LEADER INTERVIEW

2020.05.01 Fri

複雑な味覚に向き合い、「お茶」のパーソナライゼーションでより豊かな未来を:Personalized tea experience with Teplo 河野辺和典さん・Mayuresh Soniさん

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ずっと室内にこもっていると、なんだかめいってしまいますね。ちょっと一息入れましょうか。ところで、あなたはコーヒー派ですか? 紅茶派ですか? それとも緑茶派?

そんな、ごくありふれたティーブレイクを、グッと未来に近づけるようなプロダクトを開発したのが、「Personalized tea experience with teplo」プロジェクトを主宰した株式会社LOAD&ROAD CEOの河野辺和典(かわのべ・かずのり)さんとCTOのMayuresh Soni(まゆれしゅ・そに)さんです。

 

LOAD&ROADが開発したスマートティーポット「teplo」は、ユーザーの好みや体調、周辺環境に合わせてお茶の抽出時間や温度を変化させ、「その人に合ったお茶」を淹れることができます。つまり、「お茶のパーソナライゼーション」を実現しているのです。

そもそもなぜ、ふたりは「お茶」に着目し、事業に取り組むこととなったのか。また「美味しさ」という曖昧な感覚を、いかにパーソナライズしているのでしょうか。さまざまな葛藤や困難を乗り越え、ふたりが実現したい未来とは? インタビューは、河野辺さんとSoniさんがそれぞれ拠点とする、東京とインドのプネをつないで行なわれました。

ー左からCEOの河野辺和典さんとCTOのMayuresh Soniさん

 

日本とインドの時差は、3時間半。AM11時を回った東京からインドにいるSoniさんに呼びかけると、早朝にもかかわらずほがらかな声が聞こえてきました。母国の異なるふたりがなぜ、共同創業者としてスタートアップを起業することになったのか。そのきっかけはアメリカにありました。

 

ふたりは、ボストン郊外に位置するバブソン大学※のMBAプログラムへ留学し、クラスメイトとして知り合います。
Soniさんはインドのスタートアップ企業でソフトウェアエンジニアとして働き、その後起業の経験を積みたいと考え、起業家教育の名門として知られるバブソン大学に留学しました。
一方、ハードウェアエンジニアとして日本企業で働いていた河野辺さんは、MBA取得を機にキャリアチェンジを考えていました。「業種を変えるか起業するか迷っていたのですが、まずは在学中に起業に挑戦してみよう、と」

 

ソフトウェアとハードウェア、お互いのスキルを補完し合えば、何かができるかもしれないと考えた彼らは、2015年に起業。他のチームメンバーとともにプロダクトを開発し、クラウドファンディングでの資金調達を目論見ました。どんなプロダクトにするのか、ディスカッションやリサーチを重ねるなかで注目したのが、ふたりの母国、日本とインドにゆかりのある「お茶」でした。

※バブソン大学…米国マサチューセッツ州ウェルズリー市にあるアメリカ合衆国の私立大学。米誌「US News & World Report」世界大学院ランキングのアントレプレナーシップ部門で27年連続1位。

 


ーバブソン大学時代の河野辺さん(上)とSoniさん(下)

 

「ボストンはとても寒くて、よくコーヒーを飲んでいたのですが、胃の調子が悪くなってしまって。それでお茶を飲みはじめたんです。できれば美味しいものを……と探してみると、アメリカでは茶葉があまり売られていなかった。最近の健康志向もあって、市場としては毎年10%ほど伸長しているのに、まだビッグプレイヤーは登場しておらず、成長過程にある。スタートアップにも可能性のある市場なのではないかと考えました」(河野辺さん)

 

Soniさんにとっても、お茶は馴染みのあるものだったと言います。「家族がよくお茶を飲んでいましたし、朝、昼、晩に飲んだり、カフェに行ったり、インドの文化としても根づいている。チャイがもっともよく飲まれていますが、最近のトレンドではストレートで飲むことを『ウエスタンスタイル』と言って、緑茶も飲まれるようになってきました。リラックスしたり、気持ちを切り替えたりするために飲むんです」

 

開発を目指したのは「温度センサーとバッテリー、ヒーターを内蔵したIoTボトル」。紅茶、緑茶などお茶の種類を選び、アプリケーションと同期したボトルに水を入れると、お茶に応じた適切な温度までお湯を温め、茶葉を入れておく時間をアプリ上で指示。タイマーが鳴るとお茶ができあがる仕組みです。河野辺さんがボトルを、Soniさんがアプリを担当し、3Dプリントによるプロトタイピングやモニターからのフィードバックを繰り返しました。

 

そして2016年2月、「teplo 1.0」が完成しました。竹とガラスを使ったスタイリッシュなデザインで、アプリには自分の好みをフィードバックし、おすすめのお茶を注文できる機能もつけました。早速キックスターターでプロジェクトを公表したところ、多くの人から支援を得ることができたのです。

 

 

「正直なところ、クラファンをはじめるまではまだ、このまま会社を続ける覚悟を持てずにいました。自分自身の能力を発揮できるのか不安もあった。でもクラファンで1000人以上の方が欲しいと言ってくれて、これでがんばってみようとやっと確信が持てたんです」(河野辺さん)

 

けれども製品を量産ラインに乗せる過程で、トラブルが発生します。不良品が数多く見つかり、量産が難しいことが判明したのです。また、先行して製品を届けたユーザーからも厳しいフィードバックが続きました。

 

