The Herbal Hub to nourish our life.
からだとローカルを元気にする「薬草カレー」づくり
食養生や栄養学が、今、進化しようとしています。
体内時計を司る時計遺伝子の発見により、「何時に食べるか」で実は栄養の効力が全然違ってくるということがわかってきたのです! そうして栄養学が、新しい観点である何時に食べるかという「時間軸」が生まれて、変革期を迎えています。
「The Herbal Hub.」プロジェクトリーダー・新田理恵が主宰する「薬草大学NORM」では、1月20日に100BANCH・3Fでイベント「食養生の進化と時間栄養学」を開催しました。
今回は、その「時間栄養学」という新しい分野を日本で確立された早稲田大学理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科の柴田重信先生に基調講演をお願いし、初めての方にもわかりやすい時間栄養学の基礎をお話いただきました。そして後半は、DeNAなどで画期的な福利厚生を実施し、健康経営のフロントランナーとしてご活躍の株式会社イブキ代表取締役・平井孝幸さんにもご参加いただき、時間栄養学を一人ひとりの暮らしや社会に実装していくにはどうしていけば良いかなどをクロストークで模索しました。
イベント当日は約30名の方がお見えになり、中には栄養士さんや研究者さん、学生さんもご参加くださいました。
「何時に食べた方が良いのか」という視点は、10年以上前に私が栄養学を大学生として学んでいた時には全くありませんでした。最近になって、はじめて時間栄養学という分野が最近できたと知ったときには、脳内に電流がびりびり流れるようでした。
きっかけとなったのは、早稲田大学の教授であり、日本時間栄養学会の会長であられる柴田重信先生の本を手にとったことで、思わずメールでご連絡を差し上げ、このトークイベントにご出演いただけないかとお願いをしている自分がいました。
栄養学の未来は、食養生の進化は、ここにある。そして大きな潮流になっていくと直感したのです。
今回のイベントでは、はじめに柴田先生が基調講演を行いました。私たちの体内時計はいろんな長さのものがあり、睡眠/覚醒といった約24時間周期の概日リズム(サーカディアンリズム)や、女性の性周期などの約1ヶ月のリズム(サーカルーナリズム)などがあり、その中でも約24時間周期のサーカディアンリズムは、動植物や微生物など多くの生命体が持っており、睡眠/覚醒だけではなく、気管支喘息は明け方に起きやすい、花粉症などのアレルギー性鼻炎は午前中に起きやすいといった疾病のリズムがあります。
ですので、薬の場合は、症状が出やすい時間帯に合わせて薬効が発揮できるように計算して、何時頃に飲むかという指示があります。薬の効き目は強いので、体内時計のリズムを考慮しておかないと、時間帯によって効きすぎたり、想定より効かなかったり、体内からちゃんと分解・排泄できるかといったことも重要です。
こうした時間薬理学の考え方をクロノセラピーと呼びますが、栄養学でも同じことが起こり、何時に食べたかで効果の大きさが変わってしまいます。こうした体内時計に合わせて栄養摂取を行う「(狭義の)時間栄養学」と、体内時計を動かす栄養素についての「体内時計作用栄養学」が生まれ、その両方を合わせて(広義の)時間栄養学という分野が生まれました。
今回が「薬草大学」のイベントであることを踏まえて、柴田先生が体内時計を動かす漢方ハーブのお話もしてくださいました。柴田先生の研究室では、体内時計を動かす生薬(漢方薬の素材となる動植物などの自然由来の物質)を探るため、35種類の生薬の抽出物から時計遺伝子の発現の影響を観察し、体内時計を前進させる(朝型化する)生薬を発見しておられます。また、シークワサーに含まれるノビレチンも時差ボケを軽減させる作用があることも突き止められました。こうした研究から、体内時計のリズムを整えるサポートができる薬用成分・栄養成分の活用も可能となります。
その他、カテキンの血糖値抑制作用は夕方が効果的であるといったような、何時に摂った方が消化吸収、活用しやすいかといったお話もあり、すでにある食品も最大効果を発揮できる食べ方があるということも教えていただきました。
さらに、ヒトの朝型/夜型は性格も異なり、朝型は勤勉性が高く、夜型は開放性が高い傾向や、夜型の人はBMIが高く(肥満傾向)、心血管障害や糖尿病、精神疾患などの疾患リスクも上がることなどの研究をご紹介いただきました。
これらの研究から、特に都心部で体内時計が乱れ、自律神経システムが壊れかかるような生活をしている人々や、疾患リスクの高い夜勤をせざるを得ない人々の助けとなるような食養生につなげることができます。一日中明るく活動ができてしまう現代ですが、より適切な暮らしと仕事のリズムを今一度見直す時期がやってきています。
睡眠や食事という基礎的な生活に関わるが故に、良くも悪くも日々の積み重ねになることもありますが、手軽に始められることもたくさんあるためどう実行し続けるか、どう社会実装をしていくかが鍵になるので、次のクロストークで展開します。
続いて、クロストークのトークゲストには健康経営のフロントランナーである株式会社イブキの代表取締役である平井孝幸さんをお招きし、働き方や社会にもどうやって時間栄養学を導入していけば良いかなどについてお話しました。
健康経営に長く携わられて平井さんからは、コロナによる健康感の変化(健康になった人と、不健康になった人がおり、二極化している)や、新しく会社が取り組み始めている健やかなワークスタイルについていくつか事例を教えてくださいました。
体内時計や時間の管理は個々人では管理しきれない部分があり、得意な人もいれば、苦手な人もいる。そんな中で社会の仕組みとして体内時計が整うサービスや制度は、家庭レベルで、会社や学校などの組織レベルで、街レベルでとスケールして考えることができます。
次に必要なのは、ルールなのか、モニタリングやアセスメントができるデバイスなのか、サービスなのか、プロダクトなのか…今夜広がった選択肢を吟味しながら、次の一歩を踏み出していきたいです。
また、個人的には時間栄養学は東洋医学的視点に近い感覚を感じており、ある遺伝子が増えすぎると、それを抑制する遺伝子が増え始めて全体のバランスを保ったりするなど、体内で起こっていることはスケールを大きくした自然界でも見られていることが多く、改めて私達も自然の一部であることを感じます。そして、からだのリズムは生命活動の根本であるからこそ、驚くほどありとあらゆる調子に関わっているので、睡眠・食事のタイミングや摂取方法を整えるとからだも心も快調なっていくのを体感できますので、ぜひ時間栄養学が多くの方にとっての、社会の当たり前にしていきたいです。
ぜひ、今回の学びを1つでも暮らしに取り入れていただけたら嬉しいです。
Photo by Hiroyuki Sasaki