• リーダーインタビュー
  • センパイの背中

ありのままの姿を肯定し、WAGAMAMAでいられる社会を:下山田志帆(株式会社wagamama 共同代表)

「世の中には私みたいに『わがまま言うな』『それ普通じゃないよ』と言われている人がたくさんいると思ったんです。その人たちの『わがまま』を『WAGAMAMA』にすることが、地球上すべての人のウェルビーイングにつながるのではないか、とずっと信じています」

そう話すのは、GARAGE Program 41期生「Period of 100 Athletes Project」の下山田志帆(株式会社wagamama 共同代表)です。下山田は2020年12月に100BANCHに入居。「アスリートと生理100人プロジェクト」として、さまざまなアスリートに生理との向き合い方をインタビューし、その発信に取り組みました。2021年4月には“新たな生理の選択肢”として吸収型ボクサーパンツ『OPT』の開発、販売に取り組み、その他にもジェンダーやLGBTQに関する研修・ワークショップを手がけるエデュケーション事業など、誰もがわがままでいられる社会を目指して様々な挑戦を続けています。

そんな下山田が、現在の活動につながったエピソードや100BANCHでのたくさんの実験で得た気づき、今後の展望を語ってくれました。

下山田志帆|株式会社wagamama 共同代表

元女子プロサッカー選手。株式会社wagamama CEO。慶應義塾大学卒業後、2017-19の2シーズンをドイツでプロ選手としてプレー。2019-23年の5シーズンを日本・なでしこリーグ1部でプレーした。在独中の2019年に、現役選手としては日本で初めて、LGBTQ当事者であることを公表。同年に株式会社wagamama(旧Rebolt)を創業し、企業・学校向けのD&I研修・講演会事業や、アスリートやLGBTQ当事者視点のブランド運営を行っている。

——女子サッカー選手を引退し、会社経営など多彩に活動している下山田。現在の取り組みや自身の背景について語ります。

下山田:2020年12月から「アスリートと生理100人プロジェクト」で100BANCHに入居しておりました、下山田と申します。今日、1番伝えたいことは、100BANCHでは本当にたくさんの失敗を経験させてもらった、ということです。チャレンジも失敗もたくさんさせてもらい、だからこその反省もたくさん生まれ、それを活かして今6年目になる会社をやっています。

私は元々、女子サッカー選手をしていて、ちょうど1年前に引退しましたが、大学卒業後にドイツに渡り「ブンデスリーガ」で2年間、2019年から去年までの5年間は日本の「なでしこリーグ」で、計7年間、選手としてプレーをしていました。100BANCHに入居した当時もバリバリの現役選手として活動しており、100BANCHからそのまま練習に行ったり、「明日試合で辛い」などと言いながら夜中まで作業していたりしていました。

また、2019年にLGBQTの当事者だと公表したのですが、当時の日本の現役アスリートの中で、そういうことが初めてだったこともあり、本を出版させてもらったり、NHKの番組にも出演させてもらい、LGBTQやジェンダーというテーマを今でも発信しています。その傍ら「わがまま」を「WAGAMAMA」にする、株式会社wagamama を経営しています。私と内山の2人で共同代表をやっており100BANCHでのプロジェクトも2人でリーダーとして参加させていただきました。私たち2人は同じ女子校で3年間同じクラス、3年間同じサッカー部でした。大学は私が慶応大学、内山が早稲田大学へ進学したので、大学時代は早慶戦で敵チームとしてプレイしました。、卒業後は、私がドイツ、内山がイタリアでプレイしていたりと、バックグラウンドの似た2人で会社をやっています。

 

「ノーノーマル」な居心地の良さを伝えたい

私たちは20年間ぐらいずっと女子サッカーをやってきて、「女子サッカーは日本の未来」だと感じてきました。女子サッカー界では、性表現が男性的だったり、好きになる性が女性である女子選手たちのことを「メンズ」という言葉で呼んでいるのですが、女子サッカー界には、多様な性のあり方があって当然、という空気感、価値観が当たり前に存在しています。チームの半数が「メンズ」のチームもあったり、マイノリティを感じません。私たちはそんな空気感がある女子サッカー界を「ノーノーマル」という言葉で呼んでいます。「普通はこうあるべき、女はこうだよね、男はこうだよね、普通ってこうだよね」というのがなく、とても居心地が良かったです。「この居心地の良さこそ、自分たちが伝えていけることだ」と思い、この会社をやってきました。

