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ARS ELECTRONICA 2018 視察レポート ERRORから始まるアートの兆し

2018年9月6日から9月11日までオーストリアのリンツで開催された、世界有数のアートイベント「アルスエレクトロニカ」。

100BANCHのコミュニティマネージャー 加藤翼が現地で掴んだメディア・アートの未来の兆しをレポートします。

世界で最も名誉あるメディアアートの祭典

ARS ELECTRONICA(アルスエレクトロニカ)、という名前を聞いたことがあるでしょうか?アルスエレクトロニカはオーストリアの北部に位置する人口約20万人の都市、リンツ市で開催される、芸術・先端技術・文化の祭典です。メディアアートに関する世界的なイベントとなっています。

今年のアルスエレクトロニカのハイライト動画

「インターナショナル・ブルックナー・フェスティバル」の一環として1979年に始まり、1986年には独立したイベントとして例年開催されるようになりました。1987年から毎年テーマを決めて開催されています。今年のテーマは「ERROR — The Art of Imperfection」。

アルスエレクトロニカには、世界中から1357人のアーティスト・科学者・技術者・起業家・活動家が参加し、54カ国から約10万人の来場者が訪れました。

このフェスティバルで表彰されるPrix Ars Electronicaはメディアアート界のオスカーとも言われています。

 

何故オーストリアの中規模都市が世界を惹きつけるのか?

メディアアート界のオスカーとも言われる祭典が、何故オーストリアの中規模都市リンツで開催されるのか、疑問に思う方もいるのではないでしょうか?まずは、私が見たリンツの姿をご紹介させていただきます。

リンツはオーストリアの中でドナウ川沿いに位置する、人口約20万人の商工業都市です。オーストリアの首都にあたるウィーンまでは新幹線で1時間15分程度。街を散歩して感じる初めての印象は、ヨーロッパ的な石造りの建物と、ファサードの広い落ち着いた街並み。特段変わったというものはなく、景色からだけではこの街の秘密は見つけるのは難しそうです。

リンツの疑問を紐解くポイントはこの街の発展の歴史にあります。リンツは近隣にドナウ河がある利便性から、商工業で栄えた街でした。しかし、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによってリンツは征服をされてしまいます。

ヒトラーは自身の故郷が近かったこともあり、リンツを自らの理想の芸術都市にしようと計画をしました。巨大な都市模型を作らせて、「ヒトラポリス」と改名を計画していたことも有名です。

第二次世界大戦の終戦と同時にヒトラーの夢は叶わぬものとなりました。しかし、第二次世界大戦後、リンツはミュンヘンとウィーンの結節点として重工業を中心に再び活気を取り戻して行きます。そんな最中、1970年代のオイルショック等で重工業は下火に。高い失業率、大気汚染、福祉サービス等も縮小されリンツは方向転換を迫られました。その解決策として、リンツがとったのが文化政策としてのアートとテクノロジーでした。つまらない職業訓練を実施するのでなく、市民自らが主体的に参加をする機会を生み出し、新たな価値観とスキルを普及させ、産業構造の転換を図る挑戦でもありました。

その中で、1979年に行政と市民が中心となりアルスエレクトロニカが始まりました。初期の活動では、市民が同時刻に窓辺にラジオを置き、ブルックナーを街中に響かせるといった取り組みも行われていました。その戦略は35年をかけて功を奏し、いまや街の文化・教育水準の発展に深く寄与しています。2009年には欧州文化都市に、2014年にはUNESCOの 創造都市(Creative Cities Network)にも指定されました。

 

