• イベントレポート

本場NYで学んだ女性演出家が、日本発「イマーシブシアター」をプロデュース ~「OPEN AIR THEATRE TOKYO」実験公演レポート~

近年、ニューヨークのオフ・ブロードウェイで発展したエンターテイメント、「イマーシブ・シアター(巻き込まれ型演劇)」。これは、観客が会場内を回遊しながら、演劇のパフォーマンスを体験できる新しいフォーマットの舞台芸術です。

100BANCHも、このグローバルのトレンドに注目。渋谷の街を舞台とした、日本初の本格的なイマーシブシアターを作るプロジェクト「OPEN AIR THEATER TOKYO」が始動しています。

本記事では2018年7月15~16日に行われた、初の実験公演『ほどけた時の糸』の様子をダイジェストでお届けします。

本プロジェクトを手掛けるのは、ふたりの女性。本場ニューヨークでイマーシブシアター「Sleep No More」のクリエイティブチームを経験した、演出家の渋谷真紀子氏。そして、企画・プロデューサーの竹島唯氏。ふたりは約半年前に知り合い、海外舞台への関心が共通していたことから、「日本にイマーシブシアターを展開したい!」と意気投合。通常、お芝居の企画には1~2年の時間が必要といわれる中、本業の合間を縫って企画を行い、わずか3ヶ月で本公演を実現させました。

渋谷真紀子氏

竹島唯氏

 

劇場で「自分だけの物語が生まれる体験」を

――おふたりが考える、日本発の「イマーシブシアター」とは、どのようなものでしょうか?

竹島唯氏(以下、竹島):上演後に、参加者の間でディスカッションが生まれるようなエンターテイメントです。既に日本に存在する巻き込み型エンターテイメントは、大人数を対象としたものが主流です。たとえば、「脱出ゲーム」やチームラボが手掛けるデジタルアート空間などが有名ですね。一方、イマーシブシアターは一度の上演で受け入れられる人数が限られています。ですから、その特徴を活かし、参加者それぞれが観る光景や、考えることも異なった体験が生まれることが大事だと考えました。

渋谷真紀子氏(以下、渋谷):「自分だけの物語が生まれる体験」は、イマーシブシアターならでは。他のエンターテイメントとの決定的な違いですね。

――今回の実験公演の目的は?

渋谷:海外でヒットした”巻き込まれ型演劇”を日本でも受け入れてもらうためには、「どのような仕掛けが重要か」を検証することです。

まず仮説を立てるために、参加者には事前アンケートで「どんな”巻き込まれ型演劇”に行ってみたいか」を尋ねました。すると、特にニーズが高かったのは「①作り込まれた世界を”自由に回遊できる”」「②自分が選ぶ選択肢で”ストーリーが変わる”」という2つの要素でした。この結果を踏まえ、舞台の仕掛けをつくりました。

たとえば「鑑賞するだけでよいエリア」と「演者から話しかけられ、会話が求められるエリア」。他にも、コーヒーを飲めるカフェなど「息抜きになるエリア」。参加者は常に緊張して物語の謎解きをしていますから、一見脈絡のない仕掛けを入れることで、リラックスして想像を働かせる空間を創っています。

今回の実験公演では、どの仕掛けが機能し、参加者を「物語の世界」に巻き込めるのか検証したいと思います。

――物語のテーマは、「ギリシャ神話」と「日本神話」

本作品では、ギリシャ神話の「エウリディーチェとオルフェウス」、日本神話の「イザナギとイザナミ」がモチーフとなっています。これらの物語は、筋書きに共通点があります。それは、「最愛の妻が死んで、冥界に助けに行く。しかし、神に禁じられた行為をしてしまい、彼女が再び死んでしまう」という流れ。本公演では、冥界を現代風にアレンジし、参加者がその世界観に没入しながら、それぞれの物語を紡いでいく仕立てになっています。

竹島:舞台となる渋谷は、日本の中でも特に国際的な街。この場所で、誰もが同じ熱量をもって共感できる作品を創りたい――そう考えたとき、世界中には多種多様に存在しながらも、物語自体のエッセンスの共通性が高いといわれている「神話」は、まさにピッタリなテーマだと考えました。

 渋谷:「神話」は国によって様々な解釈がありますから、各シーンに対して参加者がオリジナルの受け止め方をするのではないかと思いました。参加者それぞれの想像力によって、物語が完成する「イマーシブシアター」を作りたかったんです。

 

