LEADER INTERVIEW

2019.06.01 Sat

STEMee 五十嵐美樹:女の子たちの環境に、科学に触れるキッカケを創りたい

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「理系の“博士”を想像してください」と言われたら、おそらくは多くの人が男性の姿を思い浮かべるでしょう。なんとなく理系、とりわけ工学の分野は男性的な印象が強く、その道に進む女性はまだまだ少数派なのが現状です。しかし、それは自然な傾向なのでしょうか。

社会を取り巻くイメージや、子どもの頃に与えられるコンテンツの差などによって、もしかしたら教育分野に関心を持つきっかけにも差が生まれているということがあるのかもしれません。そんな仮説から「環境や性別などにかかわらず、STEM※に触れるきっかけを提供しよう」と立ち上がったのが、STEMee(ステミー)です。

とりわけ女子が理系の分野に関心を持つようなきっかけを提供するために、STEMeeはどのような思いを持って活動を展開し、どんな理想を追いかけているのでしょうか。代表の五十嵐美樹(いがらし・みき)さんに話を聞きました。


※STEM=Science, Technology, Engineering and Mathematicsの教育分野の総称

──STEMeeは「日本のSTEMに携わる女性が少ないとされるのには、環境に起因する”何か”があるのではないか」という課題意識から立ち上がったプロジェクトだと伺っています。この「環境に起因する」とは、具体的にどんなことを指しているのでしょうか。

 

 

私は大学で物理や機械のことを学ぶ道に進み、その後も大手電機メーカーにエンジニアとして就職したのですが、行く先々で常に「理系コミュニティにおける女性の少なさ」を感じていました。大体30人ほどメンバーがいても、その中で女性は1人か2人しかいない状況でした。

ただ、「理系に女性が少ないけれど、大変ですか?」といったようなことを聞かれることが多くなり、始めのうちは私も「女性が少ないというのは当たり前なのかな」と思っていたんです。けれども、社会に出たあたりから「エンジニアリング自体には男も女もないし、これからの時代ニーズも高い分野なのに、なんでこんなに少ないんだろう?」とあらためて疑問を感じるようになってきたんですね。

それで、自分でいろいろと調べてみたら、STEMに従事する女性の割合の低さは世界的にも課題になっていて、とりわけ日本では工学系に進む女性の割合が、先進国の中ではダントツに低いことがわかって。「これは“当たり前”の状態なのではなく、何か原因があって少ないのでは?」と思うようになりました。

 


──それが「環境に起因する」と?

たとえば、イギリスでは「科学技術と縁のあるおもちゃは、男の子向けが女の子向けの3倍多い」といった調査結果が出ているんですね。 これを知った時、私も幼い頃に理系への興味につながるような、”自分用”のメカっぽいおもちゃは貰っていないと気づいたんです。

それからいろんなおもちゃ売り場を見て回ったんですけど、日本でも女の子向けの玩具はファッションドールやおままごとの道具が大半で、遊びの選択肢に富んでいるとは言えない状況だと感じました。

こうした現状から「幼い頃からSTEMに触れられる環境が身近に整っていれば、理系に興味を持つきっかけを増やすことができて、女子がより多様なキャリアを選択肢に入れられるようになるのではないか」と考えるようになって。それが現在のSTEMeeの活動方針の軸につながっています。

 

──具体的に、STEMeeはどのような活動を展開しようとしているのでしょうか。

男女ともにお手に取っていただけるようなオリジナルデザインのSTEM玩具を開発しています。現在、玩具のプロトタイプを数種類制作していて、実際にワークショップで子どもたちの反応やお客様の声を伺いながら改良を進めています。

──五十嵐さんご自身は、どのようなきっかけからSTEMの道に興味を持ったのでしょうか。

始めて興味を持ったきっかけは、中学生の理科の授業でした。先生がよく実験を取り入れてくれる方で、ある日、虹を発生させる実験を目の前でやって見せてくれたんですね。

私にとって虹は、とても不思議で神秘的なものでした。その現象が論理的に説明できて、しかも再現できてしまうことに「科学ってすごい!」と感動して。それまでは「科学って難しくて遠い世界のことなんだろうな」と自分との距離を感じている部分があったのですが、先生が見せてくれた実験を通して「科学は身近な世界にあふれているんだ」と感じるようになって、その面白さに目覚めました。

 

 

──それから理系の勉強に注力するように?

