マインド・ミーツ・マガジン「マイミージーン」

「Next Serendipity」は「偶然の出会い」を生かし、新しい挑戦があふれる社会を目指すプロジェクトです。その実現に向けた取り組みの一つとして、AIを活用したアプリケーション開発などをおこなっています。
ナナナナ祭2026では、100BANCHで出会ったプロジェクト「Novel Colony」とコラボレーションし、マインド・ミーツ・マガジン「マイミージーン」を企画。ブースでいくつかの質問に答えると、その回答をもとに一人ひとりにパーソナライズされたZINEが生成され、その場で印刷して持ち帰りができる体験を届けました。当日の様子をNext Serendipityの髙松周平がレポートします。
本企画は、議論と投票で物語を紡ぐ Novel Colony プロジェクトとのコラボレーションで実施をしました。Novel Colony視点でのレポートは下記からご覧いただけます。
「マインド・ミーツ・マガジン」の始まりは、私たちが開発していたAIによるスライド自動生成技術を、100BANCHのMEET UPで紹介したことでした。
この技術は、人があらかじめレイアウトを設計し、その枠組みに沿ってAIが文章や画像を配置する仕組みです。発表後、ナナナナ祭に向けた企画を考えていた別プロジェクトのメンバーから、「この技術を使えば、来場者ごとに内容が変わる雑誌を作れるのではないか」というアイデアが生まれました。
画面上のスライドを作る技術が、紙の雑誌を生み出す体験へと変わる。その発想を聞いた瞬間、技術の応用先として非常に面白いと感じました。単なる自動生成のデモではなく、AIとの会話から内容が決まり、最後には自分だけの一冊を実際に手に取ることができる。これまで作ってきた技術を、現実空間で人が体験できる形へ拡張するプロジェクトとして、制作に参加することになりました。
企画者の発想と、私たちが持っていた生成技術が出会ったことで、どちらか一方だけでは生まれなかった体験の輪郭が、一気に見えてきました。
生成AIの登場によって、文章や画像を作ること自体は急速に簡単になりました。一方で、生成されたものが画面上で消費され、そのまま忘れられてしまう場面も増えています。
私がこの企画で面白いと感じたのは、AIの出力をそのまま完成品として見せるのではなく、人が作った取材記事やデザイン、編集方針と組み合わせ、最後に紙の雑誌として届ける点でした。AIは、ゼロからすべてを作る役割ではありません。来場者との会話を読み取り、あらかじめ蓄積されたコンテンツの中から、その人に合う組み合わせを編み直す役割を担います。
人が素材の質や世界観を作り、AIが一人ひとりに合わせて再構成する。この分担によって、効率化だけではないAIの価値を示せるのではないかと考えました。
人とAIのどちらかが主役になるのではなく、両者が得意な部分を持ち寄ることで、新しい発見を含んだ高品質なコンテンツを生み出す。その可能性を、実物の雑誌という分かりやすい形で検証したいと思いました。
これは生成AIの性能を見せる展示ではなく、AIを編集者の一人としてコンテンツ制作に組み込む試みでもありました。
筐体では、来場者が「AIを操作している」と意識しすぎず、自然に会話を進められる体験を目指しました。
参考にしたのは、ゲームセンターのプリクラです。画面の案内に沿って質問に答え、最後に物理的な成果物が出てくる流れは、今回の企画と非常に相性が良いと考えました。
私は大学でロボット工学を学び、ハードウェアの設計や製作にも関わってきたため、システムだけでなく、筐体の構造設計と組み立ても担当しました。限られた期間と予算の中で、モニターや入力機器、プリンターを収めながら、イベント会場で安全に運用できる構造にする必要がありました。
完全自動で冊子が完成する機械までは実現できず、印刷後の紙を筐体の裏側にいるスタッフが折り、雑誌として仕上げる方式を採用しました。それでも、筐体と会話した結果として、奥から自分だけの雑誌が現れる一連の流れは実現できました。
技術を見せるための装置ではなく、会話から印刷、受け取りまでの体験全体を成立させる舞台として筐体を設計したことが、今回の大きな挑戦でした。


