アクアリウムにイノベーションを。
人は、魚とともに、もっと良い世界をつくれる。
INNOQUA
アクアリウムにイノベーションを。
人は、魚とともに、もっと良い世界をつくれる。
日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」に今年も出展した100BANCH。GARAGE Programに集うプロジェクトの中から、今年は「生物×アート / 自然×デザイン」をテーマに若手クリエイターの作品を展示するとともに、関連イベントも開催しました。
10月22日には、100BANCHと株式会社イノカのコラボイベント「リトルアマゾンSHIBUYA」を実施。「東京の都市開発にアマゾンの生態系を本気で取り入れる!」という大胆なテーマのもと、デベロッパー、デザイナー、自然環境の専門家、そして一般の参加者が集まり、未来の東京をデザインする2時間のリアルタイムプロジェクトとなりました。
——主催である株式会社イノカ代表の高倉の挨拶でイベントがスタートしました。
高倉:本日のタイトル「リトルアマゾンSHIBUYA」は、今日の登壇者の1人であるぺんちゃ〜んさんの夢です。去年、100BANCHでINNOVATE AQUARIUM AWARDというイベントを開催しました。いろんな生き物好きを集め、イノベーションを生み出そう、という前代未聞のイベントで300名近くの方が参加してくださったのですが、そのときのプレゼン大会で頂点に立ったのがぺんちゃ〜んさんです。アマゾンを東京につくりたい、というプレゼンで100BANCH賞、最優秀賞を受賞されました。実はこの2階にもぺんちゃ〜んさんがつくった水槽がありますが、水槽を置くだけではなく、もっともっといろんなことができないか、というところから始まっています。渋谷にアマゾンをつくろうなんて誰も考えないと思うので、この分野がどう交わっていくのか過程も含めて楽しんでいただければと思います。
——今回のイベントに登壇するのは、アマゾンやアクアリウム、渋谷やアマゾンに縁のある方々です。
三宅:大成生コン株式会社 代表取締役の三宅です。3年半前までNHKの自然番組を担当していて、NHK潜水班という特殊部隊でアマゾンに1年半ぐらい通ったことがあります。今日はその体験談を話せたらと香川からやってきました。
杉田:私も三宅さんと同じくNHKで潜水班を30年ぐらいやっていました。アフリカのメガネカイマン、ダイオウイカ、ホッキョクグマ、パンダ、南米のカンパンゴという子育てをする大きなナマズなど、世界中でいろんなものを撮影してきました。
松永:丸井 渋谷店の松永です。渋谷店は、渋谷モディと渋谷マルイの2つの館を運営しています。渋谷モディは、「好き」を応援する館というコンセプトでスタートアップの人たちとの事業創出の場であったり、いろんなことをやっています。渋谷マルイは、今、建て替えの最中で、世界初の木造の本格的な商業施設、サステナブルの象徴としてリニューアルしようとしています。
滝本:発明家のリッキーと名乗りながら活動している滝本力斗です。100BANCHではThe 21st century da Vinciというプロジェクトで活動しています。実際のモノづくりをしながら、同時に、発明ってそもそもどういうことなんだろう、ということを人類学的、科学史的、科学哲学的に分析しています。これらの研究と実践を合わせ、誰も予想がつかないような発明を実現するための土台づくりをしています。
守屋:株式会社きいちのメモ代表で、デザイナーです。企業へのデザイン支援に加えて、自社でロボット、安全システム、遊具などを開発して社会実装する起業家的な活動もしており、今回の主催のイノカにも創業初期からデザイナーとして携わっています。今回、みなさんが話したアイデアを絵にしてまとめる重要な任務を任されました。背負うものが大きいですが、みなさんと楽しくやっていければいいなと思います。
ぺんちゃ〜ん:先ほど高倉さんからご紹介あったINNOVATE AQUARIUM AWARDで賞をいただき、そこからいろんなイベントに呼んでいただいています。本日はよろしくお願いします。
工藤:私はメーカーの研究開発職として働いています。埼玉県出身で生き物大好き少年でした。趣味の範囲でアクアリストをやっていて、アピストグラマという5cmくらいの小さな魚を飼っています。アマゾン川など南米に広く生息している魚で、体の色が雌雄で全然違っていたり、個体差や種類差もすごくバリエーション豊かで非常に面白い魚です。本日はよろしくお願いします。
——続いて、ぺんちゃ〜んさんが、東京にアマゾンの環境を再現するという「リトルアマゾンTOKYO」のアイデアについてプレゼンテーションを行いました。
