逆境が未来へのステップに(VOL.4)
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逆境が未来へのステップに(VOL.4) 移住希望者の心に寄り添うアプローチが地方と都心の格差を縮める attender:宮城 浩

新型コロナウイルスの影響で、これまで築き上げた社会システムに大きな変化が求められる今、さまざまな仕組みやサービス、人との関係が見直されています。

100BANCHで活動するGARAGE Programのプロジェクトメンバーにおいても、この状況がプロジェクトのあり方や方向性を見つめ直す機会となり、視点を変化させながら、自分たちが目指す未来に向かって日々活動を続けています。

“いま”それぞれのリーダーは何を感じ、未来をどう見ているのか。今回、100BANCH編集部はGARAGE Programで活動するプロジェクトのリーダーに取材を実施。

VOL.4は、地方格差をなくす「観光案内人」という新たな働き方を創りだすプロジェクトの活動を経て、現在は「移住」にフォーカスして、移住の希望者と経験者をオンラインで引き合わせるサービス「flato」を展開する「attender」のプロジェクトリーダー・宮城 浩にお話を伺いました。

コロナ禍の環境が活動を振り返るきっかけとなり、プロジェクトに新たな視点をもたらしたようです。

 

拠点を東京から静岡へ 体感した地方移住の難しさ

——「attender」プロジェクトは100BANCHのGARAGE Programの入居期間中に「観光」から「移住」へとプロジェクト内容の方向転換をされていますが、これはどのような経緯があったのでしょうか?

宮城:もともと私たちは「誰もが自分の好きな場所で自分の好きな仕事をできる未来を実現するために、地方でも都心部と同じ条件で、同じだけの影響力を持った仕事を増やしていきたい」と考えプロジェクトを立ち上げました。当初は各地で暮らす現地ガイドを通してその土地の魅力を提供する観光系のサービスをつくっていましたが、メンターの楠本修二郎さんに「もっとサービスを深掘りし、地方に振るべきだ」とアドバイスをもらい、「そうかもしれない」と少しずつ思うようになりました。

たしかに観光の分野で勝負しても他のサービスと差別化ができづらいと感じていた部分がありましたし、その時に進めていた観光サービスを検証してみると、「世の中のニーズから少しズレていたのではないか」と思い至りました。もともと地域を盛り上げたいという気持ちから始まったプロジェクトでもあったので、地方移住にフォーカスを当てた、新たなサービスにシフトを切ることにしました。

イベント登壇する宮城 浩

——地方移住を軸に方針転換をしたプロジェクトは、具体的にどのような活動をしていたのでしょうか。

宮城:地方では、都市から地方へ移住を考える人が実際にその土地に一定期間暮らしてみるという「お試し移住」の取り組みが多くあります。そこで私たちは「お試し移住者を地方に集めれば、移住者は増える」という仮説のもと、お試し移住者を集めるプラットフォームを開発して、それを地方行政に提案するビジネスモデルを思いつきました。

地方には行政が管理するお試し移住物件があるので、その物件情報をはじめ、地域の魅力を集約したプラットフォームを開発することよって、お試し移住者が増え、それは実際の地方移住に繋がる。そのビジネスモデルが静岡県浜松市の実証実験として採択され、2020年2月に浜松に拠点を移し活動することになりました。

浜松市で地方移住の実証実験がスタート(左から二番目が宮城)

——急に拠点を地方に移すって、なかなか勇気がいることですよね。実際に浜松で実証実験を行い、どのような視点が生まれましたか。

宮城:浜松に行ったはいいものの、浜松市が管理するお試し移住物件がすごく辺鄙(へんぴ)な場所にしかなくて、「この物件だとちょっとな……」と挫折を感じてしまいました(笑)。それでも2人のお試し移住者をもとに1カ月間のサービス検証を行いました。そこで感じたのは「単にお試し移住をやっても移住者は増えない」ということ。それより、浜松で暮らす人がお試し移住者の考えや趣味嗜好に沿ってその土地の魅力を紹介する方が、移住を考える人にとってはより雰囲気が伝わるし、より説得力が増すだろうな、と思いました。

——なるほど。「どれだけ滞在するか」ではなく「どれだけその土地と自分がフィットできるのか」が重要だと。 

宮城:そうなんです。ただ、それに気が付いた頃に、新型コロナウイルスが発生してしまい、人の移動がどんどん制限されるようになってしまいました。2020年6月には、10名のお試し移住者を迎えて実証実験をする予定計画でしたが、お試し移住者が地方に来ても、コロナの感染予防のために隔離状態になってしまうので、全て中止になってしまったんです。

ただ、先程言った「移住は単にお試しで住むだけではなく、現地との交流が重要だ」という気付きは得られていたので、実証実験は中止になりましたが、その期間はサービス内容をブラッシュアップできるいい機会になったと思います。

 

コロナ禍で確信に至った、移住希望者への寄り添い方

——コロナ禍では、地方移住を希望する人と現地の人を繋げることは容易ではないように感じますが、このような状況でサービスの変化などありましたか?

