や自然と生きる人の心に触れて、人の内側の中にある「自然性」にフォーカスを当てたいと感じたんです。

——「人の中の自然」とは?

望月:自然とは何か?と考えると、自分の外側にある植物も地球とか宇宙もすべて自然だし、同時に人間も自然であって、だから人間の内側、感情とか感覚とか内発的にあふれ出てくるものも自然なのかなって思っていて。

——直感や内面的なものを自然として捉えるということですね。

望月:そうですね。まだうまく言語化は出来ていないのですが……そういう考えの元、自分の活動も舵を切りたいと考えたんです。

人間ってもっと自由でいいと思うんですよ。学校生活とか社会に出ると、生産性や効率や市場価値で評価されるけど、そういうところで感性とか感覚とか、自分の中の自然が殺されてしまう。それは植物も同様で。花屋で見る商品としての花は「完璧」だけど、野山の花のような活き活きとした様子は失われてしまうんです。

——社会的な価値観で評価される前の姿こそが「自然」だと捉えているのですね。

望月:社会ができる前のまっさらだったときは、人はもっと直感的に、もっと動物的に、偶発的な物事で生きていたと思うんですよね。例えば、ネイティブアメリカンの文化には自然が一緒に生きるための世界との対話の方法が根付いているんです。自然現象の一つ一つに意味を見出して、魂が宿っているって考えたり、何世代も先の子供や祖先といつも共にある感覚や、自然に神を見てリスペクトしたり。そこに一つの答えが見える気がするんです。

そのことに気づいて、花屋さんという看板は降ろしてもいいかなと、自然に思ったんです。人と自然を繋ぐ架け橋として花屋をやってきたけれど、そうではなく、もっと人間の内面にフォーカスしていきたいと思っています。

 

直感に従うことで、次のステージが見えてくる

——7月からの旅は、どんな旅になるのでしょうか?

望月:色んな自然の在り方を探し、触れる旅になりそうな気がしています。ビザの期限が1年なのですが、時間の許す限り吸収してきたいですね。

——行き先は決まっているのですか?

望月:明確に決まっているのは、カナダのプリンスエドワード島とソルトスプリング島ですね。この2つの島は行かなければならないなと思っています。プリンスエドワード島は赤毛のアンの舞台で、ソルトスプリング島はアートとスピリチュアルの島と言われている場所。ただ、二つの島が結構離れているので、カナダ横断の旅になりそうなんです。どうやって行こうかな。実は、細かい計画も立てていないし、道中のこともあまり深く考えていないんです。直感に任せて決めようかなと思っているんですよ。

——あえて直感に身を任せようと。

望月:今回の旅、自分の直感、つまり「私の中の自然」に流されてみようという実験でもあるんです。自分の中のから出てくるサインを見逃さず、気持ちに従って旅をすることをしたいなと思っています。

ソルトスプリング島もプリンスエドワード島もリサーチして決めたわけではなく、偶然耳に入ってきた情報から直感的に決めたんです。なんとなく呼ばれているというか、自分の中で行かなければならない理由がある気がして。だから、先のことはわからないけど、まずはそこに向かうことにしたんです。

——旅の様子は、今後「flower and people」の活動として発信することも考えているのですか?

望月:実は今、この旅を応援してくださる方に向けてクラウドファンディングを行なっているんです。そこで、協力してくれたり応援してくれた人たちに対してお返ししていきたいとは考えています。自分が旅で見てきたこと、考えたことを元に本を作ろうかなと思っています。

——壮大なチャレンジですね。「flower and people」が今後どのように展開していくのか、展望をお聞かせください。

望月:花屋としての形はいったん終わりますが、「flower and people」は続いていく予定です。旅が終わった後どうなるかはまだわからないですが、きっと花屋さんやワークショップといったこれまでやってきたこととは全く別の形になると思います。手放すものは手放して、自分自分の中の自然に従う旅をやってみる。その先に次のステージが待っていると思うので、まずは流れに乗ってみよう。そんな風に思っています。

 

(写真:宮本七生)

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