未来を提起する展示の数々

今年のテーマとなったのが ERROR the Art of Imperfectin(エラー:不完全性のアート)。

このテーマについて、今回の総合芸術監督を務めるゲルフリート・ストッカーの言葉を簡単に要約してみました。

「エラーとは社会規範からの逸脱である。一方でその社会規範を定義するのは誰なのか。エラーとは誤りでなく機会でもありうるはずだ。イノベーションを生み出す源泉としてのエラーの価値にもっと私たちは寛容であるべきでないか。しかし、デジタル革命に翻弄される私たちの日常はリアリティを常に操作され、欺瞞と捏造に溢れている。この美しいデジタル世界はエラーだろうか。そしてその未来をどのように私たちは救えるのだろうか。エラーへの効果的な対処、リスクへの寛容性、そしてクリエイティビティがおそらく私たちの未来に最も重要なスキルであろう。私たちが不完全性を歓迎する勇気を広めているのは、それこそが私たち人間を機械と差別化する唯一のものだからだ」

この言葉を聞いた時、フェイクニュースにが溢れ、ソースすら改竄されうる世の中で、どのように私たちが「エラー」と向き合い、さらにエラーを力に変えながら生きることができるのか。そしてエラーという不完全性を、人間が人間たる証として、よりよい未来のイノベーションに繋げていけるかが今回のテーマにあると感じました。

アルスエレクトロニカはリンツ市の市内の複数の美術館・ギャラリー・学校といった展示施設を使って行われます。

メインとなる会場は以下の3つです。

  • OK CENTER
  • ALS ELECTRONICA CENTER
  • POSTCITY

OK CENTERではCYBER ARTS 2018という形で、Prix Als Electronicaに出展された作品の中から、受賞作品を展示しています。

BitSoil Popup Tax & Hack Campaign / LarbitsSisters (BE) / Credit: tom mesic

ALS ELECTRONICA CENTERでは、巨大な4Kシアターでの映像作品の展示が行われている他、誰でも利用が可能なFAB LABとBIO LABが設置されています。

Cooperative Aesthetics – Next Edition @ Deep Space / Gerhard Funk (AT), Christian Berger (AT), Şehmus Poyraz Birusk (TR), Clemens Niel (AT), Fabian Terler (AT) / Credit: tom mesic

また、このアルスエレクトロニカに合わせてドナウ川沿いで同時開催される、マルチメディアミュージカルイベントであるLInzer Klangwolke(クランクヴォルケ)には人口の約半分の10万人の人々が集まる一大イベントになっています。

Klangwolke 2018  / Credit: tom mesic

 

POSTCITY - 地下に引き込まれる世界 -

ここからはPOSTCITYの様子を中心に紹介します。アルスエレクトロニカの展示の会場で最大の広さを誇るのが、ここPOSTCITYです。かつて郵便局だった巨大な空間を活用したスペースで、螺旋階段で地下深くまで展示会場が広がっています。

会場の様子

会場はテーマごとにエリアが分けられていますが、綺麗に仕切られているというよりは、一つの大きな空間にあえて雑多に集約し、多様性の中で参加者が自ら宝探しをするような空間設計になっています。

1Fのフロアーは明るく賑やかで、家族を連れた子供たちの姿も多く見受けられます。またギャラリーツアーに力を入れいて、難解なアート作品に対して、わかりやすい解説も付いています。。市民を中心とした芸術祭の空気がここからも伝わって来ました。

POSTCITYの姿は深い階段を降りて行くと表情が大きく変わって行きます。冷たい階段の手すりを触りながら、暗闇の中へ。お化け屋敷に入って行くような不安と期待の入り混じる不思議な気持ちにドキドキします。その中でも、私が注目したいくつかの作品を紹介します。

πTon / Cod.Act (CH) at Ars Electronica Opening 2018 / Credit: tom mesic

地下に降りて行くと、不穏な地響きのようなノイズを立てながら、巨大なミミズのような物体が動いています。周りには音響装置と思われる棒を持った男性が四方を囲んで、まるで何かの儀式のような雰囲気も漂わせています。

この作品はπTon(パイトン)と呼ばれる作品で、チューブの動きに合わせて、事前に録音された人間の声が合成変化されてフロアに響く、インスタレーション作品です。ゴムチューブが連結された簡易な機構から、ランダムな生物的な動きと音声を生み出す様は、それが古代に生きた生き物のような錯覚さえ生み出し、私たちの原始的な記憶を刺激する事を狙っています。

