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洋服をポケットサイズに圧縮し、地球外に飛び出そう:川口相美(株式会社SJOY 代表取締役社長)

たくさんのイノベーションが起きている昨今ですが、服については「たたむ」と「かける」以外の選択肢がここ何世紀も生まれていないことに着目した、一人の100BANCHメンバーがいます。

GARAGE Program35期生「To you would like to travel to the earth outside.」の川口相美(株式会社SJOY 代表取締役社長)は、2020年6月に100BANCHに入居。町工場の協力のもと、洋服圧縮の型を制作したり、圧縮の体験会や圧縮した状態の洋服を染める実験など、様々な活動を積み重ねてきました。その後も精力的に活動を続け、洋服専用自動圧縮機のプロトタイプを完成。羽田空港をはじめとした国内空港にてサービスの実証実験を行っています。

そんな川口が、これまでの活動や、今後の展望について語りました。

川口相美|株式会社SJOY 代表取締役社長

1995年生まれ。大学でファッションを学んだ後に、イッセイ・ミヤケのグループ会社に就職。その後、2019年10月に両親の経営するアパレル貿易会社・株式会社SJOYを継承し、代表取締役社長に就任する。2020年には社内スタートアッププロジェクトである洋服圧縮サービス「PocketTips」を立ち上げ。2024年11月より羽田空港をはじめとした国内空港にて、洋服圧縮サービスの実証実験を行なっている。

 

川口:「服を手のひらサイズにする圧縮技術」を開発・研究している株式会社SJOYの川口と申します。私は、文化学園大学という洋服に特化した大学を卒業し、イッセイ・ミヤケグループに入社してバリバリにデザインや企画、販売を担当していました。入社から2年を経た2019年、両親の会社を継ぐ形で洋服をつくるベンダー業として、SJOYという会社を設立しました。今は7年目で、100BANCHと近い年齢の会社です。

 

怪しいセミナー(?)で、100BANCHを知る

——川口はちょっと変わったきっかけで100BANCHに入居したといいます。

川口:私はそれまで服しか触ってこなかったため、「経営って何だろう」「どうやって事業継承したらいいのだろうか」といった状況でした。両親と付き合いのあった工場の人たちは、まったく私の言うことを聞いてくれませんでした。彼らのほうが経験豊富で、私は当時まだ経験の浅い23歳の女性なので、今思えば当然ですよね。それで2020年の1月に、どうにか自分で新しく学びを深めようと思って民間の経営セミナーに参加しました。実は、その経営セミナーが良くないビジネスを広めるためのセミナーで、なんと自分以外が全員サクラという衝撃的な事実に直面し、「もう訴えてやる!」とまで思いました。するとなぜかそこで、その経営セミナーの主催の会社の人から「君はこういう場所は合わないよ。100BANCHという場所があるよ。」と謎の紹介を受けたのです。これが、私が100BANCHを知ることになったきっかけです。

川口:この話をよく100BANCHの運営の方にも話しているのですが、こんな感じで100BANCHを知って入ってくる人は前例としてあまりないと言われます。多くの人は、起業したくてとか、事業に興味があってとか、やりたいことがあって入ってくるのですが、私は「経営について学びたい」「起業している人ってどんな人か知りたい」と、まさに藁にもすがる思いで100BANCHに入ることを決意しました。

 

服をたたみたくない!かけたくない!

川口:実は2020年3月に一度100BANCHに応募したことがあるのですが、そのときは採択されずに落ちてしまいました。「アウトドアでこそ、ヒロインに!」という、今思うと訳の分からない企画書を書いて応募しました。当時、メンターだった株式会社ロフトワークの林さんに「あなたは本当にこのプロジェクトをやりたいの?なんでやりたいと思ったの?」と言われてすごく衝撃を受けました。

川口:両親でもない大人に、「本当にこれをやりたいの?これに命かけられる?みんながやりたくないって言っても、1人になっても絶対やれる?」とまっすぐ目を見ながら言っていただけたことに驚き、「いや、アウトドアでヒロインにはなりたくないな」と気づきました。

そこで再度、考えました。私はずっと洋服に携わってきたので、家に服がたくさんあります。でもその服に対しては「たたみたくない、かけたくない」「かさばって重いから持ち運ぶのがめんどくさい」といった「したくない!」という憤りがあったのです。そして、家に帰ってきた夫が着終わった服をソファーにそのままポンポン置くことにもとても腹が立って「もう、手のひらサイズに圧縮してやりたい!」という憤りに変わったのです。それが最初のきっかけでした。他の分野ではたくさんのイノベーションが起きている中で、服については「たたむ」と「かける」以外の選択肢が、ここ何世紀も生まれていないんです。そこで、第三の選択肢として服を「圧縮」する世界があってもいいんじゃない?と思いつきました。

 

