• イベントレポート

“遥かなる他者へのアップサイクルデザイン”の実験──ナナナナ祭2025を終えて

リメイクデザインAIで、たのしいサーキュラーエコノミーを目指すプロジェクトHIZUMI。開発したリメイクデザイン生成AIシステムを活用し、着なくなった服から新たなデザインを生み出すことに取り組んでいます。

今回は、ナナナナ祭2025にて行った新たなアップサイクルの試み「遥かなる他者へのアップサイクルデザイン」についてHIZUMIプロジェクトの加藤がレポートします。

「ただ捨てる」から「他者へ託す」へ。

そんな発想の転換を支えるのは、人の手による創造とAIによる価値の見立てでした。刺繍という直感的な手法を入り口に、ファッションと循環、そして経済合理性をつなぐ社会実験を行いました。

 

1. テキストから刺繍へ——AIが価値をつけるアップサイクルの社会実験

ナナナナ祭2025でHIZUMIが実施したのは、来場者が入力したテキストからAIが刺繍デザインを生成し、その刺繍を古着に施すという体験型の展示でした。生成された刺繍デザインには、さらにAIによる“査定額”がつけられ、その価値に応じて他者との服の交換や、アイテムとの引き換えができる仕組みです。

捨てられるはずだった服に「意味」が与えられ、「価値」が生まれる——。このプロセスそのものが、ファッションと経済、テクノロジーのあいだに新たな接続を作る試みでした。今回の展示のために、刺繍がしやすいデザインを生成する画像生成AIの開発と、刺繍の価格を査定するAIの制作も行いました。昨年度に続き、HIZUMIはナナナナ祭にて最新の技術の棚卸しをすることに挑戦していますが、今回はシステムだけではなく、査定AIの筐体の設計にも挑戦し、アップサイクルの未来をブース全体で表現しました。

 

2. 刺繍への熱狂と、想定外の反響

来場者の反応の中でもっとも目立ったのは、AIによる刺繍生成の面白さと、それをその場で実際に服に刺繍ができる体験への高い熱量でした。「自分の服にもやってほしい!」という声が絶えず、刺繍待ちの列ができるほどの人気に!!!想定外に忙しくなり大変でしたが、新たなアップサイクルのカタチが目の前でお客さんの価値になっているのはとても嬉しかったです!

一方で、査定や循環の話にまで時間を割けなかった点は課題でもありました。刺繍という行為の強い魅力に対して、「アップサイクルの未来」や「服の価値の再構築」といった深いテーマとのバランスをどう設計するか——今後に向けた重要な問いが生まれました。

生成された刺繍デザインは3日間で100個を超えた。(みなさん素敵!)

 

3. 自分の創造が、他者の価値になる未来へ

今回の実験でHIZUMIがもっとも検証したかったのは、「人の創造行為に、AIが価値を見立てることで、アップサイクルが経済的にも機能しうるのか?」という仮説です。

体験者の中には、自分が作った刺繍デザインが施された服を見て「手頃だ」と感じて購入する人もいれば、「思ったより高い」と驚く人もいました。多くの人が「AIはどの部分を見て値段を決めているのか?」に興味を持ち、何度もやり直しながら試していました。その様子は、自分のデザインを誰かにとってもっと価値あるものにしたいという気持ちが表れていて、真剣さと楽しさが入り混じった熱中した体験になっていました。

あえて値付けの仕組みをブラックボックスにしたことで、体験者の方は一度で終わらず、工夫しながら繰り返し挑戦していました。その試行錯誤のプロセス自体が、創造と経済をつなぐ行為になっていると思います。

実際に刺繍を施した服を購入した人も十人ほどいました。その中の一人はアフリカにルーツを持つ方で、「新品では気に入った虎の刺繍の服を見つけられないから」という理由で、自分でデザインした虎の刺繍の服を二着も買ってくれました。

また、今回はHIZUMIとして、他のプロジェクトへの技術的な支援にも積極的に取り組みました!技術の力で一人ひとりの「やりたい」を形にできる世界は、自分たちが目指している世界なので、ナナナナ祭を通してそれを実際に体現できたのは本当によかったなと思います。

今回の展示での成果を踏まえて、人の経済的な動機という新たなインセンティブを含めたAIアップサイクルシステムを構想し、さらに刺繍だけでなくより多様なアップサイクル行為を対象に、“個人の表現”と“社会の価値”を接続するAIシステムの開発を進めていきます。短時間での体験ではなく、より深い対話や物語性を引き出せるようなギャラリー展示やコラボレーション型のプロジェクトも視野に入れています。

HIZUMIはこれからも、テクノロジーと感性、循環と創造が交わる“新しい服のあり方”を、ファッションの内と外を越えて探求していきます。

 

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