下山田:私の中でとても印象的な出来事があります。私がいた慶応大の女子サッカー部は試合に行くときパンプスを履かなくてはいけませんでした。高校時代から性自認が女性ではないと思っていたので、服も男性的なものが好きだった私にはパンプスはとても苦痛でした。それで、同期たちに「なんでパンプスを履かなきゃいけないの?と」聞いていたのですが「ルールだから」「先輩が決めた伝統だから」などと言います。 どの理由も本当に納得がいかず、「わがまま言うんじゃない」と言われてきました。それで2年生のときに本当に耐えきれなくなり、信頼していた先輩に相談しました。するとその先輩は「わがまま言うな」ではなく「分かった」と聞いてくれて、部員を集めてパンプスのルールを辞めると告げてくれたんです。「試合に勝つことが目的だから、自分がパフォーマンス出せると思う靴を履こう」と言ってくれました。そのとき、先輩はみんなの前で「下山田が・・・」と言うのではなく、みんなが納得する理由でルールを変えてくれたことがとてもうれしかったです。

この話には余談もあって、次の試合の日に同期たちの足元をみたら、あんなに「わがまま言うな」と言ってた同期たちがスニーカーを履いていたんですよ。みんな意外と自分がどういう状態だと居心地がいいかを自分の頭で考えてないんだな、と思いました。また、世の中には私みたいに「わがまま言うな」「それ普通じゃないよ」と言われている人がたくさんいると思ったんです。それで、その人たちの「わがまま」を「WAGAMAMA」にすることが、地球上すべての人のウェルビーイングにつながるのではないか、とずっと信じて、今は会社では吸収型ボクサーパンツのブランド事業と、WAGAMAMAでいるための組織づくりやD&I の観点で企業さんに向けたエデュケーション事業の2つをやっています。

 

100BANCHでは疲労困憊!

下山田:100BANCHと出会ったのは、あるパナソニック社員の方がきっかけでした。会社を立ち上げ、吸収型ボクサーパンツを開発していたのですが、生理とアスリートの声を世の中に届けるにはどうしたらいいんだろう、と悩んでいて、その人に相談しました。すると「100BANCHが合いそうだね。申し込みは明日までなんだけどね」と教えていただきました。私はとても楽しそうだなと思い、内山の確認も取らずギリギリセーフで申込みをしたところ、とても面白がっていただき、2020年12月に「アスリートと生理100人プロジェクト」で100BANCHに入居させていただきました。当時の私たちが掲げていたのは「生理を含む、ジェンダーのアタリマエを超えていく。」です。

下山田:3ヶ月間で私たちがやったのは、アスリートとそれを支える20名の方への地道なインタビューです。例えば、オリンピックの女子バスケ代表の林咲希選手や、パナソニック陸上部の指導者と管理栄養士さんにお話を聞いたりと、アスリートが生理でどういうことに困っているか、どのように解決しているのかをひたすらインタビューしました。結果、noteに20本のインタビュー記事を公開することができました。

しかし、私と内山は会社勤めの経験もなく、ビジネス経験0で会社をはじめたので、今思うと、それが大きな足かせだったかもしれません。20本のインタビューを全部自分たちで行い、文字起こしして記事を書くのは非常に辛くて喧嘩になるほど疲労困憊しました。今考えると助成金をもらったり、スポンサーをつけたり、企業研修にするなど、マネタイズもいろいろできたと思うのですが、当時はまったく思いつかず、ひたすらインタビューをして記事を作り続けていました。疲弊しながらやっていたので「これは何のための活動なんだろう」と自分たちを疑いたくなる時期もありました。

 

オフラインイベントで気づいた自分たちの強み

下山田:3ヶ月の活動期間を終えた後、2021年の7月にナナナナ祭に参加させていただきました。これまでインタビューはオンラインで実施していたのですが、ナナナナ祭はオフラインイベントだったので公開収録のイベントをすることにしました。それで女子プロサッカーリーグのアイナック神戸というチームから選手2人に来ていただいて、プロ選手と生理の話をするイベントを実施しました。小学4年生の女の子から、すでに閉経したという50代ぐらいの方まで、いろいろな年代の方がたくさん参加してくれたのですが、みなさんとても楽しそうにディスカッションしていました。小学4年生の女の子が「学校だと男子は別室で、女の子しか生理用品渡されなかった」と話すと、50代の方が「私のときもそうだったよ、あれ嫌だよね、一緒でいいじゃん。」みたいな感じでとても盛り上がったんです。そのときに「今までこんな場所ってあっただろうか?もしかしたら自分たちにしかつくれない空間があるかもしれない」 と思いました。ナナナナ祭のおかげで自分たちの強みに気がつくことができたんです。

 

