アクアリウムにイノベーションを。
人は、魚とともに、もっと良い世界をつくれる。
INNOQUA
アクアリウムにイノベーションを。
人は、魚とともに、もっと良い世界をつくれる。
2022年7月に開催されたナナナナ祭2022。7月7日には昆虫や微生物に魅せられた100BANCHのプロジェクトリーダーがゲストとともに登壇。未来の地球における真の調和や共棲とは何か? というテーマのインプットトーク、クロストーク等が行われました。本レポートではそのトークの数々をお届けします。
トップバッターは「水生生物」の中でも、特にサンゴが大好きだというinocaプロジェクトの高倉葉太。CEOを務める株式会社イノカでの様々な活動や想いを話してくれました。
サンゴ礁は多様な生き物が暮らす海洋生物にとってはインフラ的な存在なだけでなく、人類にとっても重要なものだといいます。例えばサンゴからガンの治療薬が作られたりと「遺伝資源」と呼ばれる領域で注目されているそうです。
そうした海の可能性を開放していこうという概念は「ブルーエコノミー」と呼ばれ、2030年には500兆円規模のマーケットになるとされています。国際的にも「脱炭素」の次のテーマとして「生物多様性」が注目されており、「海の生物多様性を象徴するサンゴがビジネスチャンスになる時代が来た」と高倉は話します。
高倉:サンゴは非常に繊細な生き物で研究が難しいとされていますが、我々は、沖縄のサンゴ礁の環境移送技術を開発して、沖縄のサンゴ礁を東京で人工物のみでサンゴ礁を再現することにも成功しました。さらに、異分野の研究者も巻き込み、海洋生物・生態系の新たな健康診断技術や保全技術を開発しています。
また、高倉はオランダの老舗科学メーカーがどこよりも早く「脱炭素」に着目して動いた結果、わずか数年で時価総額を4倍に上げたという事例を挙げ、「脱炭素」に乗り遅れている日本でも「生物多様性」に関しては世界にリードしていける領域だとし、世界規格をつくって世界への発信なども進めているそうです。
高倉は、そういった社会の醸成のためには教育が重要だとも語ります。一般に水族館ではプラスチックの偽物のサンゴしか見られませんが、イノカがつくる水槽では本物のサンゴを見る、臭いを嗅げる、触れることができる、そのような体験を通じて、環境を学べるプログラムも実施しており、実際に卒業生の方がユニクロさんにいきなり提案書を持っていって企画展を実現させたこともあるそうです。
高倉:日本の広く質の良い海には、世界で800種のサンゴのうち450種類ものサンゴがいます。南北に縦長の地形にたくさんの固有種や固有の生態系があるんですね。環境問題を考えると「グリーン」が連想されることが多いんですが、この海洋大国日本から、ぜひ皆さんと一緒に「ブルー」も押し出していければ、という想いで活動しています。
続いて、GOsWABプロジェクト(株式会社BIOTA)の伊藤光平が登壇。微生物の多様性を高めることで健康な都市環境をつくるという会社の取り組み等を紹介しました。
伊藤:我々のカラダには大量に微生物が存在していますが、腸内や皮膚上で微生物のバランスが崩れると様々な疾患が起きます。同じことが実は都市や空気中で起きてるんじゃないか? と仮説を立て、その問題を解決しようとしています。最終的に感染症や公衆衛生の観点で人々が安全に暮らしていける都市を作りたいんですが、そのために「微生物の多様性を高める」というミッションを掲げています。
伊藤によると、人が暮らす室内では、人の体に存在していた微生物が大量に落ちて蓄積していて、その中には少数ですが病原菌がいるそうです。病原菌の対策として除菌や殺菌をすると無害な微生物ごとすべて除去してしまい、そこに病原菌が新たに落とされると、敵がいないためにすごく増えてしまいます。そこで、微生物の多様性を高めることで特定の微生物が独り勝ちしづらい環境を作り、病原菌など人の害になるような微生物が増えすぎないようにすることが、BIOTAのコンセプトです。
伊藤:多様な微生物に触れていないと自己免疫疾患のリスクも上がると言われており、都市部など微生物の多様性が低い環境では幼少期の免疫の学習期間にちゃんと学習ができない一方、農村部など自然に囲まれた環境で育った子供はアレルギーに罹患していても発症や悪化率が低かったり、様々なリスクが軽減されることもわかっています。
BIOTAの事業の一番は研究で、マイクロバイオーム解析という環境中のDNAサンプルから微生物を丸ごと取ってきて、種類や機能、環境にどう影響を与えるかを推論していくこと。未知の微生物も多く、面白い性質のものや医療・産業的に応用できそうな微生物がいた場合、それを詳しく調べあげる、といったように、全体を見て、個を見るというのを繰り返しながら都市環境を良くしていこうとしています。
