EVENT REPORT

2017.11.08 Wed

食への根源的欲求をいかに効率的・合理的に叶えるか
〜白熱の「EAT VISION」トークレポート〜後編

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「食の未来」を志向する5つのプロジェクトが、メンターである東京大学大学院農学生命科学研究科の准教授・岩田佳洋先生をホストに迎え、「未来の食」の可能性を探ったイベント「EAT VISION〜100年後のボクらは、何をどう食べている?」。レポートの後編は、「100年後のお弁当」をテーマにしたディスカッションを中心に紹介します。

※前編の記事「100年後、私たちは何を食べている? 〜白熱の「EAT VISION」トークレポート〜前編」こちら

登壇者

岩田佳洋(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)

「Now Aquaponics!」 (水産養殖☓水耕栽培) 邦高柚樹

「Future Insects Eating」 (昆虫食) 高橋祐亮

「ECOLOGGIE」(コオロギの養魚飼料活用) 葦苅晟矢

「Food Waste Chopping Party」(廃棄食材を使った料理) 大山貴子

「The Herbal Hub to nourish our life.」 (薬草料理) 新田理恵

 

高橋 僕が今やっている昆虫食に関しては、味や見た目は自分のこだわりで美しくしていますけど、個人としては、これまで食べられてこなかった新しいものを、無理やり「これが未来だ!」というお題目を押しつける気はないんです。

例えば、自分自身、「今日何が食べたいかな」と思ったときに、よっぽど「今日はカレー!」という日でもない限りは、肉でも魚でも野菜でもなんでも選べるし、なんなら飲んだ帰りにすごく健康に悪そうなラーメンを食べたりもする。そういう当たり前のバリエーションの中に、「普通に食べられるもの」として昆虫が存在していけるようになればいいかなと。

昆虫食というと、これまで蜂の子とかイナゴを食べるような「特殊な環境の人が食べる文化」として認知されてきましたが、そうではなく「単なる選択肢のひとつ」というステージまで昆虫を引き上げることができれば、あとはそれを食べるか食べないかは、他の食材と同じく好き嫌いや価値観の問題ですから。肉でいえばラム肉みたいな、好きな人もいるけど嫌いな人もいる……というポジションになればいいかなと。

——昆虫が単なるタンパク源としての「代用食」に留まるのではなく、牛肉、豚肉、虫肉……というような「ごく普通の文化」になれば、ということですね。

高橋 そうですね。そういうものが台頭してきたときに、既存の食文化の側でもそれに刺激されて、例えば豚なら豚の新しいポジション取りが行われていくかもしれない。結果的にそういう新しさを刺激することになればいいなとは思います。

葦苅  あくまで水産飼料としてのコオロギを研究する立場としては、昆虫を人が食べるということに関しては、これまで人があまり試してこなかったが故にまだ未知数なところが多いので、慎重にしなければとは思います。気持ちの問題というよりは、アレルギーであったり、栄養素や毒素がどうなっているのかなど、単純に食物としてクリアしていくべき部分の研究を並行して進めていかないとな、と。

——薬草に関してはどうですか?

The Herbal Hub to nourish our life. 新田(以下、新田) 私も「おいしさ」にはすごくこだわっているんですが、その理由はやはり薬草という存在がマイナーで、あまり知られていないからというところが大きいです。「薬草」というとどうしてもイメージ先行になるきらいがあって、「ああ、ドクダミね……苦いよね」というところで話が終わってしまったりする(笑)。そのイメージを変えるために、「そんなにおいしいなら食べてみたい」と言われる努力をしていきたいんですよね。

あと、私は、どんなに独特なものでも「3回食べれば人は慣れる」と思っています。鮒寿司とか、ああいうどぎついものも、1回目や2回目で脱落する人は多いだろうけど、それを超えて3回目まで食べた人というのは、おいしさや面白さをその中に見出している人なのかなと。だから、どんなにとんがったものでも、「まず3回食べてもらう」というところまで持っていけるものを作るということは意識しています。

岩田 「3回食べればいい」というのはおもしろいなあ。

Future Insect Eatingで試作された、昆虫の特性を混ぜあわせた昆虫ならではの肉「混虫肉」

新田 理恵
TABEL株式会社 代表取締役。管理栄養士であり国際中医薬膳調理師。食を古今東西の多角的視点からとらえ、料理とその周りにある関係や文化も一緒に提案し、地域の商品開発やレクチャーを行っている。 日本の在来植物・薬草を暮らしに取り入れるためのリサーチをはじめ、日本各地つなげながら伝統茶ブランド{tabel}を2014年に立ち上げる。2016年8月にTABEL株式会社へと法人化。

