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TWDWイベント「変なこと(アート)」を仕事にする。——— ビジネスとアートの新しい関わり方とは

好きなことを仕事にしてはいけない。 ことにアートやカルチャーのような、「変なこと」は、あくまで趣味の範囲で楽しむものであって、仕事にするもんじゃない。

そんな時代がいま、変わりつつあります。

働き方の多様性が増す中で、純粋なアートを生業にすること以外にもその周辺領域で副業やプロボノといった関わり方や、アート的な活動をする人々をささえる仕事も広がっています。

では、実際どうやって仕事としてアート的な働き方を可能にするのか。一般の人からは「変」と語られるような新しい働き方を実践する4人の登壇者をゲストに、Tokyo Work Design Weekでは珍しいアートをテーマにしたイベントの詳細をレポートします。

Tokyo Work Design Weekとは
“仕事”を”私事”に変える、七日間の働き方の祭典
URL|http://www.twdw.jp/

 

満員御礼。アートが今注目されている!?

登壇者は4名。元アーツカウンシル東京PRディレクターで、現在「渚と」を主宰する森隆一郎さん。舞台芸術制作者に向けた人材育成と労働環境整備のための支援組織「NPO法人Explat」理事長の植松侑子さん。READYFOR株式会社でソーシャルインパクト事業部マネージャーを務める小谷菜美さん。100BANCHコミュニティマネージャーの加藤翼です。

登壇者情報の詳細についてはイベント告知ページをご覧ください。
URL|https://100banch.com/events/13014/

前半のトークセッションでは、登壇者がアート業界に飛び込んだきっかけを語り、その後「アートと社会の接点」に焦点を当て白熱した議論を展開。後半は参加者からの率直な疑問を起点に意見を交わし、「時代と共に変化するアートを仕事にするには、一貫した”己”を追究することが重要」という結論に帰着したところでイベントの終幕を迎える運びとなりました。以下に詳細をレポートします。

この日の参加者は100名と満員御礼の盛況ぶり。参加者の6割はアート以外の業界でお仕事をされている方々でした。

司会を務めたのは、READYFOR株式会社の廣安さん。

森さんのオープニングトークでイベントは幕を開けました。森さんは例えばこういうこともアートなんですよ、と「きむらとしろうじんじん」さん・「クリエイティブサポートレッツ」・「パーラー公民館」・「ままごとによる高校生対象のワークショップ」・「イーストロンドンの劇場 Arcola Theatre」を動画とともに紹介しました。

きむらとしろうじんじん野点

のヴぁてれび122(ムラキング、かくれんぼ)

おが台車

パーラー公民館|16|あけぼの公園感謝祭

Arcola Theatre

ここからトークセッションのスタートです。

 

トークセッション:変なこと(アート)を仕事にする心得

——アートの世界に足を踏み入れたきっかけは?

植松:子どもの頃からダンスをやっていて、大学も舞踊学専攻でした。大学4年生で進路を決めるとき、「自分が続けてきたダンスを違う形で続けたい」という思いから、インターン生として実演団体の公演現場で働くことを決めました。

実演団体でのインターン活動を続ける中、ヨーロッパツアーの直前に担当マネージャーが失踪するという事件が勃発。そこで代わりの人員としてツアーに参加し、アート業界への予期せぬ鮮烈デビューを果たしました。

3ヶ月に1度の休み、始発から終電まで働くも月給8万円。社会保険も年金もなし。という漆黒の労働環境で1年働き、転職、海外ボランティアを経て、「日本社会をアップデートして次世代にバトンを渡したい」という確固たる思いを抱くように。帰国後は、自らの経験を活かして「舞台芸術」を軸に仕事をしています。

加藤:前職では外資系コンサルティングファームで働いていました。地頭が良く、仕事熱心な優秀な方々と働かせていただきましたが、ロジカルなアプローチの限界を感じたんです。どんなにロジカルな思考を結集させても、パワポやエクセルでは人は動かない。社会問題もそうで、これまで世界の英知を集めて貧困や紛争を無くそうと努力を積み重ねてきても、減らすことはできてはいても劇的には無くならない。