ぺんちゃ〜ん:私の好きな生き物は「オトシンクルス」という魚です。南米アマゾン川にいる小型のナマズで、大体4〜5センチぐらいの大きさです。口が下の方についている吸盤状の形態で、苔を食べながら生活するような魚です。ただ、見た目では種類の判別が難しく、適切な水質でうまく飼えない、ポテンシャルを引き出せないといった点でなかなかメジャーになりきれない現状があります。また、雄が極端に少なく、雌雄の判別も難しいため繁殖が難しい、という課題があります。それで、これらの課題を解決するソリューションを昨年のINNOVATE AQUARIUM AWARDで発表させていただきました。撮った写真をAIに判別させて魚の種類と雌雄を判別するようなシステムです。さらなる飼育の工夫として、南米の学者や現地の漁師に聞き込みをしたり論文を読み込んで調べたりもしています。
実は鑑賞魚は危機に晒されています。近年の開拓や公害の進行、自然災害などもあって、アマゾン川では生き物の住処がどんどん失われています。アマゾン川の魅力を国内外の人に伝えることで、アマゾンの環境と生き物の価値を高め、生物の多様性を守りたい。そこで、昨年のイベントで提案したのが、アマゾン川に特化した水族館兼研究機関の「リトルアマゾンTOKYO」です。
「リトルアマゾンTOKYO」はアマゾン川の中に入り込む水族館です。世界にはすでにアマゾン川をモチーフにした水族館はいくつもありますが、現地の環境の再現は難しく、そこをさらに深掘りしていきたいと思います。アマゾン川は、1,100以上の支流から成り立つ世界最大の川で非常に大規模な環境で、その中には水溜まり、流れが早いエリア、 枯れた葉っぱの成分が溶け出して黒くなっているブラックウォーターというところがあったり、森自体が沈んでいたりと、いろいろな環境があります。それを体験できるような、またアクアリスト目線で飼育技術の研究もできるような大規模機関、ということで提案しました。アマゾン川を知ることで、好きになる、そんな施設を目指します。アマゾン川の多くの種が危機にさらされていますが、観賞魚の価値を高めることはそれを食い止める1つの方法だと思いますし、自分が持っている知識や飼育技術でこの問題の解決を目指したいです。
——本イベントの後半には、会場の来場者も一緒に参加をするワークショップが行われます。そのワークショップに向けたインプットとして、登壇者たちがアマゾン、都市計画について語ります。
高倉:アマゾンと渋谷をつなげるのは、遠すぎてなかなかアイデア・発明が生まれにくいんじゃないかと思うのですが、滝本さん、こういう観点で取り組んでいくと良いんじゃないか、ということはありますか?
滝本:どこを見てもコンクリートの都市の中ではインスピレーションを受けるものが極端に少ないですよね。一方、アマゾンはこれだけの多様性がある。先ほどのお話にでたブラックウォーターなんて知りませんでしたが、名前を聞くといろんなものが浮かびませんか。木の葉だけじゃなく、みんなの闇が渦巻いてるのかな、とか。これだけ多様性のあるアマゾンが渋谷に登場したらどんな神話が生まれるだろうか、どんな物語が生まれるだろうか、と神話的・物語的に考えてみると、新しい切り口が出てくるんじゃないかなと思います。
高倉:異分野をつなぎ合わせるのはなかなか難しいと思うんですが、単純に熱帯雨林を持ってくる、川をつくる、みたいなことではなくて、ブラックウォーターという言葉に注目するとか、物語から考えていこう、というのは流石ですね。アマゾン側のキーワードは、先ほどたくさん出たと思いますが、モディやマルイが見ている渋谷のキーワードは、松永さん、いかがでしょう。
松永:ありきたりですが、渋谷ほど多様性がある街はないんじゃないかと思います。また、少子高齢化と言われますが、渋谷はやっぱり若いです。それから、渋谷はあまり管理できないんですよ。大人が管理、統制しないことが、ある意味、良さなんじゃないかと思います。渋谷ではよく行列ができていたりするのですが、覗いてみても何をやっているのかわからないんですよ。各所で自然発生的に好きなものに対して群がっている、でもそれを私が見てもなんだかよくわからない。それが毎日、同時多発的に起こっているのが渋谷の良さかなと感じています。
高倉:もはや渋谷がアマゾンなんじゃないか、とも思えてきますね。守屋さんからもワークショップをやるにあたっての心構えなど、一言もらえますか。
守屋:デザイナーとアマゾンのつながりという観点では、10年ほど前にスペインのアルヴァロ・カタラン・デ・オコンさんというデザイナーが「PET LAMP」という作品をつくっています。コロンビア側のアマゾン川にペットボトルがたくさん流れ着いていて、それをどうにかしよう、と。元々そこに住んでいる民族の裁縫技術と流れ着いたペットボトルを組み合わせてランプをつくったんです。それをアート作品として売ることによってリサイクルになるし、販売したお金がその民族に戻ってくる。何が言いたいかというと、これから渋谷にアマゾンを実装していくアイデアを出していくときに、渋谷の制御ができないという面がいい方にも悪い方にも働き、ペットボトルのゴミのように実際のアマゾンで起きているのと同じような課題が発生するかもしれません。今から絵を描くと同時に、その中で行われる仕組みやルールまで踏み込んで考えてみると、実際にどうやって運用していくかの体験の話まで入っていけるんじゃないかと思います。絵を描くことにとらわれず、その中でぼくらがどんな風に生きているのか、どんなルールがあるだろうか、といったことも考えてもらうと立体的な発想ができると思います。
