EVENT REPORT

2018.01.19 Fri

アルスエレクトロニカへの道 「Road to Ars Electronica」イベントレポート

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オーストリアのリンツで毎年開催される芸術・先端技術・文化の祭典、アルスエレクトロニカ・フェスティバル(Ars Electronica festival)。今年の9月に行われた2017年のフェスティバルも、世界約70カ国から参加者を動員し、世界各国から様々なアーティストやクリエイターを呼び込みました。近年では日本からの出展も増え、日本企業の注目度も益々高まっています。

今年の9月、このアルスエレクトロニカ・フェスティバルに、100BANCH事務局から2名が視察に行ってきました。それを受けて、11月15日、「Road to Ars Electronica (アルスエレクトロニカへの道)」と題して、アルスエレクトロニカの魅力を語るイベントを開催しました。


登壇して頂いたのは、出展者として今年のフェスティバルに参加したミュージシャン/アーティストの和田永氏と、メディアアーティストである後藤映則氏、また、アルスエレクトロニカを10年間追いかけ続け、単著『アルスエレクトロニカの挑戦 〜なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか』の筆者でもある鷲尾 和彦氏。デザイナーやクリエイターの立場からだけでなく、どうすればアルスエレクトロニカのようなプラットフォームを構築することが出来るのか、仕組み作りの観点からもアルスエレクトロニカ・フェスティバルを解剖しました。その様子をレポートします。

2017年アルスエレクトロニカ・フェスティバル報告レポート:
http://atoms.loftwork.jp/20171003_ars-electronica/

和田永さんは、仲間とともに使われなくなった電化製品を電子楽器として蘇生させ、合奏するという音楽と美術の間の領域で活動を行っています。今年のアルスエレクトロニカには、古い扇風機をギターの様に掻き鳴らす電子楽器『扇風琴』を手にリンツに登場。「展示」という形ではなく、その場だからこその生身のパフォーマンスを行いました。

この『扇風琴』は、回転によって生まれる光の明滅を拾って電気の波にすることで音を鳴らします。現地からの飛び入り参加者も加えながら、言葉の壁をひとっ飛びに乗り越えて、その場だからこそのパフォーマンスを実現した和田さん。今回のアルスエレクトロニカでは、「知的生命とは何か?」という根元を問い直すきっかけになったと語ります。

「今回のアルスエレクトロニカはAI(Artificial Intelligence)がテーマでした。人工知能のロボットと猿が向き合うビジュアル・イメージが使われていたのですが、生身のパフォーマンスを行った僕らとしては、ある意味で「猿側代表』として参加してきた様な感覚がありました。この様な電子楽器をつくり演奏するということは、道具というものをもう一度つくり出し、音はどの様に生まれるのか?どんな奏法があり得るのか?という原初的なところを身体的な感覚と向き合いながら生み出していくプロセスが含まれています。その意味で、映画『2001年宇宙の旅』で猿が道具を手に入れる瞬間に近い感覚というか。そしてその道具を使って、異国の人々と音楽を通してコミュニケーションを計っていきながら、道具の発展の中で生まれた世界中の創造的な作品と出会う訳ですから、やはりそこには「知的生命とは何か?」という問いが渦巻いていました。今回の僕らの役割はやはり「猿」側からそこに問いかけることだったような気がします。」

「先日、『エレクトロニコス・ファンタスティコス!~本祭l:家電雷鳴篇~」というイベントを開催しました。役割を終えた電化製品を電子楽器化する、いや、「妖怪化」する、というイメージで始めました。捨てられたものがもののけとなって出て来るというビジョンは古くからありますが、現在における「妖怪」とは、使われなくなった電化製品なのではないか、という妄想が膨らみ続けています。扇風機をかき鳴らしながら参加者と一緒に盆踊りをしたのですが、いつかアルスでも、テクノロジーの供養と蘇生祭を行えたらいいな、と思っています。」

 

次の登壇者は、今回アルスエレクトロニカ初参加の後藤さん。アーティスト、デザイナー、会社員として、様々な側面の持ち主です。後藤さんは、歩行などの2次元動作を3次元に転換し、コマとコマの間をシームレスに繋ぐことで、「時間」という概念を実体化させる「toki-」という作品を作っています。