そうですね。理系が得意になったというよりは、「好きになれたから、時間をかけて考えたりすることが楽しくなった」という感じです。特に好きなのは物理で、今でも身の回りの現象を物理的な視点で捉えるのが楽しいです。

 

──大学は上智大学の理工学部に進学されていますね。どんな基準でそこを選びましたか。

高校生の頃は、漠然と「科学と社会の懸け橋になれるような仕事ができたらいいな」と思っていて。上智大学の理工学部は理論と実践の両軸を大切にしていて、現実社会とつながるモノづくりに注力しているのが印象的でした。

大学での勉強は、それまでにも増して楽しかったです。今まで覚えてきた知識が、私たちの身近にある機械やシステムには必要不可欠だということが知れて、学ぶモチベーションがグッと高まりました。

 

──そのまま大学院に進んで、卒業後は就職されたと。

はい。大手のメーカーの技術職に就きました。そして、就職したタイミングと同時に、土日にボランティアで、子どもたち向けのサイエンスショーを自主的に行い始めたんです。

 

──それはどうして?

在学中に「ミス理系コンテスト」に出場したことが、大きく影響しています。このミスコンは「理系女子のイメージアップ」をコンセプトに掲げていて、「科学テストの結果と特技のPR」の2点で審査されるものだったんです。そんなコンテストの在り方に共感して参加したんですけど、ありがたいことにグランプリを受賞させてもらえて。

 

 

私は科学が大好きなんですけど、それと同じくらいヒップホップダンスも好きで、小学生の頃から今までずっと続けているんですね。コンテストで自分の大好きな2つの要素が繋がってオリジナリティが評価されたことが、ものすごく嬉しくて。そこで初めて「科学を好きでいること」と「観客の前でパフォーマンスをすること」が、自分の中でつながりました。

このグランプリ受賞をきっかけに「自分の好きなことと、自分のできることをかけ合わせて、社会のために貢献できることはないか」と考えるようになって、パフォーマティブな科学実験教室「サイエンスショー」の企画を思いついたんです。

 

──なるほど。

とは言え、サイエンスショーでいつもヒップホップダンスを披露してるわけじゃないんですけど(笑)。あくまでもまず子どもたちに足を止めてもらうために編み出されたもので。「まずはどうしたら子どもたち≒観客に振り向いてもらえるか、注目してもらえるか」と考えるプロセスは、ダンスで培った経験が生かせているなと感じています。

そんな経緯があって、しばらくは平日は会社でのお仕事、休日はサイエンスショーと充実した毎日を送っていたのですが、段々とショーのやりがいの方が自分にとっては強くなっていきました。それに、前々から感じていた「理系に女性が少ない」という課題に対してアプローチしたい気持ちが重なって、「サイエンスショーを本業にしたい」と思うようになっていったんです。

 

 

ただ、「これ一本でやっていくには、しっかりと持続可能な形にしないと人を巻き込んでいくことも難しい」と考えて。そうして、1年半勤めたメーカーを離れて、転職をしました。2社目ではエンジニアではなく、人事と広報、教育事業と希望したものは何でもさせていただけるポジションで、とにかく前職では経験できなかったことに積極的にチャレンジしていました。

 

──2社目には2年間在籍した後、東京大学の大学院に入り直されていますね。

転職後も科学実験教室やサイエンスショーはずっと続けていたのですが、「これからどうアップデートしていけばいいか」と、いろいろな本を読み漁りながら悩んでいました。それで、ある日ハッと気づいたんです。読んでいた本の著者のほとんどが、東大の学際情報学府の先生だったことに。

