LEADER INTERVIEW

2019.09.02 Mon

大炎上で気づいた表現に対する不寛容さ……エンタメで社会の空気を変えるOut Of Theaterの決意:Out Of Theater 広屋佑規

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普段は買い物客で賑わう商店街がミュージカルの舞台に一変! 約100人のパフォーマーたちが、『LA LA LAND』『グレイテストショーマン』『メリー・ポピンズ』といったミュージカルナンバーを歌い上げ、ストリートにファンタジーの世界をインストールする。

劇場を飛び出し、都市空間を舞台に見立てたミュージカルショー『STREET THE MUSICAL』を展開しているのが、プロデューサーの広屋佑規(ひろや・ゆうき)さんが代表を務めるプロジェクト「Out Of Theater」です。これまで、横浜元町の商店街をはじめ、御茶ノ水、神戸、そして原宿キャットストリートなどの路上でミュージカルを実施。また、7月に行われた「ナナナナ祭」ではミュージカル俳優がウェイターを務める没入型レストラン『Little Stardust Diner』を開催するなど、劇場の外を使ったエンタメコンテンツを創出しています。

そんな彼が目指しているのは「表現に寛容な、遊び心ある社会」。はたして、エンタメはどのようにして社会を変えていくことができるのでしょうか?

(執筆:萩原雄太 写真:朝岡 英輔)

 

──あの……なぜ、バナナで電話をしているのでしょうか……?

広屋:実はこれ、学生時代にやった「バナナフォン」というドッキリなんです。渋谷のハチ公前で一般の人100人くらいを募り、みんなで一斉にバナナを使って電話をします。すると、周囲の人は「自分が間違っているのかな?」と勘違いしてしまうんですよ(笑)。

テレビのバラエティ番組などで紹介される海外のドッキリが好きで、学生時代から自分でもよくドッキリを仕掛けていました。他にも、参加者が一斉に止まって、あたかも時間が止まったように感じる「タイムストップ」を行ったり、バレンタインには、男性がボタンを押すと仕掛け人の女性たちが集まってきて30秒間だけモテ体験ができる「モテボタン」、町中で本物のウォーリーを探す「リアルウォーリーを探せ」など、いろいろなことを仕掛けてきました。

 

 

──そんな活動が、現在のOut Of Theaterの原点だったんですね。いったい、ドッキリのどんなところに魅力を感じていたのでしょうか?

広屋:街なかを歩いている一般人を驚かすことが楽しかったんです。これらの活動を始めた7〜8年前はTwitterもまだ出始めの頃で、何の気なしに過ごしていた日常の中で、突如非日常な出来事を体験した方が、反応をSNSで投稿してくれるのが快感でした。大学生の頃はテレビのバラエティ番組をつくりたいと思っていたのですが、世の中に笑いを届ける方法は他にもあるということを実感し、卒業後は、テレビの世界ではなく広告のプロモーション会社に在籍しました。

就職すると仕事が忙しくなり、なかなかドッキリができなくなってしまいましたが、そんな中でも大きなイベントを仕掛けたいと思い、2015年に渋谷のハロウィンでゾンビドッキリを企画したんです。

 

──いったいどんなイベントだったのでしょうか?

広屋:今でこそ、ハロウィンは渋谷の公式イベントとして盛り上がっていますが、当時は若者が自発的に盛り上がっているだけでした。ゾンビドッキリは、この盛り上がりに乗じて本物のゾンビが一般人を襲ってしまうという企画。ゾンビに襲われた通行人は、おもちゃのハンマーや銃で反撃してゾンビをやっつけます。あたかもゾンビ映画のワンシーンを体験できるんです。

プレスリリースやランディングページをつくってプロモーションを展開し、仕掛け人のゾンビ役も100人ほど集まった。これはおもしろくなりそうだ……と思っていた矢先、あるニュースサイトで記事が配信され、携帯が鳴り止まなくなりました。「バズった!!!」と思いながら携帯を開くと、そこには真逆の結果が……。大炎上していたんです……。

 

──いったいなぜ炎上に!?

