BANCH PROJECTS

2017.11.29 Wed

Computational Creativity×石川善樹:
私たちはまだ、本当の「コンピューター」を知らない——
AIとともに“新たな神” となる3人の使徒たち 前編:『食』編

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100BANCH初期入居プロジェクトのひとつである「Computational Creativity」(以下、CC)が、この度3ヶ月の入居期間を終えて100BANCHを卒業。それを記念して、メンターを務めた予防医学研究者の石川善樹さんとの活動報告を兼ねた公開トークを開催しました。

『最後のダイエット』『疲れない脳をつくる生活習慣』など著書のヒットを持ち、企業との共同研究やメディアにも引っ張りだこの寵児がCCのメンバーを「天才」と絶賛する理由とは、そして、彼らが目指す“未来”のかたちとは、どのようなものなのでしょうか? 登壇前に一杯ひっかけてほろ酔いの石川さんのマシンガントークとともに始まった報告会の様子をレポートします。

登壇者:
石川善樹(予防医学研究者)
出雲翔(Computational Creativityリーダー)
風間正弘(Computational Creativityデータ解析、料理研究担当)
西田貴紀(Computational Creativityデータ解析、ファッション研究担当)

石川善樹 (ご機嫌で登場、20分ほど一切関係ない話をした後に)僕はいろいろ面白い人たちと出会ってきましたけど、この3人の若者を、ぜひ紹介したかった! ここ最近一緒にプロジェクトをする中で、一番感銘を受けた人たちです。

まあ、詳しくは出雲くんから話すことだよね。どんな思いを持って、どんなプロジェクトをやっているのか。……今日、そういう話だよね?

出雲翔(以下、出雲) そうです(笑)。

石川 よし。それでは、暖かい拍手とともにお迎えください! 「Computational Creativity」プロジェクトの出雲くんです! もう20分、そこにいるけど!

出雲 (苦笑)。こんにちは。今日は、この「100BANCH」で3ヶ月間取り組んできた「CC」プロジェクトの報告を兼ねて、このトークを開催しています。

私たちは100BANCHの「100年後の未来を考える」というコンセプトを前に、「これまでの100年で、もっとも大きな発明は何か?」という問いから考え始めました。そして「それはコンピューターではないか」という答えにたどり着きました。

コンピューターのおかげで私たちの生活がどう変わったのかというと、まずはやはりデータの処理能力が格段に上がりました。100桁×100桁というような高度な計算も、コンピューターなら瞬時に、しかも人間のように間違えることもなく行うことができます。こうした明確な正解があるものには、コンピュータは非常に強い。人間のトッププロを初めて破ったことで有名になった「AlphaGo」という囲碁プログラムをご存知かと思いますが、これは「囲碁の勝利」という明確な目標の中において、圧倒的なデータ処理能力を活かして、先入観にとらわれない全く新しい囲碁の戦い方を見つけたという事例です。新しいものを見つけるということも機械が得意とすることです。

いっぽう、そういった明確な正解がない領域——すなわち、「かっこいい」とか「おいしい」という感覚、数値化できない複雑なものの判断に関しては、コンピューターはまだまだ弱いです。これはむしろ人間が得意としてきたことですから、コンピューターでは代替できない。

この四象限の図で言うと、左上の部分です。そしてこの100年間で、人間が苦手な右下の部分をコンピューターが代わりにやってくれるようになりました。これが現状の人間とコンピューターの関係の整理です。

でも——ここからが本題なんですが、私たちの問題設定は「本当のコンピューターは誕生したのか?」ということなんです。コンピューター=computerの語源を調べると、「com(共に)」と「pute(考える)」という2つの要素が出てくるんですね。つまり、本当のコンピューターとは「人間とともに考える存在である」であると言えるのではないか。

そう考えたとき、コンピューターの理想は先ほどの四象限の右上の部分——つまり、「大量のデータを使って、正解のない複雑な問いに対して、全く新しい答えを見つける」ことができるコンピューターを作れた時に、私たちは全く新しい体験をすることができるのかもしれません。