100BANCHで出会った油圧機とものづくりの神様

川口:100BANCHの入居中、2020年の6月から8月は、どうやって服を圧縮したらよいか分からずに悶々としていました。いろいろ調べたところ、タオル類をノベルティとして圧縮している圧縮業者を見つけ、直接服を送って、圧縮してくださいと依頼をしたところ、実際に服を圧縮することができたんです。どうやって圧縮してるのかとその業者さんに聞いたのですが、当然まったく教えてもらえませんでした。どうやって圧縮しているんだろうか、とひたすらメンバーと考えていたのですがそんな折に、圧縮技術の前身となる「油圧機」と出会うことになります。

100BANCHにいたある日、100BANCHの運営スタッフさんから「今日はものづくりの神様みたいな人が来るよ」と言われたのです。それがメンターの岩佐さん(株式会社Shiftall 代表取締役CEO)でした。岩佐さんは私たちのメンターでもないのに、時間を割いて話を聞いてくれて、「油圧機を使えばいいんじゃないかな?Amazonで売ってるよ」と教えてくださいました。そこでさっそく油圧機を購入して、100BANCHで組み立てました。元々は車の部品を曲げたり縮めたりするための機械ですが、それに専用の型を作って、靴下を丸めて入れてみたのが最初のサンプルになります。

そして、2021年7月にはナナナナ祭に参加してクラウドファンディングに挑戦しました。約1ヶ月で目標金額を達成し、圧縮した服に対して、ある程度のニーズがあることがわかりました。

川口:ここでちょっと小話なんですが、100BANCHには、当時早朝に清掃員の方がいました。その清掃員の方に3回会うと、そのプロジェクトは絶対に成功するというジンクスがあったんです。OBの「iKasa」さん、「HERALBONY」さん、「Omoracy」さんもそうなのですが、彼らはみんな、清掃員の方に3回会っているのです。実は私たちも清掃員の方に3回会いました。100BANCHは、土曜、日曜、祝日関係なく、いろんな人がいろんなタイミングでやって来るので、OB・OG関係なく、たくさんの方にたくさん話しかけることで道が広がる、というのをすごく実感しました。

 

自動圧縮機完成へ

——100BANCHのGARAGE Program期間を終えた後も実験は様々なかたちで続いています。

川口:100BANCHでGARAGE Program期間を終えた後、2021年10月にコレクションブランド「HOUGA」さんとのコラボレーション販売を行いました。圧縮シワを活かした服をテスト販売できないかと考えてたときに、色々なアパレルブランドを調べて「HOUGA」さんを知ったのですが、日本のデザイナーズブランドで、毎年2回「東京コレクション」というファッションショーでも発表を行っているようなブランドです。

川口:この「HOUGA」さんの特徴的なデザインと私たち「PocketTips」(洋服圧縮サービス)の技術をかけあわせ、新しいパッケージを生み出すことができました。圧縮した服のパッケージに切手と住所のシールを貼ってそのままポストに投函できるのです。届いたお客様にも「こんなパッケージで、こんなちっちゃい服が届くなんて初めて!」と新しい体験を生み出すことができ、約2週間で300枚を完売することができました。

またその後、我々は「terminal.0」という研究施設に入居しました。terminal.0は、主に空港に関連する課題解決を目指す研究施設で、羽田空港を運営する日本空港ビルデング株式会社、大田区、ダイキン工業株式会社、株式会社オカムラといった大企業がつくっている施設です。ここで2024年6月に自動圧縮機を完成させることができました。手動で圧縮していたときには圧縮に15分かかっていたのですが、これを3分でできるようになりました。また、操作ボタン1つで、1人で圧縮することができるようになり、最大で7着分の服を入れられるようになりました。

川口:その後、東京都女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」に採択され、海外派遣メンバーに選ばれたり、J-StarX 女性起業家コースに選ばれてシリコンバレーに行ったり、GoogleXというGoogleを開発している研究所に行ったりもしました。

また、昨年11月には実際に羽田空港で実証実験を行い、3日間で100人以上の方に利用していただき、みなさんの大満足の笑顔を見ることができました。実証実験中は、Yahoo!ニュースやNHK、東京都創業NET、東京新聞さんなど、様々なメディアに取り上げていただきました。

 

ポケットに手のひらサイズの服を詰め込んで宇宙旅行!

川口:今後の事業展望についてですが、今は新たな機械をつくっています。タッチパネル式で多言語対応、無人で誰でも使える構成の機械です。今月、機械づくりのパイオニアである浜野製作所とパートナーシップを締結し、5月に資金調達をクロージング、7月には自動圧縮機械の仮導入機が完成する予定になっています。8月からは那覇空港、熊本空港で実証実験を行い、10月には成田空港、11月には仮導入をする予定です。11月後半には、シリコンバレーでも実証実験をすることになっています。

我々の最終的な目標は、圧縮機能付き洗濯機をつくることです。ゆくゆくは、宇宙旅行が海外旅行のように大衆化した未来で、第三の選択肢として服を手のひらサイズに圧縮して、好きな服を好きなだけポケットに詰め込んで宇宙旅行に出かけられるような未来を描いています。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=Jz-v3X5LKhY

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