LEADER INTERVIEW

2020.03.16 Mon

歯科矯正でより多くの人を健康にしたい:DRIPS・各務康貴さん

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あなたは歯科矯正をしたことがありますか? 子どもの頃にしていた人もいれば、「やろうとしたけど、あまりに高額であきらめてしまった」という人もいるかもしれません。一般的に、歯科矯正は数十万円から100万円ほどかかると言われており、自由診療のため健康保険対象外となります。(一部を除く)

 

「2カ月前から僕も矯正しはじめたんですよ」そう話す各務康貴(かくむ・やすたか)さんの口元を見てみると、透明なマウスピースが。でも、言われるまでまったく気づかないくらい目立たないものです。
各務さんが2019年に創業した株式会社DRIPSでは、オンラインで歯科矯正をリーズナブルに行うことができる「hanaravi(ハナラビ)」というサービスを提供しています。

 

DRIPSを率いる各務さんは、もともと総合病院で救急医療や在宅医療に携わる医師でした。そんな各務さんがなぜ「歯科」という、自身の専門領域以外に着目し、起業するに至ったのか。各務さんのキャリアから、起業への思いや原動力を紐解きます。

 

 

ノートパソコンに貼られたラグビーチーム「サンウルブズ」のステッカー。「ラグビーって、面白いスポーツでチーム運営などビジネスをする際にもお手本にしています。今もプレーしてるのですが、いつか仕事で関われたらいいな、って」。そう穏やかに笑う各務さんは、かつて救急医として慌ただしい日々を送っていました。

 

救急外来を訪れた患者が、どんな症状でどんな状況なのか。その場で的確に緊急度を判断し、エビデンスに基づいて診察、検査していく。そして在宅医療では、寝たきりの患者や高齢者が、家でも快適に過ごせるように適切な医療を行う。そんななかで芽生えたのは、日本での死因第4位※にも数えられる「肺炎」への課題感でした。2020年3月厚生労働省発表時点

 

 

「肺炎はほかの疾患と比べると、消極的な治療法になるというか、抗生剤を投与したり炎症を抑えたりするなど、内科的治療でなんとかするしかありません。なかでも誤嚥性肺炎にかかる患者さんが多いのですが、普段から口腔ケアをすることで発症を抑えられ、死亡率が低くなることが知られています。口腔ケアの重要性はみんなわかっている中、後手で対処するしかない、もっと前段階から根本的な対策ができるといいのですが専門ではないので、どうしたらいいんだろう、と思っていました」

 

一方で、各務さんは「目の前の患者さんを救う」ことから「より多くの人を救う」ことに関心が向いていきました。「僕ひとりが診られる人はどうしても限られている。根本的な医療の問題を解決してインパクトをもたらし、より多くの人を健康にすることができないかと考えるようになりました」。

 

そこで各務さんは電通グループの戦略コンサルに転職し、ヘルスケア企業や介護企業などの中長期戦略策定や新規事業開発、ブランディング戦略などに携わることになります。「多くのコンサル会社では、戦略策定までが主な業務範囲になるのでしょうが、電通グループではより現場のソリューションにまで落としこむような施策を考えることができた。いまのビジネスにも役立っています」


ー各務さん自身も装着していた透明のマウスピース

 

こうしてビジネスの領域で経験を積んだ各務さんは、歯科医と情報交換するなかで「歯科矯正」に可能性を見いだします。「どんなに『ちゃんと歯を磨きましょう』『口腔ケアをしましょう』と呼びかけても、予防の観点だけではあまりみなさんのモチベーションにつながりにくい。でも、美容の観点なら、より強いモチベーションになるのではないか、と。『キレイな歯並びにしたい』と歯科矯正をしているうちに、結果的に健康になれるようなサービスができないかと考えました」

 

その手がかりとなったのが、アメリカで先行リリースされていたマウスピース矯正のシステムです。流通構造を変えることで通常の数分の1ほどの価格で歯科矯正が可能となるのです。

 

 

「歯科矯正をやりたいけど、そこまではお金をかけられないと、あきらめた人がたくさんいるはず。そういった方々にこのサービスを提供すれば、より多くの方に口腔ケアへ関心を持ってもらうことが可能になると感じました」

 

