日本の「茶」で人類の「和」を創る!茶の湯で調和の取れた社会を。
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日本の「間」の文化と向き合い、対立のない優しい世界を目指す:TeaRoom 岩本涼(株式会社TeaRoom 代表)
幼い頃に出会った茶道が、人生と社会を大きく変えていく。
GARAGE Program 13期生「TeaRoom」の岩本涼は、日本茶産業と日本文化が分断されてしまった「茶」の産業に「道」の思想と文化を用いて、対立のない優しい世界を目標に活動を続けています。
2018年に100BANCHの門戸を叩き、試行錯誤を繰り返しながら活動を進めた「TeaRoom」は、今や日本各地に拠点を置くほどの事業に成長。そこにはどんなストーリーがあったのでしょうか。
岩本にお茶との出会いや100BANCHでの取り組み、現在の状況やこれからの展望などをお聞きしました。
岩本 涼 裏千家茶道家 / 株式会社TeaRoom代表取締役CEO 1997年生まれ。幼少期より裏千家で茶道経験を積み、21歳で株式会社TeaRoomを創業。静岡県本山地域に日本茶工場を承継し、農地所有適格法人の株式会社THE CRAFT FARMを設立。循環経済を意識した生産や日本茶の製法をもとにした嗜好品の開発及び販売、茶の湯関連の事業プロデュースなど、お茶の需要創造を展開。 裏千家より茶名を拝命し、岩本宗涼(準教授)として “茶の湯の思想 × 日本茶産業”に対する独自の視点で活動。「UC Davis Global Tea Initiative」最年少登壇、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022」選出、ダボス会議グローバルシェイパーズのメンバーなど。 |
世界に出て感じた、あらゆる対立
TeaRoom 岩本涼
岩本:お茶の仕事をしていると、実家が茶道の家元だとか、お茶屋さんだとか言われるのですが、 私はそうではありません。9歳の時にテレビで見た茶人の姿に憧れて裏千家に入門し、そこからお茶の人生を歩みましたので、バックグラウンドはお茶とは関係ありませんでした。
岩本は大学在学中にアメリカに留学。そこにもお茶の先生がいたと話します。
岩本:裏千家にはUIA(裏千家インターナショナルアソシエーション)という巨大な国際組織があり、世界中に多くの支部があります。 私の留学先のコロラド州・ボルダーにも裏千家の支部があり、その茶室に通って毎日のように茶会を開催していました。
岩本:そこで現地の人たちとお茶を介して一つになる経験を重ねる一方で、この世界では人種や宗教、国や肌の色、いろいろなイデオロギーで対立があることをすごく感じました。留学を終えると、アメリカからは大西洋回りで、南米、ヨーロッパ、中東というルートを旅しながら日本に帰ったのですが、どこの地域でも対立や紛争、分断が起きていました。だからこそ、お茶を通じてみんなが同じ空間に楽しくいられる時間がすごく理想的に見えたんです。それで留学後は「世界中の分断や対立をお茶の力でなくしていきたい」という思いで「TeaRoom」という会社を立ち上げました。
岩本:世の中にはいろいろな対立があり、そこには「地方と都市」という対立もあれば「孤立と団らん」みたいな対立、「文化と産業」という対立もあります。そういったいろいろな対立をお茶を介して解消していきたい。例えば、完全に都市化した生活になってしまうと「団らん」が消え、孤独でメンタルが病んでしまう状況に陥ってしまうけど、マンションに住む方々が横で繋がり、拡張家族のような新しい家族の形ができてくると必ず人流が発生する。そうやって社会から対立をなくしていくと、世の中がもっともっと人間らしい生活に戻っていって、その結果、お茶がもっと売れるようになるのではないかという仮説のもと、様々な対立をなくしていくソリューションを提供しています。
100BANCHはみんなが帰って来られる実家のような存在
岩本:100BANCHには2018年8月に入居し、「茶室という概念を社会にインストールすることで社会から対立をなくそう」というテーマで活動をしていました。 会社名にもなった「TeaRoom」は、モノとしての「Tea」(お茶)と文化や空間としての「Room」を融合して社会に浸透させることを目指すプロジェクトです。今でこそ禅やマインドフルネスが盛んになりましたが、当時は、インストールという単語や茶室という概念に対して「何を言ってるんだ」と理解されづらくメディアにも取り上げてもらえなかったのですが、100BANCHだけは温かく迎え入れてくれました。
岩本:100BANCHには起業直後でオフィスがないメンバーもたくさんいたので、みんなで励まし合う実家のような場所でもあったし、人との出会いの場所でもありました。当時100BANCHでPS(プロジェクトスタッフ)をしていたメンバーが今は文化事業部にて、事業を支えてくれています。
岩本:100BANCHでは「Chaspo」というオフィス向けの茶室をDIYで作っていました。茶室とはどういう空間なんだろうと考えた時、一人で内省できるトイレの個室のような場所なのではないかという意見が出て実験的に作ってみました。本当に何もわからない中で茶室のようなしつらえを作って木材を組み合わせ、それを上から吊るしました。100BANCHの入居中は「Chaspo」を他のプロジェクトのメンバーに体験してもらったり、お香を焚いてお茶を飲んだりというコミュニケーションもやっていました。
岩本:Chaspoを作ったその1年半後くらいに、オフィス向けの茶室を作るという依頼がありました。 その1年前くらいに「茶室をコンセプトとしてサウナを作ろう」という話があり、クライアントから「茶室を作ったことあるんですか?」と聞かれた時に「オフィス向けの茶室も色々とやっています」と言うことができて、受注できた案件がありました。そのとき、コンセプトを具現化して一つでも作っておくと、いつか機会が来た時にその経験を活かして作れるようになるんだと実感しています。
