LEADER INTERVIEW

2019.03.22 Fri

Smuzoo 吉田 寛:150年の歴史にふさわしい価値を——
フェアな家事分担がもたらす幸せな家庭と社会の関係性

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「私も働いているんだから、少しは家事を手伝ってよ!」

会社員時代、私は「忙しいから」「疲れているから」と妻にいろいろと言い訳をつけ、ろくに家事をしませんでした。昨年末に家事管理アプリ『Smuzoo』と出会い、「これがあれば、妻をもっとケアできたかもしれない」、後悔とともに、そうつぶやいていました。

2018年の調査※によると、共働き家庭の家事分担は「妻がメイン」が64パーセント、「妻と夫で分担」が31パーセントと、その多くの家事は妻が担当していると報告。「男女平等であるべきだ」と叫ばれる世の中なのに、いまだ多くの女性が家事労働を担当する状況にあります。
※株式会社マクロミル「2018年 共働き夫婦の家事分担調査」より


100BANCHでは、夫婦間の家事労働におけるシェア問題の解決を目指すプロジェクト『Smuzoo』が活動を続けてきました。リーダーの吉田 寛(よしだ・かん)さんは、大手カメラメーカーを退社し起業。100BANCH入居後は事業内容を変更するなど試行錯誤を重ねながらも、人生をかけてこのプロジェクトに取り組んでいます。

なぜ安定とも言える環境を捨て、失敗と隣り合わせのチャレンジに挑むのか? その熱き思いはどこから来るのか? 吉田さんが目指す「フェアな家事シェア」を紐ときながら、その背景やこの先の家事のあり方に迫りました。

(執筆:船寄 洋之 / 写真:神 颯斗)

——現在のプロジェクトにたずさわる前は、カメラメーカーで働かれていたと伺いました。これまでの経歴を教えていただけますか。

 

私はもし継げば5代目となる、明治7年(1874年)創業の呉服屋で生まれました。年々、着物の需要が減少することから、親には「呉服屋を継がなくてもいい」「好きなことをやれ」と言われていました。それなら「着物と同じように審美性を持ち、多くの人に愛されるプロダクトを作りたい」と思い、そこから導き出した私なりの答えが一眼レフカメラでした。

 

 

大学では機械工学を学び、卒業後はカメラメーカーに就職、メカエンジニアとして働いていました。仕事はとても充実ししていたのですが『踏んだら片付くケーブルリール』の考案をきっかけにカメラメーカーを退社し、思い切って起業しました。

 

——『踏んだら片付くケーブルリール』とはどのようなプロダクトですか。

 

差し込んだコンセントを足で踏み込むと収納できる電源ケーブルです。あるとき、子育て世代の親は頻繁に電源ケーブルを片付けていると知りました。その理由は2〜3歳くらいの子どもが何でも口に入れたがるので、ケーブルに着いたホコリを食べてしまったり、感電の恐れがあったりするからだと。その実情から「ただでさえ忙しい子育て世代の夫婦に向け、子どもの安全を担保しつつ、家事負担を少しでも軽減させるプロダクトが作れないか」と考え、この商品開発に至りました。

 

『踏んだら片付くケーブルリール』のプロトタイプ

 

起業し商品開発を進めるなか、まわりが希望する価格と私が想定する販売価格に大きな開きがあるとわかり、このままだと取り組むべきでないことがわかってしまって。自己資金で起業していたので、そのときは「採算がとれない」と正直焦っていましたね(笑)。でも、その追い込まれた状況があったからこそ、いま取り組む家事シェアの課題に注目できたと思います。

 

——そのきっかけは何だったんですか。

 

『踏んだら片付くケーブルリール』に、夫婦間で家事情報を共有できるソフトウェアを搭載することで、ある程度は価格が高くても需要があるかもしれないと考えて、一緒にテストしていたことが、結果的にきっかけとなりました。いま家庭で何の家電が使われ、どんな家事がおこなわれているのか。その情報をスマートフォンで共有できれば、お互いをケアする意識が芽生え、フェアな家事シェアに近づくかもしれないと。このソフトウェアのアイデアは、『踏んだら片付くケーブルリール』で解決したかった家事負担を包括し、それらの課題をマクロな視点で解決できるものだと気が付きました。

