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一人でも応援すれば採択!Garage Program審査会は「熱量」が決め手 [3日目]
7月7日にオープンを迎えたこれからの100年をつくる実験区100BANCH。その中心は、35歳未満の若者リーダーによる野心的なプロジェクトを支援するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。現在第2弾の募集(2017年7月24日締切)を行っており、8月上旬に次回の審査会を実施予定です。
エントリーを考えている若者へ、審査会ではどんな手法で、どんな視点でメンターがプロジェクトを選んでいるのかを参考にしてもらいたく、100BANCH編集部の目線で、第1弾の審査会の模様をお伝えします。
第1弾のエントリーは68件! その内容も、昆虫食、木製ロボット製作、全く新しい翻訳ツール、スマート民泊サービスからふんどしの普及まで、実にバラエティ豊かなものに。
審査するメンターは、メディアアーティスト、ベンチャーキャピタル、生命科学研究者、ウェブメディア編集長、IoTイノベーター、写真家、コンサルタント、バー店主……などなど、多士済々な面々。しかしそれぞれの分野で最もユニークな取り組みをしているメンターたちが一堂に集合し、あふれんばかりのアイデアと熱意が詰まった計画書のすべてを査読してきました。
採択するプロジェクトの選定方法はシンプル。メンターが、プロジェクトを「おもしろい」「可能性がある」と判断し、自ら支援したいと手を上げれば、採択となります。審査会では、各プロジェクトを誰が担当するかをめぐって、そこかしこで「自分がやりたい!」「私も!」と、まるでプロ野球のドラフト会議さながらの熱い争奪戦が繰り広げられました。
メンターが採択したいと手を上げれば採択決定というシンプルな審査方法
審査会の口火を切ったのは、落合陽一さん。開口一番、「このコオロギの大量生産技術の確立及び養魚飼料としての普及というECOLOGGIEは、かなり面白いですよ」と、ユニークなプロジェクトを持ち出しました。
「日本は人口減少フェーズに入っているけれど、世界的に見ればまだまだ人口は増えるので、繁殖力の高いタンパク質はけっこう重要と言われていて。ヨーロッパではすでに、昆虫を使ったシリアルバーなんかも売ってますよね」という落合さん。
タンパク質を作るためのエネルギー効率が哺乳類などと比べて非常に優れていると言われている昆虫。多くの人はゲテモノ扱いしますが、実は、イナゴや蜂の子など世界的にも歴史の深い食文化であり、また、これから資源が枯渇し人口は増加していくであろう未来の世界を救う一つのキーワードになっています。
世界の多くの国々がその有用性に着目し、2013年には国連の食料農業機関(FAO)が「食用昆虫─食料と飼料の安全保障に向けた将来の展望─」と題したレポートを発表。また、ベルギーでも昆虫食認可の条例が出されたり、フランスではすでに昆虫食の輸出会社も誕生するなど、全世界で昆虫食への意識は高まっているのです。
ロフトワークの林千晶が落合さんの提言に応え、「昆虫食は世界的なトレンドだけど、栄養分の高い種の選定と、育てるノウハウがポイントになるはず」と発言。「ゲノム解析で選抜し、日本の風土に合って、かつ栄養価が高い昆虫を育てられるようにバックアップできると面白いですね」と運用の際のアイデアを出せば、お次はゲノム科学を応用して作物の品種改良などに取り組む生命科学研究者である岩田佳洋さんの出番。「実は、私も虫のゲノム解析による選抜をずっとやってみたいと思ってるんですよ」と目を輝かせます。
また、メンター陣が着目したのが、トピックのユニークさだけでなく、その裏付けとなる資料やマネジメントの計画がしっかりしているかどうか。「資料を見ると、しっかりコオロギを研究している」(落合)「これ、100BANCHで仮に採択しなくても、自力でそれなりのベンチャーを立ち上げるだろうなというくらい、よく出来てますね。すでにいろんな賞をとっているようだけど、ぜひバックアップしたい」(岩田)といった声が続出しました。
自身のラボでも昆虫食を研究していると語る落合陽一さん
さらに、もう一つ評価されたポイントが「ただの養殖ではない」ということ。湿度をセンターでモニタリングするための機材選定などといったテクノロジー開発の要素や、人間が食べるだけではなく「魚の餌にしよう」という、食糧問題の二次的解決に向かう視点が含まれていること。「ITとバイオの両面でバックアップしつつ、ゴールが一段階遠いところに設定されてる。目のつけどころがいい」(落合)と、メンター各位絶賛でした。
その一方、カフェ・カンパニー代表の楠本修二郎さんは、自身の「食という体験を提供する」というバックグラウンドから、もう一つの昆虫食プロジェクト「Future Insect Eating」を推します。こちらは「美味しい昆虫料理のデザイン」をメインテーマにしたプロジェクト。「人はこれから昆虫を食べるようになっていかないとだめだろうと思っています。このプロジェクトは社会への問題提起にとどまらず、ちゃんとレシピとして、エンターテインメントとしても成立しそうなところが面白い」と太鼓判を押します。
昆虫食への前向きな意見を語るカフェ・カンパニー代表の楠本修二郎さん
