「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションをつくりたい。
Academimic(旧:Sci-Cology)
「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションをつくりたい。
研究をクリエイティブの力で表現する「Academimic」。研究をもとに作品を制作し、一般の方々が科学の一端に触れられる仕組みをつくるプロジェクトです。DESIGNART TOKYOではオリジナル2作品と共同展示1作品を展示しました。
作品紹介と当日の様子をAcademimicの浅井がお伝えします。
動物、植物、昆虫など私たちはいろいろな生物に囲まれて生活しています。それらを愛でることはありますが、同じ目線で彼らを見ることはほとんどありません。そもそも見た目も生活している環境も違いますが、どこかしら我々はそれ以外の生物と同じ土俵にいないと思っている節すらあります。同じ姿形になって初めて見える景色もあるはずです。
Genom Cassetteは3種の生物のゲノムをカセットテープで表現して、違いを可能なだけ削ぎ落とし、画一的な尺度で表しました。
カセットテープは録音される音とテープの長さを情報量として持っており、それぞれに対応した情報を遺伝子から汲み上げました。
まずは聴覚へのアプローチ。 ゲノムを構成する塩基配列を単音に三つの塩基から翻訳されるアミノ酸を和音に変換。ゲノムが放つ音は到底楽曲とは言えませんが、耳を傾けると何億年もかけて獲得した生物の構造が聞こえてきます。
つぎに視覚へのアプローチ。 各生物のゲノムサイズをテープの巻き数で表現。テープの長さにおいてコムギの圧倒的な存在感が際立ちます。その姿は私たちの先入観に疑問を投げかけます。
実際に観覧されていた方々からはコムギのサイズの大きさに驚かれていたり、カイコの遺伝子が放つ音からその構造を見出したりしていました。
ヒトは多大な影響力を持ち続けていますが、単なる地球上の一種であることを強調し、他の生き物に目を向けるきっかけを今後も提供していきたいと思います。
アーティストの諏訪葵さんとともに共同展示という形で新たな取り組みを行いました。
今回立ち上げた「LaddART Project」は学術研究を通してアート作品に新たな見方を探るプロジェクト。諏訪葵さんの作品「ツギハギの位相」に対して既存の研究からハシゴをかけて迫りました。
諏訪さんの作品はアート作品でありながら、どこかしら実験や仕掛けといった印象を強く感じていました。そして諏訪さんの創作の根底にある科学への関心から面白いことができそうだと、今回お声掛けさせていただきました。
小学校の時、理科の先生が化学反応で液体の色が変わる化学実験を見せてくれた。目の前で色が変化する瞬間、何とも語り得ない強い実感がそこにあった。そんなことが起こり得るのであれば、「それ」こそ私が追いたいものだと、少し捕まえたと思った。自然現象の知覚によって湧き上がる自分の感覚との鮮烈な出逢いだった。
諏訪さんWEBサイト引用:http://aoisuwa.info/
彼女の作品「ツギハギの位相」は鏡、ディスプレイ、木の枠、中身が異なるフレームが連立した立体作品です。この作品を前にすると、まずこのフレームがなんなのかを自分の体を使って検証しようと思います。一方は自分をリアルタイムで映す鏡、一方はどこかしらのカメラから自分を撮影している動画、そしてただそこにある景色を提示するだけの木の枠。
鏡かと思ったら動画であり、自分を写している動画かと思って覗き込むと何もなかったりと、ただのフレームかと思いきや鏡であったり、予想に反する結果から自分の身体性に対するある種のハッキングがなされているような錯覚に陥ります。これは自己鏡像認知という、鏡を見て自分の姿を認識できるかという認知実験に通じるものがあると感じました。ゾウ、カラス、イルカなど一般的に頭のいいとされている動物で実証されていますが、そんな動物でも鏡を見て一発で自分と認識することはありません。まずは社会的行動(攻撃行動)をとり、そこから視覚情報と身体情報をすり合わせていき徐々に自分であると認識していきます。本作品はそんな過程を逆行させうる実験器具のように思えました。
今回諏訪さんの許諾をもらい、実験的方向からの解釈をテキスト化し作品のキャプションとして展示しました。
期間中、観覧者は作品を不思議そうに覗き込んでおり、彼らがあたかも大きな実験の体系に組み込まれている、そんな奇妙な状況が生じていました。
アーティストの頭の中にある空想に、客観をベースとしながら主観も取り入れてハシゴをかけていくLaddART Projectは、今後もさまざまな方面で展開して行きたいと思います。
ナナナナ祭や会いに行ける科学者フェス、サイエンスアゴラでも展示してきたロンブンアート。今回は音楽という面をアップデートしました。論文に触れて生じるクリエイティブに対して、「自分の研究もやってほしい」、「論文が読んでみたい」など研究者や一般の人から異なる感想を聞くことができました。
今後もさまざまなクリエイターを巻き込み、引き続きいろいろなジャンルの研究を発信していきたいと思います。
今回、実制作だけでなく、クリエイターへのディレクション、プロジェクトの立ち上げ、そしてキュレーションなどさまざまな役割から作品を展示することができました。特に既存の作品に対して学術的な解釈をつけることで、その作品に新たな奥行きをもたらすといったことも実現することができました。改めてご協力いただいた諏訪さんに感謝申し上げます。
これからも日常を営む人々に対して、作品に触れた一瞬だけでも世界が揺れる体験を作っていけたらと思います。