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逆境が未来へのステップに(VOL.2) オンライン教育の促進と在宅時間の増加で見つけた新たなチャンス Now Aquaponics!:邦高柚樹

新型コロナウイルスの影響で、これまで築き上げた社会システムに大きな変化が求められる今、さまざまな仕組みやサービス、人との関係が見直されています。

100BANCHで活動するGARAGE Programのプロジェクトメンバーにおいても、この状況がプロジェクトのあり方や方向性を見つめ直す機会となり、視点を変化させながら、自分たちが目指す未来に向かって日々活動を続けています。

“いま”それぞれのリーダーは何を感じ、未来をどう見ているのか。今回、100BANCH編集部はGARAGE Programで活動する3プロジェクトのリーダーに取材を実施。

VOL.2では、水産養殖と水耕栽培をかけあわせ、魚と植物を同じ環境で育てる循環型有機農法「アクアポニックス」を体現した装置を使って、生態系からコミュニティや未来のあり方を提案する「Now Aquaponics!」プロジェクトのリーダー・邦高柚樹さんにお話を伺いました。

この状況に翻弄されつつも得られたヒントが、プロジェクトの背中を押す大きなきっかけとなったようです。

外出自粛がヒントに オンライン環境が継続的な教育に繋がる

——「Now Aquaponics!」プロジェクトは100BANCHの第一期GARAGE Programメンバーとして2017年7月から活動をスタートされていますが、そこから約3年経ち、現在はどのような活動をされていますか?

邦高:最近は主に、子どもたちに向けた教育を軸に活動を進めていました。アクアポニックスは生きものを扱う生物の領域や、流水量を計算するなど数学の領域、他にも物理や工学、そして組み合わせの表現ではアートの領域まで、さまざまな要素が交わり、それが一目で楽しめるように表現されています。

その横断的な要素を、いわゆるSTEAM(スティーム)教育を推進するひとつの選択肢と捉え、子どもたちに生きものが関わり合いながら成立する原理や原則、そこから広がる生態系を伝えていきたいと考えていました。

100BANCHに展示していたアクアポニックス・キットの初期プロトタイプ

 邦高:ただ、「アクアポニックス」という言葉だけではなかなかイメージが付きにくく、いろんな要素が組み合わさっているため、子どもたちがわかりづらい部分がありました。そのため、学校や塾などの教育機関でワークショップを開催していたのですが、2月くらいから新型コロナの影響によって、子どもたちに直接伝えることができなくなってしまって……。

——確かに、それくらいの時期から対面でのコミュニケーションは制限されるようになりましたからね。

 邦高:しばらくプロジェクトの活動は難しいかなと感じていた矢先、3月末くらいから予想外に反響があったんです。小さいお子さんを持つ親御さんから「学校に行けない子どもが自宅で学べるように、アクアポニックスのキットがほしい」という声も多くもらいました。ワークショップはできないけど、各家庭にアクアポニックスのホームキットを届けて、オンラインで子どもたちからいつでも質問をもらえるような仕組みを作れば、継続的に生態系を学べる環境をサポートできるんじゃないかと気が付きました。 

以前は、なんとなくオンラインツールを使って学びを提供することに抵抗があったけど、新型コロナの登場によってオンラインツールを使った教育がベターな雰囲気や環境になってきたこともあり、その環境を積極的に、かつ効果的に使うべきではないか。それがアクアポニックスに興味を持つ人口を増やせる可能性になるのではないか、といった意識をもたらしてくれました。

以前開催したアクアポニックス・ワークショップの様子

——新型コロナの影響によって、新たな可能性が広がったわけですね。

邦高:そうですね。新型コロナの状況にもよりますが、またオフラインでイベントができるようになれば、また全国各地でワークショップを開催したいですし、今回の経験で得られたオンラインで提供する学びにもチャレンジしたいですね。今後はオンラインとオフラインのバランスを取りながらやっていければと思っています。

 

在宅時間の増加で求められる癒しと、高まる観賞用ツールの需要

——ウィズコロナ、アフターコロナと呼ばれる時代、アクアポニックスは社会にどんな役割や効果をもたらすと思いますか?

邦高:この感染症が、これから落ち着くのか落ち着かないのか、また、どういう人の動きになるかなど予測ができないところではあります。しかし、確実に言えることは、今までよりも自宅で過ごす時間が多くなるのではないでしょうか。

新型コロナの影響で外出自粛で急に在宅勤務になった人たちから、「ほとんどの時間をパソコンの画面と向き合いほとほと疲れてしまった。家にずっといるから植物とか動物とか、とにかく自然が恋しいからアクアポニックスの装置のようなものがほしい」という声をもらいました。 

家で植物を育てたり生きものを飼ったりすることは、視覚的に癒しをもたらし人間に安心感を与えると科学的に証明されているので、こういう需要もあるんだな、と驚きました。

——確かに、外出自粛が要請されてから、ネコをはじめペットを飼う家庭が増えたというニュースも話題になりましたからね。

だからこそ、この状況でいろんな人が欲しているような、自宅にいながら“自然を愛でる”ことの重要性がますます高まると思います。生活圏内に植物や動物が存在するだけで、「こいつは何を考えているだろう」とか「なんか平和だな」と一息着くことができて生活に適度な余白が生まれる。そんな生活にゆとりをもたらす効果のひとつをアクアポニックスが担えると考えています。

「OKTOBERFEST -100BANCH秋の芸術祭-」で展示したアクアポニックス・キット

——生活に寄り添ったアプローチがこれから増えそうですね。

そのためにも、アクアポニックスのホームキットの開発がとても重要になると感じています。実は、昨年から教育のアプローチも視野に入れて、ホームキットを作るかどうかを迷っていたんです。でも、労力も資金もすごくかるじゃないですか。そんな「でも、いつかは…」と思っていたところに、いきなりこの状況がやってきたので、急に背中を押されたようなタイミングになりました。

ただ、僕だけの知識や技術だけではホームキットの実現は難しく、例えば「ここを作ってほしい」というテクニカルな部分があるので、そこを100BANCHで活動するテック系のプロジェクトや、100BANCHを支援していただいているパナソニックの方々にも相談させていただきながら、なんとか開発を実現したいですね。3月に発表された、100BANCHがプロデュースする第1号商品「RGB_Light」に続く商品化を密かに狙っています(笑)。

——第2号の商品化となった際には、ぜひまた取材をさせてください。邦高さんは新型コロナで受けた逆境を糧に、しなやかに前進するエネルギーを感じますが、その源には何があるのでしょうか?

邦高:兵庫県出身の私は、幼い頃に阪神淡路大震災で被災しました。その経験から、新型コロナも含め、人々の困難は起こるべくして起こった変化と考えるようになりました。何かの災害が起こると、もちろんショックではあるけど、起こってしまったものは元には戻せないから、そのあとが大切。そんな教訓が人生の中で備わったような気がします。

新型コロナも避けられない有事だと考えるのであれば、この困難を受けて私たちはこれからどう生きていくのかと考えをシフトさせた方がいい。そして、変化の中で必要とされるプロダクトやサービスを生み出していきたい。そんな姿勢でこれからも目標に向かい人生を歩んでいきたいと思います。

 

illustration:Risa Niwano

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