• リーダーインタビュー

100年後はお気に入りの服をポケットに入れて宇宙旅行へ  To you would like to travel to the earth outside.:川口相美・石田悠

さまざまな生活用品や家電が目覚ましい進化を遂げるなか、唯一といっていいほど昔から変わらない習慣があります。それは洗濯した洋服の収納方法。洗濯して洋服を畳み、引き出しにしまって、また出して着る。その非効率な作業に目を付けたプロジェクトが今回話を聞いた「To you would like to travel to the earth outside.​​」(地球外に旅に出たいあなたへ)です。

プロジェクトメンバーの川口相美と石田悠は、私生活のフラストレーションの解消を目的として、洋服を手のひらサイズに圧縮し、水をかける事でシワも残らず元の状態に戻る技術の実現を目指しています。

7月には100BANCHの周年イベント「ナナナナ祭」の参加とクラウドファンディングの挑戦を終えた2人。これまでの活動について伺うと、ジェットコースターのようなスピード感のあるドラマが見えてきました。彼女たちの不思議な引力でファンを増やし続ける魅力に触れてきました。

人生で一番落ち込んでいた時期に浮かんだ「一生やっていくの?」という疑問

——まずはプロジェクトを始めようと思ったきっかけを教えてください。

川口:結婚をして間もなくのときに、両親が営む洋服関係の貿易会社を継ぐことになりました。新しいことが度重なった人生の転換期で、そのプレッシャーから毎日朝から晩までお酒を飲み続けるという生活に陥った時期でした。ある日、二日酔いで目覚めたとき、目の前に服が散乱している状況を見て「私はこの先の人生、あと何回服を洗濯して畳んで着てを繰り替えさなくてはいけないのか」って絶望したんです。それと同時に、服を手のひらサイズに小さくして圧縮できたら畳む必要ないよねって思いつきました。このアイデアを高校の同級生の川口さんに話して誘いました。

地球外へ旅に出たいアナタへ:川口相美さん

石田:川口さんからそれを聞いたときは、めんどくさいって感情が極論に至ってアイデアが生まれるのが彼女らしいなって思いました。私もその時期にスタイリストとして独立したばかりで、仕事柄、家に衣装が溜まっていくのが悩みだったので、その発想は実用的だし実現したら面白そうだなと思って一緒に活動することに決めました。

地球外へ旅に出たいアナタへ:石田悠

——偶然に2人そろって環境が変わる時期だったのですね。そんななかでも新しいことにチャレンジするのは意気込みを感じます。

川口:新しいことだらけだったので良く分かっていなかったんです。例えば、熱いものを触ったことのない子どもって怖がらないじゃないですか。それと似ていて、大変さを知らないからこそスタートできたと思います。

石田:要するに未熟でした。その当時は「楽しそう! ワクワクする!」という感情しかなかったですね。

——100BANCHはそのころからご存じでしたか?

川口:いいえ。100BANCHは私が参加した民間企業が主催する起業セミナーの講師に教えてもらいました。実はそのセミナーがマルチ商法の怪しい会社が実施していると参加後に判明して、うっかり被害にあいそうになる危険な経験をしました。事実を知ったときに憤慨してその民間企業に詰め寄ったら「君みたいな人は東京都が主催する創業支援センターに行ったらいい」と苦し紛れに紹介してくれて。そこで教えてもらったのが100BANCHだったんです。

——本当に被害にあわなくて良かったですね。その後、100BANCHの「GARAGE Program」へ応募したわけですね。

川口:はい。でも1度審査に落ちてるんです。最初はプロジェクトを成功させるには資金が必要だと思ったので、お金になりそうなアウトドア系のスポーツウエアを作って販売するためのチームを編成して、その事業が成功したら手のひらサイズの服を作るプロジェクトをする目論みでした。この事業内容でGARAGE Programに応募したら、後日、メンターに指名させていただいたロフトワーク代表の林千晶さんから連絡があって直接会うことになり、「アウトドアウエアが作りたいのか、洋服を手のひらサイズに変えるプロジェクトがしたいのか、本当にやりたいのはどっちなの?」と聞かれて、生まれて初めて「見透かされている」という感覚に襲われました。この人には嘘をつけないと感じて、素直に「本当にやりたいのは洋服を手のひらサイズにするプロジェクトです」と伝えたら、「じゃあ企画内容を修正して再アタックして」と言われて、次の期に再応募して採択されました。

