• イベントレポート

参加型ミュージカルで観劇がより身近に! 「MINORU: Scrape the Sky」ワークショップ最終日公開イベントを開催

ニューヨークのワールドトレードセンター(世界貿易センター​​)を設計した日系アメリカ人建築家、ミノル・ヤマサキ氏の人生を描いたオリジナルミュージカル「MINORU: Scrape the Sky」の制作を行う「MINORU: Scrape the Sky Reading Project」は、日本語版の制作ワークショップを5日間かけて実施。最終日となる2月11日の通し稽古では、100BANCHの3F・LOFTを舞台に、稽古を観て、作品に対するフィードバックをくれる参加者を募り、ミュージカルを公開いたしました。

ミュージカル作家、演出家、役者、クリエイティブスタッフのコラボレーションにより、約2時間15分のミュージカルの上演、そしてその後観客から作品に対するフィードバックをもらうためのディスカッションを設けました。

渋谷の街を、オリジナルミュージカルの聖地へ

日本におけるミュージカルの制作とは、確実に利益を出すために、成功が約束された作品のみ大劇場での公演を行えるという考え方が一般的です。そのために、海外で成功したことがある作品や、アニメや映画などすでにファンがついている実績がある作品がミュージカルとして上演されることがほとんどです。更に、利益を上げるために物語に合うキャラクターやスキルよりも、有名であることを優先したキャスティングが行われていることもあります。

こういった背景から、ミュージカルは一部のコアなファンのみに開かれたもので、今までミュージカルを見たことがない人が足を踏み入れるには、映画やアニメを見ることと比べると敷居が高くなっています。

そのため私たちは、心理的ハードルの低い参加型ミュージカルイベントを行うことで、今までミュージカルに積極的に足を伸ばしてこなかった方たちとの接点を設け、観劇文化を生み出す最初のステップを作りたいと思い今回ワークショップの公開を行いました。

その中で以下3点を大切にしたイベント作りを行いました。

  • アクセスがしやすい場所
  • 低価格な参加料
  • 制作者の想いに共感できる参加型イベント

これを実現するため、制作途中のミュージカルを、ピアノと役者と譜面台だけがある簡易版にて、100BANCHの3Fイベントスペースで発表し、お客さんにもフィードバックをもらう「参加型イベント」とすることで、低価格で、気軽に参加していただけるイベント作りを目指しました。そして、この取り組みをきっかけに、オリジナルミュージカルを観ることに興味を持っていただける人を増やしていきたいと思っています。

 

まだ知られていない、日系アメリカ人建築家の偉業へ敬意を込めて

オリジナルミュージカル「MINORU: Scrape the Sky」は、ワールドトレードセンターを設計した建築家で日系アメリカ人2世のミノル・ヤマサキが、“日本人”という劣等感を感じながらも、自らのアイデンティティや美的感覚を探し求め、当時ピラミッド以降最大の建築プロジェクトと呼ばれたワールドトレードセンターを設計する建築家となった軌跡を描いたミュージカルです。

彼はアメリカでも、日本でもほとんど知られておらず、またワールドトレードセンターを手掛けた建築家を想像した時に、ほとんどの人が思い浮かべる人物像は白人です。日本にルーツを持ち、世界の発展に貢献した偉人の1人として彼の人生を私たちのミュージカルから日本に広めていきたい、という想いで今回のミュージカルの発表を行いました。

 

クリエイティブチームと役者、そして学校とのコラボレーションで生まれるミュージカル

今回、日本語版に作り替えた新作「MINORU: Scrape the Sky」の発表を行いました。そのため、公開前4日間のワークショップでは、演出家、役者、脚本・作詞・作曲家たちが、意見を出し合いながら作品の改訂に改訂を重ね、公開当日の朝まで脚本や音楽の変更を行ってきました。そのため、最初から最後まで通しでミュージカルを発表するのは公開日が初めてとなりました。完全に準備ができた状態での発表とはなりませんでしたが、すでに完成した作品をトップダウンで制作するのではなく、全員が対等に意見を出し合いながら、一緒に作品作りを行う過程に重きを置くことで、劇場公演では感じにくい熱気や良い緊張感が観にきてくれた参加者に伝わり、「作品を応援したい」という気持ちの醸成を行うことができたのではないかと思います。

また、今回東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校の先生、生徒、卒業生の皆様にも制作ワークショップに役者、スタッフとしてご参加いただきました。学校の授業の中では見る機会の少ない制作の現場に入っていただき、それぞれの役割が持つ視点や、スピード感を体感し、プロのミュージカル役者と一緒に作品を作り上げていただくことで、教育という視点でもオリジナルミュージカルの重要性を感じていただけたのではないかと思っています。

たった5日間の挑戦ではありましたが、企画段階で想定していたより広く協力者や参加者を巻き込むことができたことは感慨深いです。

 

ミュージカルの敷居を下げるという挑戦への希望と課題

今回のイベントには、当初予定していた30名を超えた約50名の参加者を迎えることができました。この中には、演劇関係者だけでなく、普段はミュージカルを観ない方たちも私たちの活動の応援に駆けつけてくださりました。これは、もちろん主催者との関係性によるものも大きいですが、渋谷の駅近で肩肘張らずに参加できるイベント、という理由から足を運んで下さった方もいらっしゃいました。その状況から、ミュージカルの敷居を下げるという挑戦は、工夫次第で続けていく価値のあるものと実感いたしました。

一方、初めての通し稽古を発表当日に行ったため、想定より大幅にミュージカルの公演時間が伸びてしまいました。そのため、機能面で敷居を下げられたのに対して、コンテンツの中身の面ではミュージカルをよほど好きでないと耐えられないボリュームになっていたと思います。今後は、20分や30分ほどの短いミュージカルをいくつか発表し、出入り自由にすることで、気軽に参加できるイベントの仕組みづくりを検討していきたいと思います。

ご協力ありがとうございました!

 

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