 

——では、電源ケーブルとソフトウェアの開発を同時に進められたと。

そうなんです。だから100BANCHの応募当初はプロダクトとソフトウェアの開発を同時に進めようとしていました。ただ、ふたを開ければ、プラットフォームとして家事情報を共有すること自体がニーズがあるとまわりの反応からわかったので、100BANCHの活動はソフトウェアの開発に絞ることになりました

 

——事業内容を変更しつつも、精力的な活動を行われています。そもそも100BANCHはどこで知りましたか。

 

廣瀬悠一くん(中実な立体物を編む『ソリッド編み』によって、デジタルなものづくりを実現するプロジェクト『Solidknit』のリーダー)に紹介されました。「活動拠点を得られることはもちろんだけど、とにかく他プロジェクトが面白いから」と勧められ、興味を持ちました。

 

入居後は本当に刺激的な毎日でしたね。特に新しい価値に向かい日々チャレンジするメンバーと同じ目線で会話ができることが大きかった。自分の事業についてフィードバックがもらえたり、お互いの強みの部分で助け合えたり。自分のチームだけで考えると視野が狭くなってしまうので、すぐに俯瞰できる環境は非常に有益でした。

 

 

——2018年11月にはPanasonic創業100周年記念フォーラムで展示もされました。

 

家事情報の共有アプリ『Smuzoo』を1カ月後にローンチする予定だったこともあり、アプリ搭載予定の機能である家事分担シミュレーションを卓上ゲームで表現しました。これは「洗濯」「料理」「掃除」などそれぞれの家事に対する分担割合を参加者から抽出して、最終的にその夫婦間の家事分担比率を導き出すゲームです。

 

体験者のなかには「思ったよりパートナーに家事を任せっきりだった」と驚く場面や、「今後、この視点は重要になる」「アプリが出たら使いたい」などよい反応もあったので、このサービスに手応えを感じる貴重な時間でした。振り返ると、この展示はアプリを開発するうえでの大きな分岐点でしたね。

 

Panasonic創業100周年記念フォーラムで展示した家事分担シミュレーションゲーム

 

 

——2018年12月に家事管理アプリ『Smuzoo』のサービスがスタートしました。このサービスの狙いはどこにありますか。

 

『Smuzoo』は特に家事をしていない側が「こんなに妻に家事をさせていたのか」など、家事をする側の負担に目が向くととによって、自ずと家事シェアの改善につながっていくと期待しています。

 

このサービスの背景には、私の潜在的な意識が大きく影響していると思います。私の両親はともに呉服屋で働きながらも、家事は全て母が担当していました。そのため、母は父に向かって「外ヅラだけよくしてないで少しは家のことをやってよ!」という声が絶えず、しばしば親同士でいさかいが起きていて。父の理不尽な行動が母の負担になっていると子どもながらに感じていた。その家事シェア問題の課題感をずっと持っていたからこそ、このサービスにたどり着いたのだと思います。

 

家事労働の可視化でスムーズな家事シェアを実現できる『Smuzoo』

——『Smuzoo』は手軽に入力できることはもちろん、タイムリーに家事情報の共有が可能になるため、より相手を思いやる機会が増えるサービスだと感じています。アプリ開発ではどんなことを特に意識して制作されましたか。

これまで見えていなかった家事の分担実績・やり方・メモを、カードや進捗率で可視化することによって、家族の誰もが使いやすいサービスになるようにと心がけました。日本では「家事は女性のもの」という意識が根強く残るため、これまでの家事サービスアプリは主婦が主導権を握り家事を采配するようなアプリがほとんどです。でも、それでは家事シェア問題の根本的な解決にならないので、男女ともに触れやすく、子ども目線でも楽しめるようなインターフェースを採用しました。あくまで家事シェアは家族全体の問題意識として捉えることが重要なので。

 