——入居前からすでにメンタリングを受けていたんですね。

川口:そうなんです。しかもそのときに私は「ここってマルチ商法ではないですよね?」って以前のトラウマがあって質問していますからね(笑)。隣に座っていた100BANCHの事務局の方の顔がひきつっていたのを覚えています。あのときは本当に失礼しました(笑)。

石田:アウトドアウエアのチームついても林さんに「メンバーはプロジェクトの本来の志に共鳴している人なの? そうじゃないんだったら友達だろうが知り合いだろうが動けなくなるから考え直した方がいい」と言われて、解散してメンバーの再編成をしました。

 

知らないことがプロジェクトを加速させる強みに

——無事に採択され、3カ月のGARAGE Programへチャレンジすることとなりましたが、まず何から始めましたか?

石田:そもそも服がどのくらい小さくなるのかが分からなかったので、ひたすら方法や類似品がないかを調べつくしました。油圧機を購入して洋服を圧縮できるか検証してみたり、仮説を立てたりする日々で、最初の3カ月は、100BANCHの2F・GARAGEの隅っこの方でひっそりとリサーチと実験を繰り返していました。

川口:入居当初、100BANCHで活動するプロジェクトメンバーは高学歴な人が多いイメージで話しかけにくかったんですけど、交流するうちに印象が変わりました。私たちが考え込んでいると「どうしたの?」「どこで足踏みしているの?」って声をかけてくれるんです。それでホワイトボードを持って来て壁打ちが始まる。そのときに、この人たちの興味のあるのは自己主張や自己顕示欲ではなくて、いかにプロジェクトが面白くなって成功することなんだなって理解しました。その姿勢に安心したし、自分も頑張らなくっちゃという気持ちになりました。

石田:大丈夫かなって心配になるほど、みんな親切で優しいんです。あと、どんなことを相談しても否定しないのが100BANCHの人たち。他人の考えを「いいね、面白そう」って自然に受け入れてるのを見て、こんな人たちもいるんだって驚きました。

——素晴らしい出会いですね。リサーチと実験に徹した3カ月を経て入居期間を延長されて、その後プロジェクトはどう進んでいったのでしょうか?

石田:メンターの株式会社Shiftall代表取締役CEO岩佐琢磨さんに出会ってから、プロジェクトの活動が具体的に動き出しました。岩佐さんが洋服を圧縮してくれる機械や型を作ってくれそうな町工場が大田区にあると教えてくれたんです。それから2人で相談してどの工場に行くか決め打ちしました。

川口:まず町工場に電話をして、代表の方と会っていただく約束をしてもらいました。そして当日アルミ資材と型の設計図を渡し、「アルミをこの形にしてください」と依頼。そうしたら代表も突然そんなことを言われたので流石に面食らった表情になったけど、そこで私も食い下がることなく「町工場なのにこんなこともできないんですか?」とあおりを入れちゃったんです(笑)。そうしたら面白がってくれて、協力してくれることになり今は機械や型を共同開発しています。後日分かったのですが、偶然にも町工場がオリンピックのボブスレーの機具を作っている有名な会社だったんです。知らなかったことがかえっていい結果を生み出しました。

石田:知っていたらあおれないもんね(笑)。私からすると「また川口さんが変なこと言い出した~! どうすんの引き返せなくなったら!」って毎回ビクビクしてます。でも彼女の勢いのおかげで、1年半でここまでプロジェクトが進みました。

——頼もしいパートナーですね! 大田区の町工場と共同開発をしたプロダクトはどのようものなのでしょうか?

