ユーザーがAIとリメイクデザインすることで実現する
たのしいサーキュラーエコノミー
HIZUMI
ユーザーがAIとリメイクデザインすることで実現する
たのしいサーキュラーエコノミー
リメイクデザインサービスによって「たのしいサーキュラーエコノミー」の構築を目指すプロジェクトHIZUMI。ユーザーの好みを学ぶ生成AIを開発することで、誰もが自分の洋服を新しく作り変えることができるプラットフォームを開発しています。
「HIZUMI」のプロジェクトリーダーの加藤優は、亡くなった祖父の背広をリメイクしたことをきっかけにプロジェクトの着想を得ました。生成AIに、人間の創造性を高める可能性を感じた加藤は、生成AIとリメイクデザインをかけあわせることで、これまでにないサービスを生み出そうとしています。開発の裏側にはどんな紆余曲折があったのか? インタビューを通じて、加藤の思い描く未来を覗き込んでみます。
——加藤さんが立ち上げた「HIZUMI」はどんなプロジェクトなのでしょうか?
加藤:HIZUMIでは現在生成AIによって手持ちの服と他のユーザーの生地を組み合わせて新しいデザインを提案してくれるプラットフォームを開発しています。
日本人の年間あたりの衣服廃棄量は100トンを超えるというデータがあります。着なくなった洋服を捨てるのではなく、リメイクデザインによって新しい価値を生み出すことができないか。そうすれば、ファッションの新たな体験が提供できるとともに、環境に配慮したサーキュラーエコノミーが構築できると思ったんです。
——なぜ、リメイクに着目したのでしょうか?
加藤:おじいちゃんの洋服をリメイクした経験がきっかけです。僕のおじいちゃんは、赤いジャケットとかをお洒落にさらっと着こなす人で、とてもファッションを楽しんでいたんですよ。昔の集合写真を見ると、一人だけ目立っているぐらい格好良くて。
5年前に90歳でおじいちゃんが亡くなったのですが、家には遺品の背広が沢山残されていました。とても素敵な洋服ではあったのですが、古いデザインのため肩パッドがついていたり、身幅が大きかったこともあって、そのままでは僕は着れなかったんですよ。その服をミシンが得意な祖母が、僕好みにリメイクしてくれて。
古いものの文脈を大事にしたまま、目の前で洋服が変わっていく。本当に感動的な体験だったんですよね。その時、いつかリメイクデザインに関わるプロジェクトを作りたいという思いが芽生えたんです。
ただ、衣服に親しんでいる人にとってもリメイクってハードルが高いんですよね。僕自身、既存のリメイクサービスを体験してみたのですが、値段が高くてなかなか手を出しにくいと感じました。それはビジネスの構造上仕方のないことなんです。一点一点オーダーメイドのデザインですし、洋服のリメイクを行うにはアイデア、縫製など複合的な技術が求められますから。
しかし、ユーザーの好みを学習してデザインを提案してくれる生成AIのシステムがあれば、誰でも手軽に自分らしいリメイクデザインを見つけていくことができると思ったんです。
——HIZUMIが提供するのはどんな体験なのでしょうか?
加藤:店舗とお客さんの一対一の関係ではなく、プラットフォームとしてさまざまなユーザーの洋服の生地が集まる場をつくることで、既存のリメイクサービスとは違う体験を提供できると考えています。
具体的にはユーザーがリメイクしたい手持ちの服の写真を撮り、そのデータを取り込んでもらう。そして、プラットフォーム上にある服と組み合わせて、デザインを生成していくというものです。
僕自身既存のリメイクサービスを利用した際に、5着ほどの服を持って行ったんですけど、自分の服だけでは良い組み合わせが見つからなかったんですよね。ですが、その時同行してくれていたメンバーの服とかけ合わせたらいいデザインになったんです。
他のユーザーが提供する生地と偶発的に出会うことで、デザインの幅は格段に広がりますし、ユーザーにとっても新鮮な体験になるはずです。余った生地をシェアすることで生地の廃棄も減らすことができる。そのようにして、これまでにないリメイクプラットフォームをつくることを目指しています。
——生成AIがデザインを行うというのは大胆なアイデアですね。
加藤:それは、僕自身がデザインが出来なかったからかもしれません。アファンタジアという言葉で聞いても頭の中にイメージが浮かばない特性を持っているので、デザインやアートを観ることは好きなのですが、デッサンや絵を描くことがずっと苦手だったんですよ。
でも、大学に入って、プログラミングを学び始めて、言葉で指示して絵を描ける「Processing」という言語に出会った。この方法を使えば、絵を描いたりデザインすることができる。僕も見る側じゃなくて描ける側になれると思ったんです。僕と同じように自分でデザインは出来なくても、AIという手段を使えば誰でも表現者になれる可能性があると思ったんです。
——加藤さんがプログラミングやサービス開発に関心を持ったのは、いつ頃なんでしょうか?
加藤:大学時代にコンピューターサイエンスに関心を持ち、独学でプログラミングを学び始めました。そこから、実践的なプログラミングを身につけたいと思い、大学2年時に、起業したばかりのスタートアップに飛び込んで色々なサービスの開発に携わったのち、フリーランスとして活動をはじめました。ちょうどその時期に自分自身でサービスを生み出したいという思いが膨らんでいったんです。
——何かきっかけがあったのでしょうか?