 宮城:もちろんコロナの感染リスクがあるので、都市部から地方への移動はできにくくなりました。しかし片側では、メディアをはじめ、さまざまな業界で地方移住がどんどん注目を集めるようになっていたので、「オンラインで地方移住を希望する人と現地でハブになれるような移住経験者を繋ぐことができれば、地方移住を推進しやすくなるんじゃないか」という考えが生まれました。

地方移住の成功事例は5割以上がUターンと言われていて、結局それは地元に知り合いがいるからなんですよね。移住先に知人がいれば、「あの地域に住んだ方がいい」などアドバイスをもらえる。一方で、誰も知らない地方へ移住して失敗する人ってかなり多いんです。新しい環境の中で人間関係などの悩みがあっても相談できる人がいないとか、共通の知り合いがいないなどの理由からホームシックになり、半年後には元の場所に戻るケースも少なくない。

もともと見知らぬ環境への地方移住はハードルが高いことがわかっていたので、まずは知人をつくることから始めることがすごく重要であり、オンラインではあるけれど、移住前から現地の人と繋がることができれば移住のハードルはグンと下がるし、その場所を訪れてみたくなる。ここには可能性があるし、今私たちはそれが解決できてないなと思ったんですね。

 ——地方行政にも「移住コーディネーター」と呼ばれる人がいると思いますし、コロナ禍で行政の「オンライン移住相談」も増えていると耳にしました。そのサービスと宮城さんが目指すサービスはどう違うのでしょうか?

 宮城:行政の移住コーディネーターは、移住希望者の仕事や趣味、属性に合わせて相談に乗れる人が少ないんですよね。たとえば、デザイナーや写真家など、クリエイティブな仕事をしている移住希望者に、元々公務員をしていた移住コーディネーターが提案しても何かしっくりこなかったり、よくわからなかったりする。

一方で、移住希望者と同じ分野の仕事をやりながらその土地に移住した人であれば、「〇〇がよかったよ」とか「〇〇はちょっと厳しいかな」などメリットもデメリットも含めた共通の話ができる。そうやって多種多様な人が移住の相談窓口になることで、同属性のネットワークがつくられていくはずであり、そのプラットフォームを私たちが民間でつくることで地方行政にはないサービスが生まれるはずだ。そう確信しました。

——それが、地方での働き方を相談できる、ふるさと開拓相談サービス「flato(ふらっと)」に繋がったわけですね。

宮城:はい。「flato」は移住前から現地の人と繋がれることをいちばんのコンセプトに、地方で働く上で参考となるリアルな情報を経験者から聞いたり、自分の地方生活の経験談を誰かに話したりして、さまざまな経験談をもとに、地方移住希望者に向けて“新しいふるさとの開拓”をサポートするサービスです。

これまでの活動を通して、「自分も移住経験者だから気軽に相談してね」と回答をしてくれる人は意外と多いことがわかったので、移住希望者がその人たちと気軽に繋がることができたら、移住者は増えていくと思っています。

 

地方には都市よりも活躍できる“余白”がある

——コロナ禍で「仕事(ワーク)」と「遊び(バケーション)」を合わせた“ワーケーション”という言葉もよく耳にするようになりました。宮城さんは浜松のコワーキングスペースをメインとした企画「仕事と旅行を両立する、浜松ワーケーション体験5日間」も実施されています。これはどのような意図で企画されているのでしょうか。

仕事と旅行を両立する、浜松ワーケーション体験5日間
https://lps.flato.jp/try-workation

宮城:通常のワーケーションは宿泊施設がメインなのですが、私たちのサービスではコワーキングスペースをメインにしながら、現地でさまざまなビジネスをする人たちを紹介したり、実際に働いている人たちと交流したりすることが可能です。浜松市は実証実験やスタートアップの取り組みに積極的なので、こういったワーケーションを通したビジネスマッチングは相性がいいと感じていますし、そこでうまくマッチングできれば、結果的に地方移住者だけでなく起業家誘致にも繋がると考えています。

今は東京の特に渋谷だけで日本のスタートアップがどんどん生まれるようなエコシステムがつくられていると思うのですが、地方でも同じようなエコシステムがつくられるべきだと思っているので、私がその橋渡し役的な存在になれたらと考えています。その考えのもと今年は移住希望者支援を行う「flato」のサービスはもちろん、ワーケーションの企画にも力を入れていきたいと思っています。

 ——新型コロナウイルスのワクチンも開発され、数年後にこのウイルスは収束していくと思われますが、そうであっても地方移住は増えていくと思いますか?

 宮城:はい。さらに加速していくと思います。今よりも働き方は変化し、さらにテレワークが一般的になっていく。そうなれば地方でも東京と同じような収益をあげることができます。私は、地方は“余白”が大きいので、都市よりも活躍できる可能性が大いにあると感じているんです。

 ——余白、ですか?

 宮城:東京はあらゆる物事が密集しているので余白が少なく、優秀な人でも埋もれているような状況です。でも地方だとそこの余白がたくさんあるので目立ちやすい。たとえば多くの高層ビルが立ち並ぶ新宿に高いビルを建てても目立たないけど、浜松に同じような高いビルを建てるとめちゃくちゃ目立つ。そういうイメージですね。

だから、都市で埋もれている人にこそ、地方は活躍しやすい場所じゃないかなと思います。もともと東京一極集中に対して問題意識を持っていたので、そういう部分でも「地方っていいな」と思う人を、私たちが増やしていきたいですね。

 

illustration:Risa Niwano

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