• リーダーインタビュー

梱包から、物流と社会の当たり前を変える——new "Konpou":野﨑絵未里

「レジ袋、いりますか?」

いつの間にか、レジでそう問われるのが当たり前の景色となったように、私たちの社会は日々目まぐるしく変化を続けています。一般消費者が店頭で商品を購入する際は、エコバッグを使う姿も多く見られるようになりましたが、では商品を販売するお店の内部や、商品を運んでくる現場はどうなっているのでしょうか?

new "Konpou"のリーダー・野﨑絵未里が取り組むのは、アパレル業界の梱包・物流のあり方を見直すことです。繰り返し使える梱包ソリューション「Looplet」の開発を進め、それが企業や業界を越えて循環する物流の仕組みまで構想しています。

欲しいものがなければ、自分でつくる。わからないことがあれば、現場に飛び込んで確かめる。そんな野﨑にとっては大学時代、アルバイト先のバックヤードで目にした大量の梱包ごみも、「もっとこうできるはず」と考えずにはいられない光景でした。

中学生の頃から掲げている目標は「銅像になること」。一見突飛な言葉ですが、その奥にあるのは、新しい当たり前をつくり、社会に大きな変化を残したいという想いです。身近な違和感を起点に、どのように社会の仕組みそのものを変えようとしているのか。野﨑のこれまでと、new "Konpou"の現在地を聞きました。

「環境にいい」だけでは続かない

──new “Konpou”は昨年に引き続き、今年もナナナナ祭に出展しましたね。お疲れ様でした。昨年と比べてどんな変化がありましたか?

野﨑:一番大きいのは、Looplet(ループレット)というプロダクトがしっかりと形になったことですね。昨年はまだ試作段階で、外側は母に縫ってもらうなど手作り感満載でしたが、今年は縫製工場にお願いして、実際に企業に導入してもらう想定のものをつくることができました。

野﨑が開発したLooplet。段ボールと透明な個包装袋(OPP袋)の役割をひとつにまとめた、 新しいアパレル梱包ソリューション。積み重ねたり、折り畳んで収納したりが可能。

野﨑:プロダクトができたことで、周りの人との会話にも変化がありました。以前は友達に「何やっているの?」と聞かれて説明しても、なかなか伝わらなかったんです。コンパクトに説明しようとすると、さらに伝わらなくて(笑)。でも今は、距離の近い友人はすでに実物を見て知っていますし、「こういうこともできそうだよね」とアイデアをもらえるようにもなりました。形になった実物があるって、やっぱり大事ですね。協力してくれる仲間のような存在も、少しずつ増えてきていて、縫製会社や運送会社など、パートナーとして関わってくださる企業も増えています。

プロトタイプを用い、倉庫側での送り出す工程(梱包)を中心に検証を行った昨年のナナナナ祭。

プロダクトとして形になった「Looplet」を使い、架空のアパレルショップ「ナナブンノイチ」のバックヤード業務(商品探しや保管)を検証した今年のナナナナ祭。

──今年のナナナナ祭では、アパレルショップのバックヤードを再現した展示や、自作のアプリ「Looplet Puri」など、来場者が思わず触ってみたくなるような体験設計も印象的でした。

野﨑: UXを意識するようになったのは大学生の頃です。元々プログラミングをやっていたので、周りにもエンジニアが多くて、自分もエンジニアになるのかなと思っていました。でも、やってみると「みんなほど私はコードを書くのが得意じゃないな」と気づいて(笑)。

そんなときに初めてCRISP SALAD WORKSに行って「なんだ!?この心地のいい体験は……!」と感動したんです。アプリも心地よく使えて、これは何なんだろうと調べていく中で、「UXデザイン」という考え方を知りました。ボタン1つレベルでの小さなデザインの変更でも、人の行動が変わって、大きなビジネスインパクトにつながることがある。それがすごく面白いと思ったんです。