今日限りのプレミアム体験!実験上演、ついに幕開け

実験公演は2日間で6回上演され、計36名の方が参加しました。上映後には参加者にフィードバックを募って、次の上映に取り入れながら、「日本人に心地よい”イマーシブシアター”」を追求していきました。ここからは、その様子をご紹介します。

――物語は、神話の語りから始まります。昔あるところに、竪琴弾き・オルフェウスという男性がいました。最愛の妻・エウリディーチェを亡くし、悲しみに暮れていた彼は、黄泉の国から彼女を連れ戻すと言います。憐れんだ神は、「決してエウリディーチェを振り返って見ないこと」を条件に、彼が黄泉の国へ行くことを許します。(入室時に、日本神話・ギリシャ神話のどちらかが語られます)

「振り返ると、彼女を永遠に亡くしてしまう」という言いつけを胸に刻んだオルフェウスは、黄泉の国へ。天女に迎え入れられながら、その扉を開きます。

扉を開けると、嬉しそうな表情の花嫁が。彼女に誘われ、結婚式前の指輪交換の練習が始まります。

場内を進んでいくと、舞台中央には花嫁からの手紙が。何と書いてあるのでしょうか?

会場奥には、コーヒースタンド。マスターにオリジナルコーヒーを淹れてもらいつつ、常連の女性たちと会話を楽しむことができます。

会場を振り返ると、様々な写真が展示されたスペースも。花嫁から「どれがお気に入り?」と話しかけられます。どうやら、二人の思い出の写真のようです。

物語終盤、男性はついに花嫁を見つけ出し、連れ帰ろうとします。しかし、峠を越えるところで、どうしても彼女のことが気になった男性は、振り返ってしまいます――。

上演後は、参加者のディスカッションタイム。集まったフィードバックは、次回の演出に反映されます。たとえば、「初めてなので、どこまで演者に話しかけてよいか戸惑った」といった声を受け、演者から話しかける回数を増やすなど、「心地よい”巻き込み型演劇”」を追求。他にも「五感すべてを刺激する、新しいエンターテイメントだと思った」「実際のカフェを取り入れていたように、様々なコラボレーションの可能性がありそう」など、活発に意見が寄せらました。

 

実験公演を終えて。渋谷発・イマーシブシアターのこれから

――実験公演を終えての感想を聞かせてください。

竹島:「神話」という発想を得たものの、それを具体的な演劇にするまでに、かなり苦労しました。

渋谷:初めての場所、初めてのチームでこの試みを行うことは、何もかも想像以上に手探りでした。そもそも、イマーシブシアターにはバイブルがありません。ですから、事前アンケートの要素をどのように盛り込み、脚本・演出を考え、オペレーションに落とし込み、演者に伝えるか。やり方は私たち次第です。

全員の稽古において、いくら最低限の動きや、登場人物像を摺り合わせておいても、本番で参加者に対してどうリアクションするかは、演者にゆだねられています。そのため、参加者を交えた実験公演の場で「お互いに体験」し合うことで、ようやく初めて「イマーシブシアター」というものを全員で共有することができました。

竹島:日本で初めて実験公演を行えたことで、沢山のラーニングがありました。スタッフ全員で1から作り上げたという実績、参加者からのフィードバックは、代え難い経験になりましたね。

渋谷:「Sleep No More」のように、実際の大規模な建物を貸し切ったチャレンジもやってみたいですね。

メインキャストを務めた、ミュージカル俳優の安部三博氏にも、お話を伺いました。

安部三博氏:イマーシブシアターの面白さは、演者自身が創作アイデアを持ち寄って、盛り込めること。従来の演劇では、演出家のディレクションをもとに演劇をしますし、基本的な演出が決まっている作品も多いので、かなり対照的でしたね。

また、参加者の想像力を引き出すためにも、台詞は極力そぎ落とし、身体表現で伝えることを意識しました。より深い自己演出をするという意味では、役者として本質的な素養が求められると思います。

劇場で「自分だけの物語が生まれる」、新感覚エンターテイメント。今回は、少人数での実験公演ではありますが、企画者・参加者ともに手ごたえは十分だったよう。数年後には日本においても、さらに多くの人を魅了するエンターテイメントに成長していく兆しを感じました。

 

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Open Air Theatreのこの実験公演は100BANCHでの3ヶ月間のGarage Programを通して生まれました。GARAGEProgramの応募は毎月受け付けています。詳細ページより募集要項をご確認下さい。

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