広屋:おそらく、当時の若者の盛り上がりに対して不快感を感じていたネット民が、それらのストレスをこの企画に向けて一斉に吐き出したのだと思います。「本当に心臓が止まったらどうするんですか?」「ゾンビってことは殴っても死なないんだよね?」「ハロウィンなんてただでさえ邪魔なのに、ゾンビなんてやめろ」そんなメッセージが数々舞い込んできて、僕のSNSも特定される事態になっていました。なかには企画とは関係のないひどい言葉を浴びせかける人もいて、正直すごくショックを受けました。

 

 

広屋:ただ、僕らも道路占用許可を取らず、無許可で行おうとしていたために、何も言い返すことができなかったんです。参考にしていた海外ドッキリはゲリラでも良しとする土壌があるし、そういった風土に憧れていたこともあり、そういった手続きは着手していなかったんです。そんな炎上騒動を受け、結局、この企画は中止になります。当時はかなり落ち込みましたね……。

 

──SNSでの炎上が現在でも問題視されていますね。広屋さんが就職していた2年間で、社会は大きく変わっていたのでしょうか。

広屋:当時は、テレビやCMなどが炎上を防ぐために、どんどんと規制や自粛がされていった過渡期でした。けれども、人を楽しませたいという気持ちから作ったイベントや企画に対して「そんなに叩く必要があるのか……?」と過剰なバッシングが日常化していく社会に反発する気持ちが湧いていました。エンタメによって、そんな不寛容な社会をポジティブに変えることはできないのだろうか? と考え、一緒に活動している相方と共に会社を辞めて「まちなか×エンタメ」というテーマでしっかり周囲の承諾を得ながら、圧倒的なパフォーマンスを魅せていこうと思ったんです。

 

Out Of Theaterプロジェクト詳細ページ

──そこから、Out of Theaterの代名詞となる『STREET THE MUSICAL』を作っていくまでには、どのようなプロセスを辿っていったのでしょうか?

広屋:「まちなか×エンタメ」を切り口に、様々なイベントを展開していきました。浅草では、「サムライ&忍者サファリ」という観光エンタメバスツアーを実施しています。バイリンガルのコメディアンを起用し、浅草の観光名所を巡るバスツアーなのですが、行く先々に忍者や侍が登場し、浅草の街なみを舞台にチャンバラショーを繰り広げていく、エンターテインメントバスツアーです。

また、17年には、杉並区から文化芸術助成金をいただき、高円寺の街なかで映画『セッション』の世界を再現し、お客さんが映画の世界をロールプレイするイベント「ロールプレイングシネマ」を開催。映画の世界に入り込んだ上で映画を見るという、こちらも新しい試みの企画でした。そういったまちなか×エンタメ企画を展開していく中で、その後一緒にOut Of Theaterを立ち上げることになる、俳優でありミュージカル映画監督の角川裕明さんとの出会いがあり、「路上でミュージカルをする」というアイデアが生まれました。

 

──当初、STREET THE MUSICALはどこで開催されたのでしょうか?

 

広屋:2017年秋、丸の内にある仲通りというストリートが初開催の場所でした。実は、丸の内周辺には帝国劇場、日生劇場、東京宝塚劇場などがひしめき合っているのに、あまり「劇場の街」という認知がされていない。そこで、NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会とともにその認知向上のために取り組んだのが第1回目。初開催ということでお客さんも限定的なものでしたが、当日のパフォーマンスをみて、この企画の可能性に僕自身がすごくワクワクしたし、SNSで開催の報告をすると、知人たちもとてもおもしろがってくれました。

そのうちのひとりの方が、横浜元町のショッピングストリートでやってみたらどうかと提案してくれ、商店街に打診して開催が決まったのが18年5月。この時には、1日1000人あまりものお客さんを動員し、その反応も抜群によかったんです。

 

──具体的にはどのような形で実現したのでしょうか?

広屋:横浜元町のショッピングストリートは500mの商店街なのですが、この500m全体をステージに見立て、1時間のミュージカルショーをつくりました。どこかにステージを置くのではなく、まちなか全体がステージになる。そのため、実際の店舗を使った演出を取り入れるなど、地元の方々にも全面的に協力してもらいました。

そして、半年後に開催した2回目は、演者の数も40人から100人と倍増します。また初回では500mを一方通行で移動していく演出でしたが、2回目は両端で違う演目をスタートし、商店街の中央で出会うという形にしたんです。単純に作り込む量が倍になったのでとても大変でしたね……(笑)。

 

 

広屋:しかし、初回で実例を作ったことによって地元商店の理解も得やすくなり、さらに深く協力してもらえるようになります。そのおかげで、紙吹雪を数キロ屋上から落としたり、建物の上を手袋が魔法で移動していくような演出もできるようになりました。これまで、横浜元町では3回上演しているのですが、回を重ねるごとに、街との連携が得られるようになっています。

 

──観客はどんなところを楽しんでいるのでしょうか?