加藤:その頃、仕事と並行してアート作品もつくりはじめたんです。それまではエンジニアとして「いかに速く動くものを作るか」「エラーをなくせるか」にフォーカスして仕事をしていたのですが、自分がやりたいのは、自分のアイデアを形にして提供することだと気づいたんです。あくまで、プログラミングはそのための手段なのだと。
同時期に、生成AIが世の中で注目されはじめましたが、僕自身は、AIがもたらす効率化よりも「人間の創造性をいかに高められるか」という点に興味があったんです。そこに、元々関心があったリメイクデザインを掛け合わせて「HIZUMI」のイメージができてきました。
——まさに「創造性を高める」AIの活用方法ですね。
加藤:「HIZUMI」という名前は、そんな願いを込めてつけたものです。僕自身音楽をつくっていましたし、一緒に活動しているデザイナーもベーシストなのですが、機材のエフェクターに「歪み」っていうものがあるんです。それは、音を増幅する効果があるんですよ。
誰でも創造性や個性がある。形としてあらわれていない小さい個性という増幅して形にしたい。なので、「HIZUMI」なんです。
——100BANCHのGARAGE Programでは、どんな活動をされてるのでしょうか。
加藤:まず、入居が決まってすぐに取り組んだのは「みらいの楽しい服屋さん」をテーマにポップアップストアの出店を行ったことです。
デザインから縫製した服を10着並べたり、「HIZUMI」にちなんでエフェクターのつまみをいじってデザインを選べるしかけを展示しました。また、100BANCHという場を通じてさまざまな繋がりが生まれたので、入居者の加山晶大さんとコラボして、人の動きと共に動くハンガーにかけて洋服をディスプレイしたりもしましたね。
短い制作期間でしたが、無事にいい形で発表することができたと思います。
——反響はいかがでしたか?
加藤:サービス自体の反響のほか、衣装を作ってほしいという依頼があったりと、想像していなかったニーズがあるんだなと手応えを感じました。
ただ、一方で服を作ることの大変さも身にしみました。やはり、デザインを考えて形にするまでの作業は簡単ではありません。だからこそ、僕たちの強みはである技術を用いてHIZUMIらしいデザインを探求すること、服としての完成度を高めることにフォーカスしようと決意が固まりましたね。
この方向性を突き詰めていけば、僕らの世界観をブランドとしても打ち出すことができるという自信が得られたのは大きな収穫でした。
HIZUMIは入居を延長して6ヶ月間が100BANCHでの活動期間となるのですが、前半は知ってもらうための期間。これから迎える後半は、そこで得た感触をより深く掘り下げていく期間になっていくと思います。
——今後のHIZUMIの展望を伺えますか?
加藤:洋服を買う時に「新品」「古着」、そして「HIZUMI」で買うという選択肢がユーザーに浸透することを目指しています。僕らのプラットフォームを使い、リメイクデザインの服を色んな人に楽しんでもらいたい。結果として、環境への配慮にも繫がっていく。そうしたユーザーにとって楽しいサーキュラーエコノミーを構築していきたいです。
今のリメイクやお直しに対するイメージって、ほつれた所を直すというようにマイナスになった部分を元に戻す印象があると思うんです。でも、僕たちが目指していきたいのは、むしろリメイクすることで、最初よりずっと良くなること。「HIZUMI」は、その「より良く」を生成AIと一緒に発見していく。
ユーザーの「こういうデザインが好き」という好みの裏側に潜む、潜在的な「好き」に出会えるようなユーザー体験をつくりたいんです。自分では選ばないけど、いいかも。とか、新しい驚きを伝えことができれば、自ずとユーザーに選ばれるサービスになるのではないかなと。
そのためにも、今後はより腰を据え、じっくり開発と向き合おうと思っています。現在の生成AIの市場はかつてないバブルを迎えていて、1日に数百ぐらいものサービスが生まれてきています。効率化や最適化を加速させるサービスは数多くありますが、人の想像力を増幅させるといった観点で開発されているものは多くはありません。僕らはそこにフォーカスしていきたい。
——機能を広げるのではなく、深く掘り下げていくのですね。
加藤:やろうと思えば、HIZUMIはさまざまな方向性に展開していくことが出来ると思っています。デザインを3DCGによって生成する。デザインを型紙に起こせるような機能を開発して量産につなげる。メンバーには研究者もいるので、より技術に特化したプラットフォームとしていくことも可能です。
でも、今のところは「HIZUMI」らしいデザインの服が生みだせるようになることを最優先していきたい。いくらプラットフォームとしておもしろいものになったとしても、デザインがよくない服は誰にも買ってもらえませんし、広がっていかない。結局はデザインの質を優先して舵を切っていくことが近道だと思うんです。
まずは「HIZUMI」らしいプロダクトだと言えるようなものになるまで、アイデア、デザイン、システム、服作りまで一貫したものにしていきたいですね。そして、小さいプラットフォームでいかにいい服が生まれるかを検証し、ユーザーの満足度を担保したまま徐々にスケールを大きくしていきたい。まだ開発中ではありますが、来年のローンチを目指して開発に取り組んでいきます。