調べてみると、学際情報学府では「科学コミュニケーション」と呼ばれる分野の研究が進んでいて、「この分野を学んだうえで好きなことをやるのと、知らないままやるのでは同じことをやっていても意味が変わってくる」と自分の中で強く思って。自分らしく、やりたいことで生きていくためにも、会社を辞めて学び直すことを決意しました。


ーSTEMeeが取り組む「女子に向けた工学玩具」(取材時点)

 

──ずっと個人でやってきた科学実験教室の活動が「STEMee」につながっていったのは、いつ頃でしょうか。

昨年(2018年)の12月ですね。そのタイミングで、私の活動に共感してくれた大学の後輩のデザイナーが、科学実験教室を手伝ってくれることになったんです。

彼女が、それまで見た目にあまり気を遣えていなかった実験キットを「3Dプリンタとカラーでアレンジしてみますね」とあっというまに作ってくれたのが、大きなきっかけとなりました。でき上がったキットを見て「こういうのが自分の子ども頃におもちゃとしてあったら、もっと早くから理系分野に興味を持っていたかもしれないな」と思って。

 

──それから程なくして、100BANCHに入居されましたね。ここに入ろうと思った動機は、どんなものでしたか。

一番のきっかけは、現在メンターについてくださっている江渡浩一郎さんの存在です。実は、私が大学院で受けている授業で、たまたまゲスト講師として登壇されたんです。その講義の中で「江渡さんが100BANCHでメンターをしていて、採択されたら直接アドバイスをもらえる」と知って、すぐに応募しました。

 

 

また、共感してくれる仲間も増えてとても嬉しかったので、より継続させる形を作っていきたいと思い、仲間とも相談して100BANCHに応募しました。100BANCHに入ることでできる”場”や、メンターの方々から具体的なノウハウを実験しながら吸収したい……との期待を持っていました。

 

──実際に100BANCHに入ってみて、何か手応えを感じていることはありますか。

これまでは実験キットの制作コストなどについては「最後は私が負担すればいいや」というようなスタンスで、あまり気にする環境になかったんです。それよりも毎回毎回の生もののショーに全力でぶつかっていくことで精いっぱい。ただ、最近は仲間も増え、企業から予算をもらってショーを開催する機会もあり、作業や時間の効率化やにも真剣に向き合わざるを得なくなってきました。

そういう細かいプロセスや今まで吟味せずに通り過ぎてきてしまっていたことについて、江渡さんをはじめ最前線で活躍しているメンターの方々に、カジュアルに相談できるのは本当にありがたいなと感じています。

 

それと、100BANCHのほかの入居者さんからも刺激をもらっています。自分も「STEMee頑張っていこう!」と意気込みはもちろんありますが、周りのプロジェクトの様子を見ると、さらにリスクを取って明るくチャレンジしている人たちがいて、勇気をもらえます。足が止まってしまわないように、前向きなエネルギーをここでガンガン吸い取らせてもらっています(笑)

 

──会社を辞めて、人とは少し違う道を進んでいることに、やっぱり不安はありますか。

基本、不安と恐怖でいっぱいですよ(笑)。でも、それっておそらく、未来や過去を見すぎている時に生まれてくるものなんですよね。

100BANCHにいる皆さんは、すごく“今”を大事にされているなと感じています。未来のために、今何ができるかを、真剣に考えて実践している。そこに気づいたら「私は“今”から逃げている時に、不安になっているんだ」と、ストンと理解できたんです。

漠然とした不安も、正体がわかると付き合いやすくなると感じています。最近は周りの皆さんの頑張る姿を見て「私も今できることを、とにかく全力でやろう」と、少し楽観的に構えられるようになったし、以前より自信が持てるようにもなりました。

 

