LEADER INTERVIEW

2020.01.30 Thu

数式は、世界の見方を変えるアートになる:Physics As Art 加藤雅貴

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差し出された名刺の裏には、長い数式がズラリ。

「これ、僕の名前を数式化したものなんですよ」

説明を聞いてみると、先ほどまで無機質で難解に見えていた数の列に、段々と物語が浮かび上がってきます。うん、実に面白い。

 

名刺の主は、素粒子宇宙理論物理学を専門とする研究者、加藤雅貴(かとう・まさき)さん。物理とアートが大好きな彼は、100BANCHでPhysics As Art」というプロジェクトを立ち上げました。

数式をアートとして捉える表現活動で、人々の価値観を変えていきたい――そう語る彼は、「Physics As Art」にどんな思いを託し、どんな未来を観ているのでしょうか。

 

(執筆:西山 武志、写真:朝岡 英輔)

──「Physics As Art」は、「数式を“アート”として捉えること」をコンセプトにされていますね。この「数式をアートとして捉える」とは、一体どういうことなんでしょうか?

加藤:僕は物理もアートもどちらも大好きです。その立場から見ると、アーティストや芸術家が作品を生み出す行為と、物理学者が数式を生み出す行為って、すごく似てるなと思うんです。

 

 

──と言うと?

加藤:芸術家は、アーティストのフィルターを通して世界を観察し、絵具や筆などのさまざまなツールを用いて、作品として表現しますよね。一方で物理学者は、科学者としてのフィルターを通して世界を観察し、数や文字というツールを使って、数式として表現します。

つまり、フィルターとツール、最終的なアウトプットの形が違うだけで、やっている行為の本質は、両者ほとんど同じなんじゃないかなと。どちらも「世界を観察して、自分らしいやり方で表現している」と言えるのではないかなと感じています。

 

──確かにそうですね。

加藤:数式をアートとして捉えて、もっとさまざまな方法で魅せることができたら、科学や物理に興味のない人たちにも、数で表現される世界にもっと親しみを覚えてもらえるはず……そんな思いを胸に、このプロジェクトを立ち上げました。

科学者たちは、日頃から科学のフィルターを通して、世界を見ています。この科学のフィルターって、持ってない人からすると、結構それだけでアート感のあるものだと思っていて。

 

名刺に記載された加藤の「加」の文字を科学のフィルターを通して図解する加藤さん

 

──科学的な世界の見方が、ですか? 

加藤:たとえば、遅刻してきた人がいても「あの人はさっきまで光速に近い速さで移動していたから、時間軸がズレてしまったのかもしれないな」と考えられたりする(笑)

 

──何か起きたことに対して、そこに「見えない何か」が作用しているのでは、と考えるのはユニークで面白いし、そこからアート的な表現が生まれてきそうですね。

加藤:メディアアートの界隈は、サイエンスの知識を取り入れている方もいらっしゃいますよね。ただ、「サイエンティストの立場からアートを用いる」というやり方はあまり前例がないので、これからそこにチャレンジしてみたいなと考えています。

 

──日常を科学者のフィルターで見ることの面白さ、アート性を伝える表現として、これからどんなことに取り組まれていこうと?

加藤:まずは「幸せの方程式」というものをつくってみたんですけど。

 

──幸せの方程式?

加藤:ちょっと、背景からお話させてもらうと……僕、最近「しいたけ占い」にドハマりしてるんですけど。

 

(同席していた編集者)えっ! 私も毎週見てます!

 

─占い師しいたけ.が占う、VOGUE GIRLの人気占いチャンネル

 

加藤:面白いですよね。「今の貴方は引きこもりたい気分でしょう」とか書いてあると見透かされているような気がするし、その上で「今週は思いきって〇〇してみて」なんてアドバイスされたら、よしやるぞって気持ちになりますよね。

けれども、そこでサイエンスのフィルターがブレーキをかけてくるんです。人間の性格や未来を12星座に基づいて推測するなんて、やっぱり科学的には「正当性がある」とは言い難い(笑)

 

──それは、おっしゃる通りだなと。

加藤:ただ、科学のフィルターを活用した「占い的な行為」って、実は日常に浸透しているんですよ。その代表的な例が、天気予報です。

ざっくりと説明すると、天気予報は過去のデータから傾向を予測する統計学の手法と、「ナビエ・ストークス方程式」という数式を用いることで、未来の天気を予測しています。

 

このような考え方を応用すれば、科学のフィルターを上手に取り入れた“未来の占い”をつくれるのではないかと思い、試行錯誤して生まれたのが「幸せの方程式」なんです。

 

 

──これが、幸せの方程式?