「僕は「動くもの」に惹かれます。動くものには、「時間」と強い関係で結ばれていることに気づきました。時間の中に、動きが入っている。そういったインスピレーションから、「toki-」シリーズを発展させて、アルスではSculpture of time(時間の彫刻)を作りました。今回はコミッションワークでの参加だったので、ひとつのテーマである『How can we live multiple? 複数の自分をどう生きるか?』という疑問から着想を得ています。デジタル化が進む現在、facebookなどデジタルな世界に存在する自分とフィジカルな自分。複数の自分が「同時刻」に存在している現代の中で、もう一度人間とは何か?を考えたいと思った。それが今回の作品の根幹になります。」

アルスエレクトロニカは「ホームであり、また帰って来たくなる場所」と語る後藤さんは、今回の作品作りにおけるリンツ側とのやりとりを以下のように振り返ります。

「アルスエレクトロニカとは、担当者と信じられないほどやりとりを繰り返しました。(笑)何度も何度もやりとりをしながら、そのプロセスそのものから一緒に作品作り上げた感じです。」

また、一つ心に残ったエピソードがあったとのこと。

「ある日、深夜に誰もいない会場をウロウロしていたら、スタッフと思わしき人が、あるアーティストの展示に使うモニターを一人で設置しているのを見かけたんです。それが実は、今回のフェスティバルの総合監督であるGerfried Stockerでした。一番えらい立場にいる人も、自ら現場に入って手を動かす。なかなかないことで感動しました。あとは、アルスエレクトロニカは「戻って来たくなる」ホームの様な存在です。アルスで得たフィードバックを基に新たな作品を作り、それをまた次の年に、アルスに持っていく。この繰り返しが、アーティストを成長させる。まさに、エコシステムですね。」

最後の登壇者は、株式会社博報堂「生活圏2050」のプロジェクトリーダーであり、写真家としても活動する 鷲尾和彦さん。2014年からは、アルスエレクトロニカと博報堂との共同プロジェクトのリーダーを務められてきました。今年の5月には、アルスエレクトロニカに関する単著を出版。「なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか」という誰もが抱く疑問を、丁寧に解剖している名著です。
 
「私は、『文化芸術そのものの推進』だけではなく、『文化芸術を活かして都市全体を活性化する』ということを考えたいと思います。」と語る鷲尾さん。
「アルスのイメージだけ見ていると、リンツという都市はアバンギャルドで先端的、というイメージがありますが、実はリンツ市が目指していることはそこではないんです。例えば、オープンなパブリックスペースがどれだけ増えたかということを市はきちんと数えています。かつて鉄鋼業で栄えた後衰退していく街を活性化し、住民一人一人がより幸せに暮らすことが出来るオープンな街を作ることが、リンツ市の狙いです。」
 
アーバンデザインの文脈でジェントリフィケーションという言葉がありますが、アートが増えることと都市が元気になることは、実は相関関係にはない。そのことを理解しつつ、アルスエレクトロニカは戦略的かつ慎重に、街の活性化のために「中規模都市が生き残るための都市政策」を行っていると鷲尾さんは語ります。
 
「リンツ市とアルスエレクトロニカの取り組みとは、つまり「グローバルな時代に、20万人程度の中規模都市が生き残るための都市政策」なんです。イベントは現象で終わってしまうのですが、リンツ市はそれをちゃんと ’’Culture for all(人々のための文化)’’ という政策に変え、アルス・エレクトロニカで作り出したリソースを、市民の教育や雇用に結びつける努力を行っています。」
 
アルスエレクトロニカは最初は市民発のイベントの名前でした。しかしそれで終わらさず、うまく行政と民間、外部ネットワークを繋げながら、一つの自律的システムとして作り上げたところにこそ、その取り組みから学ぶべき点があると鷲尾さんは語ります。これを、わざわざリンツに行かなくても、日本でも同じような取り組みが出来るようになったら?今の東京におけるアートや文化の現状を考えさせられました。

