LEADER INTERVIEW

2022.04.22 Fri

ないものは作る。オンラインコミュニケーションのつまらなさを解消するツールを
須田隆太朗さん(Stat!)× 水野雄介さん(ライフイズテック株式会社)

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コロナ禍で市民権を得たオンライン会議。場所を選ばず誰かと繋がり、会話ができるのは便利なことですが、時にストレスを感じることもあります。参加者の表情や雰囲気をつかみづらいということもそのひとつ。ビデオをオフにしているとなおさら相手のリアクションが分かりづらく、円滑なコミュニケーションが取れないケースも少なくありません。

この課題に目を向けたのが、昨年100BANCHに入居し、「Stat!(スタット)」というプロジェクトを進めている須田隆太朗さん。相手のリアクションが生き生きと伝わるオンライン通話アプリを開発し、オンラインでのコミュニケーションを活性化することを目指しています。

現在は東京大学の4年生。海外数カ国での留学やインターン経験を持つ須田さんですが、彼が進める現在の活動に大きな影響を与えたのは、中学1年の終わりに参加した、プログラミングやデジタルアートを学ぶITプログラムキャンプでの経験。そして奇しくも、同イベントの主催者であり指導者でもあったのが、ここ100BANCHのメンターであり、ライフイズテック株式会社 代表取締役CEOの水野雄介さんです。そんな二人は昨年11月、100BANCHの「実験報告会 & メンタートーク」で共に登壇。水野さんは「自分が育成を目指しているイノベーション人材の一番良い例。こういう子を育てたくて活動している」と須田さんに太鼓判を押しました。

教師と生徒という立場から10年という時を経て再会した須田さんと水野さん。現在、世の中をより良いものにすべく邁進する起業家同士であるお二人に、お話を伺いました。

(写真:鈴木渉)

——まずはお二人の出会いから教えてください。それはいつ頃でしたか?

 

水野:2012年ですね。広尾学園(須田さんが通っていた中学校)さんとライフイズテックで、東京大学のキャンパスを借りてアプリを作る3日間のキャンプをやりました。プログラミング初心者の中高生がiPhone/Androidアプリ開発などのIT技術を学習し、作品を実際に作ってみるという、テクノロジーキャンプ型の課外授業です。

 

ライフイズテック株式会社​​ 代表取締役CEOの水野雄介さん

水野雄介さんのプロフィール

1982年、北海道生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務める。その後、株式会社ワイキューブを経て、2010年、 ライフイズテック株式会社を設立。14年に、同社がコンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる “Google RISE Awards ” に東アジアで初の授賞となるなど世界的な注目を浴びている。「日本のIT界にイチロー並みの人材を送り出す!」を目標に世界を駆け回る日々を送っている。

 

須田:最初はプログラミングよりも、グラフィックデザインとか絵を書くことに興味があって、プログラミングは難しいというイメージがあったので、デザインコースに参加しました。

 

「Stat!」のリーダー・須田隆太朗さん

須田隆太朗さんのプロフィール

1998年、東京都生まれ。東京大学工学部計数工学科卒。推薦入試の2期生として東京大学に入学。2019年、イスラエルでの長期インターンシップで得た経験と現地で出会った仲間を中心にチームを結成。MAKERS UNIVERSITY6期生。コミュニケーションにおけるオンラインとオフラインの垣根を超えることを目指しサービスを開発中。

 

——須田さんは、当時そこに参加していた大学生のメンターの方から認められたことが嬉しかったと、実験報告会で話されていましたね。

 

須田:それまで絵を書いたことがなかった僕に美大生の方がアドバイスくれて、その通りにやると「おお!確かに上達したぞ」と思えたことが嬉しかったです。当時、家族以外で自分よりひと世代上の人と話す機会もなかったし、色々新鮮で楽しかったですね。キャンプの後、プログラミングをやっている人を集めての強化合宿にも参加したんですが、そこでプログラミングに情熱を注ぐ同級生に出会えたことも印象に残っています。僕からしたら何がどう動いているのかさっぱり分からないもの、それを操っている彼の姿がまるでマジシャンみたいで驚きました。それがプログラミングに興味を持つきっかけとなりました。

 

——須田さんはキャンプを通してその後の人生に変化がありましたか?