その体験というのは、もしかしたら今までの知覚を拡張した、いわゆる“第六感”を獲得するのに等しいのではないでしょうか?我々にその世界を見せてくれるようなコンピューターやプログラムの開発を行っているのが、私たちのプロジェクトです。そのために、料理やファッションといった「おいしい」「かっこいい」という領域の研究も進めてきました。ここからは、それぞれを担当するメンバーに話してもらいましょう。まずは「おいしい」から。お願いします。

いきなり絶好調の石川氏。
石川 善樹
予防医学研究者、株式会社Campus for H共同創業者
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。近著に『仕事はうかつに始めるな』(プレジデント社)、『ノーリバウンドダイエット』(法研社)など。

石川氏の後を受け、苦笑しつつクールに進める出雲氏。
出雲 翔
株式会社ハビテック、電脳クリエーター。慶應義塾大学商学部卒業。専門は、機械学習、統計解析、データビジュアライゼーションなど。ビッグデータの解析、ビジュアライゼーションなどを通じて、人間とコンピュータの共創によって生まれる創造性、「Computational Creativity」に取り組んでいる。

風間正弘(以下、風間)こんにちは。私のほうからは、料理の研究についてのご報告をさせていただきます。

私たちが料理に興味を持ったきっかけは、2つのあるメニューとの出会いにあります。1つ目は「カリフォルニアクロワッサン」という、アメリカの西海岸で流行っている食べ物です。これは「カリフォルニアロールをクロワッサンの中に挟んで、醤油をつけて食べる」という摩訶不思議な食べ物です。一体どうしたら、このようなメニューを思いつくのでしょうか。

もう一つは「生ハムメロン」です。これはおなじみの存在ではありますが、よく考えると、「なぜ人類は、生ハムにメロンを合わせたのか」という疑問を抱かざるを得ません。この2つのメニューの存在を考えた時に、実は、私たちがまだ考えもつかない未知のレシピの可能性や、それを作る理論や方程式があるのではないか——という発想に至ったんです。

こうした問いを、石川善樹さんやコンピューターサイエンスの第一人者でありIBMのシェフワトソンの開発を率いたるイリノイ大学のラヴ・ヴァーシュニー教授、そして外国人として最年少でフランスのミシュランの星を獲得した松嶋啓介シェフらの協力を得て追究しています。

まず最初に取り組んだのは、既存研究のリサーチです。この中で有名なのは「フードペアリング理論」というものです。これは共通の“風味化合物”(匂いの成分)をもつ食材を組み合わせるとおいしくなるという理論で、西洋の料理にはこの理論が当てはまるのですが、東洋の料理には当てはまらないとこの論文で言われています。では、東洋の料理、特に私たちの和食を成立させている理論は何なのか?そして、それは世界中のレシピにも当てはまるものなのか——それを発見することが、このプロジェクトの大きなモチベーションになりました。

風間 正弘
株式会社ハビテック、データサイエンティスト。東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程において、機械学習の研究を行い、主に推薦システムを取り扱う。また、東京大学i.shcoolでデザイン思考や人間中心イノベーションについて学ぶ。データ解析と人間行動に興味。修士課程修了後、IT会社にデータサイエンティストとして入社。

風間 次に、世界中の料理を分析したところ、大まかにいうと和食を含む世界中の料理のレシピは、おおむね10前後の食材を組み合わせて作られていることがわかってきました。もちろんメニューによって差はあるものの、和食でもイタリアンでもフレンチでも、もっともボリュームゾーンとなったのは10前後です。そのため、ある意味で料理とは10個の食材の組み合わせと言うことができます。世界には数十万の食材が存在すると言われていますが、その中から10種類を選ぶ組み合わせというのは、無数に存在する。そのため、一説には、私たちはまだ「0.0000001%」の料理にしか出会えていないと言われています。

まだ地球上に存在しない99.999999%の中に、私たちが出会えていないものすごくおいしい料理があるのではないか。それを探すアプローチとして世界中のレシピデータを集め、ディープラーニングなどの機械学習手法を用いて「Food Galaxy(食材の銀河)」というものを作っています。

 

