LEADER INTERVIEW

2018.11.06 Tue

Papertype 和田由里子・守田篤史× 横石崇: 活版文化を未来につなぐ—— 【後編】余白が呼び込む関係性と可能性

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紙製の印刷用活字「紙活字」を開発するPapertypeの2人とメンターの横石崇さんの鼎談、前編では紙活字・活版文化に寄せる思いや、100BANCHで取り組んだ「渋谷盆踊り」での出展の経緯について、話が盛り上がりました。

後編ではPapertypeに欠かせない協力者である“親戚”の存在や、2人が制作過程で意識している“信頼貯金”についてなど、ユニークなキーワードを織り交ぜながら、彼らのものづくりにおける真摯さの本質や、Papertypeの今後のビジョンに迫っていきます。


ー左から、メンターの&Co.Ltd代表取締役 ・クリエイティブ・プロデューサーの横石崇(よこいし・たかし)、Papertype × Shibuyaのプロジェクトリーダー和田由里子(わだ・ゆりこ)、守田篤史(もりた・あつし)

 

横石:さっきも言ったけど、僕は100BANCHが「21世紀のトキワ荘」みたいになってくれたらなと思っています。100BANCHにいる人たち同士が協力したり高め合ったりして、化学変化が起きてくれたらいいなって。

 

守田:100BANCHに入るまでは、どちらかと言えばクローズドな環境でゆっくりプロジェクトを進めていたので、ここでの日々は本当に刺激的でした。勉強させてもらえることが多いです。

 

和田:ガレージプログラムに選ばれている人たちは「周りの巻き込み方」がとても上手だなと感じます。私たちもよく「いろんな人を巻き込めばいいじゃん」と言われるんですけど、そのやり方がわからなくて、結局2人で走りきっちゃう。

 

守田:そうそう。僕らの制作過程って、内職的な作業が結構多いんです。今回、渋谷盆踊りで出した風車も、2人で1,000セットつくりましたし。

 

横石:それはエグい(笑)

 

 

守田:つくりながら「これ、10人でやったら1人100セットで済むんだぜ……」ってボヤいてました(笑)。ほかの100BANCHの人たちは、人手が必要になった時にSNSで呼びかけて、10人くらい友だちをパッと集めてたりしてて、あれはちょっと羨ましかった。

 

和田:私たち、そういう友だちは少ない。でも、“親戚”は多いよね。

 

横石:親戚?

 

和田:なんとなく外から応援してくれるというよりは、「もっとこうしたらいいよ」とか、「それやるならこの人にアドバイス聞いたらどう?」とか、具体的な助言や助力をしてくれる人たちのことを、私たちは“親戚”って呼んでるんです。結構、目上の方々が多いので、ちょっと“友だち”というのは違うなと感じていて。

親のように近い存在だと、将来を心配してブレーキをかけちゃうこともあるけど、親戚ぐらいの距離感だと自由にいろいろ言ってくれるし、「甥っ子姪っ子が困っている!」って助けてくれたり。いつのまにかおっきくなってるのも甥っ子姪っ子、みたいな例えです。

 

守田:僕の事務所が火事になった時も、いつもお世話になっている印刷会社や製本会社の社長さんが、がれきの片付けの手伝いにかけつけてくれたんです。忙しい人たちなのに「1時間空いたから様子見に来た」と、スーツをまくって瓦礫をかき出してくれて。あの時はそういった“親戚”の方々に、本当に支えられました。

 

横石:なるほど、“親戚”ね。それは言い得て妙です。そうすると、100BANCHのメンター陣も“親戚”みたいなものかもしれない。

 

和田:そうなんですけど……横石さん以外のメンターとほとんど話せたことないんですよね。

 

 

横石:あれ、なんで? イベントとかで顔を合わせる機会は何度かあったでしょ?