広屋:『STREET THE MUSICAL』では、お客さんとの距離が通常の舞台以上に近く、360度の空間を使った演出が目の前で観ることができる。そんな没入感を楽しんでもらっていますね。また、普通のミュージカルでは写真撮影はNGですが、STREET THE MUSICALは写真・動画を撮影し、お客さんはSNSでシェアすることができます。まちなかで上演することで、普通のミュージカルとはまったく異なった体験ができるんです。

また、商店街やスポンサーから予算をもらうので、チケット代を無料で上演することができるのも大きい。ミュージカル好きでなければ、チケットを購入し、劇場に行くハードルは高いですが、無料でやるなら気軽に見に行くことができる。「舞台を見に行く」というよりも、デートの1コンテンツのような形で、気軽に楽しんでもらっています。

 

 

──まちなかでやるからこそのメリットを最大限に生かしているんですね。

広屋:お客さんからの感想の中に、ミュージカルとして感動したという意見だけでなく、「街でこれだけの舞台を作る姿に感動した」という意見をいただいたことがあります。とても嬉しかったですね。というのも、演者と街がひとつの舞台を作り上げるには、結局テクニックや近道なんてないんです。協力いただく商店街の方々に、何度も足を運んでこちらの熱意を伝えていく。その熱量や過程がイベントの背景としてお客さんに伝わり感動を与えられたのであれば、これは今後、新しいエンタメの形になるかもしれないと思っています。

──7月に行われた「ナナナナ祭」では、100BANCH1階にあるカフェ「LAND」とコラボをしてウェイターが全員ミュージカル俳優のレストラン『Little Stardust Diner』を開催しました。これは、どのようなきっかけから実現に至ったのでしょうか?

広屋:『Little Stardust Diner』は、ニューヨークにあるウェイター全員がミュージカル俳優というレストラン「Ellen`s Stardust Diner」をモデルにしています。昨年末、ニューヨークにエンタメ武者修行に行き、ブロードウェイにあるエンターテインメントを多数観るなかで、最も多幸感に溢れ楽しかったのがこのEllen`s Stardust Dinerでした。さっきまで注文を受けてくれたり、料理を運んでくれたウェイターさんが、自分の番になると目の前の距離でブロードウェイ仕込みの歌を歌い上げてくれる。その圧倒的なパフォーマンス力の高さと、あくまでレストランとして店内にエンタメが馴染んでいる姿に、心の底から感動したんです。

実は、日本でも「Ellen`s Stardust Diner」のことが大好きなOut Of Theaterに登録しているミュージカル俳優のメンバー何人かが、ダイナー形式のイベントを既に何回も実施しており、彼らと「Out Of Theaterとコラボして一緒にイベントをやりたいね」と以前から話していました。そして、NYで本物を見たことで火が付き、帰ってきてからすぐに「Stardust Dinerをやろう!」と動き出した。そんな時に実験的な企画に取り組める100BANCHという場所で「ナナナナ祭」という機会があり、100BANCH 1Fにあるレストラン、LANDの空間であれば、Stardust Dinerを実現することができるのではないか、と思いついたんです。

──お客さんの反応はいかがだったでしょうか?