失敗から見直した自分たちの使命

——自分たちの強みに気づき活動をドライブする中、新たな壁にぶつかったエピソードも。

下山田:ナナナナ祭と同時期に、生理用品なしで履ける吸収型ボクサーパンツの開発が終わり、クラウドファンディングでは798名の方にご支援いただいて617万円を集め、大成功を収めました。1,500個のパンツが売れたのですが、梱包する場所がなくて、100BANCH2階のフロアの半分をパンツの在庫で埋めてしまったのは本当に申し訳なかったですが、楽しみながらやらせてもらったのは100BANCHの思い出です。

しかし、このクラウドファンディングの成功で少し調子に乗って失敗してしまいます。1,500個売れたから、と同じくらいの数を一気に発注したところ、在庫が捌けませんでした。在庫が残り、原価の支払いサイクルをうまく回せず、会社がつぶれかけてしまい、内山と2人で何が良くなかったのか考えました。このとき、モルテンというボールメーカーさんと女子ユーザー、アスリートを対象に、生理に関する調査をしたのですが「フェムテック」という言葉を、99パーセントが全く知らないという結果が出たんです。在庫が残ることに納得がいきました。「フェムテック」は2019年くらいから日本に入ってきた言葉でSNSでもホットなワードだと思っていたし、しっかり売っていけばアスリートにも届くだろうと思っていたのですが、全然知られていないんです。

そこで、本当に届けたい人たちに届けるため、自分たちの使命を見直すことにしました。どうすれば自分たちがやりたいことや伝えたいことに、みんなを巻き込んでいけるんだろう、と考えました。それで言葉を変えたんです。ずっと「ジェンダーのアタリマエを超えていく。」を掲げていたのですが、周りからすると難しいことをやっていると思われたり、私自身、ファイトポーズを取り続けているような感覚がありました。。みんなが巻き込まれたくなるような表現を使って、私たちがどんな人を増やしたいのかのメッセージを届けようという想いから「WAGAMAMA」という言葉が生まれました。会社名にもしていますが、「WAGAMAMAであれ」を会社のミッションとして掲げています。

下山田:会社名を文字って、昨年から「OPT WAGAMAMA CARAVAN」をはじめました。吸収型ボクサーパンツを持って各地方の女子ユースアスリートたちに生理の話やキャリアの話を直接伝える活動です。。結果として多くの女子サッカークラブにパートナークラブになっていただいたり、チーム単位でプロダクトをご購入いただいたり、独自の形でブランドの輪を広げているところです。

また、100BANCHでの活動を終えた後に、to Cだけでは生きていけない、と感じ、to Bのビジネスもはじめました。「自分たちがここで死んだらせっかく仲間になってくれたファンを裏切ることになる」という思いで、エデュケーション事業もやっています。例えば、生理やジェンダー、LGBTQの研修プログラムを持っていて、それを企業や自治体、学校向けに実施したり、逆に企業さんから相談いただいてプログラムの開発や監修のようなこともやっています。

 

コラボレーションで“もっと早く”社会を変える

——立ちはだかった壁に向き合い、より良い答えを導き出してきた下山田。今年、新たに挑戦したいことがあるようです。

下山田:私たちのブランド「OPT」のユーザーさんは本当にユニークな方が多いです。女性アスリートやLGBTQの当事者の方、ノーノーマルな視点のユーザーさんがたくさん集まっています。また、世の中にもD&Iに関心の高い企業さんがたくさんいらっしゃいます。そういった人や企業がコラボレーションすれば100年もかからずに、もっと早く社会を変えられるんじゃないかと感じています。これまでブランド事業とエデュケーション事業の2軸で運営してきましたが、それぞれのステークホルダーで何かコラボレーションできないかを考え始めていて、2025年からはもっと力を入れて頑張っていきたいなと思っているところです。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/rQCOtKQURMc?si=S8wWLTvl3SBLI5GR

  1. TOP
  2. MAGAZINE
  3. ありのままの姿を肯定し、WAGAMAMAでいられる社会を:下山田志帆(株式会社wagamama 共同代表)

100BANCH
で挑戦したい人へ

次の100年をつくる、百のプロジェクトを募集します。

これからの100年をつくるU35の若きリーダーのプロジェクトとその社会実験を推進するアクセラレーションプログラムが、GARAGE Programです。月に一度の審査会で採択されたチームは、プロジェクトスペースやイベントスペースを無償で利用可能。各分野のトップランナーたちと共に新たな価値の創造に挑戦してみませんか?

GARAGE Program
GARAGE Program エントリー受付中

4月入居の募集期間

1/28 Tue - 2/24 Mon

100BANCHを応援したい人へ

100BANCHでは同時多発的に様々なプロジェクトがうごめき、未来を模索し、実験を行っています。そんな野心的な若者たちとつながり、応援することで、100年先の未来を一緒につくっていきましょう。

応援方法・関わり方