• リーダーインタビュー
  • センパイの背中

アクアリウム文化の発展で、人と自然が共生する世界をつくる。:高倉葉太(株式会社イノカCEO)

GARAGE Program 12期生「INOCA」の高倉葉太(株式会社イノカ CEO)は、2018年7月に100BANCHに入居。観賞魚業界のノウハウをサイエンスの世界に提供し、魚の研究を加速させることをテーマに、アクアリスト(水生生物を飼う人)が作る水槽情報共有サイト『Alica』の開発を行いました。現在では独自に研究開発を進める環境移送技術をもとに、リアルな生態系を見せる教育事業、そして臨海部にいかずとも様々な海洋研究を可能にする海洋研究プラットフォーム事業を展開しています。

そんな高倉が、現在の活動内容や100BANCHで経験したことなどを語りました。

高倉葉太|(GARAGE Program 12期 INOCAプロジェクトリーダー / 株式会社イノカCEO)

東京大学工学部を卒業、同大学院暦本純一研究室で機械学習を用いた楽器の練習支援の研究を行う。2019年4月に株式会社イノカを設立。サンゴ礁生態系を都心に再現する独自の「環境移送技術」を活用し、大企業と協同でサンゴ礁生態系の保全・教育・研究を行っている。2021年10月より一般財団法人 ロートこどもみらい財団 理事に就任。同年、Forbes JAPAN「30 UNDER 30」に選出。

 

海の環境をまるごと切り取って持ってくる。

高倉:日本は深海まで含めると世界で第4位の広さの領海を持った海洋大国です。世界には800種類のサンゴがいますが、そのうち430種類が日本の海にいる——非常に広くて質の高い海を持った国で、我々は日本の海に関して、ものすごく可能性を感じています。今、環境問題といえばグリーントランスフォーメーション、グリーンボンド等、「グリーン」ばかりに注目されがちですが、日本は「ブルー」に関してもしっかりやっていくべきだと考えています。また、私たちイノカは海を守るだけでなく、どのように使っていくかまでを考えています。 

イノカという名前は Innovate とAquarium を掛け合わせた造語です。アクアリウムをやっている人をアクアリストと呼ぶのですが、まさにそのアクアリストと始めた会社です。弊社には世界でおそらく唯一のチーフアクアリウムオフィサー(CAO)がおります。35年ローンで自宅に1トンほどの水槽を趣味で作っているような男ですが、元々は工場で働いていて水槽に関する技術はまったく仕事に活かしていませんでした。でも、水槽の様々な細かいパラメーターを丁寧に管理したり、見るだけでサンゴの健康診断ができるような技術を持っていたんです。そこで我々は彼の技術をAIに組み込んで「環境移送技術」を作りました。海の環境を切りとってそのままビルの中や研究室に持ってくるようなイメージです。海の環境を色々なパラメーターに分解し、様々な機械や技術を用いて水槽の中に再現する。これが我々のコアテクノロジーです。世界で初めてサンゴの産卵*にも成功しました。

(*閉鎖環境下で時期をずらしての産卵に、世界で初めて成功。)

 

海の大都会を作るインフラ的な生き物、サンゴ

サンゴは温暖な地域に住む生き物で海全体の面積のたった0.2%にしか生息しませんが、世界の海洋生物の25%がサンゴ礁に住んでいます。サンゴは海の大都会を作るインフラ的な生き物なんです。しかし2040年にはその70〜90%がなくなってしまうと言われています。サンゴがなくなると、そこに住む生き物もいなくなり、海にとって非常に深刻な状況になってきています。

日本の海の話で外せない存在は、海藻と海草、総称して「藻場」と呼ばれる海の森をつくっている生き物たちです。日本の沿岸漁業の40%近い種類の生き物がこの藻場に依存して暮らしています。しかし、この藻場がなくなる海の砂漠化「磯焼け」がどんどん進行しており、このままでは今後、海産物が食べられなくなるような深刻な状況です。また、藻場は陸上の森の約2倍ものCO2を吸収してくれるとも言われています。この藻場を取り戻していくことは、豊かな水産資源を守るだけではなく、カーボンニュートラルを目指している現代において新しいビジネスになると考えています。生物多様性の保護という面でも同様です。

 

研究環境の提供と教育で地球を救う。

では、我々はどうやって海の課題を解決しようとしているのか。答えはシンプルで、1つは海への悪影響を減らし、海を救う良い素材を探す、というアプローチです。我々は小さな水槽にサンゴ礁や海藻の環境を再現することができますが、例えば日焼け止めの成分がサンゴへ与える悪影響の検証などを行っています。一方、鉄の副産物である鉄鋼スラグがサンゴや海藻の良い着底基盤になるのではないかといった研究も企業と一緒にやっています。これまでの実験は実際の海で行っていたため、台風や大雨などがあると、実験の結果が化学物質によるものなのか環境の変化によるものなのか分からなかったんです。しかし、我々は人工的に同じ環境を安定して作ることができるので、科学的に使いやすいデータを提供することができるんです。

もう1つのアプローチが教育です。地球を救う仲間を増やすため、創業時から本気で教育事業を行っています。実はみなさんが普段、水族館等の水槽で見ているサンゴは、プラスチック製の模型が置かれている形であることが多いんです。しかし我々は本物のサンゴを見せることができるので、商業施設の展示などで多くの方に本物のサンゴや海の環境に触れてもらえるプログラムを提供しています。エデュケーションとエンターテイメントをかけあわせて「エデュテンイメント」と呼んでいますが、カードゲーム等を通して海の生態系について楽しく学んでもらったり、とにかく五感で感じたことを大切にしてほしいと思っています。コンセプトは「おもしろい!が言動力の、世界を変えられる人を育てる。」です。

