- リーダーインタビュー
「道草を楽しめ」予想外が人生を豊かにする DELIVERY DRAWING PROJECT:山口塁
2018年7月1日〜8日に開催され大盛況のうちに終了した、100BANCHの1周年を記念する夏の文化祭「ナナナナ祭」。
ここでは「ナナナナ祭」で行われたシンポジウム「サラリーマン解放宣言〜人生100年時代の働き方」の様子をレポートします。
「サラリーマン」。
この言葉はあなたにとってポジティブなイメージですか、それともネガティブなイメージを持ちますか。
20世紀からもてはやされた年功序列や終身雇用などの雇用制度が崩壊するとともに、2010年代に入り、サラリーマンの働き方はますます多様な変化を遂げています。働く事は生きること。ワークとライフの境界線がなくなり、「いかに自分らしく人生を送るか」が年々重要になっているように思われます。
シンポジウムでは、「サラリーマン」の画一的な働き方を刷新するべく、自らも社会も気持ちのいい多様な働き方を探り、次の時代の働き方について考えました。
この日の参加者は85名と大盛況。仕事帰りのサラリーマンも多く駆けつけるなど、この会の期待度の高さがうかがえました。
はじめに100BANCHのオーガナイザーで、パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室の則武里恵は、このシンポジウムの目的について以下のように話しました。
則武:現代の日本では「サラリーマン」という言葉に、ワクワク感を覚える人が少ないように感じます。その、ネガティブなイメージを前向きに見直せないかと思い、このシンポジウムを企画しました。
タイトルには、「サラリーマンの存在に抑圧されている何かがあれば、それを解放したい」「自分の創造性や人間性を解放して生き生きと働いてほしい」、その2つの“解放”の意味を込めて「サラリーマン解放宣言と名付けました。この時間を通して、サラリーマンという名称をアップデートし、働き方についての再定義をしていきたいと思います。
いよいよシンポジウムがスタート。
前半は会社で働きながら、個人としても幅広い活動をする3名のゲストが登壇し、それぞれの活動を紹介しました。
1986年にパナソニック株式会社に入社した小川さん。「今まで1度もサラリーマンだと思ったことがない」と話します。
社会人になる前、小川さんは「音」と「バイオ」、どちらかに関する仕事に就きたいと考え、最終的に音の分野を選びパナソニックに入社。音響研究所に配属され音響心理や音響機器の研究開発に携わることに。「やりたい分野で社会人をスタートできたので、『こんなに毎日が面白くていいんだろうか』と思うほどだったといいます。
転機は突然やってきます。30歳を間近に、音響研究所が閉鎖し部署異動に。「やりたいこともできず、ここで人生終わりかも。会社を辞めようかな」と思ったこともあったそうです。
そんなとき、ジャズドラマーとしても活動する上司の誘いもあり、会社員とジャズピアニストの二足のわらじを履くことを決意。周囲に「なんて中途半端なやつなんだ」と言われることもありましたが、「私は二足のわらじをやり通すんだ」と強い意志を持ち両方を徹底したといいます。
その後、eネット事業本部を経て、社会貢献などをおこなうCSR事業部へ異動、現在は音響機器向けブランド テクニクスの事業に携わっています。
一方、ジャズピアニストの活動に関しては、アメリカ・フロリダで開催されるインターナショナル・ジャズ・フェスティバルに出演するなど、日本のみならず海外でも活躍。「一流のミュージシャンとの共演や出会いによって、まわりから引き出される能力があると気付いた」と語ります。これまでに14枚のCDをリリース。現在も平日は会社員、週末はジャズピアニストという生活を続けています。
2007年にNTT西日本に入社した新田さん。入社後はフレッツ光のインフラ構築や設計などのエンジニアの仕事に携わります。「20代後半からは、研究開発ではなくビジネスをやっていきたい」との思いが強くなり、NTT持ち株会社の研究所に転籍、インフラを構成するハードの実用化開発を担当します。その後、NTT西日本に戻りフレッツテレビのサービス主管でB2B2C向けの機能開発やアライアンス事業に取り組みました。
30歳を目前に、新田さんは「自分のキャリアを考えたときに、自分は外の世界で通用する力が身についているのか」と不安になったといいます。そんなとき、社内で「レンタル移籍」制度が導入されました。
それに目を付け「大企業ではできないことをやってみたい」と考えた新田さんは、「事業の立ち上げができること」、「小規模であること」、「グローバルであること」の3つのポイントを持ち、レンタル移籍先を検討。企業間レンタル移籍プラットフォーム「ローンディール」を利用し、2017年に排泄の悩みや負担を軽減するソリューション『DFree』を企画・開発・販売するスタートアップのトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社へ出向、在宅介護領域の事業立ち上げに携わっています。
大企業からスタートアップに出向したことで、「改善サイクルが早いなど、サービスの作り上げ方が全く違うこと」、「不確実な中で決断をするので、スピード感が早いこと」、「当事者意識が強く、熱量がすごいこと」を強く感じたといいます。加えて「日々、仕事や同僚に感化され楽しい」と語りました。
株式会社アシックスに新卒入社した伏見さんは、プロダクトデザイナーとしてシューズデザインを担当。その後、部署異動を果たしマーケティングやブランディングに携わることに。
異動を通して「デザインを書くだけより、デザインを生かすことの方が仕事の幅が広がっておもしろい」と感じたそうです。反面、一方で、自身にデザイン以外の知識が少ないと実感した伏見さんは、「知識の境界を越える必要がある」と考え、休日や就労後の時間を使い、多くのイベントやワークショップなどに参加し学びを得たといいます。
30歳を手前に、「デザインマネジメントの仕事がしたい」とamadana株式会社に転職、現在は企業の新商品開発やブランド監修を手がけるクリエイティブソリューション事業のストラテジックデザイナーを務めています。
今年、amadana株式会社は「個人がインプット・アウトプットを行い、新しい自分を創造する日」として、週に1回のクリエイティブ休暇を導入、週休3日となりました。「会社の中だけで考えても新しいことは生まれない」「新しいことは既存の要素と、新しい要素の組み合わせが必要」という考えを持つ伏見さんは、休暇制度を活用し、軟式野球クラブチームの運営や学童チームのコーチング、ワークショップデザイナーとしても活動しています。
あわせて、行動することの重要性についても触れ、「行動が不安の解消や自信の獲得にもなり、アイデアの引き出しが増えていくと思う」と語りました。
ゲストの活動紹介を経て、後半は参加者から質問を募り、ゲストとクロストークを繰り広げました。
質問:やりたい仕事ができない環境になった場合、どのように仕事の面白さを見いだしましたか?