連休の最終日にもかかわらず、80名の定員はほぼ満席。真剣にメモを取ったり、スライドを写真に収めている人の姿が多く見られました。

大山  私のお弁当で着目したのは、「Wholesome(丸ごと)」「Sustainable(持続可能)」「Local(ローカル)」の3つのテーマです。

冒頭に宇宙プラントの話が出たからというわけでもないんですけど、これからの食文化の中には、そういう宇宙とか技術革新といった方向性と、それに反するように見える方向性の二極化が起こってくるんじゃないかなと思います。人類全員がある一極のほうにだけ進むということは今まで一度もなかったし、100年後の人が宇宙に住むような時代にも、「あくまで俺は地球に住むんだ」という勢力が、あちこちで固まってコミューンを作るというようなことが起こってる可能性はあるなと思っていて。

——映画の『マッドマックス』なんかもそうですね。

一同 (笑)

大山 この「100年後のコミューン」の側に立ちつつ、フードロスを減らすプロジェクトという観点から提案するのが、さっきの3つのテーマです。例えば「Wholesome」ということで言えば、普段は捨てられてしまう野菜の皮や種にこそとても重要な栄養素が含まれていたりもするので、そうしたものを丸ごと体に摂り入れられるような調理をするものが入っているべきじゃないかなと。野菜をぬか漬けにしたり、揚げ浸しにすると種も皮もヘタも食べたられたりしますし。あと、中東のほうで日常的に食べられる「フムス」というヒヨコ豆のペーストがあるんですが、ペーストなんてまさに最強のWholesomeですよね。屑野菜を柔らかくなるまで炒めて、フードプロセッサーにかけるだけなので、作るのも簡単だし。

持続可能でいるために一番参考になるモデルは、かつて日本でも多くの家庭で飼っていたニワトリだろうなと思います。食物の中でどうしてもロスになってしまうものを餌として与えることができて、それを食べた彼らが卵を生んでくれて、私たちとの間で循環が行われる。ビーガンカフェをやっている人間がこんなことを言うのもなんですが(笑)、最終的には食肉にもなります。そうやって、なるべく食料の生産をひとつのコミューン=Localの中で解決して行く方向に向かう動きは確実に出てくるかなと。

ローカルであることは、実際にフードロスの解消にも意味があって、これは先日、千葉県の八街の農家さんとお話ししたことですが、JAが中心となってスーパーに卸す——というような現在の野菜の流通システムの中では、どうしてもかなりのフードロスが発生してしまうんです。小さいピーマンとか曲がったキュウリは規格外として弾かれて、廃棄されたりしてしまうんですよね。味は変わりないのに。私たちのプロジェクトでそういうものをおいしい料理にすることで、「何も変わりはないよ」という気づきが生まれればいいなと思います。

岩田 やはり、市場が大規模になって、地域の外へとものが流通していくようになれば、そのコストを担保するための価格をある水準に保つしかないからね。

大山 JAというのはそもそもそのための組織だから、全国に出荷するためにどうしても過剰に規格化をするようになってきたんですよね。だけど、もしも共同体がある程度ローカルに閉じられていて、適切な規模で循環される経済が成立していれば、過剰な流通コストを防げるし、ひいてはそうしたロスも減るのではないかと思います。

岩田 なるほど。僕は昔、大根の研究をしていた時に、飲み屋で隣になったおじさんに「形のいい大根を作ってなんのためになるんだよ」と絡まれたことがあるんです(笑)。その時は「箱詰め……できるかなあ」なんて曖昧に答えたんですけど、実際、そういう野菜の規格みたいなものは流通というシステム上の都合で決めているだけで、味自体は何も変わらないですからね。

そう考えると、実はフードロスを減らすという上では、そういった「規格化以前の時代」というか、もっと自然だった頃の食に戻ろうという発想が重要なのかもしれませんね。

——やたら全国一律の規格化にこだわる日本においては、もしかしたら「ローカルであること」というのは「別にキュウリがひん曲がっていてもいいじゃないか」という考えを社会にインストールすることなのかもしれないですね。

大山 そうですね。海外だと、アメリカでもアジアでも、スーパーマーケットに行けばいろんな形の野菜が売っていて、多少ひん曲がっていても普通に売られてる。日本だけが、こんなに「形が綺麗じゃないと」みたいな形で野菜を売っていて、一体誰のためなんだろう?と思うんです。そういう意味では、私がやっている試みを通じて、ある種の寛容さのようなものを社会とか流通のシステムの中に忍び込ませることができるんじゃないかなと思っています。