川口:初めに作ったのは洋服を圧縮するときに使用する型でした。手動の油圧機を使用し、オイルの力で10トンまで圧をかけられ、ロングTシャツだと文庫本くらいの大きさになります。圧縮によるシワは、洗濯やしわ取りスプレーですぐに取れるのと、特注の型に入れて圧縮しているので服を傷めません。圧縮できる洋服の素材については、綿100%や麻100%などの天然素材であればニット編みなどでも可能です。ただ、本体が重すぎて運びにくいので、さらに改良を続けています。

油圧機を使用して小さくなった衣類

 

試練を乗り越えて知った、弱さを見せることの大切さ

——7月に100BANCHの周年イベント「ナナナナ祭」の参加とクラウドファンディングに挑戦したと伺いました。まず、ナナナナ祭ではどのような展示をしたのか教えてください。

川口:私たちが参加したのは7月の名古屋キャラバンで、「輪廻転生」がテーマでした。新しい洋服の形の提案をするため、「旅行にもうキャリーケースは要らない」をキャッチコピーに洋服を圧縮するデモンストレーションをして。来場者が持ち寄ってくれた服や、私たちが用意した服や生地を来場者自身に圧縮してもらい、体験していただきました。

ナナナナ祭の様子

石田:一般来場者の方々は「服が小さくなるのってすごくいいね」というポジティブな意見と、「圧縮してあとのシワってどうなるの?」など使用感の懸念点についての質問が多かったです。また、企業の方々は飲食店の制服メーカーが利用すれば運送料が削減できるという声や、NPO団体の方には途上国に洋服を送る際に利用してみたいなどのビジネス的な目線の声をたくさんいただきました。

川口:私たちはそれまではBtoCでプロダクトを考えていたのですが、ナナナナ祭の反応を受けてBtoBの方がニーズがあると気づき、アタック方法を変えました。宿泊施設で使うリネン類を圧縮して運送すればかなりラクになるのではと考え、宿泊施設や運送会社に営業をし、実際に実証実験してくれる施設が3か所見つかっています。

——イベントで色んな方の意見に触れた結果、プロダクトのニーズの方向性を見出したのは素晴らしい発見ですね。続いてクラウドファンディングの内容について教えてください。

川口:今回のクラウドファンディングでは、洋服を圧縮する技術を実際に体験してもらう機会を設けることが目的でした。リターンも圧縮されたTシャツを送り、手に取って「小さい服って便利でいいかも!」って共感してもらうのが狙いで。服が小さくなると、畳む作業がなくなるのも当然なのですが、旅行にキャリーケースが必要なくなったり、本棚に立てかけて収納できるようになったりといいことがたくさんあるんです。それを分かち合いたかった。

To you would like to travel to the earth outside.ブランドムービー

石田:だからクラウドファンディングのページでは、私たちは新しい洋服ブランドを作りたいわけでも、ただ服を販売したいわけでもなくて、洋服に対してのイライラを手のひらサイズになることによって解決できるよ、というメッセージを込めました。さまざまな方々の支援で無事に目標額に達成できて本当にうれしかったです! ナナナナ祭で出会った人たちもクラウドファンディングを支援してくれて、思ってもいない出来事ですごく感動しました。今までの自分は誰かに頼ったり、相談したりするタイプではなかったのですが、プロジェクトを進めていくうちに「困っているときは正直に困っているので助けてほしいって言えばいいんだ」と学びました。そうすれば仲間が増えるし、相手が困っているときは手を差し伸べられる。その関係性が大切だとクラウドファンディングを通して身に染みて実感しましたね。世の中の会社やプロジェクトは、一人一人の絆を大切にしていって大きくなっていくのだとわかりました。

——確かにクラウドファンディングに挑戦するとより周りの人たちの存在の大きさに気づかされそうですね。ナナナナ祭とクラウドファンディングの時期が被って、準備は大変ではなかったですか?