過去のパフォーマンス映像

tangibleFlux φ plenumorphic ∴ chaosmosis / Navid Navab (CA, IR) / Credit: Navid Navab

π Tonが展示される空間の脇で、背丈より少し低い箱を観客が覗き込んでいました。中を見てみると、レーザーを照射されたパチンコ玉より少し小さいサイズの金属のボールが、まるで生き物のように動き回りながら、幾何学模様を描いています。と思ったら、見えなくなり、また現れて蜂のようにブンブンと動き回る。

作者は盤上を一つの極小宇宙と見立て、そこに非線形でトポロジー的な知覚と形態のユニークな絡み合いを引き起こします。その始めも終わりも見えない動きの渦に、時間と空間感覚さえ忘却させる不思議な力を感じました。

The Art of Deception / Isaac Monté (BE), Toby Kiers (US)  / Credit: Vanessa Graf

薄暗い部屋に入ると、ライトアップされたガラス瓶の中に何かが浮かんでいます。近づくと、それが心臓だとわかり一瞬ドキッとします。この作品は「The Art of Deception」と名付けられた作品です。社会に存在する欺瞞というものをアート的に解釈して、豚の心臓を脱細胞化した上でバイオ的な処理を施し、人間の為の心臓として展示をしています。

例えば、Iron Heart(鉄の心臓)であれば、メッキ加工されたような心臓が。Broken Heart(失恋の心臓)であれば、2つに引き裂かれそうになった心臓が。サイエンスがどこまで人間の臓器の模倣を行う事ができるのか。アートとバイオ的な介入が、これまで扱われてこなかった領域にいかなる価値を生み出せるのか。深い問いを私たちに投げかけてくる作品です。

 

日本人の圧倒的な存在感!?

アルスエレクトロニカに参加して驚くのが、街を歩いているとドイツ語に混じって日本語が時たま飛び込んでくる事です。

実はアルスエレクトロニカは昔からたくさんの日本人が数多く参加しています。また、アルスエレクトロニカセンターと日本企業の共同研究を進めていたりと数多くの接点があるのです。

中でも今年は日本からPrix Prizeの受賞者・ノミネーションを多数排出しました。

また、Europian Comissionから命を受けてアルスエレクトロニカが科学・テクノロジー・アートを横断する革新的なプロジェクトを表彰する、STARTS PRIZEにも日本人が多数ノミネートされています。

Honorary Mentions

Nominations

Concert / EI Wada (JP) & Nicos Orchest Lab (JP) at OK Nightline 2018 / Credit: vog.photo

その中でも、使われなくなった家電をハックして、楽器として演奏パフォーマンスをするELECTRONICOS FANTASTICOS!(エレクトロニコス・ファンタスティコス)の和田永達の受賞は喜びが大きいものでした。ELECTRONICOS FANTASTICOS!とは100BANCHでも一緒にイベントを企画をしたり、100BANCHの2Fで準備作業を見ていました。

ELECTRONICOS FANTASTICOS! in Als Electronica 2018 from 100BANCH on Vimeo.

会期中の夜に行われたライブイベントは、ホールから人が溢れるほどの超満員で、日本の扇風機バンドが世界を沸かせました。

Rediscovery of anima / Akinori Goto (JP)  / Credit: tom mesic

去年の100BANCHで開催されたアルスエレクトロニカ報告会でもご一緒した後藤映則さんも受賞。昨年のデジタルファブリケーション技術を使ったアプローチでした。対して、今回の作品では、太陽光と木材と石という自然界で手に入る素材を使って、「アニメーション」の元になった「アニマ」(魂や生命感)を発見したいという発想から作品を製作しています。

Rediscovery of anima from Akinori Goto on Vimeo.