しかし『Smuzoo』のサービス開始から3カ月経ち、概念自体の反応はよいのですが、アプリの使い勝手はまだ全然ダメだと痛感しています。使い勝手がよくなることがサービス継続率を高める大きな要因にもなるので、いまは「どんな人が、どれくらいこのアプリを継続してくれるか」をリサーチしつつ、サービスの改善を進めています。2018年12月にはクラウドファンディングで資金調達もできたので、さらなるサービス拡大を視野に入れてアップデートをする予定です。

 

 

——Smuzooは「すべての家族に楽しくフェアな家事シェアを」とテーマを掲げています。吉田さんが考えるフェアな家事シェアの比率ってありますか。

それはありません。私は家事シェアが9:1でも5:5であっても、その夫婦がうまくいっていれば、それでいいと思っています。2人の努力の量が2人ともフェアだと思えればいい。たとえそのシェアが9:1や8:2としても「うまく役割分担しているので全く不満がない」と話す夫婦も少なくないので。でも、残念ながらそれ以上に家事負担で悩む夫婦がいるようなので、まず『Smuzoo』ではその課題に応えていくべきだと考えています。

 

——では、「フェアな家事シェア」が進むと、どのような社会に変化すると思いますか。

月並みな表現になりますが、ワーク・ライフ・バランスが保たれた社会に進むと思います。現状、日本の企業は勤務形態が硬直している部分があるため、自分も含めてほとんどの人はライフとワークのバランスが整わず苦労している。それらを改善していくには、福利厚生的に家事を考慮する社会の構築が必要です。

 

たとえば、社員の家事情報を可視化することで、上司は「家庭も忙しそうだから仕事を調整しようか」とケアできるようになったり、社員同士で家事情報を共有することで「彼には頼めそうだけど、彼は厳しそうだな」と判断できたりする。そんな個々のワーク・ライフ・バランスを乱す要因を除いた先に、私たちが望む「楽しくフェアな家事シェア」が実現すると考えています。

——フェアな家事シェアは夫婦だけの問題ではなく社会として考えるべきだと。

そうです。実際、私たちのプロジェクトは「家事シェアのバランスが保たれてないのは、夫婦間で家事を知らない人がいるからだ」という考えに起因します。とはいえ、先ほど述べたように、会社の勤務時間を減らして家事をする時間を増やすことも家事負担を解決する選択肢になる。そういった個々人のワーク・ライフ・バランスを尊重し合える環境が社会に根付いていったら、自然とこの問題が解決に進み、夫婦関係も良好になると思います。

 

——吉田さんは試行錯誤を重ねながらも、家事シェア問題の解決に挑み続けられています。その姿は何か大きな力に突き動かされているような気がします。その情熱の原動力とは一体どこからくるのものでしょうか。

「自分が呉服屋の歴史を消すのか」。それが一番の原動力です。それ相応の理由がないと、150年続く歴史を消してはいけないと思いますし、当然消したくはない。だからこそ、そこに大きな使命を感じています。もしかしたら自分はそのバトンを受け取れないかもしれない。それなら先祖に顔向けできるようなことを胸を張ってやり遂げたい。その思いがにじみ出ているのかもしれません。

最近「呉服屋の先祖は150年後の社会をどう想像し、着物はどうなると考えていたのか」と思いを馳せることがあるんです。当時、日本は西洋文化が徐々に入ってきた頃だったけど、多くの着物需要はあったし、そこから150年続く呉服屋として生き続けている。それと同じように、むこう150年は多くの人に共感してもらえるような世界を創らなくてはいけない、いまそう強く感じています。

 

>家事管理アプリ『Smuzoo』ダウンロードリンク

iOS (App Store): https://itunes.apple.com/jp/app/smuzoo/id1446588046?mt=8

Android (Google Play): https://play.google.com/store/apps/details?id=com.tanookith.smuzoo.chestnut

 

 

WRITER

100BANCH編集部

船寄 洋之

writer / gallery / coffee

鳥取県生まれ。アパレルメーカー、出版社を経て、横浜・反町にH.Funayose galleryをオープン。ギャラリー運営のほか、ライター業や出張コーヒースタンドもおこなう。

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