1つのテーマでまったく違う2種類のプロジェクトが登場するのが「昆虫食」というトピックに対する関心の高さの現れと言えるでしょう。同時に、それを複眼的な視点から検討することができるのは、100BANCHの個性豊かなメンター陣だからこそ。なんとなく、「昆虫食、面白いかも」と思えてきませんか。
「うちのラボでは、実は昆虫食の研究もやっているんです」という落合さんの言葉を借りるなら、「コオロギやバッタも、エビフライの尻尾が食べられる人なら、美味しく食べられます(笑)」とのこと。「おもしろい」から一歩進んで「食べてみたい」とみなさんが思うようなプロジェクトが、100BANCHでは今後進んでいくかもしれません。
各プロジェクトのゴールはさまざまですが、昆虫食のような「コンセプト追求型」の他に、目立ったのが「プロダクト提案型」と「ライフ/ワークシフト型」のプラン。いずれも、時代性をキャッチした上でいかにユニークなアウトプットを描けるのか、メンターたちの想像力も刺激され、場は大いに盛り上がりました。
元パナソニックの社員でもあり、現在はIoTを取り入れたハードウェアを開発をする岩佐琢磨さんが一番興味を示したのが、「Fukidashi」というプロジェクト。「翻訳が吹き出し型のデバイスに表示されるのって、面白いな。アウトプットが明確に見えるというのはすごくいい」。グローバル社会の進展とともに、これから先の未来で自動翻訳ツールのニーズは高くなる一方。そんな中、今や世界共通のアイコンとなった「MANGA」の吹き出しをディスプレイにするというアプローチは、誰もが実現された世界をイメージしやすいというわけです。
「概念だけじゃなくて、物理的なのもすごくいい」(岩佐)、「キャッチーで美しいと思います」(坊垣)など、ひとひねりしたそのユーモアとアイデアに、メンター一同、「一本取られた」という表情でした。
ハードウェアスタートアップの先駆けであるCerevo岩佐琢磨さん
渋谷区長の長谷部健さん。渋谷という街の特性とのシナジーが期待できるプロジェクトをピックアップ
メンターの中には、渋谷区長である長谷部健さんも。これからの渋谷の20年構想として「多様性」をキーワードのひとつに掲げる長谷部さんだけに、取り上げたのは、いま何かと話題を集めがちな「民泊」というトピック。「誰でもスマホ1つでホテルが経営できるというプロジェクトは、発想が面白いですね。民泊経営に興味はあるけれど管理や運用が大変ということで二の足を踏む人も多いでしょうから、スマホ1つあれば参入できるというなら、みんなやりたくなるでしょう」
2020年のオリンピックをひとつのマイルストーンにしつつ、2027年まで続く予定の再開発が行われている渋谷エリアですが、観光客などを収容する宿泊施設の不足や、バリアフリーなどの拡充は大きな問題。それを解決するにあたって「行政ができることは行政が、民間でできることは民間でやればいい」とも述べた長谷部区長のオープンなスタンスが垣間見えるセレクトです。
新たな働き方の良き相談役になっている横石崇さん
「TOKYO WORK DESIGN WEEK」のオーガナイズなど、これからの時代の働き方を開拓する活動を続ける横石崇さんが興味を惹かれたのは、「SHIBUYA GREEN CARD」。渋谷の各地に連携するスペースを作り、ハコモノを作るのとは違うコワーキングスペースのネットワークを構築しようというプロジェクトです。これは、実はもともと長谷部さんと一緒に「やりたいね」と言っていたプランに近いのだとか。
「このところ20代、30代の『働き方を変えたい』という人と、毎日のように会っているんです」と語る横石さん。民泊に関しても同様ですが、滞在する/働くといった、これまで固定化されたひとつの場所や組織に強固に紐づけられていた行為を「流動的にしてみよう」という動きがこれからの時代の大きな関心事の一つになっていくことを象徴するこの2つのプロジェクトが評価されたのも、100BANCHメンター陣自身がその先頭を切って走っているからに他なりません。
思えば、渋谷はかつて90年代末にいくつものIT 企業が次々と誕生し、「ビットバレー」と呼ばれた場所。さらに遡れば、80年代パルコ文化など、渋谷という街には常に「新しい働き方・新しい価値観」が芽吹く土壌がありました。そうした渋谷という街の磁場を考えても、この先のライフスタイルやワークスタイルのシフトに関わるプロジェクトと100BANCHの相性は、バッチリなのかもしれません。
このように、プロジェクト一つ一つについて「ここが面白い!」「自分なら、この部分でもっと面白くサポートできます」といった、自由闊達な雰囲気で審査は進行。約2時間に及んだ審査会ですが、メンターの皆さんの集中力と熱意、そして議論は尽きることなく、時間はあっという間に過ぎていきました。
プロジェクトの個性とメンターの個性がぶつかり合って、これからどんな化学反応が起こっていくのか。新たなプロジェクトの主役となりたい方は、ぜひエントリーを。ストーリーを目撃者したい方は、ぜひ100BANCHに足を運んでみてください。
GARAGE Programでは、野望を持ったU35のプロジェクトリーダーによる、これからの100年をつくるプロジェクトを随時公募していきます。審査を通過したプロジェクトチームは、メンターによる支援が受けられるだけでなく、100BANCHの2F、3Fのスペースを無償で利用可能です。公募に関する詳細はこちらをご覧ください。