広屋:「さっきまでウェイターだった人が目の前で歌ってくれるのがびっくり」「音楽に溢れていて楽しい」というポジティブな感想を頂きました。ニューヨークで観てきたものに、少しでも近づけることができたのではないかと思っています。そして今回、日本ではあまり馴染みのないチップ制を導入したのですが、その結果、チップ文化のない日本でも10万円を超える金額をお客さんから頂き、出演したパフォーマーたちに還元することができたんです。

また、今回のLittle Stardust Dinerは土曜日に開催したのですが、LANDにとっても平日のディナータイム以上の大きな売上をつくることができたと伺いました。お客さんだけでなく、お店にとっても、演者にとっても嬉しい場所にすることができました。

何よりも僕自身、丸の内でSTREET THE MUSICALを行ったときに近い大きなワクワクと達成感を感じられました。今後、もっとおもしろくできるし、規模も拡大していける。楽しいだけでなく、この先につながるイベントになりました。

 

■ナナナナ祭 「Little Stardust Diner」のLAND店長感想

広屋さんにお話をいただいたとき、「風景として面白そう!」と直感的に思いました。
この主催側のワクワク感は必ずお客様にも伝わりますし、実際にイベントは大成功。キャストとお客様の笑顔が一体となり、普段の営業では辿り着けないグルーヴ感が生まれました。

これは飲食店目線から見てもとてもポジティブで、エンタメが「飲食店の新たな価値」になり得るということを強く感じました。秋頃に第2弾を企画しているのですが、可能性しかないこのプロジェクト、今後の展開から目が離せません!

カフェカンパニー株式会社 WIRED渋谷(旧LAND)店長
杜多 啓佑 Keisuke Toda

 

──いろいろな実験を積み重ねることで、新たなエンターテインメントを育てているんですね。では、広屋さんにとって最終的な目標である「表現に寛容な、遊び心ある社会」を実現していくためには、今後どのようなことが必要になると思いますか?

広屋:まずは、STREET THE MUSICALのように、まちなかで行うエンタメをどんどんと作っていくこと。実例をつくることで、表現ができる場所は増えていきます。

2019年7月には、映画『東京喰種S』公開記念イベントとして、東京喰種の世界観を「血と薔薇」をコンセプトに、体験、美食、演出のプロフェッショナル達が表現した新感覚イマーシブレストラン「喰種レストラン」を期間限定で45日間、銀座某所にオープンしました。Out Of Theaterは演出を担当し、東京喰種の世界を再現しながら、演者を喰種の支配人やコンシェルジュとして会場内に散りばめることで、お客さんを東京喰種の世界に没入させることができました。まちなか、カフェ、レストランなど、エンタメがあふれる場を非日常な空間ではなく、日常の延長線上に創り上げていくことが、表現に寛容な遊び心ある社会をつくっていく第一歩です。

 

 

広屋:また、もうひとつ大切な要素が、表現を好きな人を増やしていくこと。いくらまちなかに歌が溢れていても、雑音のように聞こえてしまったら……僕が過去失敗したように迷惑行為と見なされ炎上してしまったら、意味がありません。表現に対してポジティブな印象を持つ人を増やしていかなければならない。

そのためには、表現することの喜びを一度でも経験してもらうことで、表現活動をリスペクトできるようになると思っています。そもそも、人前で表現するのってすごく面白いんですよ。人を楽しませることも、表現することも、好きになってもらえるような機会を作りたい。現状はプロの俳優の皆さんや表現で食べていきたい人に向けて企画を展開していますが、今後は今まで表現をしたことがなかった人、あるいは過去に表現活動をしていたが遠ざかってしまった人などをコミュニティ化したいと思っています。気軽に楽しく表現をできる場作りを行うことによって、表現をする人の裾野を広げていきたいんです。

 

 

──表現をする場所が拡大し、表現を楽しむ人も増えていく。それによって、日本社会における表現に対する視点も大きく変わっていきそうですね。

広屋:もちろん、すぐにアメリカのようなエンタメが根付く社会になるわけではありません。しかし、「まちなか×エンタメ」には、社会の空気を変える力が潜んでいる。今後、「表現に寛容な遊び心ある社会」をどこまで広げていくことができるのか。

そのためにも、2019年秋には法人化し、より一層活動の幅を広げていきたいと考えています。自分自身の未来にもワクワクしながら、限界まで「表現に寛容な、遊び心ある社会」の実現に向けてチャレンジしていきたいと思っています。

では、電話がかかってきたのでこのあたりで失礼しますね…!

 

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WRITER

萩原雄太

演出家、フリーライター

フリーライター、演出家、かもめマシーン主宰。愛知県文化振興事業団「第13回AAF戯曲賞」、「利賀演劇人コンクール2016」、浅草キッド『本業』読書感想文コンクール受賞。2018年、ベルリンで開催された「Theatertreffen International Forum」に参加。

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