• イベントレポート

よだれかけがファッションに「MULTI CLOTH〜1枚の布をどう着る?〜」──ナナナナ祭2025を終えて

知的障害者のための服をつくることで、彼らの生活の選択肢を広げることを目指すプロジェクト「SAFEID」。これまでも、汚れがオシャレになるオリジナルのつけ襟「yodaren」の制作や、障害の有無で分けることなくアート展示やマーケットを楽しめるイベント「!⇆!(インターチェンジ)」など、様々な活動を重ねてきました。

今回のナナナナ祭2025では新作の「MULTI CLOTH」の試着、カメラマンによる撮影が体験できるワークショップを実施しました。その模様を、SAFEIDの加藤が振り返ります。

私たちは、SAFEIDという活動を通じて「よごれてもいいファッション」という新たな視点を提案しています。活動のきっかけは、障害のある方々がよだれや汚れを気にすることで、おしゃれを心から楽しめていないという現状に気づいたことでした。しかし、「汚れ」という問題は、障害の有無に関わらず、誰もが日常で直面するものです。そこで、「汚れても気にせずおしゃれを楽しめる服があったら、もっと自由になれるはず」という思いから、私たちはこのプロダクトの開発を始めました。

今回のナナナナ祭では、この「汚れてもいい服」をファッションの一部として提案するため、実際に試着して写真を撮るワークショップを開催しました。本レポートでは、その挑戦と得られた発見についてご紹介します。

 

進化する「汚れてもいい服」

昨年のナナナナ祭では、襟の形をしたよだれかけを制作していました。しかし、実際に作ってみると、これではファッションとして取り入れるのが難しく、自分自身が普段着として着たいと思えるものではありませんでした。

そこで、「よだれかけ」を「洋服」として日常に取り入れるにはどうすればいいか、という問いに向き合うことにしました。

その中で誕生したのが、襟が立つ形の服です。このデザインは、東京都主催の学生最大のファッションコンテストで特別賞をいただくことができました。現在、この服の商品化に向けて動いていますが、実現にはまだ多くの課題があります。

そんな中、私たちが着目したのは、障害のある方が着ていた「捨てベスト」でした。これは、よだれや食べこぼしがひどいものの、よだれかけをつけるのは抵抗があり、よだれかけでは防ぎきれない範囲まで汚れてしまうために着用しているとのことでした。シミや汚れがついた着古しのベストを着ている方が多いという話を聞き、これをヒントに今回のベスト型のプロダクトを考案しました。

「これなら私もファッションとして着られる、汚してもいい服ができる!」そう確信しました。さらに、このベストは一枚の布から様々な形に変形するように工夫を凝らし、着る人の気分や用途に合わせてシルエットを変えられるようにしました。

 

ファッションになっていくよだれかけ

ナナナナ祭当日は、予想以上に多くの方が私たちの服をノリノリで試着してくださいました。「自分もよく汚すから欲しい!」「こういう少し個性的な服が欲しかった!」といった、嬉しい声もたくさん聞くことができました。お客様が想像以上に楽しんでくれたことに、私たちも大きな手応えを感じました。

しかし、同時に課題も見えました。ボタンの位置によっては着用しにくい部分があったため、今後はマグネットボタンにするなど、着脱をより簡単にする工夫が必要だと感じています。

これまで障害のある方々にこの服を着てもらうことに高いハードルを感じていました。生地や形など、クリアすべき課題が多すぎて、どこから手をつければいいか分からない状態だったからです。しかし、今回のナナナナ祭を通して、新たな方向性が見えてきました。

まずは、このように「汚れてもいい服」という新しいファッションのジャンルを一般の方々に広めていく。そして、ナナナナ祭の時のように、実際に服を着た写真をSNSにアップしてもらうことで、カルチャーを先に浸透させていく。障害のある人も着やすい機能をアップデートしながら、まずはファッションとしてこの服を広めていきたいです。

汚れは障害の有無に関わらず、みんなの共通の課題であり、ファッションとしても非常に面白いテーマだと信じています。これからもSAFEIDのブランドを成長させていきたいです。

 

弟の感性とファッションの楽しさ

ナナナナ祭のヤグラ企画では、弟と雑誌「apartment」を制作している杉田さんとのトークショーも開催しました。弟は知的障害があり、この活動のきっかけでもあります。弟のことを知らないクリエイティブな仕事をしている方と弟が話すことで、何か面白い化学反応が生まれるのではないかという期待から企画しました。

結果として、杉田さんには弟のユニークさを存分に感じていただけたと思います。弟の言葉の節々から感じられる面白さ、そしてファッションや音楽に対する絶妙なセンスを知ってもらえたと思います。特に印象的だったのは、「ファッションを楽しむためには、自信をつけることが必要」という言葉です。少し斜め上からのピュアな言葉が、来場者の心に響いたと感じています。

 

フラットな社会を目指して

SAFEIDは、「障害のある人とない人がフラットに交わる社会」を掲げて活動しています。よだれかけをオシャレにする以外にも、知的障害のある弟がデザインしたアートワークを使ったアパレルアイテムを制作したり、障害のある人もない人もリアルに交流できる音楽、アートイベントを主催したりしています。

私たちは、日常的にファッションを楽しみ、たまに障害のある人と交わる、というサイクルを繰り返すことで、少しでも誰もが生きやすい、フラットな世の中が実現すればと願っています。

 

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