それでは「よりよい未来をどう実現していくのか」と考えたときに、過去の事実を積み重ねて分析する視点に加えて、ある先の未来の世界像から、今を振り返って思考するようになりました。あり得る未来のストーリーを描きながら、「人間はその時点でどういう感情を抱くのか」、「何を好ましいと思うのか」という視点で、仮説検証のプロセスを回していく。

個人的にアートやデザインの分野でその問いを追究したいと思い、働きながら通信の美大に入学しました。次のステップとして、魂を削ってでも未来を支える仲間を探したいと思ったとき、100BANCHに可能性を感じて、コンサルタントを辞めてここに来ました。

小谷:中学から高校まで美術部に所属していたほどのアート好きです。総合大学に進んだものの、「アートに関わっていきたい」、「ものづくりをしたい」という思いは持ち続けていました。

大学卒業後、Webディレクターとして制作会社に就職しましたが、ディレクターという特性上、クリエイターを携えてプロジェクトを推進する立場になってしまい、自分自身のポートフォリオを作成できないことにもどかしさを感じていました。

そんな中、NPO法人を立ち上げた知り合いからプロボノでデザインの依頼を引き受けたのが、アート業界に立ち入ったきっかけです。今は複数のNPO法人に所属し、アートと社会の接点を考える日々を送っています。

——アート制作の現場に精通しながら活動されている森さんと植松さんですが、現在アート業界の現場が抱える課題を教えてください

植松:アーティストが作ったものは、社会との接続者がいなければ世間に価値を理解されないこともあります。そこで、アートマネジメントを担う人々が必要なのですが、彼らの労働環境は到底仕事を続けられる状況にはありません。

実態調査を行いましたが、長時間労働、低賃金かつ、女性たちは家庭を持ったら仕事を辞めざるを得ない現状があります。特に20~30代の若者はほとんど非正規雇用であり、長期的なビジョンで仕事を考えられず、安定を求めて他業界に転職してしまう人が多いのがリアルな課題として挙げられます。

:アーティストの突破力を世間に訴求できていないことが課題であると考えています。アーティストは日本中にたくさんいますが、例えば、Newspicksにいつも登場するアーティストといえば落合陽一さんですよね(笑)。まあ、色々事情はあるにせよ、アーティストと社会の接続がまだまだ上手くいっていないのだと感じます。

社会学的に考えると、アートの価値には美的価値(文化資本)・商業的価値(経済資本)のほかに、社会を潤滑にする社会関係(社会関係資本)の価値があります。個人が文化資本を貯めていくことで民度が上昇して、社会的にこういう効果がありました、というようなエビデンスを提示していくことが日本ではあまりないんですよね。先程のArcola Theatreのビデオでは、劇場の社会的な価値がそこに集う人たちの言葉でうまく説明されていたと思うんですが、それと比べると日本のアート業界は社会に対する説明が足りていないな、と感じます。

——社会への見せ方について注意していることは?

小谷:純粋にアートの価値をPR的に発信するというより、そのアートをどの側面で切ったらアートと接点のない一般の方にも支援されるのかを意識するようにしています。その意味で、経歴や肩書きがないからこそ、できることが増えてきていると感じています。

加藤:100BANCHにはパーソナルな思いがきっかけで設立されたプロジェクトが多いので、社会に伝える翻訳者となる裏方の存在が重要であると考えています。

アウトローに見られがちな昆虫食一つとっても、世界的に人口が増加する中で貴重なタンパク源かつ環境への負荷が少ない食糧として認知が広がっており、コオロギラーメンも食卓に出てくる未来も十分あり得えます。

その面を伝えるにはどうすればいいか。社会の視座を引き上げるためのディスカッションは怠らないようにしています。

また、彼らの活動を然るべきタームでメディアに引き上げ、第三者から見た自分たちの活動を知ってもらいます。そうやってメタ的な認知をすることで、一歩成長してもらうことを期待しています。

——間口が狭いイメージのあるアートの仕事。何が必要でしょうか?