地に根付いた活動で民意を得ていく
「今、一般的にはお茶ってすごく盛り上がってるように見える」と言う岩本。しかし、その裏側で起こっているものは華やかなことだけではないと語ります。
岩本:例えば海外で抹茶がブームになっていたり、マインドフルネスや禅という言葉と共にお茶が広まっていたりと、お茶に興味を持つ人が増える要因がさまざまにあるものの、実は、お茶の生産者の平均年収は90万円といわれる業界なんです。「その年収で誰がお茶作りをするんだ」って状態ですよね。農業従事者の平均年齢が68歳という状況で、茶農家数も減少し、耕作放棄地も増加。一方、消費者はペットボトルのお茶しか手に取らないのでお茶の単価は下がってしまっています。その一方で日本には眠っている「文化」という利点があるので、私たちは日本の古き良きお茶の文化を使って、お茶の単価を上げていくということにも取り組んでいます。
100BANCHのGARAGE Programを卒業後、岩本は「どうやって経営を進めていいのか分からなかった」と当時を振り返ります。
岩本:100BANCHを卒業した直後、学生起業で経営もどうやっていいのかわからなかったのですが、とりあえず一番苦しいところから始めたらみなさんが納得してくれるのではないかと思い、まずは平均年収が90万円といわれる業界の農業部門に力を入れました。社会にお茶の価値を浸透させたいのであれば、絶対に民意を得られるような経営をしなければいけない。例えば「東京でAからBにお茶を卸しているスタートアップ・ベンチャー」と「静岡や鹿児島で地に根差した活動をしながら土に触れて耕している若者たち」という情報だと、明らかに後者の方が民意を得られる。一生懸命に土を触って地元の方々とコミュニケーションをして社会を変えていこうという方が自分たちのスタイルに合っていると考えました。
そんなとき、静岡市の安倍川沿いに、区画整備により経営破綻したお茶の工場の存在を知り、当時、私たちのようなお茶のベンチャーは他にいなかったことなど、いろいろなご縁でその工場を承継することになりました。数名の創業メンバーのうちの一人が静岡に移住し、現地に農業法人を作って代表となり、現地のおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に地元のお茶作りをもう1回再生させるような、地に根付いた大切なものを残していく活動を推進しています。
モノ・思想の普及で人々の行動変容を起こしていく
「TeaRoom」は「世界から対立をなくす」ことをテーマに、「製造・卸事業部」「共創事業部」「文化事業部」と3つの事業を展開しています。
岩本:「製造・卸事業部」は、人はモノを持つことで対立をなくす思想を知ることができるという考えのもと進めています。例えば高価な急須を買うと、自分の佇まいが変わっていき、良い急須を買ったのだからと、友だちにお茶を淹れてあげようと習慣が変わってきます。そういった意味でモノを持つことで、価値観が変わってくると言えます。一方で、思想から共有していく形もあり、それは例えば、茶会を体験をするとかお茶のお稽古をするといったことになります。お稽古はモノを消費してるわけではなく思想を学んでいるわけなので、思想から人々の心は変わっていきます。そして現在活躍されている方々と一緒に文化を推進していく「文化事業部」や、大手企業を中心としてソリューションの提供をする「共創事業部」があります。
続けて「人はなかなか能動的に学ばないという点はある種で諦めた方がいい真実だと思っているので、だからこそ毎日受動的に生きていたとしてもその思想を感じられるような社会に作り変えたい」と岩本は話します。
岩本:例えば電車やバスに乗る導線の中に対立をなくすことを気づかせてくれる構造が社会に付与されていれば、人々の行動を自然に変えることになる。ヨーロッパでは普通に暮らしていても自然にアートに触れているような感覚になると言われますが、それと同じように、 社会側が人々のライフスタイルの接点を変えていくことによって、それが達成されることもあると思っています。
そこで手段としてのモノを浸透させるために農業法人を設置したり、思想を共有する場所として、東京、京都、金沢の三拠点で茶室の運営をしています。金沢では茶寮を発端として、茶事を使ったまちづくりも進めています。
岩本:最近は金銭的なラグジュアリーさよりも、精神的なラグジュアリーさを追い求めようという意識が高まっているのでお茶をはじめとする遊休資産の文化財を活用した観光客のパッケージも作っています。今では本当にいろんな会社と協業をさせていただき、モノを世界に普及させながら思想も普及して、最終的に対立をなくしていくというミッションのもと事業を推進しています。
岩本:現在、「TeaRoom」はメンバー数も30人弱と増えて、北参道、清澄白河、静岡、京都、金沢と、創業6年目に差し掛かるベンチャーなのになんでこんなに拠点あるんだっていう状況で固定費が増えてたいへん苦労しているのですが、いろんな地域にいろんなメンバーがいるという状態になってきました。そして、今年はアメリカにも会社を作りたいと思っています。100BANCHから世界に出ている会社はまだまだ少ないかなと思っているので、僕たちが世界に出ていった代表格として進んでいけるよう頑張りたいと思っています。
岩本の今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。
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