 

守田:イベントに集まった人たちって、皆さんメンターの方々のところに集まるじゃないですか。ほかの人と話しているところに割って入るの、気が引けちゃって。うっすら機を伺いながら端っこの方にいると、いつも終わっちゃうんです。

 

横石:メンターたちも作品を目にしているはずだから、ふたりの話を聞きたがると思うけどね。

 

守田:いや、そうなんですけど、なんかグイグイいけなくて……気を使いすぎちゃうんですよね、やっぱり(笑)。言葉で伝えるのが苦手だから、モノをつくってるタイプなんだろうなと、自分でも思います。

 

横石:ふたりはいつも、でき上がったところからがスタートだものね。100BANCHに面談くる際も、和紙の実物をつくって持ってきてくれたし。渋谷盆踊りでも、風車をつくって見てもらってから、いろいろと動き出したし。

ふたりはここに至るまで、「言葉でくぐり抜けてきた」のではなくて、「つくるもので語ってきた」ってことですよね。ものをつくり続けて、今の場所に立っている。そういう人たちって、プロデュースやディレクションをする側の人間からすると、すごく信用できる。ほかのメンターとも頑張ってつながってほしいけど(笑)、そのスタンスは大事にしてほしいな。

 

横石:なんでPapertypeの周りには、“親戚”みたいな人たちが多いのかね?

 

和田:なんででしょう……ただ、そういう人たちは、私たちの活動やつくるものを信頼してくれているような気はしています。

 

守田:お金を度外視して“信頼貯金”をしてるから、かなぁ(笑)

 

横石:信頼貯金って?

 

守田:具体的なエピソードがあるんですけど、ちょっと前にPapertypeで日めくりカレンダーをつくって、展示会をやったんです。2人でポケットマネーを出し合って、その場でカレンダーの販売もやって。

 

横石:丁寧なつくりのカレンダーですね。値段はどれくらいですか?

 

守田:材料費が8,000円で、売値は3,500円です。

 

横石:ん? 4,500円はどこへ行ったの?

 

守田:「これだけ頑張ったら、8,000円かかっちゃった」と和田さんに伝えたら、「8,000円もする日めくりカレンダーってほしいと思う?」って、すごい詰められて。

 

和田:いくらモノがいいって言っても、高すぎるもの。

 

守田:「じゃあ、いくら買うか?」と2人で考えて、話し合いの末に「ギリギリ買ってもらえるラインで、3,500円くらいじゃないか」と結論が出ました。

 

横石:だから、4,500円はどこへ行ったの??(笑)

 

 

守田:ね、売るほど赤字になる商品になっちゃいました(笑)。だからこそ、この日めくりカレンダーは、僕らが「こんなこともできるよ」という技術を、実験的なものも含めて全部まとめたんです。

製本する糊の厚さを限りなく薄くしてみたり、本の開きを最大限によくしたり、デジタル印刷のCMYKでどんな特色ができるか試してみたり。クライアント案件だと、そこまで自由にできないので。

 

横石:自分たちの作品づくりは、大きく主体性が変わるよね。

 

守田:ずっと一緒にやりたかった製本屋さんや印刷屋さんにも、ジョインしてもらいました。彼らにちゃんとお金を払って、ガッツリと膝を突き合わせながら、このカレンダーをつくり上げていったんです。

そしたら、それまでは僕のことをデザイナーとして認識していた製本屋さんが「プリンティングディレクター兼デザイナーさん」として、周りに紹介してくれるようになって。自分のやってきたことが認められたような気がして、あの瞬間はとても嬉しかったです。

 

和田:その後、このカレンダーをきっかけにして、守田さんは大きな仕事を引っ張ってきてくれました。お互いの貯金は減ったけど、それが誰かの信頼を得る機会に繋がって、物事が動いていった。結果的に使ったお金以上も、仕事としてが返ってきました。これは、“信頼貯金”だねと、2人で話していました。

 

横石:なるほどね。近い言葉でいうと「信用創造」みたいなことかな。これから会社員のフリーランス化が進んでいくと、ますます「信用」というものが重要になってくるはずです。企業の名前で勝負できる時代ではないから。そうなった時に「信用をどうやって得ていくのか?」ということが、クリエイターやアーティストだけでなく、これからの働く人たち全員にとってのテーマになってくるかもしれません。

 

守田:目先の利益だけじゃなくて、先のことを見据えることが大事だなと思っています。僕らはそれを考えた時に、自分たちのやっていることを周りの人たちに「素敵だね!」と言ってもらうために、もっと何かするべきだと感じて、このカレンダーをつくりました。

 

横石:「自分が何者なのか、何ができるのか、これから何をしようとしているのか」――これらを外向けに伝えていくことは、信用に繋がってきます。ふたりのつくったカレンダーからは、ふたりの技術力や大切にしている思想のようなもの、そして本気度がちゃんと伝わってくる。だから、その次の仕事にも結びついたんだろうね。

僕も「TOKYO WORK DESIGN WEEK」を6年くらいやってて、まだかけたお金2,000万くらい戻ってきてないんだけど、2人の話を聞いて勇気をもらったよ(笑)。ちゃんと信頼貯金としてストックされてるかなー?