 

須田:たくさんありました! 特に「なかったら作ればいいじゃん」っていうマインドセットの部分は大きくて、今でも僕の根幹にその言葉があります。

 

水野:すばらしいですね。ライフイズテックは「Why Don’t You Change the World ?」というスローガンを掲げています。「文句ばっかり言ってるんじゃなくて、世の中に変えたいことがあるなら自分で変えて誰かを幸せにしようぜ」といつも話しているので、そのメッセージが伝わっているのは嬉しい。須田くんは確か、中3までライフイズテックのキャンプに来てくれていたよね?

 

須田:グーグルのウェブデザインコースには高校1年まで参加していました。でも、高校では生徒会に入ったり復興支援の活動をしていたり、どちらかというとプログラミング以外の活動に注力していました。

 

——現在、須田さんは大学生ですが、大学ではどういう研究をしているんですか。

 

須田:今はホログラフィーの研究をしています。スターウォーズの中でレイア姫が出てくるような、何もないところに物体を描くという光を使った研究。プログラミングをする過程もありますし、物理的な実験もしています。

——水野さんは須田さんが開発を進める、相手のリアクションが伝わるオンライン通話アプリについて、どういう印象を受けましたか?

 

水野:須田くん、改めて詳しくプロジェクト内容を教えてくれる?

 

須田:はい。僕たちは、今喋っている時にするような“うなずき”を、動画に頼らず伝える通話ツールを開発しています。画面オフで本人の顔が分からない時でも、アバターが目の動きで察知してうなづきを伝えてくれるんです。

 

うなづきを「good」の絵文字で伝えてくれるビデオチャット

 

うなづく度に「good」の絵文字が表示される

 

水野:アバター化するソフトってこと? そういうサービスは結構ありそうだけど。

 

須田:スナップカメラの顔にかぶせるタイプのアバターはいっぱいあるんですけど、自分の顔にかぶせるのに抵抗を感じる人が一定数いて。機能面は極限まで切り詰めて、うなづきだけに特化したらどんな風に会話が変わるかという実験をしています。

 

水野:そのニーズの背景はあるの?

 

須田:東大の場合、オンライン授業の時は基本画面オフなんですよ。先生が投げかけたことが虚空に向かっているような状態です。

 

水野:なんで画面オフなの?

 

須田:帯域(電波や電気信号の周波数の範囲)を制限するためですね。東大では「帯域は有効資源なのでなるべく無駄を省きましょう」とお達しが出ているようで、基本画面オフなんです。オフだと教授たちも喋っていてキツいだろうし、いざ自分がグループ発表でディスカッションしていてもキツイ。せめてうなづきくらいは欲しいなって。例え画面オンにしていても、対面で話すよりギクシャクしてしまうことは多いし、オフの方が気楽ではあると思うんですよ。僕らもプロダクトの細かい部分を詰めるようなミーティングの場合は、画面オンだとギクシャクするからオフにしようって自然となりました。オフだとケンカになりにくいんです。リアクションが分からないのでギクシャクするまでに至らないっていう。

 

水野:それって良いことなの?

 

須田:困ります(笑)。本音が出てこないので。

 

水野:そうだよね。

 

——ちなみに、このアプリ開発はどんなきっかけでスタートしたんでしょうか?

 

須田:コロナがきっかけでした。学校がオンライン授業になったり、友達ともオンラインでしか話せなかったりして、すごくつまんないと感じたことに端を発しています。もっと遡ると、高校の時に震災地の子供達を応援する活動をしていた頃のこと。被災地に足を運んで自分の考え方が変わったんです。「なぜ、復興のことや震災を身近に感じられないのか?」って東京の人に聞くと、ほとんどの人が「離れた人たちがどんな生活をしているか知らないから」と答えるし、僕自身もそうでした。そんな中で「遠くにいる人とどういう風に関係性を作れるか」というのが、その時に自分の中で芽生えた疑問。そうして、コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションを取るようになって、その問いが浮上してきたんです。

 

 

——その思いを胸に、100BANCHに入居したきっかけは何だったんでしょうか。

 

須田:チームの中に100BANCHのオープニングイベントに参加したメンバーがいて、ここを教えてくれたんです。ちょうど意見をまとめてくれるような第三者が必要になってきた頃でした。それを提供してくれる、僕らと相性の良さそうな場所がないかと探している中で100BANCHが候補に上がったんです。

 

——水野さんがメンターにいることはご存じでしたか?

 

須田:はい。サイトに載っているメンター一覧で、お名前を発見しました。

 

——須田さんは、メンターに株式会社ロフトワーク共同創業者・代表取締役の林千晶さんを選ばれていますよね。

 

須田:水野さんじゃなくて……ってことですよね(笑)。どちらかというと僕がやろうとしているコミュニケーションツールって、テクノロジーと社会学の間の分野。MITメデイアラボみたいな観点での意見をもらえたら嬉しいと思い、林さんをメンターとして指名しました。

 

——水野さんは須田さんが応募されているのは知っていましたか?