また、私の大学時代の先輩に当たる市原悦子も今回、初参加ながらDigital Shaman Project(デジタルシャーマン・プロジェクト)がPRIXインタラクティブアート+カテゴリにて栄誉賞を受賞。

49日法要をテーマに、生前の音声や身振りのデータをロボットにインストールすることで、家族を無くした遺族が49日間だけ死者とのコミュニケーションが可能となる、「あり得る未来の形」を実際のロボットの展示と、PVを使って表現しています。

Digital Shaman Project / デジタルシャーマン・プロジェクト from Etsuko Ichihara on Vimeo.

私自身もヘルプで説明員をさせて頂きました。お客さんとのコミュニケーションの中で、国によって異なる死生観を持っているので受け入られ方が全く異なることと、思いの外たくさんの人が面白がってロボットに話しかけてくれたことは驚きでした。

その他にも、会期中のシンポジウムにはロフトワーク から林千晶がプレゼンターとして登壇した他、MIT Media Labの副所長を務める石井裕先生、東京大学で特任教授を務めるSPUTNIKO!(スプツニ子)さんの姿もありました。

Chiaki Hayashi (JP) at the Get Inspired Presentations, POSTCITY / Credit: Jürgen Grünwald

Hiroshi Ishii (JP/US)  / Credit: tom mesic

Sputniko! at ERROR – The Art of Imperfection Conference: AI in Art & Science, Strategy for responsible Innovation, POSTCITY / Credit: vog.photo

アルスエレクトロニカでの日本人のプレゼンスの高さは世界的にも一定の認識を得ている実感し、しっかりと評価を得ていることは誇れる結果だと思いました。

 

市民に愛され、アーティストを大事にする芸術祭

最後に、アルスエレクトロニカを振り返っての感想をお話しさせて頂きます。

アルスエレクトロニカは、とても市民とアーティストに近い芸術祭であるのが一番強く感じました。日本ではアメリカのテキサスで開催されるSXSW(サウスバイ・サウスウエスト)と比較がされることも多いアルスエレクトロニカですが、それは全く異なるものでした。

何よりも異なっていたのが、参加者に女性と子供が多いという事。SXSWではGEEKなテック系の企業からの参加者が多い一方で、アルスエレクトロニカでは子どもを連れたお母さんから、高齢者の方まで多様な人が参加をしていました。それから熱心に作品を鑑賞する方や、質問をしてくださる方も多く、アートに対するリテラシーの高さを感じました。

その訳を考えていたら、アルスエレクトロニカセンターに行った時に見た光景が教えてくれました。子ども達が児童館に行くような感じで、VRゴーグルをつけたり、3Dモデリングや、音の打ち込みで遊んでいたのです。子どもの時からこういった環境で育つ事が大きな違いを生むのではないかと思います。

また、イベント全体の設計としても、アーティストと参加者を分け隔てなく扱う思想が随所に見られていました。

例えば、アーティストのパスと一般の参加者のパスがほぼ同じデザインのパスになっていました。また、カンファレンス会場も360度の円形のデザインで、段自体も低めに設計がされていました。そして、スタッフTシャツでさえ、普通に販売されていました。流石にスタッフTシャツは販売していいのか?と思ってしまいましたが(笑)

また、アルスエレクトロニカは企業としての出展がほとんどなく、アーティストが1個人もしくはグループとして展示を行い。商業的な要素が極力排除されているのも企業出展の多いSXSWとは大きく異なる点でした。

それから、街を散策している時に発見して驚いたのが、リンツの行政が発行しているガイドブックです。デザイン性の高さと、情報の質の高さが、行政がつくったとは思えないレベルで驚かされました。

街と市民とが一体になって、アートを中心に街を楽しみながらより良くしていこうという取り組みが長い歴史を刻んだ事で、今のアルスエレクトロニカの深さと寛容さを生んでいるのだと改めて思う今回の視察でした。

「また来年もこの場所に帰って来たいと思う。」と、どなたかのアーティストも話していました。そういう温かさがアルスエレクトロニカの良さなのではと思っています。

是非、皆さんも来年は、オーストリアのリンツで開催される「アルスエレクトロニカ」へ足を運んでみてください。

 

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