獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
SHISHIMAI habitat city (Shibuya edition)
獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
昨年10月、収穫を終えた田んぼに突如、獅子舞が現れました。
これは、100BANCHでお米づくりをさせてもらっている徳島県・神山町の皆さまのご支援と、実りへの感謝を捧げるため、「獅子舞生息可能性都市」プロジェクトの稲村行真が「神山のお米」をテーマに獅子舞を創作、町内を演舞したものです。
その滞在制作期間中に掘り起こした地域の獅子舞文化の歴史や、稲村たちが思う「獅子舞生息可能性」を地域の人に伝えるため、3月26日に徳島県・神山町にて獅子舞研究報告会を実施しました。イベントでは、今年の2月に発行した『獅子舞生息可能性都市』という本の内容にも触れながら、地域と獅子舞との関わりや獅子舞の視点から見た街のあり方を存分に語りました。
神山での獅子舞制作に至った経緯やイベント当日の模様を、企画した稲村が振り返ります。
「獅子舞生息可能性都市」の活動を行っている稲村です。まずは、徳島県神山町に滞在することになったきっかけから、振り返りましょう。2022年8月、獅子の歯ブラシは100BANCHを拠点として東京都渋谷区の獅子舞(シシ)を制作しました。
日本全国300件以上の獅子舞を取材してきた知見を生かし、渋谷に獅子舞が生息するとしたら道順、舞い方、獅子のデザイン等はどうなるのか?を想定し、実際に舞い歩きました。獅子舞の生息は「経済的な余剰」「空間的な余白」「他人に対する寛容さ」など様々な既存概念とリンクします。
結果として渋谷では獅子舞が舞える場所は少ないと感じました。そのため舞場を吟味する必要性を感じ、舞える空間のみで音を流し舞うという、スイッチのオンオフがはっきりと分かれた獅子舞となりました。この経験と気づきによって、空間の余白に対して敏感で意識的になるための重要な手法を確立できたように思います。
その後、渋谷での獅子舞が好評だったため、100BANCHのサテライト拠点がある徳島県神山町で、お米の収穫が行われた際に「収穫祭の獅子舞をしてみては?」とお誘いを受けました。
ただ単に舞うのではなく、現地の様子を見てみることで獅子舞のイメージが湧いてくると思ったので、2022年9月25日~10月2日の日程で、神山町に滞在させてもらうことにしました。
今回、急遽の滞在のお話だったので、アーティストユニット「獅子の歯ブラシ」のメンバーの中では、稲村のみが滞在。他の2人は遠隔でミーティングをするなど関わってもらうことにしました。ある意味、サテライトオフィスが有名な神山ならではの関わり方をしてもらったように思います。神山町ではお米の脱穀や乾燥、精米といった農作業を始め、竹の伐採、現地の獅子舞のリサーチを行うことができました。
田んぼからとれたお米
竹林の伐採
公民館に保管された獅子頭(神山町阿川)
これらの活動からヒントを得て、獅子舞(シシ)を制作しました。獅子頭、胴体、楽器まで、一人で何度もやり直しながら作りました。獅子舞の演舞では、舞うのと同時に獅子につけられたお囃子(竹)が音を奏でるという連動性があり、「獅子が動けば音も鳴る」という形態の獅子となりました。音は鳴らそうとして鳴らすのではなく、神山という自然とそこに接続しようとする自分の身体との間で、自然に鳴るものです。
10月1日に神山町内でこのシシを舞い歩きました。
このシシの形態は「何でも自分で作れる」農家さんをはじめ食べ物の美味しい調理方法を知っていたり、竹の伐採をスムーズにこなせたりする神山町の住民たちの自然資源との向き合い方と重なるところがあります。食べ物はスーパーに売られている表層しか見えてこない「商品」が全てではなくて、お米ひとつとっても、収穫、脱穀、乾燥、精米と様々な工程を踏んで、食べられるお米になっていることを肌で感じました。あれほど広大な田んぼで、とれるお米はこれだけなのか!と驚きました。
自分自身、農家さんのお手伝いとシシづくりの両立をしたことによって、「1から何かを作ることができる人」として生きる力が少しは身についた気がします。土地の暮らしから湧き上がる獅子を創造する意味でも、新しいアプローチを生み出すことができたと言えます。
なお、後日、100BANCHで神山でとれたお米をいただく収穫祭を実施した時、神山で制作した獅子舞演舞を奉納させていただきました。(収穫祭のレポートはこちら)
シシづくりから約半年がすぎました。昨秋の神山滞在の時に行った獅子舞のリサーチをまとめ、この度は研究報告会を開くこととなりました。2月24日から26日の日程で滞在。最終日の26日に、報告会を開くという流れでした。
獅子舞団体さんを中心に地域の方に、お越しいただきました。神山の獅子舞の特徴、獅子舞視点で見た町について、獅子舞の生息しやすさなど、お話ししました。
また、高浜獅子舞の皆さんに演舞いただきました!太鼓や拍子木の音がずしんと重く、鳴り物の力を感じました。穏やかなビジュアルの獅子舞が勇ましく舞う感じもギャップがあって良かったです。 お越しいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
神山町の獅子舞を調査&演舞していく中でわかったことは、まず、人の気質や空間的な余白という観点からは、神山の獅子舞生息可能性はとても高いということでした。ただ、人口減少が進んでいるうえ、家やコミュニティが点在する地形ゆえに、継承が難しい側面もあります。
そのような経緯もあってか、全国的に見れば、「30歳で引退」というところも多いのですが、神山町の場合は80歳の担い手さんもおられます。ご高齢の方でもとっても若々しくて、 獅子舞を元気にされている方が多いです。どんな秘訣があるんだろう?と考えてみました。
まずは畑仕事や庭の剪定など、 普段から体を動かしている方が多いです。それと、 斜面が急でくねくねした道が多い分、複雑な地形のなかで生き抜く知恵が身についたのかもしれない、などと想像しています。
また、救急車が通りかかった際に「誰が運ばれたんだろう?」などという会話もありました。このように人に関心を持つという姿勢は、獅子舞の生息には、非常に重要な観点です。
渋谷と神山、双方の獅子舞(シシ)を作ってみて、その比較の中から地域の人々が何を大事に暮らしているのかが、垣間見えたように思います。獅子舞生息可能性を考えることで、未来の暮らしのあり方を、これからも考えていきます。
2023年2月に、100BANCHから新著を出させていただきました!タイトルは『獅子舞生息可能性都市』。
日本全国300件以上の獅子舞を取材し、獅子舞がいないところではその姿を妄想し、獅子舞を制作して舞い歩くこともする僕の視点から、地域の暮らしを考えました。獅子舞の生息可能性とその先にある未来について語っています。100BANCHおよび100BANCHのEC Shopでも購入できますので、ぜひご一読を!