植松:”考える力”と”社会を見る目”の2つだと思います。専門知識はあとからついてきます。

仕事のあり方が大きく変わっている今、どの業界においても最初の研修で学んだものがそのあとのキャリアを通して役に立つ時代はとっくに終わっていて、常に学び直しが必要です。特にアート業界においては、社会の変化に加えて扱っているものも不確実であるため、ぶれない”己”を突き詰める覚悟も必要だと思います。

:アートを崇めてしまうと仕事にはならないです。アートって人の心にダイレクトに訴えるし、少し極端に言うと、使い方によっては、人や社会を煽動することもできるんですよね。歴史的にも国威発揚に使われたということもあります。だから、”働く人”となったときには一定の距離を置いて、冷静に見る目が必要です。アートが純粋に「大好き」な人は、それを仕事にするよりも、参加したり、楽しんだりする側にいることをお勧めします。

加藤:好きすぎると盲目になってしまいますよね。コミュニティにどっぷり浸かると社会への翻訳者として必要な第三者の視点を失ってしまうので、一歩引く努力は必要だと思います。

——アート制作の現場でプロボノを使うことに対してどう思いますか?

植松:プロボノ(各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般)の活用を促進しようという動きは近年起こっています。しかし、業界の内部にいる人に対してきちんと対価を払うという基本的な意識が確立される前に、外部から無料でプロフェッショナルを労働力として使えるようになってしまったら、その労働力を無尽蔵に使い尽くすことになってしまうでしょう。

プロボノを受け入れるなら、まずは内部の搾取が行われない土壌を作る必要があると思いますが、残念ながら大半の団体はその段階に到達しているとは言えません。

加藤:100BANCHでは入居の期間を3ヶ月に限定としています。その3ヶ月間、僕らがあれもこれも指導するということはしません。失敗してもいいから、やりたいことに対して自分自身で考えてもらうプロセスを大事にしています。外部のリソースでうまく行く可能性もありますが、プロセスがスケールした時にコントロールできなくなってしまうんですよね。まずは一度、0から自分で作ってみるのがいいと思います。

——最後に、”変なこと”とアート、どう結びついていると思いますか?

小谷:アートという大きなくくりの中で、繋ぐべき社会との接点はまだまだあります。その上で”変なこと”としてアートを捉え、新たな切り口を見つけて社会へ発信することは、仕事の仕方として一つあると思います。

:”変”という言葉を考えると、変化の”変”が出てきますよね。実は「人を違うことをする人が社会を変えていくんだ」という思いを込めて、今回のイベント名を「変なこと(アート)」を仕事にする」にしました。

加藤:「変だ」と思う瞬間に自分の正しさや固定概念と対峙するんですよね。そのとき、自分の中の正しさとは何なのか、考えるきっかけを与えてくれるのがアートです。純粋芸術にこだわらず色んな”変”と思うものに触れることで、自分の感性をもっと自由にしてもいいと思います。その意味で、”変なこと”と言ってもいいのかな、と。

第一部のパネルディスカッションは、終了時間をオーバーするほどに白熱。続く第二部は、会場の参加者から投げられた質問に登壇者が答えるQ&Aタイムとなります。

 

Q&A:現在・未来におけるアートとの関わり方

第二部では、参加者からの率直な問いにリアルタイムで登壇者が答えていきます。

——雇う/雇われるという関係性において、アートの現場でやりがい搾取の場になってしまうのはなぜでしょうか?

:場合によりますが、アートの仕事は発注側が価格を決定した上で仕事を依頼し、金額交渉のプロセスが省かれていることが多いです。その価格が、相当安く見積もられている印象があります。一方、有名なアーティストには途方もない金額で発注していたり、とにかくバランスが悪いのです。発注価格を決める人が、アートにかかる単価と工数をきちんと見積もれていないのではないかと思います。

——どうしたらやりたいことで食べていけるのでしょうか?