 

アクアリウムが「好き!」からつくったイノカ

私は1994年生まれで兵庫県で育ち、東大に行きました。中学生の頃、太っていたんですが、外見で戦えないなら中身を磨こう、とサンゴの飼育や、ものづくり、音楽などをはじめました。親からは医者になることを勧められていましたが、自分は血が苦手だと気がつき、工学部に入っていろいろなものづくりをしてきました。

2017年には Makershipという会社を創業し、ものづくりをやりたいけれども知識がなくて自分たちではできないという人たちを支援する事業をやっていました。しかし、これが自分の道なのだろうかと悩んでる時、リバネスの丸幸弘さんに出会いました。私は意気揚々とAppleを超える家電メーカーみたいな会社を作りたいとプレゼンしたんですが、ボコボコに叱咤激励されました。その時に「好きなものがないのか」と言われてアクアリウムの道に戻ってきました。自分の得意だったものづくりとアクアリウムをかけあわせ、MONIQUAというシステムを作ったりしていたんですが、そうした中でCAOの増田に出会ってイノカをつくりました。

 

みんなが集まってノッてくれるのが100BANCH

世界を変えていくことは、山登りのようなものだと思っています。最初はみんな、ふもとからのスタートです。私はCAOの増田と出会ってお互いにサンゴが大好きだということで、サンゴをみんなに見てほしい、と思ってイノカというチームを立ち上げました。それが100BANCHに入居したタイミングです。最初は100BANCHに元々あった金魚の水槽を貸りて2Fにサンゴの水槽を作りました。当時は自分たちのオフィスがなかったのでここに色々な人を呼び、どうすればサンゴの面白さを伝えられるか試行錯誤しました。水槽のファンクラブみたいなものを作ったんですが、みんなが集まってノッてくれるのが100BANCHの良いところです。

3Dプリンターで作ったものを使って色々な形のサンゴを作ったり、スマホでドローンを操作して海の中がどうなっているのか上から覗けるような装置を作ったり、本当に色々な実験をやっていましたが、まったく何も売れない状況が続いていました。しかし、100BANCHで色々な人があれこれ意見をくれたことがすごく良かったです。そんなトライ&エラーをしながら見つけられたのが教育プログラムでした。100BANCHでサンゴの体験イベントをやったのですが、その時にサンゴが減っている環境問題の話をしたところ、多くの人に共感してもらえたんです。とにかくサンゴを見せたいだけだったはずが、サンゴのことを伝えることができる、ということに出会えてやっと山を1つ登れました。そこから、教育が必要だ、など色々考えていくうちに、サンゴの水槽が日焼け止めの検証にも使えそうだ、などと広がっていきましたね。

 

中に入って、好きなことを軸に進もう。

私たちはずっと、サンゴの水槽を売っているだけなんです。手を変え品を変えやっていくうちにどんどん価値が上がっていきました。伝えたいメッセージは、まずは、やっぱり好きなことを軸に進んでほしいということです。大きな頂に登りたいと思っていても、ずっと山のふもとをぐるぐる回ってる人もいると思います。でもやっぱり中に入らないと何にもできない。100BANCHに入るというのはそういうことだと思います。どんなテーマであれ宣言をしてその道に入っていく。ただ、自分の好きを相手に押し付けるだけじゃダメです。サンゴが好きなだけなら自分のお金でやってください、という話ですよね。ずっと売れなかったサンゴの水槽は、教育プログラムを始めたら「今の商業施設にはこういう教育の場が必要だ!」いう方が現れて初めて売れたんです。相手の目線に立って社会の課題が何かというのを探し続けることで、自分たちのプロジェクトの価値も上がり、解決できる課題も増えていくのかなと思います。

みなさん色々なことにチャレンジされていると思いますが、一度決めた好きなことは軸にした方がいいと思います。100BANCHには本当に色々な人がいて様々な業界の課題にたくさん気づけると思います。我々も環境をテーマにしていますが、最初から海を守ろうと立ち上げた会社ではなく、結果として海を守る会社になってきました。最初から高い志があってもいいと思いますが、目の前の小さなモチベーションに目を向けて最速で駆け上がっていくことを100BANCHは許してくれるので、ぜひこの場を存分に使ってみてください。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/zC07P9f5bek?si=1oMLaL_lGBNP

  1. TOP
  2. MAGAZINE
  3. アクアリウム文化の発展で、人と自然が共生する世界をつくる。:高倉葉太(株式会社イノカCEO)

100BANCH
で挑戦したい人へ

次の100年をつくる、百のプロジェクトを募集します。

これからの100年をつくるU35の若きリーダーのプロジェクトとその社会実験を推進するアクセラレーションプログラムが、GARAGE Programです。月に一度の審査会で採択されたチームは、プロジェクトスペースやイベントスペースを無償で利用可能。各分野のトップランナーたちと共に新たな価値の創造に挑戦してみませんか?

GARAGE Program
GARAGE Program エントリー受付中

7月入居の募集期間

4/23 Tue - 5/27 Mon

100BANCHを応援したい人へ

100BANCHでは同時多発的に様々なプロジェクトがうごめき、未来を模索し、実験を行っています。そんな野心的な若者たちとつながり、応援することで、100年先の未来を一緒につくっていきましょう。

応援方法・関わり方