伊藤:微生物に対する文化を醸成するために、日本科学未来館で「セカイは微生物に満ちている」という常設展示を監修しました。微生物の多様性を高めるための建築ソリューションや様々な微生物の情報をちりばめつつ、室内に「拡張生態系」、「マルチスピーシーズ」というキーワードで、庭園を作りました。今後、社会で生きていく中、世界は微生物に溢れており彼らとどう素敵な関係を築いていけるかが重要だという想いで、こういった場作りを提案させていただいています。
「コオロギラーメン」のプロジェクトで100BANCHのGARAGE Programに参加していた篠原祐太は、自身の昆虫食の魅力を伝える活動について話しました。
篠原:子供の頃に食べておいしかったのがカミキリムシで、トロみたいな脂が乗ったクリーミーな風味は誰が食べてもおいしい虫です。他に印象的だったのは、公園の桜の木にいる毛虫で、食べると上品な桜餅みたいで。はじめて食べたとき「こんな毛虫が桜餅の味がするのか」ってすごく感動したんです。
でも、彼らは桜の葉っぱしか食べてないので必然的に桜の味なんですね。それに気づいた時、僕らが普段食べてるものも他の生き物を食べ、回り回って自分たちは今生きているっていうことに感動したんですよ。なので、おいしかったから虫を食べていたというよりは、食べることによっていろんなことがわかるのが面白くて食べていた、という感覚です。
近年注目が集まっているとはいえ、まだまだ抵抗があったり理解されないことが多い昆虫食。篠原は昆虫食を通じて虫への親しみや魅力を少しでも多くの人に感じてもらえるよう、ANTCICADA (アントシカダ)という会社を設立し、レストランで料理の提供、商品開発、教育など幅広く展開しています。
篠原:ANTCICADAで提供している一つはコオロギ出汁の「コオロギラーメン」です。ブラッシュアップを重ねる中、出汁以外にもコオロギを発酵させて醤油を作ったり、香味油を作ったり、コオロギの練り込み麺を作ったりもしています。もう一つはコース料理で、旬の虫や野草、ジビエなど普段なかなか日の目を見ない面白い生き物たちの魅力を感じて欲しくて料理として提供しています。
篠原は「昆虫はイメージこそ良くないものの、様々な可能性を持っており、いろんな社会問題の解決に繋がっていくポテンシャルのある領域」と語ります。例えば、お酒の原料としても大きな可能性があり、タガメのクラフトジン、蚕の糞のブランデー、ゴキブリの卵鞘酒なども作ったそうです。
篠原:僕らが伝えたいのは虫の魅力や面白さで、次世代の子供たちに虫や自然と親しむ機会を届けていきたい。さらに、今までネガティブなイメージだったものや知られてなかったものにも面白い可能性があるということ自体が、ポジティブでポテンシャルのあるものだと思っています。下手したら世界一周の旅行に行くより、足元のゴキブリ1匹を食べた方が見え方が変わるかもしれない。今後も昆虫を筆頭に普段日の目を見ない食材を食べてもらう機会を作り、見え方を変えるきっかけが届けられたらと思っています。
続いて、ゲストの小川立夫さん(パナソニックグループ CTO)が登壇。パナソニックで行っているプロジェクトや現在の自身の興味について話しました。
小川:今、パナソニックがプロジェクトとして考えている「くらしとしごとのウェルビーイング」といわれる取組みでは、人と地球を繋ぐ「Human and Nature in the Loop」というのを、デジタルの力を使ってつくろうとしています。デジタルの世界で、たった一つの最適解を作っていくのではなく、人それぞれの満足解を作っていこうと思ったときに、人や人も含めた自然というものが中心に据えられるような、多様性に満ちた豊かな社会や環境ってのは、どうやってつくっていけるんだろうというものです。
小川:今年から京大のフィールド研から先生に来てもらって自然の理解という講座を始め、勉強させてもらっています。自然のモデルや心の理解を元に人を理解していくようなサイバーの空間と、フィジカルなお客さんとの接点をデジタルの中で一つにすることで、仕事をすればするほどデータがたまっていきながらパートナーが増えていくようなエコシステムを作れないかというのを「くらしのCPS」という名前でやろうとしています。
小川さんの故郷では、トイレは外、お風呂は五右衛門風呂、水は井戸水で、ほぼゴミの出ない循環型の経済だったのに、今ではコンクリートの中で除菌や殺菌をして暮らしていることに疑問を感じていました。そんな中、アメリカの作家リチャード・パワーズの「オーバーストーリー」という1つの小説に出会い、衝撃を受けたといいます。