 

 

 

 

 

 

http://foodgalaxy.jp/FlavorNetwork/ja/

これはデモなんですが、この一つひとつの点がそれぞれ食材に対応しています。似ている食材は近い箇所に配置されていて、この銀河の中を探索することで「どの食材とどの食材が近いのか」「似ても似つかないはずなのにどうして近い場所にグルーピングされているのか」といったことを考えることで、新しい概念を探ることができます。

この手法の特徴としては、ベクトル空間になっているため、足し算や引き算が可能ということがあります。

例えば「すき焼きー日本風+フレンチ風」というような計算も可能で、「みりん→カルバドス(りんご酒)」「サラダ油→オリーブオイル」「醤油→ブーケガルニ」「長ネギ→タラゴン」というふうに食材を置換し、「フレンチ風すき焼き」を導き出すことができます。

確かにこれは99.999999%の中の一つの新しいレシピですね。実際に調理して食べてみると、とても“イノベーティブな味”というか……まだ人類が体験したことのないような味でした。

また、AI が考案したこのようなメニューを松嶋啓介シェフの力を借りて実際に調理し、食べて頂くディナー会も開催しています。前回はこの「フレンチ風すき焼き」の他に「生ハムメロンのメロンに代わるものは何か?」ということで、「生ハム×いちご」「×ココア」「×抹茶」などの組み合わせを試したりもしました。

最初に作った「フレンチすき焼き」

風間 フレンチ風すき焼きの改善点としては「うまみ」の要素がなかったということが挙げられます。確かに、いわゆる出汁など、「うまみ」を盛り込んではいなかった。そこで、「うまみ」について調べてみたところ、これを構成するイノシン酸とグルタミン酸が含まれていると「美味しさ」が8倍になるという日本の研究に行き当たったんです。和食はいうまでもなく昆布だしや鰹節といった「うまみ」の相乗効果によって作られているので、今はいわば関数的なこの「うまみ」情報も、このギャラクシーに組み込んでみようとしています。

ちょうど先日、このAI料理の第2回を行ったんです。メニューは「フレンチ風すき焼き」のリベンジと、「韓国風すき焼き」。韓国風すき焼きはキムチやさやいんげん、それに海藻を組み合わせました。フレンチ風(リベンジ)には、今度は栗のムースを砂糖の代わりに使って味付けしました。そうしたら、今度はすごく美味しかったんです。参加者の方も「うまみを感じた」とおっしゃってくださったので、やはり「うまみ」は重要な要素だと再認識しました。

機械は「世界中のレシピを分析する」ということは得意ですが、その結果を解釈してAIの提案する新しい料理を作っていくにあたっては、やっぱり「食べてみないとわからない」という部分もあるんです。

今回は食べてみて初めて「うまみが欠けている」というところに行き当たったわけで、こうした情報も設定に組み込みながらシェフたちともコラボして、まだ見ぬレシピを作っていきたいです。また、こうした手法やプロセスは他の様々な分野にも通用するものだと思っているので、この取り組みを通して「人類の創造性とはどのようなものなのか」を追究していきたいです。

というわけで、次は「ファッション」の分野を担当する西田くんに話をしてもらいたいと思います。ありがとうございました。

満場のお客さんも興味津々。

後編に続く

前編の「食」をテーマに行われた研究成果発表では、AIのデータ分析によって「近しい関係にある」と位置付けられた食材同士を掛け合わせたり置換することでこの世にまだ存在していないメニューを作ることができるのではないかという試みをご紹介。その思考は、実は様々なフィールドに転用できるのではないか--というのが、CCプロジェクトの本領でもあります。そこで、後編は「ファッション」における研究内容を紹介します。

コンピュテーショナルに導く「かっこよさ」の方程式、そしてその先に彼らが目指すものとは?

WRITER

安東 嵩史

編集者

写真、街、移民とメディアなどについての領域で本づくりと、寄稿や執筆、展示ディレクションなども行う。2017年4月に設立した出版レーベル「TISSUE PAPERS」から現在4作、同年中にあと2〜3作リリース予定。その他諸々。