
- メンバーズボイス
足元から、言葉から、みえる世界ーナナナナ祭2022を終えて

言葉を届ける日記は、2019年から鑑賞者である「あなた」に言葉を「届ける」ために実験的に制作しているシリーズです。「物語の橋」はこのシリーズの3作目になります。
言葉を届けるって一体どういうことだろう?ということを日ごろ考えて制作をしていますが、伝えたいことをただ日常会話の中でお話しするのと、台本に落とし込み、それを登場人物である「わたし」として来場者に上演をしてもらうのとでは、お話の届き方が全く異なる気がしています。このような体験性を重視して、今回は来場者がひとりずつ橋に登りきったところで台本を開き上演を行ってもらう作品を制作しました。
橋の下を歩く人たちは何が起こっているのか考えも、もしかすると見もしないかもしれません。それでも橋の上にいるひとりだけが上演が行われていることを知っているという状況をつくりました!
@100BANCH提供
アンリ・マティスが旅先でインスピレーションを得て切り絵を行ったというところから、装飾はワークショップに参加いただいたみなさんと渋谷東しぜんの国こども園に通う4-5才のみなさんに協力していただき制作した切り絵を取り付けました。
今はもう目には見えないけれどかつてそこにあった渋谷の物語をみんなでたどり、改めて見えてくる/感じられる渋谷から、即興で切り絵を行ってもらいました!ほとんど同じ内容のワークショップでも20代と4-5才が感じることは全く違い、どの回もとても新鮮なものになりました。
@Hsin Wei Chen
@Hsin Wei Chen
@渋谷東しぜんの国こども園提供
最近読んだ本の中で次のような文章と出会いました。
「言葉はわたしたちの生きる世界に輪郭と意味を与え、簡単に動かしがたいものへと変容させる。その動かしがたさの中にわたしたちの喜びも苦しみもある。そしてその中にいる時、わたしたちは癒しの言葉に出会うのを待っている。言葉によって固定された苦しみは再び言葉によって動き出す。」
わたしが東京でそう感じていたことがあったように、誰もが息苦しさを感じることがあるのかもしれません。そういった時期に、自分の脳内を占領している物語のページを一度破って、新しく書きかえてみることで自ずと自分を生きづらさから解放することができるのだと思います。だからきっと、わたしたちはすでに最強のひみつ道具を持ち合わせて日々生きているのです。
動かしがたい世界から抜け出せなくなってしまっている誰かの物語をやさしく溶かすような、そんな言葉づくりを目標に、これからも「あなた」という大事なひとりひとりに言葉を届けていきたいです。最後になりますが、このプロジェクトに携わってくれた全ての方に心より感謝を申し上げます。
本当にありがとうございました!
代表柏原瑚子
1998年生まれ、東京都出身。上智大学国際教養学部にて美術史・哲学/宗教を専攻。ヴェネチア大学ではパフォーミングアーツ・ライブアーツを学ぶ。イタリア滞在中、観測史上2番目となる水害を経験したことや、何も持たない豊かさ・物を大切にする欧州文化の中で、自然と人間の関係性や人生の豊かさについて考え始める。