小川:森の中の木とその根っこ、その根っこの周りの菌類が、ネットワークを作っていてお互いに通信をしたり、物質を共有し合う共棲関係にありながら、木と木の間でも通信をしてるんだって話が出てくるんです。根っこと周りにいる菌の関係って、お互いに必要な物質を分解したり養分として吸収したりっていう、実は腸内細菌と腸の関係と同じじゃないか、というのがすごく衝撃で。
小川:これまで自分は一つの命だと思ってたけど、ものすごくたくさんの菌や身体常在菌とかもいて、非常に多様な生物の集まりである自分というふうに認識が変わりました。そんな中で、じゃあ我々はどんなサービスを提供していったらいいのかなっていうのを「くらしCPS」の中で実践していきたいと考えています。
インプットトークの最後は、桐村里紗さん(医師/tenrai株式会社 CEO)が現在の活動について話しました。地球環境や社会も健康でないと人のシステムも健康にはならないという「プラネタリー・ヘルス」の考え方を紹介、自身は東京から移住した鳥取で「プラネタリー・ヘルス」の社会実装に取り組んでいる、といいます。
桐村さんは、人の手によって生態系の多様性を豊かに回復するという「拡張生態系」の実証実験を紹介しました。不耕起、無農薬、無肥料で、たくさんの種類の植物を一箇所で協生させることで、草1本もない砂の状態からはじめた場所が1年で緑豊かになり、昆虫や動物が戻ってきておいしい野菜が採れるようになったそうです。
「水の流れも人間のカラダの血流と同じである」と桐村さんはいいます。これは山の水源から流れる川が里を潤し海に流れていく、というその流域全体が一つの生命体であるという考え方で、水が豊かな鳥取県日野郡江府町で「プラネタリー・ヘルス」の実装モデル都市を作ろう、と活動されています。
桐村:「プラネタリー・ヘルス」というのは人の健康も内包しています。人と外側の切り分けられた地球環境のための健康ではなく、この惑星というシステムに私達は重なり合っていて一体のシステムなんだっていう、その考え方がすごく大事になってきます。
「これまで人間はありとあらゆる経済活動により自分たちと同時に地球環境を破壊してきましたが、これからはありとあらゆる営みを創造的に再生していく生き方に変えていきましょう。お金じゃなくて、人の心や微生物の菌、自然自体を資本にしたりとか、これまで評価されてなかったものを評価して、それを手法にした新しいシステムを作っていこうじゃないですか」と桐村さんは語りました。
インプットトーク終了後、登壇した5人によるクロストークが行われ、お互いの話の中で印象的だったことなどからスタートしました。
高倉:微生物の話、実は海も同じことが起きていて、元気なサンゴの水槽とあんまり元気じゃないサンゴの水槽の菌叢を解析してみると、全然多様性が違うんです。どれだけ水質が良くても微生物の多様性がないと生きていけないっていう点で、陸も海も同じかもしれません。腸内細菌であれ土であれ海であれ変わらないっていうところは共通してるんだなと思いました。
桐村:さっきの川の流域の話なんですが、宍道湖っていうエリアから今ウナギがいなくなってるんです。研究で農薬の影響だとわかったんですが、やっぱり人は「水は連続してる」っていうことをすっかり忘れてしまうんですね。農薬が海や河川の生態系にも影響を与えることが分かっているのに、なかなかその現実が変えられない。海の研究やバイオームの研究からもっと多くの人がそういう連続性の視点を持って暮らしていくことができたらなとあらためて思いました。
小川:まず「知る」っていうことがものすごく大事だなと。京都大学の循環について考える授業に参加した際、「我々も水を循環しながらレタスを作ってます」と紹介をしたら農学部の先生に「レタスを食べた後の排泄物はどうしてるんですか?」って聞かれたんです。「そこまでは考えてないんですが」と答えたら「そんなの循環じゃないでしょ」とバッサリ切られました(笑)。
研究者からすれば、世の中の循環と言えば、水の循環、炭素の循環、窒素の循環のことだと言われ、まさに桐村さんの話の森から川が海まで行って窒素が運ばれて魚や海藻になっていく、というような循環があるんだというのを、企業としても学び直さなければいけないと思いました。
伊藤:人間は微生物とか水生物とか昆虫とかって生き物を区別してますが、連続性の中では一緒のもので、どうやって一緒に楽しく盛り上げて生きていくかが重要だなとあらためて思いました。日本科学未来館の中に庭園を作ったんですが、日光もないし、人が水もあげなきゃいけない良くない環境で。でも、実際にマルチスピーシーズの概念でいろんな種を入れてみると、今でも元気に生きてるんです。遺伝的に多様な種がたくさんいて生態系も回っていくと、環境としてどんどん強くなってくっていくんですね。