最強の「Wholesome Food」フムスはこの日の試食会でも登場

「形が悪い」とされ、はじかれてしまうパプリカ。当然、味や栄養はスーパーに並ぶものと一緒

——薬草カレー作りの設定課題の一つには、体だけじゃなく、それを製品化することによってローカルな生産者を経済的な意味でも元気にしたい、というものがありますよね。やはり、都市とローカルの分断ないしは交流といった社会状況のことは考えますか。

新田 食文化って、やっぱり社会に適合して形作られていくものだと思うので、そういう意味では、形式の前にそこを考えないとなあ……と思ってはいます。

薬草を求めていろいろなところに行く中で、鹿児島県の徳之島とか奄美に行くと、100歳くらいのおじいちゃんおばあちゃんがバリバリ元気に農業をやっていて。体も動かせるし、いいものを食べられるしと、いいことづくめなんですよね。そういう意味では、ローカルレベルでは農業をやる方々が増えていくと思います。

一方、都市部ではもっと分業制が進んでいく一方、例えば子育てとか生活をいくつかの家族単位で共有していくという現象も起こるだろうなと思ってて。そんな中で、極端ではありますが「キッチンって、本当に一家にひとつなきゃいけないの?」とか、「食べ物の生産は全て企業が担えばいいんじゃないの?」というようなことが考えうる。

ただ、同じ都市部でも、もしかしたら所得の差みたいなものは今よりもっと如実に出てくるかもしれなくて。最初に岩田先生が言われたように、フレッシュでオーガニックなものはゆとりのある人たちの食べ物で、そうでない人たちはジャンクフード……ということも起こってくる。なので、この先はそのオーガニックとジャンクの間を埋めるような、選ぶ楽しみ、食べる楽しみのある加工食品がたくさん出てくるんじゃないかなという気がしています。

——薬草が「栄養価が高くてリーズナブルなもの」として、そういうところに使われていく可能性もある?

新田 薬草でいうと、生姜やヨモギのように野菜と同じようなスパンで収穫できて、今でも十分に流通ベースで成立しているものは、もっと使われていくのかなと。一方では、収穫するのに3年かかるような、貴重な薬草というものも存在します。そういうものをどうしていくか。もともとは非常に栽培が困難とされてきた高麗人参の水耕栽培の技術が最近ではだいぶ向上していたりもするので、もしかしたらまずはゆとりのある人からかもしれませんが、もっと一般化していくといいなと思いますね。

岩田 もっと皆さんと話をしていたいけど、そろそろ時間になってしまいましたね。

いろいろ話をしていく中で、これから食糧問題が厳しさを増す中で、生産や流通の効率化・合理化の必要性というのは必ず高まってくるはずです。しかし、特に後半の話題に関しては、昔ながらの自然状態で営まれていた食生活のスタイルへの言及が次々と出てきた。フードロスなんて、まさにそうですよね。

つまり、これからの我々に求められるのは、その両立。そもそも人間にとって「よいもの」とは何かを踏まえて効率化・合理化を図っていくという、一見矛盾して見えることをやっていかなければならないんです。これはとても難しいことですが、だからこそ、今日みんなで話したようなアイディアや新しい発想、あとは「そうは言っても、もっと美味しいものを食べたい」という気持ちとか欲望の部分からも目をそらさずに、みんなで考えていくことが必要なんだと思いますね。

そういう意味で、今日の話はとても有意義な議論になったんじゃないでしょうか。あとは、みんなで試食しながら話しましょう(笑)。

各プロジェクト間の協働の可能性も生まれつつ話が盛り上がり、会場からの質疑も止まなかった、あっという間の2時間。その後の試食会でも、昆虫食や薬草カレーに興味津々の人、プロジェクトメンバーや岩田先生を捕まえて質問をぶつける人など、これからの時代における「食」というテーマへの関心の高さが伺える1日でした。

「EAT VISION」イベントは今後の開催も予定されていますので、お楽しみに!

GARAGE Program

GARAGE Programは“次の100年”をつくる、100のプロジェクトを募集しています。
次回の募集期間は10/24(火)〜11/27(月)24:00です。 

WRITER

安東 嵩史

編集者

写真、街、移民とメディアなどについての領域で本づくりと、寄稿や執筆、展示ディレクションなども行う。2017年4月に設立した出版レーベル「TISSUE PAPERS」から現在4作、同年中にあと2〜3作リリース予定。その他諸々。

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