それにCRISPは「環境のために良いことをしよう、環境のために我慢しよう」ではなく、人が気持ちよく行動した結果として環境にもいい、という設計になっているように感じます。ペーパーナプキンにもクスッと笑えるユーモアのあるメッセージが入っていて、自然と無駄づかいしないように意識がいくようになっていたり。そういう、人の体験を通じて自然と行動を変えていくものづくりには、今も影響を受けています。

──new “Konpou”にも通じますね。環境問題を前面に押し出すというより、便利になったり、働く人の負担が減ったりして、その結果として環境負荷も減っていく。

野﨑: はい。私は「持続可能性」という言葉の中には、地球環境だけではなく、ビジネスとして続くことも含まれていると思っています。「環境に良いから使ってください」だけでは続けるのが難しいことも多いです。便利でより良くて、経済合理性もある。その中に、環境にいいことも当たり前に含まれているべきだと思っています。

そもそもnew “Konpou”も、環境問題に取り組もうと思って始めたわけではありません。大学時代にアパレルの店舗でアルバイトをしていて、商品が一着ずつプラスチックの袋に入って店舗に届き、それを開封するたびに大量の袋が捨てられていくのを見ていました。「これ、なくせそうなのにな」と思って、iPhoneのメモに「OPP袋をなくしたい」と残していました。社会人になってからそのメモを見返して、起業をしたのが始まりです。

──アパレル産業や梱包には、アルバイトをする前から元々関心があったのでしょうか?

野﨑: いえ、それが全然で。アルバイトをしていたアパレルブランドが個人的に気になっていただけなんです。小学校1年生の頃に父の仕事の都合でアメリカに住んでいたのですが、そのとき好きだった男の子がよく着ていたブランドで(笑)。日本に帰ってからブランドの名前を知って、ずっと気になるブランドでした。それで大学生になって偶然アルバイトを始めたんです。

だから、アパレルの課題を探そう、とか何かを検証しようと意気込んでいたわけではありません。ただ昔から、身の回りで「もっとこうなったらいいのに」と思うことがあると、放っておけなかったんですよね。

 

ないなら自分でつくればいい!

──身の回りの不便や課題を見つけると、「自分でなんとかしたい」と思うのは昔からですか?

野﨑: 高校1年生の体育祭で、創作ダンスの隊形を考える係になったことがあったのですが、大人数がどう動くかを言葉で伝えるのがすごく難しくて、「隊形をシミュレーションできるアプリがあればいいのに」と思いました。それでアプリストアで探したんですけど、見つからなかったんですよ。じゃあ作ればよくない?と思って、「アプリ 作り方」って検索して。料理のレシピを調べるみたいな感覚で、プログラミングを始めました。多分その頃から「ないものは自分でつくる」「不便だったらもっと便利にする」という感覚があったんだと思います。

イギリスに短期留学した際には「未成年でも参加できるクラブイベント」を体験して、「なんで日本にはないんだろう?」と思って、自分でイベントを開いたこともあります。大学生になってからは六本木のクラブを貸し切って、シャンパンの代わりにタピオカミルクティーでタワーをつくったり(笑)。

ルールにとらわれず、やってみたいことを形にしていくことが多かったという、野﨑の学生時代。

──「できないなら諦める」ではなく、「できる環境をつくる」という発想なんですね。

野﨑: はい。でも、はじめからそうだったわけではなく、幼い頃にアメリカで暮らした経験が大きいのかもしれません。最初は英語が全然話せなかったので、転校生に聞かれることなんて大体YESかNOで答えられるだろうと思って、全部それで乗り切っていました(笑)。でも、だんだん友達もできて、英語も話せるようになって。帰国する直前には、理科の授業を最初から最後まで全部理解できたことがあって「全部わかった!」ってすごく感動したんです。そういう経験から、「できないことって、そんなにないのかもしれない」という感覚が身についた気がします。

アメリカに行く前の私はすごく恥ずかしがり屋で、幼少期から続けていた合唱団でもずっと「エミリは恥ずかしがり屋の子」というキャラクターでした。でもアメリカで暮らした後の私は、もう全然そういう性格ではなかったんです。それなのに、昔からの私を知っている合唱団に戻ると、周りから見た自分のイメージは変わらない。「本当はちがう自分なのに、本当の自分を出しきれない」という感覚がずっとありました。その反動もあって、今は自分がやりたいと思ったことはやるし、自分がベストパフォーマンスを出せる環境を選びたい。なければ、自分でつくりたいと思うようになったんだと思います。

──「やりたいことは自分で実現する」という姿勢が一貫していますが、そもそも野﨑さんは人生で何を成し遂げたいと思っているのでしょうか?