 

守田:きっと……いつか返ってくると思います(笑)

横石:2人は100BANCHに入っていろいろと変化したことがあると思うけど、オレはPapertypeがMUKUとコラボしたのが嬉しかったね。自分がメンターをやっているプロジェクト同士が一緒に何かをチャレンジしようとしているのが、まさに「トキワ荘」感があって。彼らが新しくつくった会社のロゴマークをつくったんでしょ?

 

守田:そうなんです。僕らの紙活字で、新会社の名前「ヘラルボニー」をロゴとして表現しました。

 

和田:100BANCHに入る際にも「日本語だけは絶対やらない」って言ってたんですけどね(笑)

 

横石:それは「紙活字でやってください」って頼まれたの?

 

和田:いえ、MUKUの代表の松田さんからは「ロゴマークをつくりたいのですが、おふたりにお任せしていいでしょうか?」と。

 

守田:僕も、最初は紙活字を使おうとは考えていませんでした。でも、松田さんから会社の方向性や、社名にかけた思いなどをヒアリングしていったら、和田さんが自然と「これは紙活字でつくったらよさそう」とつぶやいたんです。僕は、和田さんが「紙活字で日本語はまだ早い」と言うのをずっと聞いていたので、ちょっとビックリしました。

 

和田:『ヘラルボニー』のロゴデザインに向き合ったら、シンプルに「紙活字にする」のが選択肢として一番いいなと感じました。だから、素直にその結論に至れたんだと思います。

 

 

守田:紙活字の拡張のしやすさが、ヘラルボニーの在り方、コンセプトに合ったんですよね。最初から狙っていたわけではないですけど。つくりながら「これ、こんなこともできるよね」と話が膨らんでいって。

 

横石:アート活動を推進する福祉施設を巡って、「ヘラルボニー」の紙活字に装飾を施していくワークショップをやったんだよね。

 

和田:そうです。それででき上がったものを、10月に行なわれたDESIGNARTに出展しました。

 

横石:いろんなプロジェクトのメンターをやらせてもらっているけど、MUKUとPapertypeはホント、メンター冥利に尽きるよ。「こうなったらいいな」と狙っていた以上の変化というか、進化が見られて。

 

守田:僕らは勝手に、自分たちのことを『チーム横石』と呼んでいます。横石さんの予言みたいなアドバイスに導かれて、ここまできました。まあ、最初聞く時は予言というより、呪いなんですけど(笑)。「そんなのムリだよー!」って感じで。

 

和田:でも、なんだかんだで言った通り叶ってるよね。渋谷盆踊りとか、その後の展覧会の開催とか。

 

横石:吹っかけるだけ吹っかけてゴメンね(笑)。そこにたどり着いているのは、紛れもなく2人の実力だよ。

横石:最近、面白い話を聞いたんだ。人間と動物には、目に大きな違いがある。それが「人間には白目がある」ということ。もともと、昔の人間には白目がなかったのだけど、徐々に発達していったんだって。

 

守田:面白い話ですね。

 

横石:目でコミュニケーションを取るためなんだって。余白、白いスペースがあることによって、真っ黒なだけでは成立しなかった表情や表現が生まれる。余白が想像をかき立てる。人間の進化の間に想像力が発揮されているのは、すごくいい話だなと感じてます。

それで、僕が初めてPapertypeを見たとき、何というか「黒目が完成されている」って感じたんだよね。2人が目指している100点に、限りなく近いものなんだろうなと。だからこそ、100BANCHにジョインすることで、白目を養ってほしかったんだと思う。これ、上手く言えてるのかわからないけど(笑)

 

守田:なるほど。言われてみれば、100点を目指さないことで状況が面白く転がったところはあると思います。

 