 

水野:登壇した実験報告会で、初めて彼が参加していることに気付きました。ライフイズテックにいた時から力があると思っていた子だったので、この場にいても全く不思議じゃなかったですね。

——須田さんは100BANCHの入居中、実際にどういった活動をされていたのでしょうか。

 

須田:開発にかなり時間を割いていました。大学が夏休みの間は一気にプロトタイプを作って、そこから先は友人や関係者の方々に使用してもらって感想をヒアリングするという作業がメインでした。

 

——周りからはどんな感想がありましたか?

 

須田:うなづきなどのリアクションに関しては「楽しい」という感想が、特に同世代の間では多かったです。30代40代の方たちからは「うなづき以外のリアクションがあってもいいんじゃないか」とか、「もっとアニメーションがハデでもいい」とか、「自分の動きによってアニメーションが変わるようなエンタメ要素があってもいいんじゃないか」といったコメントがありました。

 

オンラインで乾杯できるボイスチャットも開発中

 

水野:今はサービス開発というより実験に近い?

 

須田:はい。そう思います。

 

水野:自分なりの仮説に基づいた基礎実験だよね。そういう新しいサービスを作る時には必要なもの。あとは、なにかサービス化する時は競合がすぐに真似できないものを、いかに資本力をかけずに開発するかということもすごく重要だと思います。

 

——須田さんは「オンラインよりオフラインが超越している未来がある」とも仰っていましたが、100年後のコミュニケーションをどのように想像していますか?

 

須田:リアルで会って喋るっていうのはもちろん、僕らにとって必要なことで。同じ学生寮で暮らして同じ飯を食べてきた今のチームなので、リアルに触れ合うことの大切さをすごく感じているんです。今はコロナで中々人と会えないから、オンライン上でどうコミュニケーションしていくか考えているところ。今、例えばウクライナの人とすぐ喋れるかというとそうじゃないですよね。でも100年後には、そんなハードルや境界がもっとなくなっていたらいいと思います。

 

水野:そうだよね。間違いなく場所の概念がなくなると思う。メタバースが流行っていますが、間違いなく発展する領域じゃないかな。どれほど先になるかわからないけれども、僕も教育業界ですごくやりたいことのひとつなんです。今はどうしても場所や地域で教育環境が制限されていて、自分に近しい人との出会いが多いんです。でも、、中高生にとってダイバーシティとか多様性を知ることってすごく重要。自分と人とは違うんだとか、こうゆう考え方もあってもいいんだとか、正しさがひとつの軸じゃないってことを知ることが大切で、そのためには“旅”が必要だと思うんです。30年後くらいの世界では、渋谷とシンガポールの学校を行き来して学べるような世界が実現したらいいですね。お金がある人しか留学できないということがなくなる世界は必ず来る。幸せな子ども達を育てたい僕としては、メタバースの領域にはすごく可能性を感じています。

 

 

須田:とても共感します。僕はオーストラリアにホームステイしたり、イスラエルに留学したりする機会があったんですが、現地の友達ができて自分の世界が広がりました。行かないと分からないことってやっぱりありますが、どうにかして行かなくてもわかることを増やしていきたい。会話するとか勉強するとか、一緒にお酒を飲むとかでもいいんですけど、そんなことが境界なくできるような世界にしたいですね。

——今年1月にGARAGE Programを卒業された須田さんですが、100BANCH内ではプロジェクト同士でどんな交流がありましたか?

須田:同期入居の「NOVA」プロジェクトと親交がありました。やっていることは全く違うんですけど、お互いに悩んでいることを話しあえたのが良かったです。100BANCHって、そういう違う分野の人たちと会話を交わすことで、新しい発想や気付きをもらえるんです。

 

 

——異なるジャンルの人と繋がれる場ですからね。メンターをしている水野さんから見て、100BANCHはどんな場所でしょうか。

 

水野:最近「100BANCH に応募したい」って話を聞くんですよね。一歩踏み出したい人への登竜門になっている気がします。テクノロジーに特化したアクセラレーターって割とあるんですけど、100BANCHって何のジャンルでもいいじゃないですか。マジで何でもアリ(笑)。それに、メンターの誰か一人に刺されば採択ってシステムはほとんどないんですよ。あと、100BANCHみたいなリアルな場だと、いい意味で色んな無駄話ができるでしょう。そこから多様性を知れるのがすごくいいと思う。人間性がより素敵になる、より高められる場所ですね。