「このまま現状の製品を少しずつユーザーに届けながら、新たな製品を開発することはリソース的に難しかった。なんとかteplo 1.0を安定させるか、それともまったく新しいものをいちから開発するか。どちらかに専念するか判断しなければならなかったんです」(河野辺さん)

 

結果、彼らは苦渋の選択ながらteplo 1.0の量産を中止し、新たな製品をつくることに決めました。大きな決断を下すあいだにもIoTの技術革新はめざましく、彼らはプロダクトのコンセプトを再考せざるを得なくなったのです。

 


ー形を変えてきたteploの変遷

 

改めて「お茶」とは、「お茶を飲む」ことの意味を考え、リサーチを行うなかで、インスピレーションを受けたのは「茶道」でした。

「茶道家の方にお話を伺うと、お茶をお出しする方の表情や仕草によって淹れ方を変えていると言うのです。疲れている方には、温度高めでお茶を淹れて、カフェインを強めに。緊張されている方には、温度を低くして甘めに淹れて、くつろげるようにする。それがすごく面白いなって。その職人技をテクノロジーで表現できればいいなと考えました」(河野辺さん)


ーCES2019出展時の様子

 

2018年8月、新たな「teplo 2.0」の開発を進めるなかで、100BANCHへの入居が決まりました。アメリカ、インド、そして日本と3拠点で活動する彼らですが、100BANCHの雰囲気はユニークだと語ります。「いつ来てもオープンカルチャーで、多くのコラボレーションがある。エナジーがあって、そこにいるだけでなんだかインスパイアされるんです」(Soniさん)

 

メンターを務めたのは、カフェカンパニーの楠本修二郎さんとShiftall岩佐琢磨さん。楠本さんからは、製品へのフィードバックやこれからの食産業について、岩佐さんとは製品を量産するにあたってのアドバイスをもらったと言います。

「僕らはデイリーユースを想定していたのですが、楠本さんはBtoBの可能性もあるんじゃないか、と。『もしカフェで使うとしたらこうしたほうがいい』と、細かく指摘してくださいました」(河野辺さん)

 

一方、Soniさんには開発を続ける葛藤もあったと言います。
「ソフトウェアの場合、ベータ段階で市場へ出せばすぐにフィードバックを得られるし、コストをかけずに改善できる。コストも開発サイクルもハードウェアとは違うので、私にとっては我慢の時間でした。
正直、teplo 1.0をあきらめた時点でネガティブな思考にとらわれそうなこともあった。フィードバックやディスカッションを重ねるなかで必要だったのは『どうしてダメなのか』と考えるのではなく、いかにポジティブに改善するのか考え、無難なアイデアに打ち勝とうとするマインドセットでした」

 


ーteplo 2.0のビデオ撮影風景 inベルリン

 

およそ30のプロトタイプをつくり、モニターからフィードバックを得ながら1000回以上のテストを行い、ようやく設計が定まったところでめぐってきたのが、CES2019への出展機会でした。100BANCHブースでの展示に選ばれたのです。「世界最大級のエレクトロニクス見本市」で、世界中に広められるチャンスを得ることができました。しかもそれにとどまらず、「Innovation Awards(家電部門)」を受賞したのです。

 

数々のメディアにも取り上げられたその勢いを引き継ぎ、2019年3月にはteplo 2.0のクラファンをスタート。その人に合った茶葉をECから購入することもできる画期的なスマートポットは、30日間で約700万円ものオーダーを受注しました。

 


ーセンサーで心拍数と体温、そして周囲の光や温湿度、ノイズなどを測ることで、ユーザーのストレスレベルや状態を解析。お茶の抽出環境を変化させることでパーソナライズされたお茶を淹れることができる。

そして間もなく、teplo 2.0はユーザーのもとに届けられようとしています。「teploはこれまでになかった、とてもユニークなプロダクトです。アプリとポットが自然に同期し、優れたユーザビリティと美しさを表現しています。ユーザーエクスペリエンスとして、ユーザーにいい意味での驚きを提供できたらと思います」とSoniさん。より細部まで使いやすさを追求していきたいと語ります。

 

 

teploが実現した、「お茶」というごく身近なもののパーソナライゼーションによって、私たちは「想像上の未来」がそう遠くないことを実感させられます。彼らはこの先、どんな未来を思い描いているのでしょうか。

 

「まずは100万人を目指して、お茶を飲む文化をより多くの方へ届けたい。『teplo』という名前がいつかラグジュアリーブランドとして知られ、レストランやカーディーラーなどでお客様に提供してもらえるようになったらいいなと思います」(Soniさん)

 

「インターネットの世界では、パーソナライゼーションはごく当たり前のことです。人に合わせてコンテンツや商品がレコメンドされ、興味関心に合った広告が提供される。僕らは、それと同じようなことが実社会でも起こると考えています。データ解析とユーザーからのフィードバックによって食のパーソナライゼーションが実現すれば、『あ、あなたのお茶はこんな感じなんだね』って、抽出の違いによって会話が生まれる。新たなコミュニケーションが生まれ、未来はより充実したものになるはずです」(河野辺さん)

WRITER

大矢 幸世

writer / editor

愛媛生まれ、群馬、東京、福岡育ち。立命館大学卒業後、西武百貨店、制作会社を経て2011年からフリーランス。鹿児島、福井など地方を中心に活動。2014年末から東京へ拠点を移す。話す口実が欲しくて、インタビューをしています。

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