   3人のゲストによるトークの後は、欧州委員会とアルスエレクトロニカが運営する「STARTS賞」の審査員を務める林千晶(株式会社ロフトワーク)をモデレーターに加えたゲストトークを行いました。様々な議論がなされた中に、「あなたにとってのアルスとは?」という根源的な問いかけが、林からゲストにされました。

ここで出てきたキーワードが、「Home: ホーム」。海外のフェスティバルや展示会に行くと、どうしても日本人として「アウェー」になりがちですが、アルスエレクトロニカにはなぜかその垣根がない、と林は語ります。 
毎年友達に会いに行くような気分でアルスに向かう、という鷲尾さん。はみ出し者でも、居場所がなかなか見つからない人でも、「ここになら帰ってきたい」、そう思える場所に、100BANCHもなっていけたらと思っています。

 

ゲストプロフィール一覧

鷲尾和彦

株式会社博報堂「生活圏2050」プロジェクトリーダー。
文化芸術、科学技術、またアーバンデザインなどの専門性を生かし、戦略プランニング、クリエイティブ・ディレクション、文化政策の領域で、様々な地方自治体や産業界とのプロジェクトに従事。2014年にアルスエレクトロニカと博報堂との共同プロジェクトを立ち上げプロジェクトリーダーを務める。プリ・アルスエレクトロニカ賞審査員(2014~2015年)。主な著書に『共感ブランディング』(講談社)、『アルスエレクトロニカの挑戦〜なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか』(学芸出版社)等。また写真家としても、写真集『極東ホテル』『遠い水平線』『To the Sea』、作家・詩人の池澤夏樹氏とともに東日本大震災発生直後から被災地を取材したレポート『春を恨んだりはしない』等の著書がある。

 

和田 永
アーティスト/ミュージシャン
1987年東京生まれ。物心ついた頃に、ブラウン管テレビが埋め込まれた巨大な蟹の足の塔がそびえ立っている場所で、音楽の祭典が待っていると確信する。しかしある時、地球にはそんな場所はないと友人に教えられ、自分でつくるしかないと今に至る。大学在籍中よりアーティスト/ミュージシャンとして音楽と美術の間の領域で活動を開始。オープンリール式テープレコーダーを楽器として演奏するバンド「Open Reel Ensemble」を結成してライブ活動を展開する傍ら、ブラウン管テレビを楽器として演奏するパフォーマンス「Braun Tube Jazz Band」にて第13回メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞。各国でライブや展示活動を展開。ISSEY MIYAKEのパリコレクションでは、現在までに7回に渡り音楽を担当。2015年よりあらゆる人々を巻き込みながら古い電化製品を電子楽器として蘇生させ合奏する祭典を目指すプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を始動させて取り組む。そんな場所はないと教えてくれた友人に最近偶然再会。まだそんなことやってるのかと驚嘆される。

後藤映則
アーティスト、デザイナー
1984年岐阜県生まれ。アーティスト、デザイナー。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。先端のテクノロジーと古くから存在する手法やメディアを組み合わせて、目に見えない繋がりや関係性を捉えた作品を展開中。代表作に時間の彫刻「toki-」シリーズ。近年の主な展覧会にSXSW ART PROGRAM(アメリカ・2017年)、Ars Electronica Festival(オーストリア・2017年)やMedia Ambition Tokyo(東京・2017年)、THEドラえもん展TOKYO 2017(東京・2017年)など。国立メディア博物館(イギリス)やphaeno(ドイツ)にて自作がパブリックコレクションされている。タンバリンが速い。

 

林 千晶
株式会社ロフトワーク代表取締役
1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間530件を超える。 書籍『シェアをデザインする』『Webプロジェクトマネジメント標準』『グローバル・プロジェクトマネジメント』などを執筆。2万人のクリエイターが登録するオンラインコミュニティ「ロフトワークドットコム」、グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、クリエイティブな学びを加速するプラットフォーム「OpenCU」を運営。MITメディアラボ 所長補佐(2012年〜)、グッドデザイン審査委員(2013年〜)、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員(2014年〜)も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任(2015年4月〜)。

WRITER

100BANCH編集部