伊藤:実際にアブラムシが湧いたんですけど、その際はスタッフさんにテントウムシを放ってもらいました。みたいな感じで、人間が関わり方を変えて、その波を乗りこなすような人間が生態系にポジティブに関わるっていうのが、たぶん桐村さんがおっしゃられた拡張生態系とかの重要なとこだったりするので、今後、自然とそういう関わり方ができると環境保全以上にポジティブに楽しめるんじゃないかなと思ったりしました。
篠原:やっぱり日本ならではの可能性というか、ポテンシャルっていうものに誇りを持てる部分ってすごいたくさんあるなっていうのはすごく感じています。昆虫一つとっても、南北に細長くて様々な気候帯がある日本には3万種を超える昆虫がいて、やっぱそのそれを「個」で見ていったとき、その一つ一つが持ってる特徴ってありえないぐらい多様で面白い世界があるんです。その環境の中に、循環の中に、自分も生きているっていうことが、何よりも美しいことだと感じます。
伊藤:めっちゃそうですよね。なんか面白いなと思って「個」を見つつ、実はその「個」自体も、いろんな生き物が構成してたり、「個」を見てるようで実は群衆行動を見てる。虫も腸内細菌もそうだし、微生物一つの株も中に遺伝子が数千個ある遺伝子のプール、として見てあげると、豊かというか生き物の機能や関わり方っていうところでも新たな視点が得られるんじゃないか、いろんな視点で生き物を見るのって面白いなと思いました。
高倉:サンゴもそうで単体で見てるとサンゴの中に共棲する褐虫藻っていう藻類がいたり、本当に自然ってフラクタル構造だなっていう。マクロに見てるつもりが、実はミクロに見て、またその中にマクロがあってミクロがあってっていう繰り返しで。
桐村:私が医学部にいた頃は微生物といえば大腸菌、ビフィズス菌、乳酸菌くらいしかなかったんですが、今では微生物は日本人だけでも1,500万種って言われています。私達が微生物に機能的に頼ってるのかを表してると思うんですが、そうするとどこまでが自分なのか、それとも微生物を含んで自分なのかという自我の境界線がなだらかに溶けていくんです。さらに土のような環境にまで拡張していくと、本当にミクロからマクロまで一貫して同じ原理で動いている。どの部分にフォーカスしても結局全体にも行くしっていうふうに、同じ頂きを目指してどの分野からも登っていけるんだなって思います。
小川:人間は目で物を見るっていうときも、その全ての信号を全部ビットマップで入れたら脳がパンクしちゃうんで、スキーマ処理して「その辺に人がいる」みたいに見たいものだけを見るようにしています。そうやって、見えてないものもあるってことをわかりながらセンサーを開放しても気持ち良く暮らせる生き方ってきっとあるはずなんです。
小川:京都大学の100年間人の手が入ってない森があるんですけど、そこを歩かせてもらって木々の間を歩いた時、触ったりした時の気持ちよさっていうのは、何かセンサーとしての自分が本当に喜んでる感じがして、これはきっと腸内細菌も喜んでるに違いないと、思ったんです。そういう生き方を取り戻していくために、企業として何をしたらいいのかなっていうのはすごく悩ましいところですが、今日はとても勇気づけられる色んなインプットをもらえて本当に感謝しています。
高倉:やっぱり人と自然のインターフェースをもっと作っていくのが大事だな、と思います。海や水族館では感じられなかった人が、ぼくらの作る水槽を見てサンゴが生きてるんだってことを感じられたり、そう感じてもらえるような教育のコンテンツを作ることもそうだし、篠原さんのANTCICADAも料理っていうインターフェイスを通じて昆虫の面白さを伝えてるっていう。多くの人にその自然の価値を翻訳して伝えていったり、そういう翻訳者をもっと増やしていく。何かそんな必要があるんじゃないかというのは考えていますね。
イベントの最後には、登壇者と100BANCHのメンバーが会場の参加者に混じって数名のグループに分かれ、真の調和とか共棲、そういった世界を作っていくためにはどうしたらよいか、というテーマでディスカッションを行い意見を交わしました。
人間や動物が地球上で生活しているのは自分たちの力だけではなく、昆虫や微生物、さらには海や陸といった環境も含めたすべてが循環しているおかげだということ、そして普段あまり目にとまらない昆虫や微生物に注目することが、地球の未来に新たな可能性を生み出せるという期待を感じられるイベントでした。