加藤:ハンナ・アーレントは人間を仕事・労働・活動の条件のもとにあるとしました。”労働”と言った瞬間にブラックな環境になりますが、自己実現の”活動”とすれば生きがいを感じ元気になります。すぐに好きなことだけで食べていくのは難しいと思います。まずは副業で自分のやりたい活動をしたりしてバランスを取っていくのがいいのではないでしょうか。

——日本において、テクノロジーの世界では「変な」技術にも投資が盛んなのに対し、アートに投資が少ないのはなぜでしょうか?

:例えば新しい文化施設を100億円の税金で建てるとき、そこに投下される100億円の税金を”投資”と見るのか”支出”と見るのか、世間の評価の仕方が問題になります。世間は放っておくと稼働率とかイベントの収支のみで評価されがちです。主体となる側がアウトプット(事業内容)とそれによって生まれるアウトカム(成果)のロジックを組み立てて、社会的なインパクト効果を説明すべきです。文化事業では、こういう思考がまだ不足しているように感じます。

——アートの仕事に素養があるかはどこで判断されますか?

植松:仕事が10個あれば、それぞれ10個の求められるスキルがあるような業界なので、「自分の強みがどこかに活かせるはず!」という己の強い意志を持って進めばいいと思います。素養があるか外部が判断することではありません。むしろさせてはダメです。

——どうすればアートに携われますか?

植松:免許が必要なわけではないので、飛び込んでいけばいいんです。既存のもので見つけられなければ、自分で立ち上げればいい。とにかく躊躇せずに動いてみてください。そこから見える景色があります。

——煽情的な戦略が鉄板化しているクラウドファンディングを成熟させるには?

小谷:アーティスト一人ひとりがストーリーを作って資金を集めるのが現在のクラウドファンディングの主流です。READYFORのアートチームとしては、個別のストーリーに頼らず、“社会問題解決のスキーム“にはまった時にしっかりとお金が回るプログラムの形成を目指し日々模索しています。

——アートはそれ自体が資本主義の中で自立できるものなのでしょうか?

植松:今後、資本が貨幣のみではなくなる大転換点が来ると予想されています。しかし、その世界では社会の中で分かりやすく価値を生み出せない人が出てきて、その人たちの存在が社会問題になると言われています。

価値の在り方が転換している時代には、なおさらアートのような”変なこと”が担う社会的役割は大きいだろうと思います。

加藤:ベーシックインカム導入の可能性も囁かれていますし、個人的には食べていくことに困らない時代が来るのではないかと推測しています。テクノロジーの進化で衣食住の供給をコスト0で供給することが可能になるような未来もあり得ると思ってますし。そこで求められるのは自分のやりたいことであり、モチベーション格差の時代が到来するのではないかと考えています。生きることに困らなくても、生きる理由に困るようになる。もしかしたら全人類がアーティストになる時代が来るかもしれません。

——最後に、「変なこと(アート)を仕事にする」には「己の意思を持って飛び込め!」と植松さんが回答されていましたが、”己”を突き詰めるために実践していることは何ですか?

小谷:心からやりたいと思っていることをやること。

加藤:先入観を持たず、素直な心で好奇心を持ち続けること。

:自分が楽しむことには全くモチベーションが湧かないので、人が喜ぶ機会を作ること。

植松:他者が決めた職業の肩書きに満足せず、己をさらに細分化して解像度を上げ、純化すること。一生を通して取り組むべきだと思います。

時間内で回答しきれないほどの数の質問が寄せられ、大盛況で幕を閉じた本イベント。

登壇者だけでなく、参加者の皆さんもディスカッションに参加しながら、現在・未来においてアートに携わる上で、実現すべき社会・自分自身の在り方を大いに考えさせられる時間となりました。

今後の100BANCHの活動やイベントにもご注目ください!

 

撮影|小野瑞希

 

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