野﨑: それは・・・「銅像になること」です(笑)。

野﨑: 中学2年生のある日、突然「銅像になりたい」と思ったんですよ。最初は友達にも笑われたんですけど、言い続けていたら「学校を建てたら銅像になるらしいよ」「病院を建てたらなれるらしいよ」って、みんなが情報をくれるようになって。それで、「夢って口にすると、周りが叶えるための情報をくれるんだ」ということにも気づきました。いろんな銅像がある中でも、私は西郷隆盛みたいに社会に大きな影響を与えて、誰かに感謝されて建ててもらう銅像がいいと思ったんです。

ちょうどその頃、中学校の朝読書の時間でココ・シャネルの伝記を読みました。本はあまり好きではなかったのですが、伝記だけは面白くてよく読んでいました。シャネルが、それまでになかった新しいスタイルを生み出して、女性の生き方まで変えていったことを知って、「私も新しい当たり前をつくるような起業家になりたい」と思いました。

今も、銅像になりたいという目標は変わっていません。銅像って、本人の死後につくられることが多いですよね。自分の死後の目標を立てたからこそ、途中の道筋が多少変わっても軸をぶらさずに過ごせているのかもしれない、と最近気づきました。

 

梱包を入口に、物流インフラを変革する

──銅像になるほどの新しい当たり前をつくって、社会に大きな影響を与えたいという目標は、new “Konpou”でどのように実現していこうと考えていますか?

野﨑: 「梱包」というテーマはあくまで最初のスタートだと思っています。中学生の頃から「こうなったらいいのに」と思ったことをiPhoneのメモにずっと残していて、起業するときに見返しました。そうすると、メモした当時は課題だと思っていたけれど、すでに誰かが解決して世の中が変化していたものもたくさんあったんです。でも、アパレルの梱包について書いたメモ「OPP袋をなくしたい」は、世の中の状況がほとんど変わっていませんでした。5年後、10年後もこのままの可能性がある。でも、100年後を考えたら、こんなに不便な状態がそのまま続いているとは思えなかったんです。だったら誰もやっていない今、自分が変えたいと思いました。

──Loopletが使われて、アパレルの梱包のあり方が変わっていくのがまずはスタート地点なのですね。

野﨑: 今つくっているLoopletを世の中に広げていくことはもちろんですが、実はLoopletのプロダクトそのものよりも、それを動かす物流インフラを変えることが重要だと考えています。

現在も折りたたみコンテナなど、繰り返し使える梱包資材自体は存在しています。でも、その多くは企業ごとに保有しているので、店舗に商品を届けて箱が空になったら、その空箱をまた元の場所へ返さなければいけない。帰りの運送費がかかるので、結果的に段ボールを一方通行で使って捨てた方が安く済んでしまうんです。そこでnew “Konpou”を運営している株式会社chomでは、空箱を持っている企業と、これから箱を必要とする企業を直接つなぐ「物流マッチング」の仕組みをつくろうとしています。誰かの帰り道を、誰かの行き道にする。企業をまたいでLoopletをシェアできれば、空箱を運ぶためだけの輸送を極力減らすことができます。