起業後には2019年8月にビジネスプランがニッセイキャピタルのアクセラレーションプログラムに採択され、出資を受け事業がスタートしました。そして8月には100BANCHのGARAGE Programに採択され、2020年1月に卒業するまでの6カ月間、その一員として活動することになりました。

 

ビジネス面はベンチャーキャピタルとのメンタリングで検討する一方、100BANCHではおもにプロダクトデザインやUIのブラッシュアップに注力することになりました。「アメリカでは既に活用されているシステムですが、そのまま日本に持ってきても受け入れてもらえません。100BANCHでプロトタイプをつくり、モニターの方に試してもらって、フィードバックをもらう。そうやってサービスとしてのクオリティを高めていきました」

 

 

志向したのは、ユーザーとの「伴走型」サービス。歯科矯正の課題として、「値段が高い」ほか、「違和感や痛みが強い」「歯科にたびたび通わなければならない」といった理由で、途中で辞めてしまう人も多いのだそう。DRIPSでは、はじめに歯科医で診察した後、LINEを活用したオンラインカウンセリングで、歯科医とのやり取りのハードルを低くし、歯科矯正を続けられるような仕組みを実現しました。「モニターの方からは高い評価を得られましたし、離脱した人もいませんでした。一方で、『きちんと歯型が取れているのか不安』という声に対して、説明動画や説明書を充実させ、よりスムーズに歯科矯正ができるようフォローしました」

 

また、メンターを務めるShiftall 代表取締役CEOの岩佐琢磨さんの意見も参考になったと振り返ります。「いろんな方を紹介いただきましたし、いかに製品として精度を上げていくか。量産体制を前提とした細かいノウハウや、具体的なアドバイスはとても心強いものがありました」

 

 

そして、100BANCHに同居する他のプロジェクトチームの存在も大いに刺激になったといいます。「電動キックボード『ema』の中根さんや『アイカサ』の丸川さんによくアドバイスを頂いていました。お互い、ビジネススタイルも資本政策の組み立て方も違いますから、近くでその仕事を見られるのは本当に良かったです。いろんなチームからいろんなフィードバックをもらって、逆に僕からアドバイスすることもあった。100BANCHってワイワイガヤガヤしても“許される”雰囲気があって、なんだかホームみたいな感じでしたね」

 

「医師」というと、多くの人が「一生安泰だ」と考えるような職業かもしれません。これから超高齢化社会に向かう日本で、医療に対する期待はますます高まり、その需要がなくなることはありません。にもかかわらず、なぜ各務さんはあえて、「起業」の道を選んだのでしょうか。

 


ー事務所の壁には様々なリサーチの結果が貼られている

 

「小さい頃は意識していなかったけど、起業家気質があったのかもしれません。父がいくつか会社を経営していて、弟はアグリテックの会社をやっていて、妹も父の会社の一つを継ごうとしている。医学部に行って医師になって、このままでいいんだろうか、とずっとモヤモヤしていました」

 

「僕は恵まれた環境にいるんだと思います。それなら、社会に還元しなければならない。たとえもし事業がうまく行かなくても諦めず、きっとなんとかなるはず。だからこそ思いっきり挑戦できるんです」

 

2月にリリースしたばかりの「Hanaravi」は、今後、製造体制や情報連携体制をより充実させ、サービスとして精度を高め、より多くの人に広げていきたいと語ります。「歯科矯正は、1年から3年ほど継続的にユーザーと関わることで、密接な関係構築を図ることができます。歯をメンテナンスしながら、それにとどまらず、信頼できる医療情報やサービスを届け、より多くの方の予防意識を高めていけたらと思います」

 

そしていつの日か目指すのは歯科にとどまらない医療全体の領域で、手軽に健康になる手段が手に入れられる「医療のアマゾン」だといいます。「医療の現場で見たのは、どれだけの方が、その人生を終えるまで楽しんで生きているだろうか、ということでした。もっと多くの方にできるだけ長く健康でいて、やりたいことがやれて、楽しく人生を全うしてもらいたい。そして、僕自身はつねにワクワクしながら、新しいことにチャレンジしていきたいですね」

 

WRITER

大矢 幸世

writer / editor

愛媛生まれ、群馬、東京、福岡育ち。立命館大学卒業後、西武百貨店、制作会社を経て2011年からフリーランス。鹿児島、福井など地方を中心に活動。2014年末から東京へ拠点を移す。話す口実が欲しくて、インタビューをしています。

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