川口:もちろん色んな準備ですごく忙しかったんですけど、突然違うことがしたくなってバイトをしようと思ったんです。

―—平日も昼間働いていらっしゃいますよね⁉ なんでまたそんなことを。

川口:常に頭がワーってフル回転していたから全然違うことをしてクールダウンしたいなって思ったんです。マーケティング会社のアシスタントに応募したら、最終面接まで進みました。会社の代表と部長と採用担当との3対1の面接で自分のプロジェクト活動について話すと、「うちの会社にバイトで来てもらうより、僕があなたのプロジェクトに出資するよ」と言われて、まさかの投資家に出会っちゃったんです。

石田:話を聞いたときは「そんな作り話しみたいなことあるの?」って半信半疑でした(笑)。

川口:私も信じ切ってはなかったので、ナナナナ祭の空き時間に他のプロジェクトの方々に話をして助言をしてもらいました。色んな人の意見を聞いて、どうやら詐欺ではないって判断して(笑)、支援をお願いしました。自分の引きの強さを感じた出会いでしたね。

 

課題解決がモチベーション。未来の宇宙旅行者に向けてロマンを提案

——2人の話を伺うと常にエネルギーにあふれていて向上心を感じます。そうやってモチベーションを持続させる秘訣はあるのでしょうか?

川口:ここまで来れたのは、自分が単純で無知で素直だからだと自負しています。そのおかげで、100BANCHで出会った人たちやプロジェクト活動に惚れ込めました。初めて100BANCHに来たときに他のプロジェクトメンバーから、ホワイトボードを使って考えを整理する方法やアイデア出しのやり方を教えてもらって、それを実際に自分たちでやってみようというのが最初のモチベーションでした。そしてやってみた結果、私たちが何をしたいのかを人前で話せるようになり、応援してくれるメンターが増えたんです。そうするとそのメンターの人たちからのアドバイスを実現するためにまた頑張ろうって意欲が湧いてくる。そうやって常に降ってくる課題を解決することが私たちのモチベーションになっています。逆を言うと、私が初めに抱いたビジョンにずっと固執していたら、絶対に今日まで続いてないと思っています。

——なるほど。常に課題に真剣に向きっているからこそ辿り着いた考えなんですね。これまで猛スピードで活動を広げてきたプロジェクトの、今の課題と今後の目標を教えてください。

川口:まだまだ圧縮機が大きくて重いから持ち運べないので、ゆくゆくはコーヒーメーカーくらいの大きさにして、運送業者や旅館にリースという形でサービス展開できるように開発を進めています。そのために現在は積極的にニーズ調査を行っていて、ホテルや運送会社に訪れて機械がどのくらいの大きさだったら使いたいのか、このプロダクトが企業が抱える課題を解決できるのかをヒアリングしています。

石田: 圧縮した洋服のサイズについては現在、どれくらいまで圧縮をかけられるのか実験段階です。今は夏物のTシャツが手のひらサイズ、ロングTシャツなら文庫本サイズまで圧縮できるとわかりました。でも理想は消しゴムくらいの大きさなんです。最終的な目標は服を開いたときにシワもなく着用できることなので、将来洗濯機にその機能がついていればうれしいですね。プロジェクトを立ち上げたとき、100年後の世界は自由に宇宙に行けるようになっているよねって話になったんです。でもそんな文明が発展した未来で今と変わらず服を畳んでパッキングしてるなんてロマンがない。自分のお気に入りの洋服や布団を身軽に持って宇宙旅行してもらいたいんです。私たちのプロジェクトはそんな100年後の人たちに向けてのプレゼンテーションだと思っています。

川口:そうそう。ただ極論だけど、「私たちが一番手のひらサイズの服を作りたいよね」って思っているのと同じくらい「こんなのできっこないよね」と思っているんです。だから「本当にこれは必要としてるの?」っていう視点は忘れずに、今後も活動していきたいですね。

 

(取材撮影:小野瑞希)​​

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