小川:自分のぶれない軸を持つことが重要だと思います。私の場合、音という軸を物差しにして常に仕事に楽しみを作っていました。音と関係ないようなCSR事業部へ移ったときでも、「音で社会貢献もできるはずだ」と考え、NPOやNGOの人たちと一緒に、チャリティーコンサートを企画したこともありました。業務が変わったとしても、そこで楽しみを見つけながら自分の強みや軸をセンターに置いてやってきたと思います。
伏見:自分の軸を多方面に繋げられる視点があれば、自分が活躍できるイメージを作りやすいですよね。
小川:それが個性だと思うんです。1960〜70年代くらいの日本企業は個性を埋没させていたけれど、今は個性花盛りだから、いろいろなことに挑戦できると思います。
「みんな違って当たり前。一人一人が自分の役割を決められていて、それを一生懸命やること打ち込むことが個性を生かすことなんだ」という、パナソニック創始者の松下幸之助の言葉を見つけて感動して以来、私は若い人たちにその言葉を伝えるようにしています。
質問:自分の軸が分かりません。軸を見つける方法はありますか?
伏見:動くしかないと思います。今ある世界から一歩踏み出すことで、「おれって結構できるじゃん」と自信を得られたり、「まわりには、すごい人が沢山いる」と焦ったりできる。
とにかく新しいことに挑んで、いろいろな発見をしていけば、自分の軸が見つかる可能性は広がると思います。
新田:自分の軸が分からない人は、外に出てみることも何かのきっかけになるかもしれませんよね。
小川:私は壁にぶつかることばかりで自信もなかったから、軸なんて全く分からなかった。常に「本当に自分はこのままでいいのか」と思っていたけど、とにかく目の前のことに打ち込んで、自分が楽しい方向を探してきました。
誰でもひとつは好きなことや得意なことがあると思うので、そこから突破口となる自分の強みが見つかるんじゃないかな。
質問:世の中で「ライフとワークの垣根をなくす」という考えが広がりつつあります。この2つの領域についてどう捉えていますか?
伏見:ワークで出たストレスは、ワークで解決しない限りストレスのままだと思います。ライフがいかに楽しくても、ワークに戻れば「苦しい」と話す人も多いので、この2つは切り離そうとしても切り離せない。
僕は「ワークとライフを融合すること」と「好きなことで活動すること」が実現に近づけば、自分で人生の主導権を握ることが可能になり、気持ちが楽になると思います。
新田:20代の頃は仕事以外で楽しさを見つけようと、月に一回くらいは海外旅行をしていました。でも、帰って日常に戻ると「結局、何も変わらないな」って悶々として(笑)。
その頃から「どれだけ休みが楽しくても、仕事が楽しくないと人生が充実しない」とうっすら気付いていました。今の会社に入って、めちゃくちゃ忙しいけど、心は前より疲弊していない気がします。
それは、「自分がやらないと、会社が動かない」と感じられるようになり、伏見さんの話す「人生の主導権」を体感できたからだと思います。
クロストークは他にも、「大企業とスタートアップでは、どちらが成長できるのか」「同僚とうまく協調しながら、自分のやりたいことはできるのか」など、多岐にわたった議題について、ゲストと参加者で一緒に考えました。
最後に参加者同士で働くことについての意見を共有しつつ、それぞれが「普段何に縛られ、何を解放したいか」について話し合い、アップデートされた「サラリーマン」の名称を考えました。
参加者は、「ジブン・ブランドホルダー」「ノーリスク・ワーカー」「Freeマン」「デザインワーカー」「ライフコーディネーター」「働きGUY 働きたGIRL」「Life Maker」「ライフオーナー」など、新しい「サラリーマン」の名称を発表しました。
画一的なサラリーマン像が変化し、働くこと、生きることの新たな価値観が生まれた今回のシンポジウム。この機会をきっかけに、サラリーマンのイメージがネガティブからポジティブなものへと解放される日も近いかもしれません。
イベント終了後も、参加者同士で交流を図り、会場は終始熱気に包まれていました。