和田:100BANCHに入って、新しい価値観とか考え方にふれる機会が増えて、頭の中はずっとグルグルしていました。その中で、「日本語のロゴをつくる」みたいな思わぬ変化もあったし、逆に変わらない部分もはっきりしてきた気がします。「その場にいる全員に受け入れられなくてもいい」とか、「“親戚”が何人かできたらいい」とか。

 

 

守田:僕らの活動を見せた時の反応って、興味がないか、すごく推してくれるかのどちらかに、明確に分かれるんです。理解者は少ないけど、推してくれる人たちはものすごく協力してくれる。経験上それを知っているからこそ、「無理に周りに合わせなくてもいい、自分たちのやりたいことを信じていいんだ」と、ブレないでいられているのかな。

 

横石:Papertypeの2人を見ていると、あらためてパートナーの重要性を感じます。1人で新しいことをやるのって大変じゃないですか。新しいゆえに批判を受けることもある。外からの圧力で、形がいびつにねじれて変わってしまうこともある。2人でいるからこそ、変わることなく立ち向かっていける部分は、少なからずあると思うのです。

 

守田:そうですね。ユニットだから広がったことは多かったなと思います。

 

横石:100BANCHの運営に入ってるロフトワークの代表も共同で2人。GoogleでもAppleでもイノベーションを起こす人たちは、2人で組むことが多い気がします。しかも、結構タイプが違うというか、デコボコ感のあるコンビなんだよね。まさにふたりがそうじゃない?

 

守田:めっちゃケンカしますけど(笑)。

 

横石:ケンカしたって、同じ方向を向いていれば問題ない。全然違うのに一緒に組んでやれる相手がいるって、幸せなことだよ。

 

守田:実は、「明日には解散してるかもしれない」って感覚は常に持っていて、それくらいの心持ちでいいよねと2人で話しています。同じ方向を向いているから、今は一緒にやっている。もしその方向が変わったら、お互い好きにやればいいって。あんまり「一緒にやらねば」みたいな気負いがないから、変な話だけど「ちゃんとケンカできてる」のかな。

 

 

横石:これからのPapertypeはどうなるんだろう。100BANCHでは風車っていう新しい表現の形が生まれて、プロジェクト同士のコラボもできた。今までの流れとは違う、新しい流れができてきたよね。

 

守田:100BANCHで経験を積んだことで、僕らもいろんな可能性が見えてきました。やってみたいことはたくさんあって、「いつかやろう」と考えているアイディアのストックは30個くらい溜まってるんです。むこう10年分くらいはあるかも。

 

横石:おお、それは楽しみだ!

 

和田:後は、実行するタイミングと、そのためのお金の確保。

 

守田:そうですね、お金。“信頼貯金”も大事ですけど、事務所も再建しないとなので、リアルなお金もね……横石さん、僕らにお仕事を(笑)

 

横石:もちろん、何か機会が合えばお願いしたいよ。期待しないで待ってて(笑)。それに、また新しいプロジェクトつくって、100BANCH入居してきたらいいんじゃない?

 

守田:そしたら、次は横石さんにどんな予言をいただくことになるんでしょうか?

 

横石:いい意味で既定路線を裏切ってほしいからな、オレとしては。そうだね……アフリカ大陸かな、次は。「紙活字をアフリカに!」みたいな。

 

守田:えっ? アフリカって、言語じゃないコミュニケーション多くないですか??

 

横石:「言葉って、何?」みたいなところから、活字と向き合っていこうよ。


守田:ヤバい、これは新たな呪いだ……!(笑)

 

■Papertype×Shibuya展示予定

11/10(土)〜11/11(日)ななめな学校 紙の活字と光るインキの不思議ラボ

12月5日(水)ハイアットセントリック銀座 活字をつなぐクリスマスツリー ※クリスマスツリーは12/25まで常設展示

 

前編「Papertype 和田由里子・守田篤史× 横石崇: 活版文化を未来につなぐ—— 【前編】大衆ウケのためのわかりやすさと、譲れないこだわりとの狭間で」はこちら

 

WRITER

西山 武志

writer

埼玉県生まれ。大学在学中からライター業を始め、卒業後よりフリーランスとして活動。銭湯は見かけたら大体入る。パイプ椅子が並んでるような中華料理屋のあるお店通りが好き。

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