システムを作る立場から見ても、今回の企画で最も重要だったのは、AIが選ぶ元となるコンテンツの質でした。どれだけ精度の高い生成や推薦ができても、素材自体に魅力がなければ、自分だけの雑誌を受け取る喜びにはつながりません。
企画メンバーは、「今、あなたが人と話したいこと」をテーマに、年齢や職業の異なる人々へインタビューを行いました。ビッグイシューの販売者、小笠原諸島に住む少年、100BANCH近くのケバブ店のオーナーなど、普段の生活では出会いにくい人たちの話が集められました。加えて、デザイナーがロゴや誌面、表紙、4コマ漫画を制作し、組み合わせによって雑誌全体の印象が変わる仕組みを整えました。
私たちのシステムは、これらのコンテンツを単に並べるのではなく、来場者の会話内容との接点を見つけて選びます。AIが価値を生むためには、人が時間をかけて作った良質な素材が必要です。制作を通じて、システムの性能だけでは体験は完成せず、技術と編集が対等にかみ合う必要があることを改めて実感しました。


システム面では、来場者との会話を雑誌の構成へ変換し、印刷可能なデータとして出力するまでを、一つの流れとして構築しました。
まず、画面上の質問に答えてもらい、来場者の興味や最近考えていることを文章として取得します。その内容をAIが分析し、事前に用意されたインタビュー、4コマ漫画、表紙デザインなどの候補から、関連性の高いものを選定します。
選ばれた要素を雑誌のテンプレートへ流し込み、文章量や画像の位置を調整しながら誌面データを生成し、プリンターへ送ります。
もともとのスライド自動生成技術では、決められたレイアウトを崩さずに内容を差し替えることが重要でした。しかし雑誌の場合は、印刷後の見え方やページの順序、紙を折った際の配置まで考慮する必要があります。
さらに、イベントでは多くの人が連続して利用するため、エラーが発生しても素早く復旧できることが欠かせません。
生成品質、処理時間、印刷の安定性を同時に成立させる必要があり、普段のWebサービス開発とは異なる難しさがありました。
ナナナナ祭当日は、私も筐体の裏側でシステムの監視とトラブル対応を行いました。来場者がAIと会話し、その内容に合わせて雑誌が生成されます。印刷された紙をスタッフが冊子にして、来場者へ手渡すところまでが一連の体験です。

初日は、文章が枠内に収まらない、印刷処理が止まる、想定したコンテンツが選ばれないといった問題も起こりました。会場でログを確認しながら処理を修正し、質問内容や生成条件も調整しました。
その結果、2日目の後半には、一連の体験を安定して提供できるようになりました。
最終的には約150名に参加してもらい、子どもから高齢者、学生、会社員まで、幅広い人が自分だけの雑誌を手に取りました。
表紙を見比べたり、友人同士で選ばれた記事を読み合ったりする姿を見て、画面上の生成結果だけでは生まれにくい交流が起きていることを感じました。


一方で、生成から受け取りまで5分以上かかる場合があり、待ち時間が体験の弱点になることも明確になりました。実際に目の前で使われることで、開発中には見えなかった操作の迷いや、完成を待つ人の期待の高まりも把握でき、展示そのものが大きな検証の場になりました。
来場者からは、「AIが作ったとは思えないほど雑誌として完成している」「知らない人の記事なのに、自分との共通点があって面白い」「他の人に出た記事の内容も読んでみたい」といった声をもらいました。
AIと人が協力して作るコンテンツが受け入れられるかという点では、十分な手応えを得られたと思います。
特に、自分向けに生成されたものが本人だけで完結せず、他の参加者との会話のきっかけになったことは、予想以上の成果でした。
一方で、誌面を見ただけでは、どの記事がなぜ自分向けに選ばれたのか分かりにくく、パーソナライズの価値を直感的に伝え切れないという課題も残りました。
今後は、記事の選定理由を誌面上で表示することや、生成時間の短縮、より安定した自動印刷などに取り組む必要があります。
また、出版社が保有する過去の記事を再編集する雑誌や、商品提案を行うパーソナライズカタログなどへの応用も考えられます。
今回作ったシステムと筐体を一度きりの展示で終わらせず、他の場所でも検証を重ねながら、人とAIが協力して生み出す新しいコンテンツの形へと発展させていきたいです。