——ワークショップの参考として、事前にChatGPTを使って生成した「渋谷✕アマゾン」のイラストがスクリーンに提示され、それについて登壇者たちがディスカッションをしました。
高倉:インスピレーションになればと、「渋谷×アマゾン」で画像を生成しました。もともと渋谷は谷で川だったのでちゃんとアマゾンっぽいですよね。これを見てみなさんの体験や経験をふまえて一言ずついただけますか。
ぺんちゃ〜ん:これには魚の絵がないですね。私たちが愛する魚がいるエリアがあったらいいなと思いました。先ほど水没林みたいな話もしたんですが、水が引いているときは街が沈むのでこのエリアには人がいなくなる、みたいな乾季や雨季で生活スタイルが変わっていったりすると面白いんじゃないかなと思います。
工藤:すごくキレイで見とれちゃいました。リトルアマゾン、継続的に維持していくことが重要だと思うんです。技術があればアマゾンの見た目は真似することができると思うんですが、日本の気候に合わせて、植物、動物、水の流れを維持していくのはすごく難しいですよね。アクアリストの視点からは水質がすごく気になります。pH、炭酸硬度、TDSがいくつ、みたいな。
高倉:やっぱりアクアリストからはそういった点が気になると。実際にアマゾンに行ったことのあるお二人はいかがですか。
杉田:例えば、原宿のドッグカフェなどを考えると、カピバラがいるような癒やしのセクションがあるといいなと思いました。それから自分の体験談ですが、ピラニアやメガネカイマン、危険だと思ってる生き物も、実は気をつけていれば全然危なくないんですよ。メガネカイマンは噛む力は強いけど、口を開く力は弱いから水中では魚ですら噛めないそうです。恐る恐る近づいてみると逃げていきます。ピラニアも水が綺麗なところではこちらを見向きもせずに悠然と泳いでいるので、全然危なくないじゃん、と思っていたらスコールが降って水が濁ってきて。水中でカメラを操作していたら、ワームと間違えられたのか指をピラニアに噛まれて流血しました。集まってきたら危なかったのですが、足がつくくらいの浅いところだったので、すぐ逃げることができ難を逃れました。その日は現地の人が、かわいそうだから、とピラニアを焼いて食べさせてくれました。白身魚で醤油をかけたらおいしかったです。
三宅:私もけっこうアマゾンに入りましたが、このアマゾンはどんな感じでしょう。朝起きたときから、「本気で今日は生き延びよう」と精神的な成長がはかれる都市になるのかな、と思いました。私が自然番組の撮影に行ったときに驚いたのが、例えばアフリカに行くと、象が放し飼いになってる、と感じたことです。野生のキリンやゾウがいる、ではなくて、「その中にぼくらがいる」ということなのですが、渋谷のアマゾンも管理はほぼ不可能なんじゃないかと思います。逆にその中でぼくらが生かさせてもらっていると感じるような、生き方を探していくのかなと思いますね。
高倉:そうですよね。たぶんアマゾンの森に入ると、常に死と隣り合わせ。そこはお二人ともテーマとしては共通している部分なので、バランスをとるのは大事、ということをあらためて思いました。
——イベント後半では参加者が4つのグループに分かれ「渋谷をアマゾン化」した絵を描くワークショップを行いました。ここまでの話やイラストを参考に、都市開発や自然共棲のアイデアを出し合い、描いた絵を発表しました。
各々に浮かんだイメージ、具体的なアイデアを共有し、意見を交わしました。
——イベントの最後は、高倉がイベントの感想、今後の意気込みを語りました。
高倉:登壇者のアマゾン好きのお二人とオンラインでプレゼンテーション資料を一緒につくったのですが、そのときにGoogle Earthでアマゾンの映像をみて「すごい。行きたい」と思いました。イノカは海にまつわる会社ですが、これを機にアマゾンにつなげていきたいと思っています。最初は2人だったアマゾン好きに、元NHKのカメラマンが加わり、アマゾンチームが増えました。今日ここにいるみなさんも「チームアマゾン」です。考えれば絶対何かにつながると思うので、一緒にアマゾンを目指しましょう。今日出たアイデアを、そのまま実装するのは難しいですが、滝本くんが言ってくれたようにコンセプトが出てきたことがすごく大事だと思います。今回のイベントだけで終わらずに先につながっていくよう、ぼくらも頑張っていきたいと思っています!