──それは業界としても社会としても、とても大きな変革のように思います。

野﨑: 私は物流業界の出身ではないので、最初は本当にわからないことだらけで、とにかく企業の方にたくさん話を聞きました。アルバイトとして実際に梱包や倉庫の現場で働いたこともあります。現場に入ってみると、「ここでこういう作業が発生するんだ」と初めて分かることがたくさんありました。その他にも自分から話を聞いてみたいと思った企業にコンタクトを取ったり、展示会にも出展するようになったり、いろいろな企業の方と話す中で、最近ではアパレル以外にも同じような課題があることも見えてきました。例えば冷凍品など、業界によって使われている梱包資材も物流の形も違うのですが、似ている課題が多くあります。

new “Konpou”はアパレルのOPP袋をなくすところから始まりましたが、もっと広く、企業間で使われる梱包や物流そのものを変えていけるんじゃないかと考えています。Loopletを広げることがゴールではなくて、別のリターナブル資材を使っている企業にも物流マッチングの仕組みを使ってもらえるかもしれない。そうなれば、業界を越えて「空気を運ぶ物流」を減らして、物流のインフラそのものを変えられます。

どのように広げていくにしても、「環境にいいから多少コストがかかっても使ってください」という形では、景気が悪くなったときに削られてしまう可能性があります。そうではなく、導入することで企業にも人件費削減・不便の解消・従業員の保護、といったメリットがあり、経済合理性が成り立つ。そのうえで環境負荷も減らせる仕組みにすることが、続けていくためには必要だと思っています。

 

新たな選択肢をもたらし、変化し続ける社会を

──経済合理性と環境配慮が当たり前に両立されているという考え方は100BANCHでも共感するメンバーが多そうです。

野﨑:100BANCHには刺激を受けるプロジェクトがたくさんいます。例えばアイカサも、環境に良いから使うというより、傘を持ち歩かなくてもいいという便利さがあって、その結果として使い捨て傘も減っていく。私がnew “Konpou”で大事にしている「環境と経済合理性を両立させる」という考え方にも近くて、すごく参考になります。

同じことを勉強したい人や、同じ業界の人が集まるコミュニティって、世の中にたくさんあると思うんです。でも100BANCHは、みんながやっていることが本当に様々なんですよね。それぞれ目指している世界も違うし、興味のあるテーマも違う。でも、自分がやっていることを心から愛していて、「こんな世界をつくりたい」と思って活動しているところは共通している。そういう人たちが同じ場所にいて、切磋琢磨できる環境はすごく貴重だと思います。普通の友達とはまた違う、仲間という感覚がありますね。だからこそ、自分にはない視点をもらえたり、思いもしなかった形で一緒に何かができたりして、それが面白いです。

──100BANCHで試作を重ねてきたLoopletも、いよいよ実際の企業で使ってもらうフェーズに入るそうですね。

野﨑: はい。プロダクトができて、量産もできるようになったので、現在は実際の企業に使ってもらうPoC(実証実験)フェーズです。「アパレルの物流を変える」というテーマで100BANCHに入ったので、ようやく一つ、目指していたところに到達しようとしています。ナナナナ祭で実際に来場者の方に触ってみていただいたことで、さらに改善したい部分も見つかりました。例えば、今のLoopletはまっすぐな直方体ですが、少し下をすぼめた方がフィットするんじゃないかとか。そういうところをアップデートしながら、実証実験を重ねて、広げていきたいと思っています。

──Loopletをはじめ、野﨑さんが手がけるサービスを多くの人が使うようになった先に、どんな社会をつくりたいですか?

野﨑: 「より多くの選択肢を生み出すことで、変化し続ける世界」をつくりたいと思っています。

大量生産や大量消費も、それによって人間の生活が便利になったという意味では、一つの発明だったと思います。でも、その結果として地球を傷つけてしまった部分もある。だったら、また新しい選択肢をつくればいいと思っています。より便利で、より良くて、地球とも共存できるものをつくって、その時代に合ったものを選べるようにしていく。Loopletも、その選択肢の一つです。今あるものを否定するのではなく、「こういう方法もあるよ」と新しい選択肢を増やしていきたい。株式会社chomも、一つと言わず、いろいろな選択肢を世の中に提供できる会社にしていきたいです。

100年後には、私たちがつくったものが、その時代に合わせて形を変えながら、新しい当たり前としてインフラに組み込まれていたらいいですね。そしたらちょっと、銅像に近づける!って思っています。

 

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