 

須田:みなさんが変に価値判断をしないところが心地良いですよね。ビジネス的な観点で見ると僕のプロジェクトはまだまだですけど、それに対しては誰も何も言わない。もちろんアドバイスはもらえるし、こちらから聞けば相談にのってくれるけど、前提として、ここのメンバーがしていることは既にもう誰かに刺さっている状態じゃないですか。そうやって、それぞれが面白いことを好き勝手にやっている姿ってすごく良いですね。

 

水野:こんなところ他にないですからね。何でもやりたいことをチャレンジしていいっていう、100BANCHの運営事務局のビジョンが反映されているんじゃないでしょうか。

 

——なるほど。どんな方に100BANCH の入居をお薦めしたいですか?

 

須田:プロジェクトを始める時、最初に詰まるポイントって仲間が見つからないとか、そもそも自分のプロジェクトの問題設定がうまくできないとかで、外に情報を求めている人がたくさんいるんです。100BANCHはそんな人たちに上から教えるのではなく、解決策やスタンスを近くで聞ける場所なので、最初のステップとしてすごく良いと思います。例えば、プログラマーを探してるって相談をよくされるんですけど、「自分がエンジニアになるか、もしくはプログラミングスキルはゼロだけど、共感してくれて一緒に成長できる仲間を見つけたほうがいいんじゃないの?」って話をしていて。

今一緒にやっている中丸という仲間がいるんですけど、彼はほぼ知識ゼロから1年でアプリが作れるまでになりました。まず共感が先にあって一緒にスキルアップしていこうという前提なので、やることが変わってもついてきてくれるんです。誰かにお願いして何かを開発してもらったとして、それが終わったら関係性が崩れてしまうというのは勿体ないですよね。そういう意味で、共感できる仲間を見つけること、あるいはどうやったら共感してもらえるプロジェクトになるかを考えることはすごく大事。そんな最初の動き出しを迷っている人に100BANCH を薦めたいです。

 

水野:GARAGE Programの活動期間って基本的に3カ月間じゃないですか。その設定が良いと僕は思っていて。成功を求めないというか、そもそも3カ月で成功するものってほとんどないので、基本的には「とにかく何かに思い切りチャレンジしていい」というメッセージなんだと思います。成功しなくてもいいという価値観の中で生きられるのはすごく贅沢なことだし、逆に言うと思いっきり攻められるチャンスなんですよ。あと、仲間と集える場所があるっていうのが相当良いですよね。渋谷の喫茶店で何時間も過ごしていた頃の僕に教えてあげたい(笑)。

 

——10年前に出会った須田さんと今こうやってお話しされていて、水野さんは今どんな心境ですか?

 

水野:最高ですよね。やっぱりこういう子を育てたくてやっているので。前向きで謙虚、社会の問題を感じたら自分でやってみる。それでいて意固地にならずちゃんとチームをまとめながら、色んな人のフィードバックを得ながら……そういう子を育てたいと常々思っているんです。当時僕は27、28歳で彼は12、13歳。そんなちびっこが大人になって、社会を少しでもいい方向へ変えようとチャレンジしているわけですよ。僕らが今こういう関係性でこういう話をできているのは感慨深いし、教師冥利につきますね。

 

 

——実験報告会で、水野さんが須田さんを壇上に呼んだとき、「10年という月日が経ち、今では起業家として同じ目線に立てたことが本当にうれしい」とお話しされていましたが、須田さんはどう感じますか?

 

須田:当時と今で僕の目線から見る水野さんの印象は全然違うんです。自分が思っている以上にすごいことをしていた方なんだなと。当時はちょっと年上のお兄ちゃんって感じで、生意気に「いつ『カンブリア宮殿』出るんですか?」なんて聞いていたんですよ(笑)。当時は水野さんとか今の(ライフイズテックの)役員さんが、現場にいて1対1でたくさん時間を取ってくれていたんですよね。ありがたいことです。水野さんたちがどれだけ試行錯誤を重ねていたのかが垣間見られるようになって、リスペクト度は上がっていますね。

 

水野:自分自身の解像度が上がったってことだよね。それ自体も成長。

 

須田:僕としてはそろそろ追い抜くプランを考えないとですね。

 

水野:もちろんですよ! これからの活躍も楽しみにしています。

 

 

 

WRITER

濱安 紹子

ライター

猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。 現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。 その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。

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