 

──ショーなど人前に立つ機会が多い五十嵐さんから「自信が持てるようになった」という言葉が出てくるのは、少し意外です。

昔から「自信をもって」って言われることが多かったんですよ。他人から求められた役割をこなすのは得意な一方で、自分が「やりたい」と思ったことを、素直に実行することが苦手でした。サイエンスショーに踏み出せたのは、周りの方々からの後押しがあったことが大きかったですね。

100BANCHのプロジェクトは、自分に正直に、自分を信じて取り組んでいる人が多いですよね。私も見習いたいな、見習わなくちゃと思っています。私が私を裏切らないように、自分の「やりたい」という気持ちをちゃんと大事にしよう。「人に何を言われても、私は私がやりたいことをやるぞ!」と、よく心に言い聞かせています。

──大学院での学びや100BANCHでの経験を通して、ずっと続けてきたサイエンスショーについても、何かポジティブな変化の兆しなどは見えてきましたか。

ショーについては、少し考え方が変わりました。これまでのショーでは「子どもたちに科学を学んでほしい」「参加してくれた子どもたちには、何かしら知識を持って帰ってほしい」との思いを持っていました。それが直近では「学びを持って帰ってもらわないといけない」という義務感すら抱くようになっていて、少し行き詰まりを感じていました。

でも、学際情報学府で「科学コミュニケーション」という分野を学び直しながら、STEMeeの活動を整理していく中で、最近ようやく自分の原点に立ち戻れたんです。

 

 

──原点、と言うのは?

ほんの少しでもいいから、科学を通して生き生きとする時間を過ごしてもらいたい……それが私にとって、サイエンスショーをやる一番のモチベーションでした。それで「今日この場を楽しんでくれたら、それも価値。学びもあったら嬉しいな」と思いながら、子どもたちと楽しくコミュニケーションが取れるようになったことは大きかったですし、自分も純粋に楽しめるようになってきました。

よくよく考えてみれば「参加者みんなを科学好きにさせる」とするのはサイエンス”ショー”を見に来ている方々のモチベーションから考えると押しつけがましいんですよね。私が、一瞬しか一緒に過ごせない子どもたちにあげられるのは、科学に触れるほんの少しきっかけですから。

けれども、それが生き生きと過ごした時間として記憶として刻まれることは、その子の将来の選択肢を増やすきっかけにもなり得ると思っています。自分自身が虹の実験を見て理系を志したように。だから今は子どもたちの様子やテンションに合わせて、コミュニケーションを取ろうと思っています。

 

 

──今後のSTEMeeの展開については、どのように考えていますか。

持続可能なシステム構築を目指しながら、STEM玩具と科学実験教室やサイエンスショーを通して、女の子が生き生きと「科学」に触れるきっかけをつくり続けていきます。ショーの中に、女の子がまず「なにこれ?」と興味を持てるようなエンターテイメント要素をいかに組み込めるかが、直近の大きな課題ですね。

また、現在は女の子に向けた科学実験キットづくりにフォーカスしていますが、私たちは基本的に「環境の影響で、楽しい科学との出合いが少ないところに接点を提供したい」と考えて活動しています。だから、これから“女子”というカテゴリ以外でも「環境による機会の不平等が大きいところ」が見出せたら、そこにもアプローチする方法は模索できたらいいなと思っています。

あと、ずっと先の話ですが……最終的には、理系に興味を持った女の子が集まる学校のような場所がつくれたらいいなと。夢は、校長先生になって生徒に囲まれて大往生することです(笑)。みんなが好き勝手に科学に触れて、笑顔があふれているような場所を、これからたくさん生み出していけるように頑張ります!

 

WRITER

西山 武志

writer

埼玉県生まれ。大学在学中からライター業を始め、卒業後よりフリーランスとして活動。銭湯は見かけたら大体入る。パイプ椅子が並んでるような中華料理屋のあるお店通りが好き。

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