加藤:式だけ見るとかなり威圧感がありますよね(笑)。基本的な考え方としては、「思考の傾向」「心の繊細さ」など幸福度に関わるパラメータを6つ定義して、各要素を個別にチューニングすることで、「ある出来事が起きたとき、あなたは幸福度はこう変化するでしょう」という数値を導き出せるような数式になっています。

占いって、どういうロジックでその診断が出てきているのか、見ている側からは分からないですよね。そのブラックボックスになっている部分を、定量的に明らかにしようとするのが物理学者のフィルターであり、「幸せの方程式」の面白さだと思っています。

 

──つまり「幸せの方程式」は、物理学者的な「しいたけ占い」というわけですか。

加藤:大体そんなイメージで捉えてもらえたらと(笑)。物事の「なぜ」の部分を徹底的に考えるのが、物理学者の仕事です。「よく寝ている人のほうが、幸福度が高い」といった傾向を見出すのが統計学で、そこから「どうして良く寝ている人のほうが、幸福度が高くなるのか?」と突き詰めていくのが物理学の領分。その理由を最終的にわかりやすく表現したものが、数式なんです。

 

 

加藤:「幸せの方程式」は、各パラメータを個人が調整すれば、その人にしか適応できない唯一無二の数式が完成します。そのフィルターを通して世界を見てみると、きっと今までと見え方や感じ方が変わってくるはず。優れたアートには、観る人のモノの見方や価値観を変える力がありますよね。この「幸せの方程式」も、そういう存在になってくれたらいいなと思っています。

 

 

──数式をアートとして表現していった先で、どんな未来が訪れたらいいなと想像していますか?

加藤:「物理学、数式の世界って面白いんだね」と、率直に感じてくれる人が増えていったら嬉しいです。その積み重ねの先で、世の中の科学や研究者への見方が、よりポジティブになってくれたらなと願っています。

現状では、ドクターまで進むような理系の研究者って、内向的で偏屈なイメージを持たれがちだなと感じていて。このプロジェクトを通して「研究者は芸術家と同じように、創造的なパフォーマンスをしているんだよ」とアピールしていきたいです。世界の見方を変えるような、カッコいい仕事なんだよと。

 

──研究の見せ方が洗練されていって、感覚的に「美しい、カッコいい」と思ってもらえるようになったら、そこを目指す子どもたちも増えていきそうですね。

加藤:目指す人が増えたら、それだけ科学が発展していって、世界や宇宙の真理がもっともっと明らかになっていくはず。それは社会の発展にも繋がっていくし、何より僕が単純にワクワクするんですよね。「地味で何をやっているかわからない」と思われがちな基礎研究の領域も、アートの手法を借りてそのすごさをキャッチーに可視化していけたら、社会的な評価も変わる気がしています。

 

 

──基礎の発展あってこその、応用ですもんね。目先の実用にばかり囚われて、ロングスパンで行なう基礎研究を疎かにしていたら、100年後に何も新しいものが生み出せなくなっているかもしれない。

加藤:サイエンスは「ビジネス」に繋げようとすると、どうしてもすぐに役立つことが優先されがちです。「アート」という表現手法を選んでいるのは、「目先のことではなくて、先の未来を見据えて続けていたい」という思いを込めています。先を見据えると、長期的な業界の発展を支えるためにも、やっぱり発信していくことは大事だなと。

 

──外側には科学や数式の面白さを知ってもらうきっかけを与えつつ、内側の研究者たちには「見せ方も大事なんだな」という気づきをもたらせるような、両側にいい影響をもたらすプロジェクトになっていくと、最高に素敵ですね。

加藤:そうですね。そうなれるように、これから頑張っていきたいと思います。

 

WRITER

西山 武志

writer

埼玉県生まれ。大学在学中からライター業を始め、卒業後よりフリーランスとして活動。銭湯は見かけたら大体入る。パイプ椅子が並んでるような中華料理屋のあるお店通りが好き。

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